2-7.悪魔再び
サトゥーです。「腕に注意を払わねば」そう呟いていたのに途中から完全に忘れていたうっかり者のサトゥーです。
もっとも腕一本。さっくり潰して終わりにしましょう。
◇
「な、なんだこの腕は?!」
体の重要な臓器を鋭い爪で引き裂かれザイクーオンのデブ神官は即死した。
そして、その毒爪を揮ったウースは事態についていけないようだ……。
「あ、あの腕は!」
「やっぱり昨日の、ですよね?」
ゼナさんがコクリと頷く。
「何か知っているのか?」
「昨日、領主様の城を襲った上級魔族の腕です」
美中年神官が聞いてくるのに律儀に応えるゼナさん。
……どういう状況だ。
ウースが元から魔族だったっていう線は無いはず。
ならば、理由も方法も分からないがウースを宿主として寄生したか。
ウースの情報をもう一度チェックする。
……あった、「状態異常:悪魔憑き」。さっきここまで見ていれば!
チートも使いこなさなければ無意味か……いや反省は後だ。
問題はどう倒すかだ。
「力ずくで引き抜いたら、あの男も死にそうだし、どうしましょうか?」
「そんな悠長な事を言ってる場合じゃありません、すぐさま応援を呼ばないと!」
「足止めできるかやってみるぞ! ■■■■ ■■■■■ ■■ ■■■■■■……」
神官の詠唱って長い。
「ゼナさんは応援を呼びに行ってください。中央通りまで出て風魔法で声を届けるのが一番早いでしょう」
とりあえずゼナさんには安全圏に行ってもらおう。
すこし躊躇った後、ゼナさんは「すぐ戻ります」と言って駆けて行った。
毒爪はこちらを攻撃しようとするがウースが腰を抜かしてへたりこんでいるために、爪が届かない。
腕はウースの胸のあたりから生えている。
始めは1メートルほどだった腕だが少しずつ太く長くなってきている。
成長してるのか?
群集から投げられた聖石がウースの側頭部に当たる。けっこういい音がした。
今度は背後から飛来した一本の矢がウースの延髄に突き立つ。呆気に取られていると、続けてさらに3本の矢が突き立つ。
振り返ると物陰から2人の狩人が弓を構えていた。
「……獲物は倒せるときに倒しておくものだ」
君らいつの間に現れた。
しかし命の軽い世界だな~。とりあえず助かりそうか試さないんだね。オレが平和ボケしているだけかもしれないが。
倒れたはずのウースだった死体がキョンシーのように体の関節を曲げずビデオの逆回しのように起き上がる。その体からは黒い光?が漏れ出している。
「ムシケラよ、邪魔な宿主の脳を破壊してくれて助かった。ワガハイ感謝」
……悪魔君、キミ喋らない方がよかった。
「……■■■■ ■■■■■ 封魔の円陣!」
「こざかしい。ワガハイ失笑」
淡々と呪文を唱えていた美中年神官の魔法が発動し、腕悪魔を封じる光の魔法陣を作り出す。
失笑と言ってる割に腕悪魔は魔法陣から出れないようだ。
「ぐぬぬぬぬ。人間の喉では魔法が使えぬ! ワガハイ誤算」
美中年神官は次の呪文詠唱を始めている。
狩人達は矢で倒せない相手と判断したのか撤退して行った。
広場にいるのはオレと美中年神官、それと獣娘3人だけだ。
もっとも気にはなるのか広場の周りの建物の影から覗いている。
みんな逃げるの早いな~。
獣娘達は広場に打たれた杭に鎖で繋がれているので逃げれないようだ。
とりあえず獣娘達の安全を確保しないと。何のためにデブ神官と揉めたのか分からなくなる。
鎖を引きちぎったら、流石に目立ちそうなので、杭をズボッと抜いてそのまま広場から連れ出していった。さほど力を込めたように見えなかった筈だから地面が緩かったと思ってくれるだろう。
「危ないから、さっさと避難して。鎖を外せないから3人一緒に丈夫そうな建物の影にでも隠れてるんだ」
「ムリ、にぇす」
猫人が、つかえながら恐る恐る言う。どうもウースに『この場所から動くな』と命令されているらしく逆らうと首輪がしまって死んでしまうらしい……。厄介な。
軍が到着するのを待つのは却下だな。前より戦力が落ちている上に、砲も運んでこれるだけの道幅がない。騎馬が助走する空間もない。魔法使いも激減している。
これじゃ到着を待っても悪戯に被害が増すだけだ。ゼナさんや三人娘をこんな所で散らせたくないしな。
仮面勇者に化けて、削れるだけ削ってから美中年神官の神聖魔法で止めを刺して貰う……で行くか。
腕悪魔がやっかいな事を始める前に『変身(笑)』だな。
「そこのキサマ。虫けらの分際で無視するとは、ワガハイ立腹!」
腕悪魔の方を向く。AR表示がウースから悪魔族に変わっている。名前も出ているが普通の文字ではなく発音記号が並んでいる。
完全にウースは飲み込まれたか。
腕悪魔を視界に入れたまま検索すると、獣娘達も『主人なし』に変わっている。
「キサマ、何者ダ? ワガハイ不快」
「とりあえず確認するが、あんたウースじゃなくて魔族だな?」
「ま、待ってくれ! 俺はウースだ! この腕を取ってくれ、死にたくない! 助けて!!」
あれ? 意識があるのか?
