第143話
ボーデン達は、襲ってきた『コークスコング』の群れを良く押さえてくれていた。
けして積極的に攻勢には出ずに『コークスコング』を引き付けている。
『『コークスコング』に矢での攻撃は効果が薄いようじゃ。象獣人の大槌は有効なようじゃな』
すぐにジルから敵モンスターの情報が入る。
鉱物の様に硬い外皮を持つ『コークスコング』には矢が突き刺さらないようだ。
「これは、少しミスったかな?」
俺が率いている部隊のメンバーの装備はショートソードだ。
ショートソードでは『コークスコング』に有効な攻撃を与えることができないかもしれない。
心配は的中し、獣人たちの攻撃は『コークスコング』の外皮のをわずかに削るだけだった。
何人かの獣人達は果敢に攻め続けるが殆どは攻めあぐねている。
「ゴァァァ!!」
「ひぃーー」
対して、『コークスコング』の一撃は岩を砕くほどの威力を見せ、獣人部隊の恐怖をさらに助長する。
「助けに入りましょうか?」
俺と共に部隊のお守り役をしていた吸血鬼の男が前に出ようとする。
『コークスコング』達もすでに後ろからの奇襲による動揺から立ち直りつつある。
彼と2人でなら目の前の『コークスコング』達を仕留めるのは難しくは無いはずだ。
「今、部隊の連中が相手にしている個体は残しておけ。最後まで戦わせてやろう」
「かしこまりました」
「まだ戦闘に参加していない奴らは排除しよう」
「はい!!」
吸血鬼の冒険者と共に駆け出し、手近にいた『コークスコング』に狙いを定めた。
「ゴァ、ゴアーーー!!」
こちらの接近に気がついたようで、腕を振り上げて威嚇してくる『コークスコング』。
俺たちは威嚇を無視して真正面から突っ込む。
「はっ!!」
俺にやや遅れた形で走る吸血鬼の男が急に飛び上がり『コークスコング』の注意を自分に向ける。
俺は、その隙を着いて走り抜けざまに『コークスコング』の目を切り裂いた。
「グゥィィーー!!」
目をおさえて痛みにのたうち回る『コークスコング』の大きく開いた口に刀を突き刺す。
「お見事です」
「いや、お前が援護してくれたからだ」
ざわ、ざわ、と周りの空気が変わる。
未だ誰も『コークスコング』に致命傷を与えられていなかった様で俺達があっという間に一体倒してしまったのが信じられないのだろう。
「奴らは確かに硬いが対処法はある。まずは目を狙え!!」
「「お、おおぉぉぉーーー!!」」
勢いを取り戻した獣人達は先ほどにも増して『コークスコング』に接近する様になる。
目を狙う。口を狙うもの。関節を狙う者など、俺の真似だけではなく工夫を感じさせる戦闘だ。
「1人で戦うな!!一撃で倒すことが出来なくても、それが仲間の攻撃に繋がればいつか倒せる」
今言われただけでは流石に無理だろうが、苦楽を共にした相手には自ずと親近感が湧くものだ。
『戦場で兵士が戦う理由』の最たるものは『仲間の為』だと、何かで目にしたことがある。
この経験が仲間との親近感に繋がれば良いのだが。
徐々にではあるが戦況がこちらに傾いてきた。
ヴェルゴードの部隊も見える位置に近づいて来ている。
「ありゃ、ヴェルゴードが全部倒してるな」
「は、はい。そのようです」
ヴェルゴードが先頭を走り、迫り来る敵をなぎ払っている。
戦闘前の話し合いで、出来るだけ獣人たちに戦闘を任せるように言っておいたのだが。
まあ今回は戦闘の空気だけでも感じてくれていればいいか。
新天地となる場所は、森に隣接しているので定期的にモンスターと戦闘になるはずだ。
彼らは嫌でもたくましくなるだろう。
「あっ、冒険者さ~ん」
ボーデンが俺を見つけて手を振ってくる。
かなり落ち着いたとは言えまだ戦闘中なのだが、
肝が座っているのか、ただの阿呆なのか。
とは言え彼の着ている金属鎧も盾も沢山の凹みや変形がある。
それだけ彼が『コークスコング』の攻撃を受け止めてくれていたという事だろう。
「オラ、頑張っただよぉ。モンスターも3体倒したんだぁ!!」
びっくりしてボーデン達を率いていた吸血鬼の男性に顔を向ける。
彼は苦笑しながら首を縦に振っている。
「あいつら、ちょっと力は強いけど『大槌』で殴ったら吹っ飛んでいっただ」
さすが、冒険者さんの武器はすごいっすねぇ。などと武器を褒めるが、彼に渡した『大槌』はただの金属の塊だ。
『コークスコング』が吹っ飛んだのはボーデンの腕力があっての事だろう。
「気に入ったなら、『大槌』はお前にやるよ」
「本当けぇ!?オラもっとがんばるだぁ」
嬉しそうに『大槌』を持ってはしゃぐボーデンを横目に被害状況を確認する。
軽傷者 13名。
中傷者 4名。
重傷者 0名。
死傷者 0名。
なんとか、犠牲を出さずに済んだようだ。
「ジル。戦闘が終わった。ゴブリンヒーラー達を寄越してくれ」
『ふむ、分かった。ついでに周辺も警戒しておくかのぅ』
「助かるよ、頼む」
本当なら俺たちがすべきなのだろうが今回は甘えることにする。
しばらくして、『巫女』とゴブリンヒーラー達がやって来て負傷者の手当を始めた。
『天龍の巫女』になった時に【回復魔法】が使える様になった彼女たちはますます『聖女』の様な雰囲気を持つようになっていた。
「巫女様ぁ、こんな所まで来たら危ないですよ」
「大丈夫です。皆さんが守ってくれるでしょう?」
「も、もちろんです」
その様子を見ながらある事を思い出す。
「そうか、『医者』がいないのか」
そう、ブレトにもウェフベルクにも病院というものが無かった。
治療は『教会』の仕事で、寄進出来なければ治療も受けられない。
つまり、『医者』がいないということではないだろうか?
しかし、
「えっ!?いるじゃないですか、デトク先生が?」
俺の部隊にいた猫獣人が不思議そうにこちらを見てくる。
「デトク先生?」
いたのか、『医者』が。
「『亜人街』唯一のお医者様、デトク先生ですよ。どこか悪いんですか?戻ったら紹介しましょうか?」
「ああ、頼む」
「はい。とってもいい先生ですからきっと冒険者さんの病気も治りますよ」
そう言われてはっとした。怪我なら【回復魔法】で治るが、【病気】系の状態異常によって引き起こされた現象は消えない。
例えば、【風邪】になれば体力を消耗する、【内臓疾患】に長年気がつかなければ変質した細胞を治すのは別の魔法や薬に頼る必要がある。
つまり、怪我の治療では劣るが、病気の治療には『医者』や『薬』の出番があるという事だ。
「じゃあ、なんで『病院』がないんだ?」
「『病院』?よく分かりませんが、お医者様ってのは患者の家を回るものですよ?」
訪問医と言うことか。
とにかく一度会って話を聞いてみよう。
俺は、獣人達の治療を眺めながらこれからの予定を立てるのだった。
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