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2013年11月 アーカイブ

2013.11.08

特定秘密保護法について

衆院で特定秘密保護法案の審議が始まった。
すでに多くの法律家が指摘しているように、この法案は国民主権と基本的人権を侵害する恐れがある。
行政が特定秘密の指定を専管すれば、憲法上国権の最高機関であるはずの国会議員の国政調査権も空洞化する。
国民にしても「秘密保護法違反」の罪で訴追された場合、自分が何をしたのかを明かされぬままに逮捕され、量刑の適否について議論の材料が示されないまま判決を下され、殺人罪に近い刑期投獄されるリスクを負うことになる。
前にも繰り返し書いてきたとおり、自民党の改憲ロードマップは今年の春、ホワイトハウスからの「東アジアに緊張関係をつくってはならない」というきびしい指示によって事実上放棄された。
でも、安倍政権は改憲の実質をなんとかして救いたいと考えた。
そして、思いついた窮余の一策が解釈改憲による集団的自衛件の行使と、この特定秘密保護法案なのである。
解釈改憲は文言をいじらないで、事実上改憲して、アメリカの海外での軍事行動に参加する道を開くことである。
憲法をいじらないで、内閣法制局の憲法解釈に任せるなら、実際に海外派兵要請がアメリカから来て、その適否の判断が喫緊の外交課題になったときに「ぐずぐず議論している余裕なんかない、待ったなしだ」というお得意のフレーズを連打して、無理押しすることができると踏んだのであろう。
とりあえず、それまでは「アメリカと一緒に海外で軍事行動をするぞ」というのは政権担当者の心の中の「私念」に過ぎない。
成文化されない「心の中で思っていること」である限り、中国や韓国もこれをエビデンスベーストでは批判することができない。
特定秘密保護法案は放棄された自民党改憲案21条の「甦り」であることがわかる。
改憲草案21条はこうであった。
「出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。」
特定秘密保護法は「公益及び公の秩序」をより具体的に「防衛、外交、テロ防止、スパイ防止」と政府が指定した情報のことに限定した。
現実にはこれで十分だと判断したのであろう。
例えば、私の今書いているこの文章でも、それが防衛政策や外交政策の決定過程についての政権内部での秘密に言及したものであり、「重大な国防上の秘密を漏洩し、外敵を利することで結果的にテロに加担している」という判断はできないことはない(私のような官僚的作文の名手に任せてもらえれば、そのようなフレームアップはお安いご用である)。
私とて大人であるから、政府が国益上公開できない秘密情報があることは喜んで認める。だが、秘密漏洩についての法的措置は多くの法律家が指摘するとおり現行法で十分に対応できている。
現に、重大な国防外交上の秘密漏洩事案は過去にいくつかあったが、いずれも現行法によって刑事罰を受けている。この法律がなかったせいで防げなかった秘密漏洩事例があるというのであればそれをまず列挙するのが立法の筋目だろう。
だが、そのような事例はひとつも示されていない。
これまで存在したが罰されずに見逃されてきた事例について、それを処罰する法律を立法するのは筋目が通っている。
けれども、これまで存在しなかった犯罪について、それを処罰する法律の制定が国家的急務であるという話はふつうは通らない。
秘密保護について言うなら、これまで官僚たちが大量の秘密文書を廃棄して、国民の知る権利を妨害してきたことを処罰する法律を制定することがことの順番だろう。
この事例はまさに1945年の敗戦時の膨大な文書廃棄から始まって、開示請求に対して「みつかりません」とか「なくしました」とか「燃やしたようです」というような木で鼻を括ったような対応をしてきた官庁まで無数の事例がある。
これを許さない法律の制定であるなら、私も大歓迎である。
だが、今回の法律のねらいはそこにはない。
逆である。
「行政の失態や誤謬」にかかわる情報開示が特定秘密に指定されれば、行政への批判は事実上不可能になる。
これがきわめて強権的で独裁的な政体に向かう道を開くことであるという判断に異を唱える人はいないだろう。
政府はTPPの交渉や原発事故対応は特定秘密の対象にならないと答弁したが、原発の警備実施状況は特定秘密に該当すると述べた。
開示請求された情報の中に特定秘密に該当するものが断片的にでも含まれていれば、行政はその全部を秘匿するであろう。法律を弾力的に運用すれば、自己利益が高まるなら、政治家も官僚も必ずそうする。これは断言できる。
特定秘密保護法は賢明で有徳な政治家が統治すれば実効的に機能するが、愚鈍で邪悪な政治家が統治すれば悪用される法律である。
そういう法律は制定すべきではない。
それは現在の政治家や官僚が例外なく愚鈍で邪悪であるということを意味するのではない。
そのような人々が政治の実権を握ったときに被害を最少のものにするべく備えをしておくのが民主制の基本ルールだからである。
別に私がそう言っているのではない。
アメリカの民主制を観察したトクヴィルがそう言っている。
だが、その「民主制の基本ルール」を現在の安倍自民党政府はご存じないようである。
「民主国家」の統治者が民主制の基本ルールを知らないという場合、彼らが「賢明で有徳である」のか、それとも「愚鈍で邪悪である」のか、その蓋然性の計算は中学生にもできる。
安倍政権の狡猾さは、この特定秘密保護法が「果されなかった改憲事業」の事実上の「敗者復活戦」でありながら、アメリカのつけた「中国韓国を刺激するな」という注文については、これをクリアーしていることにある。
強権によって国内の情報統制を行うという点について、この両国は日本に「そのような非民主的な法律を作るのはよろしくない」と批判できる立場にない。
言ってもいいが、国際社会からも国内からも冷笑を以て迎えられるだけだろう。
だから、表現の自由の抑圧はいくらやっても、東アジア諸国(シンガポール、ベトナムはじめそのほぼすべての国が現在の日本よりも表現の自由において民主化が遅れている)から「非民主的なことはやめろ」という抗議が来る気づかいはない。
それどころか、日本のような豊かで安全な国でさえ、治安のために強権的な言論統制が必要なのであるから、治安の悪いわが国においておや、という自国の強権的統治を正当化する根拠として活用することができる。
つまり、まことに気鬱なことであるが、日本の民主化度を「東アジアの他の国レベルまで下げる」ことは世界的に歓迎されこそすれ、外交的緊張を高める可能性はないのである。
というわけで、安倍政権は改憲プランを放棄した代償に「東アジアに緊張関係を作り出さずに改憲の実を取る」という宿題に「集団的自衛権」と「特定秘密保護法案」を以て回答したのである。
かなりの知恵者が政権中枢にはいるということである。

