岐阜県国体強化指定選手(高校生)の生育歴・競技歴に関する調査結果
渡邊善行(岐阜大学)、小倉新司(岐阜県教育委員会)
岐阜県体育協会スポーツ医科学委員会では、1990年に岐阜県国体強化指定選手を対象に選手の生育歴・競技歴に関する調査を行いました。その結果、興味ある結果が得られましたので、ここにその概要を報告することとします。
調査対象は岐阜県国体強化指定選手(高校生)であり、このうち調査用紙の回収ができた人数は174名(男子108名、女子66名)でした。選手が所属していた競技種目は、陸上競技、サッカー、バレーボール、バスケットボール、ハンドボール、ソフトボール、ホッケー、ソフトテニス、バドミントン、柔道、剣道、なぎなた、フェンシング、レスリング、相撲、空手、馬術、ライフル、ウエイトリフティング、体操、自転車の計21種目でした。
選手の生育歴に関する調査結果
(1)子供の頃の運動遊び
「小学生の頃の運動遊びの量」についてたずねたところ、「よく遊んでいた」77%、「普通」20%、「あまり遊んでいなかった」3%でした。「よく遊んだ遊びの種類」の上位5は、「ドッヂボール」33%、「サッカー」24%、「野球」22%、「鬼ごっこ」16%、「ゴムとび」10%でした。渡邊ら(1993年)は岐阜大学付属小学校の「運動遊びが好き」な児童数を調べたところ、男子5年生78%、6年生69%、女子5年生75%、6年生67%でした。またその児童の約7割が「ドッヂボール」をして昼休みを過ごしていました。このようなことから、今の国体強化指定選手の子ども時代は、「ドッヂボールなどをして積極的な運動遊びを好むどこにでもいる普通の子ども」であった様子が浮かび上がってきます。
(2)生育地区
「あなたの育った地区は?」の問いに対し、「都市近郊部」58%、「農村部」20%、「都市部」12%、「山村部」10%でした。「都市近郊部」で育った選手が過半数を占めていますが、おそらくこれは岐阜県の子ども人口の地域別人数比と比例していると思われます。交通・情報・物流速度が速くなった今日では、都市と地方の違いはほとんど無いといってよいでしょう。今日では、農山村といっても子どもが通う塾があり、多くの子どもがテレビゲームソフトを持ち、子どもが家事労働や野良仕事をしている姿はほとんど見あたらなくなりました。したがって、生育地区と子どものスポーツ環境との関係はほぼなくなったとみてよいでしょう。今日では、岐阜県のどの地区で育ってもスポーツ選手は、輩出できると考えた方がよいでしょう。
(3)子どもの頃の運動能力
「小学生の頃、駆けっこや持久走は速かったですか?」についてたずねました。
@駆けっこについて
「速かった者」は57%、「遅かった者」13%、「普通であった者」30%でした。「速かった者」が過半数を占めた種目は、なぎなた100%、サッカー92%、陸上競技77%、バレーボール75%、ホッケー63%、剣道60%でした。逆に、「遅かった者」が50%以上となった種目は、空手100%、レスリング50%、ライフル50%でした。このように特に駆けっこ的に走ることを基本とする種目においては「小学生の頃から足の速かった者」がその種目を選んでいるようです。逆に、むしろ「小学生の頃、駆けっこが遅かった者」が選手として競技ができる空手、レスリング、ライフルのような種目もあることがわかります。
A持久走について
「速かった者」は39%、「遅かった者」17%、「普通であった者」44%でした。「速かった者」が過半数を占めた種目は、サッカー71%、剣道60%、陸上競技55%、自転車50%で、逆に「遅かった者」が50%以上となった種目は相撲100%、空手50%でした。
B小学生の駆けっこと持久走能力
