卓上四季
兵士であること
「知る権利」を遠ざける法案が衆院を通過したのと同じ日、本紙夕刊に「自衛隊 採用で苦戦」という記事が載った。防衛力強化で採用数を増やしたいが、入隊希望者が足りないと報じていた▼「アベノミクスで業績回復した企業に学生が流れている」。自衛隊幹部は民間との人材争奪合戦を原因にあげていた。なるほど、そういうことかもしれない。が、本当にそれだけが理由なのか。これからもそうなのか―▼歴史学者鹿野政直さんは「兵士であること」(朝日選書)で日中戦争時の戦死の様態を紹介している。一番多いのが「頭部貫通銃創」。弾は鉄かぶとを貫いた。「胸部」「腹部」と続く。特に腹部を撃たれると腹中に血や尿があふれ苦しんだという▼戦場によっては病気や飢えに倒れた。戦争の「美学」ではなく「実学」を知る。英雄譚(たん)ではなく兵士がいた前線を想像する。それなくして戦争は語れない、と鹿野さんは説く▼機密の壁を築いた後に、安倍政権は集団的自衛権行使を可能にし、同盟国と一緒に戦う国を目指すだろう。それは、どこか遠い所で銃弾に貫かれる覚悟を自衛官に強いることでもある。隊で得た資格を生かして、穏やかに家族と暮らす。そんな人生設計は打ち砕かれる▼<戦争が廊下の奥に立つてゐた>(渡辺白泉)。治安維持法違反で検挙された俳人の見た影がまた半歩、いや一歩近づいた。2013・11・28
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