2013.11.09

特定秘密保護法案について(つづき)

昨日のブログで、特定秘密保護法について私はこう書いた。
「安倍政権の狡猾さは、この特定秘密保護法が『果されなかった改憲事業』の事実上の『敗者復活戦』でありながら、アメリカのつけた『中国韓国を刺激するな』という注文については、これをクリアーしていることにある。(・・・)まことに気鬱なことであるが、日本の民主化度を『東アジアの他の国レベルまで下げる』ことは世界的に歓迎されこそすれ、外交的緊張を高める可能性はないのである。」
これについて、池田香代子さんから「ニューヨークタイムズが法案についての批判記事を掲載していました」というご教示を頂いた。
さっそく読んでみる。
NYTは10月30日の社説で「日本の反自由主義的な秘密保護法案」(Japan’s illiberal secrecy law)という記事が掲載されていた。illiberal は「リベラルでない」という政治的な意味の他に「狭量な、教養のない、下品な」という人格の瑕疵についても用いられるきわめて否定的な形容詞である。
タイトルは4月の同紙が掲げたJapan’s unnecessary nationalism (日本の不要なナショナリズム)と同形的であり、文体もロジックも共通点が多いので、おそらく同紙の日本担当記者によるものであろう。
いずれの社説も安倍政権が時代を逆行するような強権的で好戦的な国家を作り出そうとすることを批判しているのだが、その論拠は、一つにはリベラル派のデモクラシー擁護の立場から、一つにはアメリカの西太平洋戦略への妨害要因として批判するという「二正面」的なものである。
とりあえず全文を読んで頂こう。

