ダンジョン編最終回です。
※8/16 誤字修正しました。
4/7 称号獲得を追加しました。
2-12.悪魔の迷宮(5)
サトゥーです。自分が信じていない事を他人に信じさせるのは大変です。
出口まで後少し。
早く日常に戻りたいものです。
◇
「恐らく出口はこの先です。理由は2つ、1つ目はこれまで一度も見なかった魔族が居る事。もう1つは今までと明らかに違う敵の数です」
断言する理由としては弱いな~。
「……何故それが出口がこの先にあると断言できる理由なのか理解できんのだがね?」「その亜人の言うように迂回路を探すべきでは?」
もっともだ……。だがしかし! ここはオレのターンだ!
「子爵様、お忘れですか? ここは魔族の作った迷宮です。先に行かせたく無い場所には自分の眷属を置くでしょう」
しまった、こっちを理由として言っておけばよかった。
「ですが多勢に無勢です。そんな大群に我々だけで勝てるとは思えません」
だよね~。
「もちろん、勝算はあります。……それは子爵様の魔法です」
ここまで一度も見たことが無いが、前に城前広場で悪魔相手に使われた火炎嵐は派手だった。遮蔽物としては十分なはずだ。
おっと、子爵の魔法スキルの事はまだ知らないはずだった。
「ご存知の通り不死族は炎に弱いのです。それに子爵様は伯爵領でも指折りの火炎魔法の使い手と聞き及んでいます」
「うむ、これでも魔法兵隊の副隊長だからな」
子爵もまんざらでは無さそうだ。ゼナさんの上司か?
「子爵様、作戦立案のためにお伺いしたいのですが、火炎嵐は何度くらい使えるのでしょうか?」
「火炎嵐は1度が限界だ。火炎嵐の後に火柱で入り口を塞いで骨が焼けるのを待つのが良かろう」
ふむ、燃費が悪い魔法なのか。
いつの間にか戦う方向に話が進んでいるのも都合がいい。
子爵の火炎嵐で視界が埋まっている間に小銭攻撃で殲滅しようか。
>「作戦スキルを得た」
◇
ベルトン子爵の火炎嵐が吹き荒れる。
遠くで翼の生えた目玉が何か言っているが誰も聞かずに開戦する。
不意打ちは基本だ。
「ポチ、タマ近づく敵に投石しろ! リザは投石を越えて接近してくる敵を突け!」
獣娘に命令を出す。
さて、火炎が消える前に大物を潰すか。
聖石の最後の一個を翼の生えた目玉の目玉に直撃させる。あれだけ大きい弱点を晒しているのは正直どうかと思う。聖石は魔族を貫通し、背後の骨数体を粉砕して壁に当たる。その轟音は火炎嵐の音に紛れる。
銅貨数枚をワンセットにして3体の高レベルスケルトンを破壊する。コインのショットガンって所か。
火炎が消える頃には体力が半減した雑魚スケルトンが7体ほどまで減っている。
取り合えず功績を譲る。
「お見事です、子爵様。火炎嵐で脆くなった骨が投石で次々破壊されています」
「うむ、汚らわしい不死の怪物共も、我が炎で浄化されるだろう」
「まったくです、あれほどの大魔法は初めて見ましたが、凄まじい威力ですな!」
どや顔の子爵をさらに誉める奴隷商人のニドーレン氏。子爵をいい気分にする役は彼に任せて、雑魚スケルトンの残りを倒す獣娘達のフォローに向かう。
リザが槍を叩きつけてバランスを崩した雑魚スケルトンの足にポチとタマが交互に小剣を叩きつけて破壊。地面に転がって炎の影に隠れたスケルトンを小銭弾で倒す。投擲スキルのお陰だと思うが、銅貨を指で弾いただけの攻撃で雑魚スケルトンの体力があっさり無くなる。……指弾スキルは無いのか。格好いいのに。
>称号「不死殺し」を得た。
>称号「魔族殺し」を得た。
◇
ほどなく雑魚スケルトンを片付け終わり出口へと向かう。増援を補充されても面倒なので魔核は放置した。
最後の部屋までの通路はコレまでと違い、部屋のなかと同じような石畳が敷かれている。通路も広めで幅4メートル、高さ3メートルほどもある。そのおかげか通路が明るい。通路はしばらく直線が続き、最後の部屋の手前で柄杓型に折れている。
「外の匂い、なのです~」
ポチが嬉しそうに報告しながらオレの周りをくるくるまわる。
初めに比べたら大分慣れてくれた。
「外に出たら何か美味しいものでも食べよう」
「にく~」
「にくにく~」
リザは最後尾なので会話に入ってこないがポチとタマは嬉しそうだ。
レーダーに映る最後の部屋に光点が次々と現れる。
ただし、それは敵を示す赤点ではなく中立を示す白点。
領軍のお出迎えだろう。
美中年神官の一行もいつの間にか先ほどの骨広間まで来ている。どんな裏技を使ったんだ?
