2013年12月01日
■[OoM] さいしゅう3
0. これまで
合わせてどうぞ:
1. お料理で学ぶ小学算数
- 作者: 大嶋秀樹,マップ教育センター
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2008/07/18
- メディア: 単行本
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とある書店の,小学校の学習参考書の棚にありまして,買いました.
料理の写真が豊富で,そして算数の問題と解説もしっかり書かれていますので,両方が好きな人にはおすすめの1冊です.
かけ算の式は,あちこちに出てきます.「牛ひき肉100gで300円。800gではいくらですか」(p.83)に対し,まず「100gの8倍だから800g。ということは、300円×8=2400円」という求め方を記しています.それで終わらず,「1gあたり何円か」を考えることにして,式には「300円÷100g=3円(1gあたりの値段)」と「3円×800g=2400円 答え.2400円」を挙げています.
この2通りの求め方をよく見ると,かけ算の式は(単位を取り除いて)「300×8=2400」「3×800=2400」と異なりますが,かけられる数と積の単位が同じという共通点があります.
2年向けのかけ算の問題は,pp.14-15にありました.袋に詰めてラッピングしたクッキーの総数です.式は,「3(個)×3(つ)=9(個)」など,ここでも,かけられる数と積の単位を同じにし,かける数の単位はそれらと別になっています.
かけられる数と積の単位が違うようなかけ算がないか,と探していると,「分×60=秒」(p.91)の中にありました.具体的な式は「15分×60=900秒」です.
ってこれ,単位の変換ではないですか.「15[分]×60[秒/分]=900[秒]」と表せます.そして本からは離れますが,60[秒/分]の逆数のようなもの,すなわち0.0166…[分/秒]を考えると,900[秒]×0.0166…[分/秒]=15[分]とできます.あるレートで割るのは,そのレートの逆数をかけるのと同じ,というのは,昨年末のサンドイッチで書いてきたとおりです.本に戻って…
立方体の豆腐の切断面で六角形をつくったり(p.73),六方格子(wikipedia:六方最密充填構造)を取り上げていたり(p.93),図形に関しても充実した内容となっています.
ページを開いて料理する,というよりは,レンジ調理の待ち時間や,食べて後片付けをした後にでも,算数の話を親子で見るのが,望ましい使い方のように感じました.
2. Z会の見解・2013年7月バージョン
Z会グレードアップ問題集 小学2年 算数 文章題―かっこいい小学生になろう
- 作者: Z会指導部
- 出版社/メーカー: Z会
- 発売日: 2013/07
- メディア: 単行本
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2年生には歯ごたえのある問題集…そんな印象を持ちました.文章題が中心で,1問1問の字数も多めです.
問題を解くヒントになるような絵がない,というのは興味深い特徴でした.とはいえ絵は,ところどころにあります.例えばp.9のイラストは,場面をイメージしやすくするためのものらしく,イラストの中の人数は,問題文の数量と合っていません.そのほか,キャラクターによる吹き出しでヒントがいくつか出ていますが,ヒントはすべて「書き言葉」で,絵は添えられていません.またpp.34-35, 78-79は,絵が与えられ,書き言葉によるヒントをもとにその問題を解くという形になっています.
といったところで,かけ算を見ていきます.a×bの式が期待されるところに,b×aと書いたらどうするか,解説がありました.
かけ算については,交換法則が成り立つため,[1](1)を3×4と計算することもできます。3つのかごにりんごを1つずつ入れていき,4つずつになったときの個数を求めるという考え方です。したがって,Z会としては式を逆に書いても正解との立場を取りますが,学校現場によっては,4×3でないと正解にはしないという場合があります。そこは学校の先生の指導にしたがってください。
(解答・解説p.12)
問題は,第22回(p.48)の最初です.
[1](前文:略)
(1) りんごが 4こずつ かごに入っています。このかごが 3つでは,ぜんぶで 何この りんごに なるでしょう。
(式10点・答え10点)
取る立場そして,学校の先生の指導を尊重することについて,過去に読んだもの書いたことを見直しました.