「日本政府は国民の知る権利を冒す秘密保護法案の制定をめざしている。この法律はすべての政府省庁に防衛、外交、防諜、対テロにかかわる情報を国家機密に指定する権限を賦与するもののだが、秘密の指定要件についてのガイドラインが存在しない。この定義の欠如は政府があらゆる不都合な情報を秘密指定できるということを意味している。
提案された法案によると、機密を漏洩した国家公務員は10年以下の懲役刑を受ける。このような規定があれば、公務員は秘密公開のリスクを取るよりは文書を秘密に区分するようになるだろう。
現在まで、情報を“防衛機密”に指定できる権限を持っていたのは防衛省のみであるが、その記録は底なしの闇に消えている。2006年から11年にかけて防衛省が秘密指定した文書は55000あるが、そのうち34000が文書ごとに定められた非公開期間の終了後に廃棄されている。情報公開された文書はただ一件だけである。
新法案はこの非公開期間を無限に延長することを可能にするものである。そればかりか、国会議員との秘密情報の共有についての明確な規定がないため、政府の説明責任はいっそう限定的なものになる。
法律はさらに「無根拠」(invalid)で「不当な」(wrongful)な方法で情報収集を行ったジャーナリストに対しても5年以下の懲役を科すとしている。このような脅迫によって政府の実体は一層不明瞭なものとなるだろう。
日本の新聞はジャーナリストと公務員の間のコミュニケーションが著しく阻害されることを懸念しており、世論調査は国民がこの法律とその適用範囲に対して懐疑的であることを示しているが、安倍晋三首相はこの法律の迅速な制定を切望している。
安倍氏はアメリカ式のNSC(国家安全会議)のようなものを設立したがっているのであるが、これはワシントンは日本が十分な情報管理が果たせないのであればこれ以上の情報共有はできないということを通告したためである。
安倍氏が提案している安全会議の6部局のうちの一つは中国と北朝鮮を管轄し、他の部局は同盟国その他の国を管轄する。
この法案制定の動きは安倍政府が中国に対して示している対立姿勢と政権のタカ派的外交政策を反映しているが、法律は市民の自由を侵害しかねないものであり、東アジアにおける日本に対する不信をいや増すことになるであろう。」

書かれている内容は日本の新聞が報道していることとほとんど変わらない。
問題はこれがNYTの社説だということである。
4月の記事がそうであったように、NYTの安倍政権の政策批判はワシントンの意向を迂回的にではあるが示している。
前回の社説が出たあと、わずか2週間前に「村山談話の見直し」を高らかに宣言した首相は「村山談話の継承」への180度の方向転換した。
この「食言」の政治的責任を問う声は日本のメディアからはついに聴かれなかった。
アメリカの一喝で日本政府の外交方針が一夜にして逆転するという事実(つまり、日本がアメリカの衛星国であり従属国であるという事実)を日本の政治家も官僚もメディアも決して認めない。
いずれにしても、NYTの記事はホワイトハウスからのひとつのシグナルとして解読されねばならないということである。
記事そのものにそれだけの影響力があるということではなく、この記事がワシントンにおける「日本に対するそのつどのドミナントな判断」を伝えているからである。
この記事がこれからあとの安倍政府の動向にどう影響するのか、今の段階ではまだわからない。
昨日書いたように、改憲や談話見直しに比べると、「中韓を刺激しない」という点では特定秘密保護法案はアメリカの要請をクリアーしている。
「アメリカに迷惑はかけませんから」とこのまま一気にごり押しするか、アメリカとの情報共有体制を整備するための法案に当のアメリカからクレームがついたのは想定外だったからちょっと様子を見ようか、政権内部では今そういう相談をしているはずである。
まことに切ないことではあるが、私は「アメリカのクレームに屈して」政府がこの愚劣な法案の成立を断念することを願っている。
そのようにして、日本人は「アメリカの裁定に従うことが、日本にとっての最適解である」という信憑を刷り込まれて行く。
安倍首相の真意が奈辺にあるか私には忖度のしようがないが、彼が与えられたすべての機会を駆使して「アメリカへの完全従属」へと日本人を押しやるマヌーヴァーに成功していることは、わが身を省みても事実である。

2013.11.22

特定秘密保護法案について(その3)

