国防

軍事研究の禁止を最近 になって明文化した東京大学「国家(基本)戦略」を確立し、体系的に戦略を整備せよ

2013.11.26(火)  樋口 譲次

 経済戦略に類するものについては、自民党および民主党政権を通じて従来策定されてきたが、外交と防衛を一体化させた国家安全保障(国防)戦略が案出されるのは戦後初めてである。「戦略なき国家」日本でも、ようやく戦略が芽生えつつあるように感じられる。

「国家(基本)戦略」を確立し、体系的に戦略を整備せよ

 国家戦略(大戦略)とは、「中長期的な国際情勢・安全保障環境の中で、特に戦略対象国との闘争・競争などにおいて、すべての国力を総合発揮して国益の達成という目標に導く方策(measures/art)である」と定義されよう。

 この方策、すなわち戦略は、(1)目的性(合目的性)、(2)相対性、(3)総合一体性そして(4)中長期性(先見洞察性)を具備するものでなければならない。これらが、いわゆる戦略の基本的属性である。

 国家戦略の構築には、それに目的を付与する国益(ナショナルインタレスト)が明確でなければならず、国益は国家像(国柄)あるいは国家目標を基準として定まるものである。

 そして、国家戦略は国益の達成という目標に導く方策であり、国家戦略にはその遂行に影響を及ぼす中長期的な国際情勢・安全保障環境というフィールドの中で、我が国の国益達成を左右する相手、すなわち戦略対象国が存在する。その意味において、戦略は常に相対的である。

 また、国家戦略は、政治・外交戦略、経済戦略(資源戦略などを含む)、国家安全保障(国防)・軍事戦略、心理戦略、民間防衛戦略などから構成され、平時から、危機時そして有事を包含する体系的かつ総合的な概念である。

 同時に、戦略には、全体を俯瞰して問題の所在を探り当て、枝葉末節ではなく根幹となる解決策を案出し、組織横断の体制を敷いて総合一体的に推進する態勢が求められる。

 他方、戦略を構築し、実行・実現するに際して、その手段となるものが「国力(Nation's Power)」である。

 国力は、軍事力、経済力、外交力を基本要素とし、その国の政治的価値、文化や理念、あるいはその国のイニシアティブで創られた世界システム(例えば米国主導による国連やIMF=国際通貨基金の創設)などを含めた総合力として捉えられている。

 米国ハーバード大学のジョセフ・S・ナイ教授が提唱しているハードパワーとソフトパワーの区分によれば、軍事力と経済力が前者、外交力その他が後者に分類される。

 また、同教授は、著書『スマート・パワー』(日本経済新聞出版社、2011年)の中で、人口、国土、天然資源、経済力、軍事力、社会の安定などを力の資源(要素)と捉え、力の資源を生かして、自分(その国)が望む結果を得るという意味での力の実現には、しっかりと組み立てられた戦略と巧みな指導、すなわちスマートパワーが必要であると説いている。

 つまり、ハードパワーとソフトパワーなどから構成される国力をもって、国家目標の達成に向けて国益を増進するためには、「しっかりと組み立てられた戦略と巧みな指導」、言うなればスマートパワーとしての戦略構築及び運用・指導能力が不可欠ということになる。戦略は、決して「悪」ではなく、国益達成のためのスマートパワーなのである。

 上記を前提として、今後我が国が、その戦略能力を高め、さらなる発展と充実を図るためには、次の課題を解決することが求められよう。

 

 第1は、占領軍によって押しつけられた受け入れ難い現…
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