第146話
昨晩の夜の三国志は、結局勝者無しで幕をおろした。
しかし、勝者は無くとも敗者はいる。
もちろん俺の事だが。
「体力は回復してるはずなんだけどなぁ」
魔力も体力も回復している。
では毎朝のこの疲労感はなんなのだろうか。
ステータスには無い値が減っているのだろうか。
魂の値が削られているのかもしれない。
昇天する。
なんて表現もあるのだしあながち間違いでは無いのだろう。
さて、気を取り直してゴブリン達と森へと向かう。
アイラからの情報のお陰で近くに最低でもモンスターの群れが2つ存在している事が分かっている。
真正面から叩き潰しても良いが、2つの群れを早々に狩り終えても今日は薬草採集チームの周辺を1日中警戒する予定だ。
出来るだけ楽をしたいと思うのが人情だろう。
とりあえず森に入ってすぐに発見した群れのモンスター達を観察することにした。
「『コークスコング』と『ボムオリーブ』?」
『コークスコング』は前回戦っているので問題ない。
初見の『ボムオリーブ』は自走する高さ2mほどの植物で30匹ほどの『コークスコング』の群れに6株ほどが存在していた。
種子に油分を大量に含んでいるようでリンゴほどの大きさの種子がかじられると歯型の部分から油が滲み出ていた。
名前から想像するにあの種子は『爆弾』なのだろう。
さらに観察を続けるとなぜか種子をかじった『コークスコング』達の動きが活発になってきているように思う。
どうやら、『ボムオリーブの種子』は『コークスコング』にとっての一種のパワーフードのようだ。
周りの『コークスコング』の中にはそれ以外の餌を食べている個体もいたので絶対に必要な食べ物という訳でもないのだろう。
昨日、俺達が出会った群れには『ボムオリーブ』は居なかった。
誰かに殺されたのか始めからいなかったのかは分からないが、あの『コークスコング』達は本来の力を発揮できていなかったと言うことか。
『コークスコング』の持つ【内燃機関】と言うスキルはこうして発動するのか。
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スキル
【内燃機関】
特定の素材を取り込む事で発動する。
ステータスを一時的に上昇させる。
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前回確認した時には特定の素材にフリガナなんて無かった。
認識した事で情報が追加されたのだろうか?
とにかく目の前の『コークスコング』は前回より手強いのは確かだろう。
観察を続けていると『コークスコング』同士での『ボムオリーブの種子』の取り合いが始まった。
すると既に『ボムオリーブの種子』を食べていた『コークスコング』の身体から白煙が上がり始め、徐々に鉱物質な肌が赤熱化していく。
「これが【内燃機関】の効果なのか?」
赤熱化した『コークスコング』があっという間にもう一匹の『コークスコング』を打ちのめし、再び『ボムオリーブの種子』をむさぼり始めた。
食事を続けると身体はさらに赤みを増して来た。
しばらくするとその個体は自然と『ボムオリーブ』から離れ他の『コークスコング』達に場所を譲った。
温度の上がりすぎた状態で『ボムオリーブの種子』に触れると種子が爆発する事を『コークスコング』達も知っているのだろう。
野生の動物は餌を取りすぎないと言うがモンスターでもそれは同じようだ。
かなり物騒な共生だと思うが。
種子を食べて赤熱化した『コークスコング』達も興奮が収まるとすぐに元の色に戻っていった。
【内燃機関】は『ボムオリーブの種子』を燃料にし『感情』を引き金にして発動しているようだ。
これは運良く、亜人達に被害が出ずに済んだ。と思うべきか。
それとも運悪く、このタイミングでこの群れと出会ってしまった。と思うべきか。
見極めるためにもあの群れを放置する事は出来ない。
俺達は『コークスコング』達の進行方向を確認して群れの後方に回り込む事にした。
すでに森に入っているミラ達『薬草採取チーム』の位置も確認しながら何かあった時の為にゴブリン隊の半分を採取チームと『コークスコング』の群れの中間地点に待機させておくことにした。
完全に油断している『コークスコング』の群れに背後から奇襲をかける。
前回の戦いをふまえて、ゴブリン達には剣ではなく棍棒やウォーハンマーのような打撃系の武器を準備しておいたのが役に立ちそうだ。
さらに、少しでも攻撃力をあげるために距離を取り十分に速度をつけて突進する。
「突撃!!」
「「「ギュギャァァァァーーー!!」」」
俺を先頭に雄叫びとともに『コークスコング』の群れに突進するゴブリン部隊。
思惑通り10匹ほどの『コークスコング』達を突進に巻き込みダメージを与える事に成功した。
