■カメラ目線を意図的に避ける
撮影会場でふと周囲を見渡すと、望遠レンズを駆使する人ばかり。モデルの周辺に大勢のカメラマンが集まるため、ある程度離れた距離から撮影するアップ写真になりがちのようだ。なかには重さ約4キロある超望遠レンズだけを使いカメラマンの輪のさらに遠くから撮影する参加者もいた。
さて何枚か撮影した後で見直したところ、モデルがカメラのほうを見ている「カメラ目線」の構図の写真の出来が今ひとつに思えた。ポートレート写真は時代の流行とともにあるものだが、現代では自然な雰囲気が好まれることもあり、「ソフトフォーカス写真」や「カメラ目線写真」は、少しわざとらしく見えてしまうようだ。
これを解消するためには、連日、芸能人から国会議員まで様々な人物を取材する報道カメラマンがインタビュー撮影の際に使うコツが参考になるかもしれない。
例えばインタビュー相手に、同行した記者と軽い話題で雑談してもらうように頼み、自然な笑顔が出てくるまでカメラを構えて待ったり、普段と違う動作(天を仰いだり、ふと横を見た瞬間など)を狙ったりする撮影方法だ。
いずれも「誰が撮影しても同じになる写真は避けよう」という信念が基本にある。モデルに限らず、家族写真でも「カメラ目線」を意図的に避けることで、少し違った雰囲気の写真が撮影できるはずだ。
■画面長押しでシルエットに
夕暮れが近づき、撮影会も佳境。海岸近くで撮影していたところ、海面が反射してキラキラと輝き始めた……シャッターチャンスの予感。しかし撮影中のほかのカメラマンを邪魔するわけにもいかず、なかなか思い通りの構図にならない。思い切って集団から離れ、近くの階段の上からiPhoneを構えてみたところ、きらめく海面とモデルのシルエットが重なった。
シルエット写真は、iPhoneの画面上で、明るい背景部分を長押しすることで、露出が明るい背景部分に合わせて固定(AEロック)され撮影可能となる。人物写真は、顔がはっきりと判別できるように撮影するのが一般的だが、シルエット写真のように、後ろ姿や身体の一部分、影などが、その人物を十分に表現することもある。
撮影会は無事終わったものの、iPhoneだけで一眼レフでの撮影に肉薄できたかどうかは、自分としても微妙だ。全東京写真連盟の川上秀男会長にそう打ち明けたところ「毎回、撮影会の写真によるコンテストがあるので、応募してみてください」とのことだった。
今回の撮影会で大勢のカメラマンが1人のモデルに殺到する様子は、同業他社のカメラマンが集結する重大会見の現場などをほうふつとさせる。ライバルのカメラマンよりも優れた写真を撮影するために必要なのは、鋭い洞察力と、多様な写真を撮影できる「引き出し」の多さだ。
「金太郎アメだな、コレ」。新人時代、撮影したネガをチェックしてくれた教育係の先輩がつぶやいた。「金太郎アメ」とは構図や露出などが同じで、どのコマを選んでも変わらないワンパターンな写真のこと。取材の度に「とにかく引き出しを多くしろ」と口酸っぱく言われた当時の記憶が、ふとよみがえった。
(写真部 小林健・寺沢将幸)
米アップルのスマホ「iPhone5」のカメラ機能は8メガピクセル。この画素数は2004年のアテネ五輪で世界中のプロカメラマンが使用した当時の最新型一眼レフとほぼ同じ。ならば報道カメラマンの経験と技術でiPhoneは取材現場でも使えるのでは――。そんな発想で始めた企画「iPhone×Press Photo」。日経写真部のカメラマン2人が一眼レフの代わりにiPhoneを手に現場を巡り、関連機材やアプリケーションを使いながら新たな写真表現を探る。日経写真部は公式ツイッター@nikkeiphotoで【iPhonegraph】としてiPhone写真を掲載。「iPhone×Press Photo」では野球編、ラグビー編などiPhoneで撮影した写真特集を連載中。
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