まあいいか。
今はシャワーを浴びて冷たいビールを飲みたい気分だ。実現はしないだろうが。
「人の声するのです~」
ポチが前を指差しながら言う。
曲がり角が見えてきた。この先を3回曲がれば出口だ。
「前の壁~変?」
タマが報告してくる。壁の裏に縦穴の始点があるのはマップで確認していた。ゲームでよくある迷宮をショートカットするためのギミックなのかも知れない。
「ここも隠し扉みたいだ。触らないように」
「あい!」
「はい! なのです~」
隠し扉の前を通過………。
隠し扉を突き破って出てくる獣の腕!
砕かれた扉の破片を蹴散らして飛び出てくる巨大な体躯!
両脇のポチとタマを通路の端へ押し出す。
自分も飛びのきたいがヘタに避けると後ろの3人が被害に遭うのは確実だ。獣を受け止め勢いを殺さず、そのまま床を蹴る。獣の跳躍力は思いの他強く、後ろの3人の頭上を掠めて彼らの後ろの空間に押し倒される。
ようやく周囲の人々が展開に追いつく。
上がる悲鳴。呻き声。それらを獣の咆哮が上書きする。
始末したはずの死獣の再登場だ。
いや角が2本ある、別の固体か。
それよりも、どうする?
縦穴を登って来た以上、前のような始末の付け方は不可能だ。
レベル差がありすぎて獣娘達との連携では彼女達を死なせてしまう。
骨広間のように子爵の魔法を使うには魔力が足りないはず………。
押さえつけられたまま死獣の噛み付きを回避しながら思考が空転する。
「■■■■ ■■ ■■■ ■■■■ 気槌」
入り口側の通路から飛来した不可視の圧縮空気の塊が死獣を後退させる。
オレも一緒に転がされた。
死獣は魔法の威力を減らすために自分で飛びのいたのか前の部屋の側まで後退している。
その後ろの扉が開かれ、美中年神官が出てくる。
なんてタイミングの悪い。
「後ろの部屋に戻れ、死獣だ!」
拡声スキルの補助と反響する通路のせいか思ったより大声になる。
美中年神官は慌てず呪文の詠唱を始める。
バカな!
唱え終わる前に瞬殺されるぞ。
死獣が詠唱を聞きつけ後ろを振り向く。
しかたないターゲットを取って回避に専念。それから魔法の着弾に合わせて寸勁でどさくさに紛れて倒すか。
「■■ 浄化!」
短っ。ナニソレ。
死獣は動きを止め、ただの剥製に戻る。
立ち上がるヒマも無く脅威は倒されてしまった。
GJだ、美中年神官さん。
「サトゥーざんんん~~~~」
声に振り返るより早く押し乗られる。革鎧装備のゼナさんだ。
「無事でよがっだです~~~。よがっだあ~~~」
胸に頭を擦り付けながら再会を喜んでくれる。
さっきの魔法もゼナさんだったのか。角の向こうから他の兵士達も現れ子爵たちの救出を手伝っている。
獣娘達は側まで来ているが、少し離れたところで待機している。こっちに来ようとするポチとタマをリザが抑えている。
「ただいま、ゼナさん」
ゼナさんが、涙を手でゴシゴシ拭い顔を上げる。
「おかえりなさい、サトゥーさん」
ゼナさんの涙に濡れる笑顔が、やけに魅力的に見えた。
これで2章は終わりです。
3章から獣娘達は正式に主人公の奴隷となります。
3章の導入が上手く作れなかったので、急遽、奴隷商人と子爵を追加しました。ただでさえ冗長なダンジョン回が更に冗長に……。
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