特定秘密保護法案について、朝日新聞の取材があった。紙面に出るのは話したうちのごく一部になると思うので、これまで書いてきたこと以外のことについて話した部分を追記する。
これまでの話をおさらいしておく。
・特定秘密保護法案が秋になって突然出てきたのは、5月の「改憲の挫折」に対する「プランB」としてである。
・改憲による政体の根本的な改革が不可能になったので、それを二分割して「解釈改憲による集団的自衛権の行使=憲法九条の事実上の廃絶」と、「特定秘密保護法案によるメディアの威圧=憲法21条の事実上の廃絶」という改憲の「目玉」部分だけを取り出した。
・改憲は「東アジアの地政学的安定を脅かすリスクがある」せいで、アメリカも中国も韓国もステイクホルダーのすべてが否定的だったが、改憲を二分割した場合、「九条廃絶による米軍の軍事行動への加担」にはアメリカが反対せず、「21条廃絶による国内の反政府的言論の抑圧」には中国韓国が反対しない。つまり「一つの塊では『穴』を抜けられないが、二つに割ると抜けられる」ということに気づいた知恵者が官邸にいた。
・改憲による政体の根本的な改革のめざす方向は「日本のシンガポール化」であり、さらに言えば「国民国家の株式会社化」である。つまり、「経済発展」を唯一単独の国是とする国家体制への改組である。すべての社会システムは経済発展を利するか否かによってその適否を判定される。経済発展に利するところのない制度(おもに弱者救済のための諸制度)は廃絶される。
・取締役の選出を従業員が行ったり、役員会の合意事項に労働組合の承認が必要であったり、外部との水面下の交渉やさまざまな密約について逐一全社員に報告する会社は存在しない。株式会社は一握りの経営陣に権限も情報も集中する上意下達システムであることで効率的に機能するのであって、従業員の過半数の賛成がないと次の経営行動ができないような会社は存在しない。だから、「国家の株式会社化」とは端的にデモクラシーの廃絶を意味する。
・特定秘密保護法案は、安倍自民党と彼に与するグローバリストたちが画策している「国家の株式会社化」プロセスの一環である。
・それは別に彼らが「株式会社化された国家こそ理想の国家である」という牢固たる政治的確信を持っているからではなく、「その方が経済成長しやすい」というあまり根拠のない信憑に衝き動かされているからである。一言で言えば、この法案が国会を通過するということは、「デモクラシーか金か」という二者択一を前にしたとき、ためらわず「金」と回答する人々が日本のマジョリティを占めるようになったという現実を映し出しているのである。
以上はこれまでに書いてきたことである。
今日追加でお話したのは
・情報管理というのは法律で行うものではなく、「常識」で行うものである。イージス艦についての情報漏洩、尖閣での艦船の衝突映像の海保からの流出、公安テロ情報の流出など、この間問題になったのは、いずれも秘密漏洩によって国益を毀損しようとする明確な犯意に基づく事件ではなく、情報管理のフロントラインにいる公務員の「非常識」によって起きたものである。これほどデリケートな情報を管理するセクションに、これほど市民的成熟度の低い人員が配置されているということは、個人の問題ではなく、組織の「職員教育」の問題である。組織の問題である以上、秘密指定を拡大し、厳罰で臨んでも、「自分が何をしているのかよくわかっていない」非常識な公務員が制度的に生まれ続けるシステムを温存する限り、情報管理は永遠にできない。
・漏洩された情報についてマスメディアが報道を自粛するということは多いにありうるだろう。特にテレビは今後反政府的な情報の公開に対しては「それが周知されて、機密性を失うまで報道しない」という「へたれ」メディアになり、報道機関としての歴史的役割をこれによって終える可能性が高い(というか、もう終えているのかもしれないが)。
・その代わり、秘密情報にアクセスして、これを国益上周知させる必要があると判断した公務員は匿名で発信できるネットのサービス(ウィキリークスなど)を利用するようになるだろう。
・公安テロ情報の漏洩事件(結局犯人見つからず)や、PC遠隔操作事件(証拠が見つからないまま容疑者を長期拘留)における捜査当局のネットリテラシーの低さを勘案すると、発信者をトレースできないように構築されたサービスを経由した場合に捜査当局にこれを追究する能力があるとは思われない。
・今後ネット上での秘密漏洩の捜査能力を飛躍的向上させるためには大量の人員を配備する必要がある。だが、その場合に、捜査当局が「即戦力」としてリクルートするのは「エドワード・スノーデン君みたいなフリークス」の他にない。それはつまり「即戦力」即「リスクファクター」となることを意味している。彼ら特異な能力と、おそらくはそれにふさわしいだけ特異な国家観・世界観の持ち主たちを国家機密のフロントラインに大量に配列した場合、区々たる機密漏洩ではなく、システムそのものがクラッシュするリスクが発生する。
・そればかりではない。大量の「秘密漏洩トレーサー」を雇用するためには膨大な人件費支出が予想される。中国ではついに「治安維持費」が「国防費」を上回ったが、治安維持費の相当部分は一日中ディスプレイに貼り付いて、ネットに国家機密が漏洩していないか、反政府的なコメントが書き込まれていないかをチェックする数十万の「トレーサー」たちの人件費なのだそうである。日本の場合、誰がこのコストを負担するのか。国家予算の相当部分を投じてもたぶん「もぐらたたき」以上の効果をもたらさないこの作業はどの省庁が引き受けるのか。
これまでは「どういう流れの中でこの法案が出てきたのか」ということを書いてきたが、今日は法案が国会を通過した場合に、この先何が起きるかを予測してみた。
たぶん、政府は、この法律を実効的に運用しようとしたら、国家予算の相当部分を「覗き」行為に投じなければならなくなるということを想像していない。
悪知恵は働くが、根本的には頭の悪い人たちである。

