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社説

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防空識別圏 中国は速やかに撤回を(11月30日)

 東アジアの緊張を高める危険な行動である。

 中国が東シナ海上空に防空識別圏を設定した。沖縄県尖閣諸島も含まれ、日本の識別圏と広く重なる。

 識別圏は領空の外側に設置する空域で、不審機が領空侵犯する恐れがある場合、戦闘機を緊急発進させる。国際法上の規定はないが各国が独自に定め地域の安定を保ってきた。

 中国の行動は従来の秩序を否定する。尖閣諸島をあたかも中国領のように扱う態度も容認できない。

 政府が撤回を求めたのは当然だ。

 中国は識別圏内を飛行する場合、飛行計画の提出など自国の手続きに従うことを義務付け、応じないと実力行使もあると威嚇する。

 公海上空の飛行の自由という原則に反する。米軍機や自衛隊機は通告なしに圏内を飛行し、けん制した。

 だが、あくまで外交的解決が第一だ。日本は関係国と連携し、粘り強く中国に撤回を求めていくべきだ。

 中国の識別圏は朝鮮半島の南から台湾の北まで南西諸島に沿う形だ。

 安倍晋三首相は国会で「東シナ海における現状を一方的に変更し、不測の事態を招きかねない非常に危険なものと強く懸念している」と述べた。日中双方が緊急発進すれば戦闘機同士の接近もあり得る。

 尖閣諸島をめぐっては、日本政府が昨年9月に国有化して以来、中国は再三、領海侵犯などを繰り返してきた。今回、海から空へ挑発をエスカレートさせたが、尖閣問題を一層複雑にするだけだ。

 中国と識別圏が重なった韓国も反発している。中国は「特定の国に向けたものではない」と強調し、黄海や南シナ海でも設ける構えだが、周辺国の理解は得られまい。

 習近平国家主席は先月、周辺国との積極外交を展開する考えを表明したばかりだ。今回の矛盾する行動に強い違和感を覚える。

 中国国内では汚職や腐敗、環境汚染など難題が山積する。外国の脅威をあおり、ナショナリズムを高揚させて国民の不満をそらしたいのなら全くの見当違いだ。

 軍部の影響力が強まっているとの指摘もある。習体制内部で何が起きているか見極める必要がある。

 一方、与党・自民党内には対中国強硬論が噴出している。中国機を撃墜できるように法改正すべきだとの声もあるという。冷静さを欠いた粗雑な議論でしかない。

 日本の安全保障上、看過できない問題ではあるが、力のみに頼った対応は禁物だ。

 日中関係をこれ以上悪化させてはならない。安倍首相は「対話のドアはオープンだ」と言うだけでなく、首脳会談実現に向け努力すべきだ。

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