日本政府、「クール・ジャパン」の売り込み方を模索
ウォール・ストリート・ジャーナル 11月26日(火)11時32分配信
【東京】日本が戦後の高度経済成長の全盛期にあった頃、強力な権限を持っていた通商産業省(当時)が自動車や半導体の輸出を後押ししたことは有名だ。日本はいま、21世紀の脱工業化社会型の復活を目指しており、政府は25日、日本文化の世界的な普及を後押しする新プロジェクト「海外需要開拓支援機構(クール・ジャパン推進機構)」を立ち上げる。アニメやファッションから、もっと広い概念である「日本のおもてなし」の心に至るまで、さまざまな日本文化の普及を狙う。
この「クール・ジャパン推進機構」は、政府資料にあるように「日本の魅力ある商品やサービスを世界規模で普及させ」、「日本の経済成長の原動力にする」という壮大な野心を支援するものだが、予算は控えめだ。まず、経済産業省が来年3月末までに約500億円を出資、証券会社、広告代理店、それに航空会社などから成る幅広い企業連合が100億円を出資する。
その意図はこうだ。「ハローキティ」や「ポケモン」は今後、巨大になり得る文化産業輸出の最前線にあるが、トヨタやソニーのような旧来の企業とは違い、有望な商品を持つのに世界市場に参入できる力を持つ企業が少なくない。「こういった企業は中小企業である傾向があり、進出のための資金や経験がないため、それが大きな課題になっている」と、経産省クリエイティブ産業課(生活文化創造産業課)の伊吹英明課長は語る。
伊吹課長によれば、同省は既に、支援を求める企業から約90件の提案を受け取っている。その1社が緑茶やアイスクリームを販売する前田園だ。20年前に「本物の」抹茶アイスを生み出したというのが売りだ。前田拓社長はインタビューで、事業を東南アジアに拡大したいと考えているが、「当社には参入を計画する地域の地元銀行とのつながりがない」と述べ、「政府支援を取り付けられれば、確実に助かる」と付け加えた。
民間部門の専門家は、ある業界の勝者と敗者を政府が選別できるのか疑問視している。成功するか予想するのが難しいセンスや流行に左右される業界は言うまでもない。プライベートエクイティ(PE=未公開株)投資会社のニューホライズン・キャピタルの安東泰志社長は「政府支援の投資ファンドは公正な競争をゆがめる恐れがある」と述べる。
また、このクール・ジャパン推進機構の資金は、ここ数カ月間に創設された類似の政府支援の取り組みのそれと比べると相当に少ない。農業・漁業関係者を支援する基金には2000億円、苦境に立たされている製造業を支援する基金には3000億円が拠出されている。
日本政府関係者は、クール・ジャパンの取り組みの1つのヒントとなったのは、最大のライバルである隣国の韓国だったと話している。韓国は世界的なKポップブームで日本のポップカルチャーの影を薄くしている。このほか、「韓国デザイン振興院」や「国家ブランド委員会」といった政府の取り組みに、ここ10年以上何百万ドルも使っている。
「クール・ジャパン」という概念の発祥は、2002年にフォーリン・ポリシー誌に掲載された「Japan's Gross National Cool」というタイトルのエッセーにさかのぼるとされる。この論文は、日本が持つ世界に対する経済的・政治的影響力が縮小しているとはいえ、ポップミュージック、ファッション、アニメーション、それに日本料理からの文化的な影響力は急速に拡大していると主張していた。
日本政府は過去10年ほど、この概念をもとにいくつかの施策をとっている。08年には、外務省が日本文化を世界に発信する取り組みの一環として、ドラえもんを同国初の「アニメ文化大使」に起用。ドラえもんは日本で最も人気のある漫画の1つに出てくる青い猫型のロボットだ。
クール・ジャパン推進機構は、日本が国際的な威信を取り戻しつつあるようにみえるなかで創設される。日本では新たな株式市場ブームが起きており、20年の東京オリンピック開催を控え、その企業や文化があらためて注目を浴びている。
以前は、日本政府がアニメ、漫画、それにコスプレをビジネスだと考えることはなく、サブカルチャーの一種だとみてきた。しかし、こういったカルチャーはここ数年、海外での受け入れが進んでいる。
米Koto Internationalのジェフリー樫田最高経営責任者(CEO)は、「わたしはここ3〜4年で(こういったカルチャーの)新たなブームが到来したと感じている。コスチュームやアクセサリーの売り上げが増えている」と話す。同社は日本の漫画や映画のキャラクターをモチーフとしたフィギュアや玩具を販売する。
樫田氏は自らのクール・ジャパン投資申請について経産省と話し合っており、5億〜10億円の支援が受けられることを望んでいる。同氏は「フィギュアを扱う事業は中核事業でないため、十分な資源を投入する余裕がない」と話し、申請が政府に承認されたら、より多くの人を雇って倉庫を購入する計画だという。
最終更新:11月26日(火)11時32分
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