更なる追撃のために俺達は『コークスコング』達を蹴散らし、まだ混乱が収まっていない群れに更に追い討ちをかけた。
「ゴァァァーー」
先ほど『ボムオリーブの種子』を食べていた個体が奇襲の混乱からいち早く立ち直り俺達の前に立ちはだかった。
身体は既に赤熱化している。両腕で拳を握り締め真正面からこちらの突撃を受け止めるつもりの様だ。
「左右へ展開して回避しろ!!アレは俺がやる。他のモンスターも出来るだけ生け捕りにしろ」
「ギャギャ!!」
ゴブリン達が敬礼を返してくる。冗談で教えた敬礼だったが、今では完全に定着しているようだ。
見事に目の前の『コークスコング』だけを回避し、その後ろで右往左往している別のモンスター達に狙いを定めていく。
「『ボムオリーブ』だけは注意しろ!!どんな攻撃をするか分からないぞ!!」
俺の助言が聞こえたのか分からないが、ゴブリン達は自分達より身体の大きい『コークスコング』達に一歩も怯まず縄と連携を頼りにして生け捕りを行っている。
もちろん、全てを捕まえる事は難しい。
今も縄で身動きが取れなくなっている仲間を救おうとしていた『コークスコング』を数匹で取り囲んで撲殺したところだ。
『ボムオリーブ』も種子にさえ気を付ければそれほど素早い動きはできないようだ。
どうやら『コークスコング』が種子を投げつける役割も担っていたらしく、先に『コークスコング』に狙いを定めたのが良かったようだ。
「ゴァ、ゴァーー」
仲間が酷い目に合うのを見て俺の目の前にいる『赤熱コークスコング』がさらに赤みを増していった。
「あつっ!?」
近くにいるだけで熱気でむせてしまいそうになる。
それほどの熱量を奴は持っているようだ。
じりじりと焼けた空気を吸い込んでしまい、一瞬『赤熱コークスコング』から視線を外してしまう。
その隙を突かれて殴りかかってくる『赤熱コークスコング』。
「しまっ、た!?」
なんとか両腕でガードするが触れた部分から煙が上がる。
「ぐぅぅっ」
すぐに【水魔法】で水を生み出し両腕を包み込み保護する。
そのまま水の粘度を調節して『赤熱コークスコング』を捕らえようと水を操作するが、水が『赤熱コークスコング』に触れた端から蒸発して行ってしまう。
本当に恐ろしい熱量だ。
しかし、効果はあったようで『赤熱コークスコング』が慌てて拳を引いて俺から距離を取った。
粘液が触れた部分が黒ずんでおり、よく見れば無数の小さな亀裂が走っている。
急激な温度変化に耐えられずに表面が脆くなっているようだ。あれでは強い力で殴れば自分の腕が砕けてしまうだろう。
『赤熱コークスコング』が様子をうかがっている隙に両腕に意識して魔力を集めて傷の回復を速める。
「ふぅ、炭火焼きになる所だった」
実際、周辺にはさっきまで焦げた肉の匂いが漂っていた。
しっかりと回復が済んでいるかを確認する為に手を握ったり開いたりして感触を確かめる。
どうやら問題なく動くようなので『赤熱コークスコング』の方を確認すると、奴も両手をしきりに動かして確認していた。
動かすたびにボロボロとコークスが落ちるが、どうやらあちらも問題なく拳を使えるようだ。
それでは、戦闘の再開。と、なりそうだったので先手を打たせてもらった。
『赤熱コークスコング』が再びこちらに突っ込んで来た所に合わせて【土魔法】で足元の土を操作し段差を作り『赤熱コークスコング』の体勢を崩す。
「ゴァァーー!?」
派手に転んで体勢を崩している『赤熱コークスコング』に目掛けて【水魔法】で水をぶっかける。
まるで大きな犬をシャワーで洗っているようだ。
水をかけられる事で大量の水蒸気が発生し、徐々に『赤熱コークスコング』の身体が冷やされていく。
「ゴォォォォ」
体の温度に感情も引っ張られるのか、目に見えて大人しくなっていく『赤熱コークスコング』。
せっかくなのでこのまま仲間に加えることにする。
思いのほか『コークスコング』の支配に時間がかかったが10匹程の『コークスコング』と3株の『ボムオリーブ』を支配下に置くことができた。
「よし。ゴブリン2、3匹で『コークスコング』達を先導してジルに合流してくれ。残りの奴らでもう一つの群れを片付けるぞ」
『コークスコング』と『ボムオリーブ』を戦力として数えても良いのだが、奴らには別の使い道もありそうなので今回はやめておく事にした。
もうひとつの群れも『コークスコング』と『ボムオリーブ』だったので今度は『コークスコング』を全て片付けて『ボムオリーブ』だけを支配していくことにした。
これで周辺の森に大きな驚異は無いはずだ。周辺警戒をゴブリン達に任せて俺は薬草採取のチームに合流することにした。
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