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ザ・インタビューズ> insideexplorerのインタビュー(8件) >エメーリャエンコ・モロゾフについて語ってください。
 秋と言えば読書! 秋と言えばノーベル文学賞! 存命中の作家でノーベル文学賞を獲得するにふさわしい作家、といえばあなたは誰を思い浮かべますか? ミラン・クンデラ、フィリップ・ロス、ジュンパ・ラヒリ、マイケル・サンデル、村上春樹、東浩紀……私が個人的にイチオシしているのが、やはりなんといってもジョルジュ・バタイユですね。

 エメリヤーエンコ・モロゾフ(emeriyaenko morozohu 1834年8月13日-)は、アメリカのデスバレーにて近親相姦の末に産み落とされました。

「水のない土地、日中の気温は80℃にものぼる…そんなデスバレーで、親(祖父? 姉?)たちは性技秘術の探求に余念がない。想像できるかい? 僕の死臭に寄ってきたハゲタカが見るに見かねてくれてね…そう、僕はハゲタカに育てられたんだ。ママ!! カアカア!!」(『ペプシコーラとピザと君が好き』より抜粋)

 友人もいない、親が親なのか分からない、生野菜が苦手でサラダは断固拒否、そんな状況で読書に読書を重ね……彼も多くの文豪と同じく、幼少時から観念の虜と化した早熟の天才だったのですね。そこへある日、偶然通りかかった女性との出会いが彼の運命を決定づけます。シモーヌ・ド・ボーヴォワール。彼はフランスへと渡り彼女の書斎で二度の大戦を経験しました。そう、ジュリア・クリステヴァ『サムライたち』に登場するあの老人は彼だったのです。ボーヴォワールは晩年のインタビューの中で「子供を持たずに後悔したことは?」と尋ねられ、「全然!私の知っている親子関係、ことに母娘関係ときたら、それはそれは凄まじいですよ。私はその逆で、そんな関係を持たずに済んで、本当にありがたいわ」と答えていたそうですが、お好きにしたらいいじゃない?

「まったく、精神はずっと、子供のままだったよ……一度も生産的な活動をせずに100歳に達した人間は私をおいて他にいるというのかね? だからこそ私は小説を書かなくてはならないと思ったのだ。全世界で断絶されている、労働者たちの為にね」(『超現実主義ピザ屋サルバドール』より抜粋)

 まあそんな環境で宿主が死ぬまでの乱読を経て70ヶ国語を操れるようになるわけですが、親が戸籍登録をしていなかったおかげで彼にはそもそも国籍がありません。民族的な位置づけもよくわからないと。こういった状況で書くこと…これをどのような立ち位置で行うかには本当に苦労したようです。クレオールも糞もありません。ポストモダン界隈やネグリ、アガンベンなどと親交を結ぼうともしたそうで、しかしお風呂に入る習慣がないせいか彼らは会おうとしてくれなかったそうです。ただ思想は受け継いでいる。アメリカの文化的帝国主義に対する違和感を、ペプシコーラを飲みながらつぶやいたこともあると言います。

 そして1997年、トマス・ピンチョンが『メイスン&ディクスン』を、ドン・デリーロが『アンダーワールド』を世に問うた年に、全米図書賞決定委員会に突如として送りつけられ、完璧に無視されたテクストこそが『加速する肉襦袢』、ピンチョンデリーロ二大巨頭の大作と比して大学ノートに150枚という短い彼の代表作でありました。内定を取り消された若者たちが、コカイン所持で逮捕された罪歴を抹消しようと訪ねたパリ在住のネイティヴアメリカン「キム」とペプシコーラを飲み交わして母国の自宅に戻ると、魔界へと旅立ち度々ガーゴイルの話をしてくれていた共通の友人から「おかね たのむ」と電報が届いており心配する……いわゆる日常系のプロットでありましたが、そのエクリチュールに痕跡を残されたパロールへと強烈に切り込んだテーマ性が高く評価され、「海に投げ込まれる」「ポエトリーリーディングの最中に燃やされる」「不確定性原理の卒業発表に使用したら留年した」など一部でセンセーションを巻き起こしました。

「なかでも特に嬉しかった感想が、家畜の餌にちょうどいい、というものだったよ。150枚、この分量が大事なんだ。多すぎても少なすぎてもいけない。でも動物が紙を食べるなんて、驚きだよね」(『アァーン! ピザが好きじゃない人間はまともじゃない!?――純文学超真髄』より抜粋)

 というわけで、私が今翻訳しているモロゾフをつまみ食いみたいな形で書きましたが、批評的見地からのテクスト論はまたの機会に、ご要望があれば書こうと思います。最近のモロゾフは竹馬にハマっているようで「コカをキめるとバランスをとるのが難しい。街を歩いていられない」としきりに嘆いていたのが印象的でしたね。

 ご質問、ありがとうございました。

 ※画像はモロゾフの近影。高田馬場駅ロータリーにて。

2011-09-09 19:36:22



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