2013.11.27

特定秘密保護法案の廃案を求めるアピール

佐藤学先生からお声がけを頂きました、特定秘密保護法案の衆院強行採決に抗議し、廃案を求める学者たちからのアピールに参加した。以下、そのアピールの全文と賛同者たちの氏名を掲げておく。
アピールは明日(11月28日)午後1時に学士会館でメディアに公式発表の予定。その段階で、賛同者のリストはさらに長くなるはずである。

特定秘密保護法案の衆議院強行採決に抗議し、ただちに廃案にすることを求めます


 国会で審議中の特定秘密保護法案は、憲法の定める基本的人権と平和主義を脅かす立法であり、ただちに廃案とすべきです。
 特定秘密保護法は、指定される「特定秘密」の範囲が政府の裁量で際限なく広がる危険性を残しており、指定された秘密情報を提供した者にも取得した者にも過度の重罰を科すことを規定しています。この法律が成立すれば、市民の知る権利は大幅に制限され、国会の国政調査権が制約され、取材・報道の自由、表現・出版の自由、学問の自由など、基本的人権が著しく侵害される危険があります。さらに秘密情報を取り扱う者に対する適性評価制度の導入は、プライバシーの侵害をひきおこしかねません。
 民主政治は市民の厳粛な信託によるものであり、情報の開示は、民主的な意思決定の前提です。特定秘密保護法案は、この民主主義原則に反するものであり、市民の目と耳をふさぎ秘密に覆われた国、「秘密国家」への道を開くものと言わざるをえません。さまざまな政党や政治勢力、内外の報道機関、そして広く市民の間に批判が広がっているにもかかわらず、何が何でも特定秘密保護法を成立させようとする与党の政治姿勢は、思想の自由と報道の自由を奪って戦争へと突き進んだ戦前の政府をほうふつとさせます。
 さらに、特定秘密保護法は国の統一的な文書管理原則に打撃を与えるおそれがあります。公文書管理の基本ルールを定めた公文書管理法が2009年に施行され、現在では行政機関における文書作成義務が明確にされ、行政文書ファイル管理簿への記載も義務づけられて、国が行った政策決定の是非を現在および将来の市民が検証できるようになりました。特定秘密保護法はこのような動きに逆行するものです。
 いったい今なぜ特定秘密保護法を性急に立法する必要があるのか、安倍首相は説得力ある説明を行っていません。外交・安全保障等にかんして、短期的・限定的に一定の秘密が存在することを私たちも必ずしも否定しません。しかし、それは恣意的な運用を妨げる十分な担保や、しかるべき期間を経れば情報がすべて開示される制度を前提とした上のことです。行政府の行動に対して、議会や行政府から独立した第三者機関の監視体制が確立することも必要です。困難な時代であればこそ、報道の自由と思想表現の自由、学問研究の自由を守ることが必須であることを訴えたいと思います。そして私たちは学問と良識の名において、「秘密国家」・「軍事国家」への道を開く特定秘密保護法案に反対し、衆議院での強行採決に抗議するとともに、ただちに廃案にすることを求めます。

