ここから本文です

ドワンゴ川上会長に聞く、ニコ動成功の理由と、社会を不幸にするネット世論のおかしな構造

Business Journal 11月11日(月)6時11分配信

写真を拡大 写真を拡大

ドワンゴ川上会長に聞く、ニコ動成功の理由と、社会を不幸にするネット世論のおかしな構造

写真を縮小 写真を縮小

ドワンゴ川上会長に聞く、ニコ動成功の理由と、社会を不幸にするネット世論のおかしな構造
ドワンゴ会長の川上量生氏(撮影=西村康/SOLTEC)

 動画共有サイト「ニコニコ動画」をはじめ、ブログとメルマガを融合させた「ブロマガ」、音楽配信サービス「dwango.jp」などインターネット上で多彩なエンタテインメントサービスを提供するほか、今年4月開催時には2日間で10万人以上の来場者を動員し話題を呼んだ「ニコニコ超会議」などのリアルな領域でもビジネスを展開するドワンゴ。

 そのドワンゴ創業者で現在会長を務める川上量生氏が、対談本以外では自身初となる書籍『ルールを変える思考法』(角川EPUB選書)を10月に上梓し、早くも話題を呼んでいる。

 今回は川上氏に、

「ソーシャルメディアへの誤解」
「ニコニコ動画成功の要因とは?」
「おかしな方向に向かうネット世論は、人々を不幸にする」
「ネット炎上のメカニズム」
「ドワンゴの今後の新たな展開について」

などについて聞いた。

--『ルールを変える思考法』の無料の電子限定版に掲載されている、株式会社麻生の社長でドワンゴ社外取締役の麻生巌氏と川上さんの対談は、もともとゲーム情報サイト・4Gamer.netに掲載の予定でしたが、同サイトには載せられなかったと聞きました。なぜ掲載できなかったのですか?

川上量生氏(以下、川上) 「政治的なことは扱わない」というのが理由だったんですね。「中国が将来的に沖縄を狙ってくる」というようなニュアンスのことを麻生さんが言われて、そういう内容は掲載できないということですが、僕は問題ないかなと思っています。「政治的なこと」というのであれば、第三次世界大戦をテーマにしたゲームなどたくさんありますし、それらは全部ダメになりますね。対談当時(2012年12月)は確かに沖縄について中国が何か言ってくるというような話はなかったのですので、刺激的だったのかもしれませんが、その後の展開【編註:今年5月、中国共産党の機関誌・人民日報に「沖縄の領土帰属問題は未解決である」という論文が掲載され、日中間で問題となった】を考えると、出しておけばよかったと思います。

--問題視された箇所だけを削って掲載するという選択肢は、なかったのですか?

川上 麻生さんの発言は、政治的な意図のないもので、「沖縄が地政学的にそういう場所にあるから、沖縄の不動産を買うというのはビジネス的に成立するのではないか」という内容です。対談のテーマとして「中国が沖縄を狙っている」ということを言いたいものではないので、政治的な発言として問題視された部分は、対談の本筋でもないわけです。また、対談の一つのテーマである「長期的な視野で戦略を立てる」という内容の事例が、問題視された箇所しかなかったので、「そこが消えるともったいなさすぎるだろう」ということで、掲載は見送らざるを得ませんでした。

●ソーシャルメディアへの誤解

--『ルールを変える思考法』は、その4Gamer.netで掲載されていた川上さんの連載記事が骨格となっていますが、ドワンゴが手掛けられているインターネット・サービスにおけるルールを考える上で、まずお聞きしたいのですが、川上さんはソーシャルメディアについて「進化した口コミ」と定義されていますが、どういう意味でしょうか?

川上 従来、口コミというのは、発言した人の声が聞こえる範囲に存在する特定の人にしか届きませんでした。ところが、ITの進化によって、電子メール、LINE、もしくはFacebookのような、いわゆるソーシャルメディアを介して、声が聞こえる範囲に存在しない人にも、口コミが伝搬するようになりました。一方で、マスメディアというのは1対N、つまり発言者の声を不特定多数の人に届けるものです。ソーシャルメディアは声の大きな口コミですが、マスメディアとは本質的に違うものです。

 しかし、ソーシャルメディアについて語る時に、「これからはソーシャルメディアの時代だ」というように、「ソーシャルメディアが従来のマスメディアを代替するもの」という文脈で話をする人が多いのですが、それは間違いだと思います。