Z会の見解で,反響も大きかったのは,かけ算には順序があるか??学習指導要領とZ会の場合? :: INSIGHT NOW!だったと理解しています.そして算数教育に関わる各団体はでは,「非順序派」と別の位置に置いたのでした.
くだものを使ったかけ算の取扱いについては,次の3つを挙げることにします.
これらをもとにすると,一つ分の大きさと幾つ分とを識別し,かけ算の式で表すことは,個別の学校の先生で異なるという話ではなく,(日本の)算数の学習事項の一つだと認識できます.教科書(形成的評価)や学力実態調査(外在的評価)の両方で現れていることを,強調しておきます.
3. 負の数のかけ算・1936年バージョン
負の数のかけ算を書くにあたり,次の文献を見ておくことができませんでした.
- 木村教雄: 小学算術教材ノ基礎的研究, 培風館 (1936).
この本を当ブログで最初に取り上げたのは,戦前の乗法(3冊目)です.
この本は,『生き抜くための数学入門』と同様に,プラス×プラスを既習とし,マイナス×プラス,プラス×マイナス,そしてマイナス×マイナスと見ていっています.主要部は以下の通りです.
乗法及び除法 負数に正数を乗ずることは,自然数の乗法の意義をそのまま適用することが出来る.
例えば,-5を3倍するには,-5を三回加え合わせることによって-15である.
-5×3=-15
負数を乗ずることに就ては未だ其の意義が定められて居ない,是は次の様に新らしく定めるのである.
負数を乗ずるとは,其の絶対値を乗じたる後その積を符号を変ずることである.
例えば 5×(-3)=-(5×3)=-15 (-5)×(-3)=-{(-5)×3}=15
(p.41.漢字およびかなは現代の表記に改めた)
負の数のかけ算については,昭和初期の算術の解説書にも,かけられる数とかける数の区別に基づいた記述がある,という話でおしまいなのですが,別の話を見ておきます.というのも上の文章,「意義」という言葉が指すものが,現代と違うのです.「定義」に置き換えたいところですが,ここは「意味」とするのがより適切です.というのも,「乗法の意味の拡張」という算数教育の用語,そしてその観点に基づく研究・実践の蓄積があるからです.
乗法の意味の拡張が最も問われるのは,かける数が小数になるところです.そこに注意して,『小学算術教材ノ基礎的研究』を読んでいくと,p.73で解説されていました.負の数の演算よりも後となります.
まず「小数或は帯小数*1に整数を掛ける場合は,其の意義は整数の乗法その儘であるから」として先に検討し,「整数に小数又は帯小数を掛ける場合」,そして「被乗数,乗数いずれも小数或は帯小数の場合」の順に,検討しています.
この流れは,現行よりも,一つ前の学習指導要領(『小学校学習指導要領解説 算数編』)と合っているように見えます.そこでは,小数×整数と,整数または小数×小数は,ともに第5学年の学習事項となっていますが,それら2つで項目が分かれており,例示されている式も異なります.現行(それと前の前)では,小数×整数は1年早く,第4学年で学習します.
4. 都算研によるかけ算の文章題・中学年向け
お料理とZ会の本をリュックに入れ,帰る最中に頭の中で,「あっ!!」と思ったことがありました.*2
話の前提となるは,先々月に書いた,以下の件です.
他の学年で,かけ算に関して,インパクトのあるものは特にありませんでした.おはじきの総数を求める式を2種類書く問題は,第2学年大問4で,また逆思考*3にも注意してかけ算・わり算の式を選ぶ問題は,第3学年大問4および第4学年大問4で,それぞれ維持されていました.
*3:「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか」は,平成20年発行,そして一つ前の小学校学習指導要領解説 算数編に入っています.第3学年です.
6年は鉄のぼう,2年はみかん
「第3学年大問4」というのは以下のとおり(http://tosanken.main.jp/data/H25/happyou/20131018-7.pdf#page=9).