2013年11月28日
特定秘密保護法案に反対する学者の会
浅倉 むつ子(早稲田大学教授、法学)
池内 了  (総合研究大学院大学教授・理事、天文学)
伊藤 誠  (東京大学名誉教授、経済学)
上田 誠也 (東京大学名誉教授、地震学)
上野 千鶴子(立命館大学特別招聘教授、社会学)
内田 樹  (神戸女学院大学名誉教授、哲学)
内海 愛子 (大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター所長、社会学)
宇野 重規 (東京大学教授、政治学)
大澤 真理 (東京大学教授、社会学)
小沢 弘明 (千葉大学教授、歴史学)
加藤 節  (成蹊大学名誉教授、政治学)
加藤 陽子 (東京大学教授、歴史学)
金子 勝  (慶応大学教授、経済学)
姜 尚中  (聖学院大学全学教授、政治学)
久保 亨  (信州大学教授、歴史学)
栗原 彬  (立教大学名誉教授、政治社会学)
小森 陽一 (東京大学教授、文学)
佐藤 学  (学習院大学教授、教育学)
杉田 敦  (法政大学教授、政治学)
高橋 哲哉 (東京大学教授、哲学)
野田 正彰 (元関西学院大学教授、精神医学)
樋口 陽一 (東北大学名誉教授、憲法学)
廣渡 清吾 (専修大学教授、法学)
益川 敏英 (京都大学名誉教授、物理学)
宮本 憲一 (大阪市立大学・滋賀大学名誉教授、経済学)
鷲谷 いづみ(東京大学教授、生態学)
和田 春樹 (東京大学名誉教授、歴史学)
(2013年11月27日0時現在)

アピール賛同者のリスト

特定秘密保護法案の強行採決に反対し、廃案を求める学者たちのアピールに賛同して、私あてに「賛同します」というメールやツイートをしてくださったのは、下記のみなさんです。
このリストを28日10:00に事務局に送付いたしますが、もし名前肩書きに誤記がありましたら、お知らせください。また連絡したはずだが名前がないという方もお知らせください。
リストは午後1時からの記者会見で発表されます。
これ以後賛同者としてアピールに参加ご希望の方は内田ではなく、直接事務局あてに「氏名・所属先・職名・専門」をお知らせください。

事務局は千葉大の小沢弘明先生です。
Fax: 043-290-2302 (研究室)
e-mail: ozawa@l.chiba-u.ac.jp

私のところに届いた賛同者は11月28日9:00段階で以下の通りです。
本日の記者会見には間に合わなかった方も次に更新するリストには載せていただけるようにしてお願いしておきます。どうぞご諒承ください。