一瞬思考が空転した隙に、腕悪魔が毒爪を3本『発射』してきた!
「ムフフフッフ~。人間はこうやると同じ反応をするウ~。ワガハイ愉快痛快」
毒爪は手に持っていた鎖付きの杭で間一髪受け止めた。杭は見る見る変色してボロボロに砕け落ちる。
「うぬぬぬぬ、あれを受け止めルとは、ワガハイ驚愕!」
足元の聖石を拾う。これで削るか?
男の顎が狼男の変身シーンのようにぐぐっとせり出してくる。
変身完了前に石を顔に投げつけるが毒爪に弾かれる。
「フシュルルルル~。コレデ喋リやすクなた。ワガハイ感激♪」
こっちは聞き取り辛くなったぞ。
「■■■ 聖槍」
空気と化していた美中年神官から光の槍が飛ぶ。
「ワガハイ、笑止」
腕悪魔が一声吼えると闇色の障壁が生まれ光の槍の進路が反らされた。
やはり喋りやすくなっただけじゃなく魔法も使えるようになっていたか。
「みんな早く広場から離れろ! 攻撃魔法が来るぞ!!!」
必死に声を張り上げ、広場を覗き込んでいる民衆に伝える!
>「拡声スキルを得た」
「先程まデの騒ギ、恐怖、不安、偏見、傲慢、ジツに好ましい! ワガハイ満足」
オレは兎も角、このままだといずれ獣娘達が死んでしまう。
腕悪魔から一際大きく長い咆哮が轟く。
「故に、コノ地に我が巣穴を創ル。嬉シかロウ? ワガハイ勤労!」
獣娘達を担いで逃げるか? 目立つが仕方ないだろう。
結果的に、そんな心配は杞憂だったようだ、事態はもっと迅速に展開する。
足元の地面が昭和の特撮のように歪む。確かに硬い地面のままなのに、暗い紫色の光を放ちながら、ゆがみ、ねじれ、ひきのばされて行き……閃光が『黒く』染める。
◇
光が収まると、そこは洞窟のような場所だった。地面はそのままなのに、それ以外が剥き出しの岩肌になっている。半径10メートルほどの空間か、壁の一つに出口が見える。
床からうっすらと紫色の光が漏れているので何とか見える。
この場所にいるのは鎖を持ったままだった犬娘と猫娘、それと肩に担ぎ上げた状態だった蜥蜴娘だけだ。
近くにいたはずの腕悪魔や美中年神官は居ない。
「ワガハイの迷宮にヨウコソ。マダ名前はないガ、魔物ハ今から創っテやル感謝スルガよイ。ワガハイ、勤勉!」
どこかから腕悪魔の声がする。テレパシーとかでは無さそうだが?
犬娘が天井の一角を指差している。どうもそこにある風穴から声が聞こえているようだ。
「ワガハイの完全復活のタメ存分に恐怖シロ! 殺シあえ! 奪イ合うガいい。ワガハイ、奨励!」
少し間をおいてから腕悪魔の声が続く。
「諦念ハ魂ガすかスかになる、ワガハイ嫌悪」
「故に全てノ部屋は、出口ト我ノ居室へト繋ガルヨウニシタ。ワガハイ公平」
「希望の後ノ絶望を期待スル。ハゲメ餌ドモ! ワガハイ激励!」
……なるほど。
ゲームでいうところの強制イベント「迷宮からの脱出ミッション」発生!って感じか。
やれやれだ。
>称号「迷宮探索者」を得た
悪魔ははじめ普通の口調だったのですが、執筆中に再生していた番組の合間にKのCMが……。一人称がワガハイになってから悪魔の性格が変わってしまいました。もっとレトロでまじめ路線な悪魔だったんですよ? ホントだよ?
悪魔の口調が読みにくいですね……カナ使いは止めた方がいいかな?
悪魔が迷宮を作ったのは魔法や特殊能力ではなくアイテムの力です。このアイテムについては後の方の話で語られる予定です。
獣娘達がとっても空気ですが、実はワザとです。ホントですとも。
次回は獣娘のターンだ!
後悔シーンで下記のスキルを取得するはずですが、ちょっとアレなのでボツになりました。
>「うっかりスキルを得た」
>「忘却スキルを得た」
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。