駆けっこ能力と持久走能力は生理学的には相反する能力ですが、小学生期においてはこれら両能力ともまだ未発達の状態です。したがって、運動が好きでいろんな運動遊びを夢中になってしている子は、あまり遊ばない子に比べて両能力とも得意な運動と意識されることでしょう。今回の調査では、駆けっこと持久走の両方に速かったと答えた者が30%もいました。小学生期は駆けっこも速いが、持久走も速い万能選手のような子が沢山います。このような子ども達は将来のスポーツ選手としての素晴らしい予備軍といってもよいでしょう。大切なことは大人が子ども達に、安心して活発に遊びまわれる場所と時間を保障することだと思います。
選手の身長と両親の身長の関係
選手の身長はcmでたずね、両親の身長は「高い、普通、低い」の選択回答でたずねました。選手の身長は文部省体力・運動能力調査報告書(1990年)を参考に表1のように区分しましたが、両親の身長の区分は選手の主観で答えてもらいました。両親とも揃っている選手を集計対象とすると、その数は男子90名、女子50名でした。
(1)選手の身長区分
集計された選手の身長区分%は、男子「高い」37%、「普通」62%、「低い」1%、女子「高い」35%、「普通」65%、「低い」0%でした。男女とも「低い」に区分される選手はほとんどいませんでしたが、逆に「高い」に区分された者が1/3もいました。バレーボール、バスケットボール、相撲、柔道など長身者のいる種目が多くあったのでこのような身長区分となりました。
(2)長身選手の両親の身長
表2,3に長身選手の両親の身長区分を示しました。男女とも父親の身長が高い者は36〜46%であったのに対し、母親の身長が高い者は15〜6%でした。父親が長身者の場合の方が母親より影響が大きいようです。父母とも身長が高いと子どもは長身になるかといえば、その確率は低く6〜9%位しかありません。逆に父母ともに身長が低くても長身者は3%ですがいることはいます。長身選手のうち、両親とも普通の者は24〜34%もいます。また母親が普通でも父親が長身の場合には長身選手は男子21%女子40%もいます。
(3)身長と遺伝
親子の体格は良く似ているケースを何度も経験することから、このことについての関心は古くからありました。古井(1953年)は体格を形成する要因を552家族について調査し、体格を形成する要因のうち、遺伝による率が33%、環境による率は67%としました。水野(1969年)は学習院に父子とも在学した記録を分析し、16歳時身長の父ー子間の相関係数はr=0.51、19歳時はr=0.63を、Susanne(1975年)は親ー子間の身長の相関係数はr=0.51というかなりの相関関係を報告しています。そして例えば体重、胸囲、座高といった項目よりも、身長が最も遺伝の影響を受けるものとされています。
(4)身長とスポーツ
身長などといった長育はある程度遺伝の影響を受けることもありますが、本人である選手にとって遺伝の影響はどうすることもできないことです。また大きいことはすべてよいとは決してないのです。身長の高低がまったく影響しないスポーツ種目(ホッケー、ライフルなど)があったり、身長が低めの方がかえって有利なスポーツ種目(馬術、体操など)もあるのです。したがってそのあたりをよく見極めて身長にあったスポーツ種目を選ぶことが大切といえましょう。
表1.選手の身長の区分
|
低 い |
普 通 |
高 い |
男 子 |
〜159cm |
160〜174cm |
175cm〜 |
女 子 |
〜149cm |
150〜163cm |
164cm〜 |
表2.男子長身選手の両親の身長(%)
|
母 親 |
計 |
高 い |
普 通 |
低 い |
父 親 |
高 い |
9 |
21 |
6 |
36 |
普 通 |
3 |
34 |
12 |
49 |
低 い |
3 |
9 |
3 |
15 |
計 |
15 |
64 |
21 |
100 |
表3.女子長身選手の両親の身長(%)
|
母 親 |
計 |
高 い |
普 通 |
低 い |
父 親 |
高 い |
6 |
40 |
0 |
40 |
普 通 |
0 |
24 |
24 |
48 |
低 い |
0 |
6 |
0 |
16 |
計 |
6 |
70 |
24 |
100 |
|