社説:秘密保護法案を問う 論戦スタート

毎日新聞 2013年11月28日 02時35分(最終更新 11月28日 11時13分)

 ◇2院制の意義を示せ

 特定秘密保護法案が参院で審議入りした。与党は来月6日の今国会会期末までの成立を目指すが、主な野党は徹底審議や廃案を求めており、対立を深めている。

 審議が尽くされたとは到底言えない段階で衆院で採決を強行したうえ、1週間程度の参院審議で成立させることなどあってはならない話だ。法案の市民生活への影響など問題点を一層、掘り下げるべきだ。

 安倍晋三首相は衆院通過を受けて「参院審議などを通じ(国民の)不安の払拭(ふっしょく)に努めたい」と語った。ならばまず、強引に成立を急ぐような姿勢を取るべきではあるまい。

 衆院の駆け足審議ですら約20日を要した。これだけ欠陥が指摘されながら来週中の決着に固執するのであれば参院軽視も甚だしい。

 参院でも法案の幅広い問題点が解明されるべきだ。とりわけ、指摘したいのは法案が公務員やメディアのみならず、市民生活に及ぼしかねない影響である。

 同法案では一般の人が特定秘密の漏えいを共謀、そそのかし、扇動した場合、実際に情報が漏れなくても最高懲役5年の処罰を受ける。仮に裁判になっても、秘密の内容が明らかにされないまま有罪になる可能性がある。しかもどんな行為や事例があてはまるかが、いまだに明確でない。市民の情報公開要求の脅威にもなり得るだけに重大な論点だ。

 また、特定秘密の取扱者は公務員のみならず企業の労働者など提供を受けた民間人も含まれ、プライバシーも含め徹底した適性評価の対象となる。その対象となる範囲や取得した個人情報の漏えい対策、適性に問題ありと判断された場合に企業の人事や異動に影響を与えかねない懸念などの議論も尽くされていない。

 衆院でわずか2時間しか審議されていない日本維新の会とみんなの党の修正合意も改めて点検すべきだ。秘密指定を検証、監察するという第三者機関について首相は「設置すべきだ」と語る。だが確約ではないうえ、独立性や設置時期は不明だ。

 修正合意には維新の党内に批判が根強く、衆院採決は審議が不十分だとして棄権した。みんなの党も3議員が造反するなど、当事者ですら足元が揺れている。与党が採決に踏み切る要因になっただけにその合意の中身が厳しく問われよう。

 衆参のねじれ状態は参院選で解消した。だからといって結果ありきの審議を急ぐようでは2院制の意義や参院の存在意義すら問われる。「抑制の府」の役割を果たしてほしい。

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