--「ネット上の口コミは、マスメディアとは違い、人々が伝えたいから伝わるのでウソがない」という考え方には危険があるともおっしゃっていますね。

川上 まず、口コミのほうがウソは確実に多いと思いますが、それはおいといて、僕が言っているのはプロモーションの手段として口コミを利用することは、そんなに簡単じゃないということです。今のネット上の口コミは、「口コミをしてくれたらお金を払います」というかたちで行われているケースもあり、それはステマ(ステルスマーケティング)として批判されているやり方ですよね。つまり、お金を払って情報を伝搬させるというやり方です。

 そうした口コミで広がるものは、美容品や健康器具のように単価が高くて利幅の大きいものです。その利幅を流通する人に分配することで売る、というのがネットワークビジネスで、普通の商品はそういうことをやりません。例えば、任天堂の商品をネットワークビジネスで売りますか? という話ですよ。つまり、ネットを介して口コミを行うようになったからといって、ソーシャルメディアにそういう売り方が成立することはないと思います。少なくとも、プロモーションの方法として、マスメディアがソーシャルメディアに取って代わられるという考え方には誤解があると思っています。

 ただ、どうしてマスプロモーションするのかというと、それは話題を喚起するためですよね。ソーシャルメディアでも、そういう口コミが起こって話題が喚起されるためには、マスプロモーションを活用することは必要だと思います。

●わけのわからないニコニコ動画

--話題を喚起し、どんどん伝搬していくという観点で言うと、ドワンゴが運営するニコニコ動画もその性格を帯びていると思いますが、そもそもニコニコ動画を始められたきっかけはなんですか?

川上 ニコニコ動画については、結果として当初のイメージと少し違ったかたちとなりました。『ルールを変える思考法』の本文中にも書いたのですが、ニコニコ動画は、結果的に「動画」で勝負することになったものの、当初は「生放送のサービスをやりたい」と考えてスタートした企画だったのです。動画共有サービスの分野ではすでにYouTubeがサービスを確立させていましたので。試行錯誤を繰り返している中で、現在の方向性に落ち着いたわけです。

--ニコニコ動画が多くのユーザーの支持を獲得している理由として、「わかりそうで、わからないもの、わけがわかりにくそうな部分を持っている点」を挙げていらっしゃいますが、サービスが成功するためには、「わけがわかりにくそうな部分」が必要だということでしょうか?

川上 これも本で触れているのですが、僕は「コンテンツとは、わかりそうでわからないものである」と定義しています。そうすると、「わかりそうで、わからないもの」であろうとすること自体が、コンテンツの目的にもなり得るということです。

 ニコニコ動画の運営方針が、大会議、ニコファーレ、超会議と、ユーザーからみても「わけがわからない」と批判されることも多かったのですが、僕らはわけのわからなさそのものに価値を置いていた部分もあったのです。

 今の大ヒット作品というのは、基本的にわからないものですよね。村上春樹さんの小説にしても、スタジオジブリの作品にしても、決してわかりやすいとは言えない。わかりやすいものは大ヒットしないとも言えるのではないでしょうか。

--ニコニコ動画の立ち上げ当時、ここまで爆発的にユーザーが広がるということは、ある程度想定されていたのですか?

川上 1〜2年はかかるだろうと思っていたところまで、1カ月で達してしまい、あっという間に軌道に乗りました。想像以上にインターネットが社会に広がり、かつインターネットの進化のスピードが速くなっていたためです。これが、「面白いものはすぐはやる」というインタ―ネットの特性です。

●いい方向に向かっていないネット世論

--そうした社会へのインターネットの広がりにより、ネット世論といわれるものが社会を動かすケースも増えています。川上さんは「ネット世論は、あまりいい方向に向かっていない」と指摘されていますが、なぜそのようにお考えなのでしょうか?

川上 ネット世論が世の中を動かすという流れにだんだんなってきていますが、それはあまりいいことではないと思います。実際、世間の思いとは裏腹に、インターネットは世の中をよくする方向には向かっていません。

 例えば、あるプロ野球球団が試合に負けた時、「監督の采配が悪い」などとさまざまなメディアに叩かれます。そして、その球団のファンも怒り、「俺が監督をやったほうがうまくいく」と思うわけですが、冷静になって考えてみれば、そんなはずがないことは、誰でもわかるはずです。

 原発問題などの社会問題についても同じ構造が見られます。誰もが「自分が考えていることが正しい」と思い、「すぐに稼働を止めなければいけない」「いや、止めるべきではない」「自分の主張が正しいのに、どうしてほかのみんなはわからないのか?」とネット上で主張する。現在のネット世論はそういう状態にあります。

