くらし☆解説 「年金未納対策を急げ」2013年11月21日 (木) 

藤野 優子  解説委員

くらし☆解説。きょうのテーマは、「年金未納対策を急げ」です。
国民年金保険料の納付率の低下が問題となっている中で、政府は、未納者への徴収対策の強化を検討しています。藤野解説委員に聞きます。
 
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Q1 国民年金の保険料の納付率というのは、どのくらいなのか。
 

A 昨年度の国民年金の納付率は昨年度59%。全体の4割が未納の状態。
払っていない理由は、「払った保険料分の年金を将来受け取れないのでは」とか、「経済的に払える余裕がない」、「免除の対象になっている」など、いろんな理由があると思うが、問題は、先々、無年金・低年金になってしまう人たちが増える可能性があること。将来、無年金・低年金になる可能性がある人は、厚生労働省の推計ではすでに100万人を超えていると見られていて、そうした人たちをどのように減らすかが課題になっている。
 
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Q2 こうした人たちが、このままだとどうなるのか。

A そうなると、将来、生活保護を受けることになって、その費用は、税金で負担することになるので、国民の負担がさらに膨らむことになりかねない。
 
Q3 それで、どんな対策が検討されているのか?

A ひとつは、滞納者への督促や強制徴収の範囲を拡大するかどうかということ。
 
Q4今はどうなっているのか。
 
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A 今、滞納者にどんな呼びかけが行われているかを説明すると、期限までに保険料を払っていない人には、文書や電話で、保険料を納めるよう「納付督励」・よびかけが行われる。
そして、支払い期限が近くなってきても支払わない人に対しては、「特別催告状」が送られ、このままだと強制的な処分をすることになるよ、と警告が伝えられる。
それでも、支払われない場合は、「最終催告状」が送られて、指定の期限までに保険料を払わない場合は強制徴収を行うことになりましたと伝えられる。最終の警告。
そして、最後に「督促状」が送られて、それでも払わない場合は、強制徴収となり、預貯金などの財産が差し押さえられる。

Q5 一律に強制徴収されるのか?

A いや、強制徴収となると人手が必要になるので、今は、まず、本人もしくは配偶者の手取りの年間所得が400万円を超えていて、滞納期間が長い人から、順に強制徴収されている。
 
Q6 どのくらいが対象になっているのか。

A 今は、滞納された保険料の0.2%。
 
Q7 たった0.2%ですか?

A そう。経費がかかるとか、人手が足りないなどの理由もあるが、これには、国民年金の成り立ちが影響している。
国民年金というのは、制度が始まった当時は任意加入、つまり、払いたくない人は払わなくてもいい仕組みだったので、「保険料は自主的に納めるもの」という考え方が続いてきた。このため、これまでは、未納者に対しての督促はあまり行われてこなかった。
 ところが今、法律上、国民年金の保険料を納めることは義務、つまり「国民皆年金」となっている。
 それで、今の議論では、もっと早い段階で、督促状を送ってはどうか、という意見が出ている。
そして、さらに一歩進んで、延滞金も、もっと対象を広げるべきではないかという議論も出ている。
 
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Q8 延滞金もかけるのですか?

A 今は、督促状が送られた人に、年に14.6%の延滞金がかかる。
1年間滞納していた場合、1800円くらいの延滞金が課せられるようになっている。
これを、もっと早い段階で、延滞金を求めてはどうか、という案も出ている。
 
Q9 どうしてですか?

A 支払いを呼び掛けたり、督促したりするのにも、コストがかかる。おおまかに言うと、国民年金の保険料を100円集めるのに、90円のコストがかかっているのが現状。今は、まじめに納めた人の保険料から、その費用が出ているが、それも滞納者に負担してもらうべきではないかという意見が出ている。
 
Q10 でも、延滞金までかけると、もっと保険料を払えない人もいるのでは?

A たしかに、国民年金は低所得の人や無職の人も多い。そういう人については、今も保険料を免除する仕組みがあるし、分割払いを相談することもできる。
また、今の議論の中でも、市町村からの所得情報で確認した上で、年金事務所の職員が職権で免除手続きをしてはどうか、という案も出ている。
 
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Q11 それで、こうした未納者対策の案は実現するのか?

A いや、まだ議論が続いている。
 
Q12 どうしてですか?

A 今、具体策を話し合っている厚生労働省の専門委員会では、延滞金などの強制的な措置の対象を大幅に増やす前に、まだやるべきことがある、という意見が相次いでいる。
 
Q13 例えばどういうことか?

A 例えば、納付の呼びかけを徹底させたり、所得のある人への督促を増やしたり。そのための人手を増やしたり、といったこと。
また、保険料を年金事務所だけで集めるのではなくて、より身近な市町村に業務委託をしてはどうかという意見や、年金教育の強化を求める声もある。
 こうした意見が出てくる背景には、今の年金制度というのは、あくまでも「保険」だという考え方がある。つまり、保険料を自主的に納めた者が、将来年金を受け取るというものなので、強制的な措置はあまりなじまないという考え方。
 
Q14 それで、結局、年金の未納問題というのは改善するのか?

A 所得が一定以上ある人への督促や強制徴収が今より増えてくれば、納付率はあがってくるとは思う。しかし、納付率が低下している一番の原因は、やはり、今の年金制度が将来持たなくなるのではないか、という不信感が強いこと。
民主党は、今の制度を大きく変えようと言っていたが、今の政府・与党は、制度を大きく変えずに、今の年金制度の手直しで対応していくと言っている。それならば、将来の無年金・低年金者を減らすために、この未納者への対策を急いで取り組む必要があるし、制度への信頼が回復できるような十分な説明、努力をもっと急がなければならないと思う。