余録:「元来試験を以てみだりに競争心を鼓舞するの具と…

毎日新聞 2013年11月30日 00時15分

 「元来試験を以(もっ)てみだりに競争心を鼓舞(こぶ)するの具となすが如(ごと)きは教育の法を誤りたるものにして、ことに二個以上の小学校の児童を集合して比較試験等を行い、ひとえに学業の優劣を競わしむる如きは教育の目的を誤るのおそれなしとせず」▲つまり学校同士を競争させる試験はよくないというのは1891(明治24)年に文部省が出した文書である。当時は郡や県単位でそのような学力試験が「比較試験」などという名で自主的に行われていたという(斉藤利彦著「試験と競争の学校史」講談社学術文庫)▲起こったのが、学校や教師の間での競争の過熱だった。試験対策の教育の弊害が目に余るようになり、果てはこんな記録もある。「試験の当日窃(ひそ)かに生徒へ問題を示したとか或(ある)いは教師が擬筆(ぎひつ)を以て答案を出したとか実に聞くに忍びざることあるは往々聞く処(ところ)なり」▲かくして明治の文部省は比較試験を禁じたが、同様の得点競争の過熱は1960年代の全国学力テストでも起こった。今日、同テストでの学校別成績が公表されていないのはその教訓からである。しかし文部科学省は来年度から「比較」を認める方向に転じるという▲つまり市区町村教育委員会の判断で学校別成績が公表できるようになるのである。「住民への説明責任を果たす」というのが理由だが、成績公表の副作用は得点競争の過熱だけではない。学校のランクづけを通した学校間の格差拡大や序列固定化の恐れも小さくない▲「比較試験」の復活容認への方向転換は子供たちと学校の未来に何をもたらすのか。先の文章を記した明治の文部官僚にも見通しを聞いてみたくなる。

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