 つまり、ネットユーザーが求めていることは、プロの存在を否定して、「素人が運営する国」であり、これはどう考えても最悪の国、最悪な社会体制ですよね。誤解を恐れずに言えば、プロが全部決めて密室でやったほうがいいに決まっています。でも、密室だと信用できないから、公開=透明化して、世論で社会を動かそうとしているわけですが、それではただの欲望で社会を動かすことにほかなりません。「消費税は上げるな。なぜなら上げてほしくないから」。極論すれば、そういう理由ですべてが決まっていくわけです。

 腐敗防止と監視のための透明性は、チェック機能としてはある程度必要だと思いますが、細かいことまでみんなの意見を聞かなければ決定できないというのは、社会体制としては間違っています。本当に腐敗がある部分もあるかもしれませんが、日本は世界の中でも腐敗が少ない国で、大半のことはきちんと決められています。しかし、透明化圧力が増すことで、ネット世論がよりおかしな方向に進んでいくということが、今起こっているわけです。

--つまり、プロが意思決定する部分とネット上の世論が、バランスよく共存する必要があるということでしょうか?

川上 共存はしないと思います。専門家の間で透明性のある議論をすることは大事だと思います。でもそれはそういう組織、あるいは場をつくればいいのであって、社会全体に広げることにどれだけの意味があるでしょうか? 社会全体に広げるというのであれば、どの部分をチェックするのか、もう少し明確にしなければいけません。

 われわれ一人ひとりがあらゆることを学習し、日本の意思決定に全員が関わるというのはおかしいし、社会的な分業をしたほうがいい。実際みんな職業を持っているわけですよね。社会はもともと分業しているのに、一部で民主主義という名の下に、分業したものに対して全員が指図するという構造はおかしいですし、不幸なことです。

 最近、ニコニコ生放送でも将棋対局の生中継に力を入れていますが、例えば人間対コンピュータの対戦などで、人間側の次の一手を視聴者アンケートで決めるよりも、羽生善治さんにすべてを決めたもらったほうが絶対強いですよね。

--つまり、素人が何人集まってもプロには勝てないと。

川上 素人は、簡単な理屈、わかりやすい説明、それだけで判断してしまいます。まず「自分は判断できる」という誤解を解くべきです。繰り返しになりますが、「俺が監督をやったほうがうまくいく」というモードになることは、すごく危険であり、そのことにみなさんがもっと意識を向けるべきです。

「ネット上でみんなの意見を聞くことが正義だ」という勘違いは不幸なことです。プロ野球の試合で、ファン投票を経ないとスターティングメンバーを決められないという事態は、プロ野球にとって幸せなことでしょうか?

●ネット炎上の構造

--ネット世論が時として過熱して“炎上”という現象が起こることがありますが、その発生メカニズムについて川上さんはどのようにお考えですか?

川上 まず、ネットで炎上事件を起こしているのはどういうような人たちかということを、理解する必要があります。わかりやすい表現で言うと、現実社会に居場所のない人、社会からはみ出した人です。居場所のないことに対する憤り、恨み、ねたみを強く持つ人たちが、突然ネットという武器を持ったのです。そういう人たちが、「炎上する事件」「炎上しない事件」を決めているのです。

 彼らにとっては、「今までは自分は社会的に下の位置だったのが、ネット中心の世界では自分たちが上のヒエラルキーになった」という、まさに人生の逆転なのです。

--最後に、そんなネット関連のビジネスを広く展開するドワンゴが、今後どのようなビジネスを展開しようとしているのか教えてください。

川上 やはり、まだ誰もやっていないことがいいですよね。もしくは、みんなやろうとしているけれども、誰も成功していない。そういうものがいいですね。

 実は僕は、「ビジネスを成功させたい」という思いは、あまり持っていません。ニコニコ動画をつくった時もそうなのですが、何かの目標に向かってやるのではなくて、「成功するモデルというものをつくりたい」という欲望に基づいて行動しています。世の中をあっと言わせる、今までこういう展開はなかった、こういう展開は想像していなかったというようなことをやりたい。まさに愉快犯なのです。だから、「ITで世の中の人を幸せにする」などとは、まったく考えていません。

 IT業界で、「普通であればこういう方向に流れていくな」という時に、「こういうことをやればその流れの向きが変わる」ということを見つけて、変わったということをやりたいわけです。どちらに変わるのかは、どうでもいいことなのです。そこにこだわりはありません。

--ありがとうございました。

編集部

最終更新:11月12日(火)0時11分

Business Journal

 

PR

注目の情報


他のランキングを見る

PR