[4] みさこさんは、次の5つの問題をつくりました。次の(1)、(2)に答えましょう。
(あ) みんなで42このどんぐりをひろいました。6人で同じ数ずつ分けると、1人何こもらえますか。
(い) あめを42こずつ、6人の子どもに配ります。あめはぜんぶでいくついりますか。
(う) おねえさんは、おはじきを42こもっています。いもうとに6こあげるとのこりはいくつですか。
(え) 子どもが6人います。工作で42cmずつリボンを使います。リボンは全部で何cmいりますか。
(お) えんぴつが42本あります。赤えんぴつは6本あります。えんぴつの本数は赤えんぴつの本数の何倍ですか。
(1) 42×6の式になる問題はどれですか。ぜんぶえらんで記号を書きましょう。
(2) 42÷6の式になる問題はどれですか。ぜんぶえらんで記号を書きましょう。
「42×6」で表される問題,すなわち(1)の答えは,(い)と(え)です.
何に驚きを覚えたのかというと,(え)を選択するための根拠に2通りあることです.
標準的には,その問題文を図にするか,頭の中でイメージして,42cmのリボンが6本という場面を認識し,42×6という式を立てることになります.かける数が先に来る,長さを扱ったかけ算の文章題は,3年で学習していることが,学習指導要領解説の記載内容およびその文書の扱いをもとに,容易に推測できます.
非標準的解法もあります.「かけ算の式はどちらでもいい」です.(え)は,6×42という式に表せます*3.そこで交換法則を用いて,6×42=42×6となります.したがって(え)も,42×6の式になると言えます.
「あっ!!」は何かという,この2つのうち,論証のコストとしてみると非標準的解法のほうが高い点です.ここで非標準的解法のコストを,答えとする(解答に(え)の記号を書く)までの思考プロセスを2種類の段階に分けて,考えることにします.一つは,(え)の問題文から,6×42(42÷6ではなく)を認識する段階,あともう一つは,6×42の式を立てたあとに交換法則を適用して42×6と表す段階です.特に後者の段階について,個人的な想像ですが,「こういうテストなんだから,42×6ではない」と判断*4し,解答に書かなかった,という児童が少なからずいたのではないかと思っています.
この対応策は,学校はもちろん家庭でもできます.上の問題を子どもに解かせ,(え)を選ばなかったらどうしてなのかを聞くことです.もう一つ,想像を書いておくと,そのような調査をしたら,かけ算と認識できなかった(前述の2種類の段階のうち,先のステップで失敗する)子どもの数が,かけ算と認識できたけれども6×42を42×6と違うと判断してしまった子どもの数よりも多くなりそうだと予想できます.人数の比が何対何になるのかは,実際にやってみないと分かりませんが.
5. Re: ウサギの耳にリボンを付ける
経緯:http://twitter.com/t_ha_ma/status/406078764196433921 + http://p.twipple.jp/iZlYD → http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131130/1385743378 → https://twitter.com/t_ha_ma/status/406811914988048384 + http://p.twipple.jp/AAZ8Y
全文を読むとともにツイートもいくらか拝読したものの,「本来の掛け算」とは何か,「独自の掛け算」とは何か,それらは“算数・数学教育”や“数学”においてどのように位置づけられているか(国内外問わず,定評ある文献でにどのように書かれているか),といったところが不明なので,議論を深めることはできないなと判断しました.2ページにわたって論点を整理していただくとともに,拙作の図を掲載してくださったことに関して,感謝申し上げます.
ともあれいくつか,所感を書いておきます.私自身はかなり前から,「小学校で学習すべきかけ算にはどんなものがあるか」という問題意識を持っています.
その問題にヒントを与える,和書で良い文献(Webの情報を含めて)を持っていません*5.英語ならあります.真っ先に挙げたいのが,次の表です.
