止まらぬ偽装「日本酒」まで…クールジャパン戦略に打撃の恐れも
産経新聞 12月1日(日)19時40分配信
全国で食材偽装が相次ぐ中、神戸市灘区の酒造メーカー「富久娘酒造」が11月、醸造用アルコールや、規格外の米などの原材料を使用した日本酒を純米酒などとして出荷・販売する表示違反をしていたと発表した。純米、吟醸などの原料や製法には、今話題の「芝エビ」→「バナメイエビ」の違いとは比較にならないほど厳格な基準があるが、今年2月にも大阪の酒造メーカーで同様の偽装問題が明らかになったばかり。ビールやワイン、焼酎に押され気味だったが、最近は各地で「日本酒乾杯条例」が成立したり、日本を海外に売り込む「クールジャパン戦略」の一角を担ったりと“追い風”が吹き始めた矢先の不祥事だけに、業界関係者からは「何をやっているんだ」と嘆き節も聞こえる。(竹内一紘)
■深夜の釈明「コストカットではない」
富久娘酒造が自社グループのホームページに一連の虚偽表示を発表したのは11日夜。このため、報道各社が神戸市灘区の同社事務所に詰めかけたのは深夜だった。
対応に当たった小島久佳社長(60)と永沼睦夫工場長(53)は、疲れ切った様子で報道陣の前に姿を見せると、席につく間もなく「お客さまにご迷惑をおかけして申し訳ない」と頭を下げた。
同社によると、大阪国税局から10月21日、純米酒に米以外を原料にした醸造用アルコールが含まれているとの指摘を受け、社内調査をした結果、指摘通りだったことが判明。さらに調査を続けたところ、規格よりも質の悪い米を原料に使用していたのに、「純米酒」「吟醸酒」「本醸造酒」などと虚偽の表記をして出荷していたこともわかったという。
原因について、小島社長は「コストカットではなく、品質の均一化や作業の効率化を図って混入したとみられる」と釈明した。ただ、少なくとも5年前から純米酒に醸造用アルコールが混ぜられていた。小島社長は「チェック体制が甘かった」とうつむき気味に話した。
■酒を国税が…その理由は
発覚の端緒となる指摘を行った国税局。大企業などの「税」を取り扱う機関だが、酒造業者の取り締まりも行っている。
アルコール飲料にかけられている酒税は、明治時代には税収の半分以上を占めることもある国の重要な財源だった。その名残で、今でも財務省の外局である国税庁や、同庁の地方組織の国税局が酒造業者やアルコール飲料を扱う。そのため、国税局は酒造業者に対して報告を求めたり、内部書類や製品を調査したりする権限持っているというのだ。
今回の問題でも、酒税に関連した「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」に違反した疑いで、大阪国税局が富久娘酒造を調査している。
同法では酒造業者や販売業者に、アルコール飲料に対して正しく種類を表示する義務を負わせていて、違反をし、改善指示に従わなければ50万円以下の罰金も科される。
■純米酒、本醸造酒、吟醸酒−その違いとは
富久娘酒造が虚偽表示を行った純米酒、本醸造酒、吟醸酒などは「特定名称酒」と呼ばれ、原料や作り方は国税庁がそれぞれ基準を定めている。基準に該当しない場合は「普通酒」として販売される。
特定名称酒はすべて米質が「3等以上」とされた米を使用する決まりがある。しかし、富久娘酒造は米麹の原料に3等より質が悪く、普通酒に使う米を使っていたため違反となった。
さらに、大阪国税局が富久娘酒造に問題を指摘した純米酒は、水、米、米麹以外を原料とすることが認められていない。
ちなみに、原料米の表面を削り、残った部分の重さが70%以下の米を使うと本醸造酒、同じく60%以下で低温で長時間発酵させると吟醸酒と定められている。
■今年で2件目
同様の日本酒の虚偽表示問題は今年に入って2件目だった。大阪府阪南市の老舗酒造会社「浪花酒造」が純米酒や純米大吟醸酒などに安価な酒を混ぜて販売していたことが、大阪国税局の酒成分分析の結果、2月に発覚していた。
浪花酒造の問題を受け、日本酒の酒造メーカーなどが加盟してつくる日本酒造組合中央会(東京都港区)は3度、酒造メーカー各社に法令順守を要請している。しかし、調査結果を報告することまでは求めていなかったため、富久娘酒造の問題は発覚が遅れた。
一連の業界不祥事を受け、同会は現在、各社に法令違反がないかどうかを調査し、11月内を期限として回答するよう要請した。
■日本酒ブームに影響も
同会によると、戦後、ワインやビールなどが人気になるに伴って、日本酒の消費量は下落の一途をたどっていた。昭和初期には3千を超えていた酒蔵も次々と閉鎖し、現在も実際に製造をしている酒造会社は、当時の3分の1以下の約千社にまで落ち込んでいるという。
しかし、東日本大震災を受けて、被災地である東北の日本酒を飲んで復興を下支えしようという機運が生まれたこともあり、国税庁の資料によると、平成23年度の日本酒の消費量は前年度に比べて数%増加した。
また日本酒は、「クールジャパン戦略」の一角も担う。新しい日本酒の飲み方として「日本酒ロック」が提案され、今年1月には京都市、10月には兵庫県西宮市で宴席の1杯目に日本酒での乾杯を推奨する「日本酒乾杯条例」が成立するなど、日本酒“復権”の兆しを見せていた。
そんな勢いに乗りかけた矢先に、富久娘酒造の不祥事が発覚し、冷や水をかけられた形となった。全国各地のホテルや百貨店で食材偽装問題が相次いでいる中で、同社には「酒でもこんな問題が起きるのか」「信頼を裏切られた」という声が寄せられているという。
日本酒業界全体への不信感につながりかねない事態に、同会の小野博通理事は「何をやっているんだという思い。業界全体で法令順守に努め信頼確保をしなければならない」と危機感を募らせている。
最終更新:12月1日(日)19時40分
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