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いち
いつものように浮かぶ白い雲、青い空、眩しい陽射しがぽかぽかと暖かい、いつもの日常。


学校を遅刻し、宿題を忘れては先生に叱られ、ジャイアンとスネ夫にはいじめられ、そしてドラえもんに泣きつくいつもの日常。


そんな日々を送っていた彼等も、各々が立派な大人になって生活していたある日の事である。








ここは日本政治を代表する官邸の、とある一室。


その部屋は、さすが日本を司る総理大臣が住む場所でもあり、貴品と清潔感に溢れていた。


一般のそれとは比べようもない。


そんな部屋に二人の男達が総理大臣に呼び出され、あるテレビの番組に注目していた。



『では、本日のゲストはロボット工学の第一人者、“野比博士”です。 宜しくお願いします』



『よろしく』



『えーそれでは、今回博士が発表された──』



テレビ画面には、大きな丸メガネに立派な髭を蓄え、その姿にはちょっとした貫禄さえ感じる『野比 のび太博士』がゲストとして出演していた。


その名前は世界中から注目されており、今や時の人となっている。



「やあ、野比くんだ。 今や日本が誇る最先端技術のトップ。 たいしたものだね」



テレビに注目していた三人の内の一人が声を上げた。


その言葉に別の男が応える。



「いえいえ、出来杉総理こそ!」



そう言うと男は襟元を直し、柔らかいソファーに沈ませていた腰元を正した。


その者は、体格は小柄だが高級なスーツに身を纏い、裕福層を漂わせる身なりの良い男であった。


スネ夫である。



「のび太、外国から帰ってんだろ? 呼んでやるか!」



最後の一人が言う。


彼はスネ夫とは反対に大きくガッチリした体格に軽くジャケットを羽織ったカジュアルな服装で、気っぷの良い声を室内に響かせる。


──そう、ジャイアンである。



「いいね! 久し振りにみんなで集まろうか!?」



そんなジャイアンの言葉にスネ夫も嬉しそうに同意した。


しかし、そんな二人の会話を制す様に出来杉は言葉を挟む。



「いや……それには及ばない。 今日はね、是非二人とだけ話がしたかったんだよ」



今言った彼の言葉に二人は内心驚いた。


それはそのはずである。 のび太やしずかちゃんには内緒で自分達だけに話があると彼は言っているのだ。


二人は目を見合わせ、出来杉の次の言葉に耳を傾けた。



「ドラえもんを覚えているかい?」



出来杉はそう二人に問い掛けた。



「……」



しかしその問いに対し、すぐには言葉が出てこなかった。



ドラえもんは彼等がまだ小学生の頃に、未来へ突然帰ってしまったのだ。 しかも、みんなに内緒で……。


勿論、二人にとってもドラえもんの事を忘れられる筈もない。


ドラえもんの突然の回帰は、みんなにとって大きな衝撃であった。


ドラえもんは、いずれ未来へ帰ってしまう。 この事自体は分かっていた事だ。


しかし、“みんなに内緒で帰った”この事に関しては、怒りを抑える事が出来なかった。 そして、その怒り以上に大きな悲しみがみんなを襲った。


ドラえもんとは、数々の苦難を共に乗り越えてきた大親友だ。


それにも関わらず、理由はどうあれ無断で帰ってしまった事が……ドラえもんにサヨナラすら言って貰えなかった自分自身が情けなかった。 そして悲しかった。



『ドラえもんはそんな薄情なヤツじゃない!』


『きっと何か、どうしようも出来なかった理由があったはず……!』



誰もがそう思い、そして実際そうだったのだろうと思う。


しかし、理屈で分かっていても心で納得する事は出来なかった。


ドラえもんが帰ったと聞いたその日から、ドラえもんの話題は誰もしなくなっていく。


敢えて誰かが言った訳ではなく、暗黙の中、彼等みんながドラえもんの話題を意識的に避けてきたのだ。



「忘れるわけ……ないじゃないですか…………」



スネ夫は怒りと悔しさが入り雑じった複雑な表情を浮かべ、寂しそうにそう答えた。



「あのやろう…………突然用事が出来たとかで、勝手に未来へ帰りやがって!」



ジャイアンもまた、スネ夫と同じである。



「オレ達ゃ、一緒に命を賭けた仲間じゃなかったのかよッ!!」



そう言うと、ジャイアンの表情は見る見る赤くなっていき、今にも怒りが爆発しそうになっていた。



「一言断って、ちゃんと見送らせろってんだッ!!」



そう言うと両手コブシを強く握り締め、そのままハンマーを降り下ろす様にテーブルに叩きつけた。


隣に座っていたスネ夫も、そんなジャイアンの気持ちが痛いほどに解る。


しかし今はただ、ジャイアン怒りを落ち着かせる様、ひたすらなだめるしか出来なかった。


出来杉は、そんな二人のやり取りを冷静に見守りつつ言葉を続ける。



「まあ、突然かどうかは置いといて、実際居なくなった…………これは事実。 そして、野比くんの変化」



そして、スネ夫達に新たな質問を問い掛ける。



「タイムパラドックスという言葉をしっているかい?」



二人は出来杉が言ったその言葉に、何か深い意味がある様に感じるも、今はまだその質問の深意は解らなかった。









時代は19世紀

のび太達がまだ小学生だった頃に時代は戻る





(つづく)
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