- Table 2. Common multiplication and division situations. (Common Core State Standards for Mathematics)
それと,先月16日に書いた文章からの引き写しですが,次の文献に記載の表(TABLE 13-1. Situations Modelled by Multiplication and Division, p.280)は,一昨年に知って以来,これに匹敵する分類表はそうそうないなと思っています.
- [Greer 1992] Greer, B.: "Multiplication and Division as Models of Situations, Handbook of Research on Mathematics Teaching and Learning", National Council of Teachers of Mathematics, pp.276-295 (1992). isbn:1593115989
数学者による,かけ算の表現や議論については,いくらか読んできた中では次の2つが平易でした.ただし前者は英語*6,後者は希少本*7です.
- [Nagumo 1977] Nagumo, M.: Quantities and real numbers, Osaka Journal of Mathematics, Vol.14, Num.1, pp.1-10 (1977). http://projecteuclid.org/euclid.ojm/1200770204
- [田村1978] 田村二郎: 量と数の理論, 日本評論社 (1978). asin:B000J8KINM
赤字になっている「思考方法によって正しい式が変化する」は,「制約条件によってソリューションが変化する」と置き換えることで,私の認識と合致します.制約条件もソリューション*8も,自分の分野(データベースシステムあるいはソフトウェア開発)の用語です*9.制約条件を早い段階で与えることで,ゴールへの進行がよりスムーズになることは,算数・数学・データベース開発に限ったことではなく,例えば王様の仕立て屋など,漫画の中でも見ることができます.
ともあれ算数の教科書において,そのことが確認できる事例を紹介しておきます.順列のかけ算,配るかけ算です.順列ですので,6年になります.「Aさん,Bさん,Cさん,Dさんの4人の子どもがいます。4人がならぶと何通りのならび方があるか考えましょう。」だけだと,式は「4×3×2×1」でも「1×2×3×4」でもいいのですが,「2番目までは 4×3通り あるんだね」というヒントのため,「1×2×3×4」は採用されにくくなり,「4×3×2×1」への誘導が意図されています.
「本来の掛け算」のほうは,@t_ha_maさんによる情報の整備を待つとして,「独自ルールの掛け算」については,採集した事例を報告しているブログを,当ページのサイドバーにてリンクしていますのでご確認ください.
*1:1を超える小数のこと.「帯分数」は小学校で学習しましたが,「帯小数」は死語と言っていいように思います.
*2:その瞬間に思いついたのは,「かけ算の式はどちらでもいい」と理解した子どもの正解率が低くなる問題があること,だったのですが,本日,文章にまとめていきながら,その考えは正確でないと思うようになりました.
*3:なぜその式になるかについては,「幾つ分×一つ分の大きさ」という式を頭の中で覚えていて,それを用いたというのが,一つの可能性となります.
*4:この判断は,「かけ算の式はどちらでもいい」という知識を否定するものとなっています.
*5:学習指導要領およびその解説で「乗法の意味」について,「掛け算の意味はコレコレだ」といわば内包的に定めるのではなく,「乗法が用いられる場合について知ること」および例題などから,外延的に記されていることが,大きいように感じています.ここで,「内包的」「外延的」については,wikipedia:集合論の用語を借用しました.
*6:エッセンスを,以前に書いたものから取り出すと:[Nagumo 1977](その元となる論文は,日本語で1942年に書かれています)は,1つの量の集合Qに対して,QからQへの線形写像(自己同型写像)を定めると,その写像Φは倍率mと対応づけられることを示しています.議論において,被乗数に対応するものと,乗数に対応するものが,明確に区別されています.
*7:ともあれ一つくらい,リンクを:1970年代の乗法構造(2)―量と数の理論,比の乗法
*8:「正しい」と書くと,特に算数・数学においては,誰の目にも明らかに正しいという式や答えを目指すニュアンスがありますが,「ソリューション」と書くことで,同一の成果物が,ある人には感激のもと受け入れられ,別の人にはまったく受け入れられないといったことが含まれます.
*9:一方は漢字,他方はカタカナというのは,ちょっと誠実さを欠きますが
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