中野晃一(上智大学教授・政治学)
山口二郎(北海道大学教授・政治学)
中田考(元同志社大学教授・イスラーム学)
増田聡(大阪市立大学准教授・音楽学)
向井光太郎 (奈良佐保短大准教授・マーケティング)
遠藤不比人(成蹊大学教授・英文学)
小幡尚(高知大学准教授・日本近代史)
梁川英俊(鹿児島大学教授・文学)
村上信明(創価大学准教授・歴史学)
坂井弘紀(和光大学教授・中央アジア文化研究)
鏑木政彦(九州大学教授・政治思想史)
下河辺美知子(成蹊大学教授・アメリカ文学)
土佐弘之(神戸大学教授・国際関係論)
豊島耕一(佐賀大学名誉教授・物理学)
柳原孝敦(東京大学准教授・ラテンアメリカ文学)
上番増喬(徳島大学・栄養学)
津富宏(静岡県立大学教授・犯罪学)
佐藤友亮(神戸松蔭女子学院大学准教授・医学)
小池隆太(山形県立米沢女子短期大学准教授・記号論)
安藤泰至(鳥取大学准教授・宗教学)
吉岡洋(京都大学教授・美学芸術学)
三浦まり(上智大学教授、政治学)
遠藤雅裕(中央大学教授・言語学)
上西充子(法政大学教授・社会政策)
上脇博之(神戸学院大学教授・憲法学)
高橋巌(日本大学教授・農業経済学)
三浦欽也(神戸女学院大学准教授・認知科学)
野崎次郎(関西大学非常勤講師・フランス文学)
青木真兵(関西大学非常勤講師・歴史学)
平野幸彦(新潟大学准教授・アメリカ文学)
安西敦(香川大学准教授・刑事実務学)
西原博史(早稲田大学教授・憲法学)
関橋英作(東北芸術工科大学教授・企画構想学)
水島久光(東海大学教授・メディア論)
菅原純(東京外国語大学非常勤講師・歴史学)
平川克美(立教大学特任教授・ビジネス論)
光嶋裕介(首都大学東京助教・建築設計)
岡田健一郎(高知大学講師・憲法学)
武藤整司(高知大学教授・哲学)
金田雅司(東北大学助教・物理学)
西郷甲矢人(長浜バイオ大学講師・数学)
千野健太郎(埼玉医科大学助教・医学)
志賀浄邦(京都産業大学准教授・仏教学)
小坂井敏晶 (パリ第八大学准教授・社会心理学)
川本真浩(高知大学准教授・歴史学)
平尾剛(神戸親和女子大学講師・スポーツ教育学)
神吉直人(香川大学准教授・経営学)
鈴木準一郎(首都大学東京准教授・生態学)
小林敏明(ライプツィヒ大学教授・日本学)
貴志俊彦(京都大学教授・東アジア近現代史)
鹿野豊(分子科学研究所特任准教授・物理学)
釈徹宗(相愛大学教授・宗教学)
丸井一郎(高知大学教授・言語相互行為理論)
荻野哉(大分県立芸術文化短大准教授・美学芸術学)
門脇健(大谷大学教授・宗教学)
山下仁(大阪大学教授・社会言語学)
伊藤慎二(国学院大学助教・考古学)
宮本真也(明治大学准教授・社会哲学)
松田洋介(金沢大学准教授・教育社会学)
工藤晋平(京都大学特定准教授・臨床心理学)
西山秀人(上田女子短大教授・日本文学)
大塚直哉(東京藝術大学准教授・音楽)
嘉指信雄(神戸大学教授・哲学)
酒匂宏樹(東海大学講師・数学)
長光太志(佛教大学非常勤講師・社会学)
城一裕(情報科学芸術大学院大学講師・音響学)
伊地知紀子(大阪市立大学准教授・人類学)
山崎直樹(関西大学教授・中国語教育学)
江弘毅(神戸女学院大学非常勤講師・編集論)
吉田栄人(東北大学准教授・人類学)
宮本有紀(東京大学講師・精神看護学)
今滝憲雄(武庫川女子大学非常勤講師・教育学)
川口洋誉(愛知工業大学講師・教育法)
中條健志(大阪市立大学ドクター研究員・フランス語圏学)
加藤有子(東京大学助教・ポーランド文学)
鈴木貞美(国際日本文化研究センター名誉教授・日本文芸文化史)
上園昌武(島根大学教授・経済学)
川井巧(福島県立医科大学助教・医学)
岡本良治(九州工科大学名誉教授・物理学)
阿部昇(秋田大学教授・教育学)
岡室美奈子(早稲田大学教授・テレビ論演劇論)
小関和弘(和光大学教授・日本文学文化研究)
杉本昌昭(和光大学准教授・社会学)
八木孝夫(東京学芸大学教授・英語学)
碓井広義(上智大学教授・メディア論)
實川幹朗(姫路独協大学教授・世界学)
加藤典洋(早稲田大学教授・文学)
大河内泰樹(一橋大学准教授・哲学)
渡邊良弘(新潟医療福祉大学准教授・精神医学)
西山教行(京都大学教授・言語教育学)
大澤五住(大阪大学教授・神経科学)
堀茂樹(慶応義塾大学教授・フランス思想史)
只友景士(龍谷大学教授・財政学)
大貫隆史(関西学院大学准教授・英文学)
高橋暁生(上智大学准教授・歴史学)
桃木至朗(大阪大学教授・歴史学)
中西裕樹(同志社大学准教授・言語学)
賀茂美則(ルイジアナ州立大学教授・社会学)
砂連尾理(神戸女学院大学音楽学部非常勤講師・コンテンポラリーダンス)
藤山直樹(上智大学教授・精神分析)
瀧本知加(東海大学講師・教育学)
舩田クラーケンさやか(東京外国語大学准教授・国際関係論)
高柳美香(明治大学准教授・マーケティング)
小松田儀貞(秋田県立大学准教授・社会学)
藤井敬之(愛知教育大学教授・教育学)
小泉直子(静岡産業大学非常勤講師・組織行動学)
河野真太郎(一橋大学准教授・英文学)
吉本和弘(県立広島大学准教授・英文学)
寺田勇文(上智大学教授・東南アジア研究)
八代嘉美(京都大学)
山本奈生(佛教大学専任講師・社会学)
熊澤弘(武蔵野音楽大学講師・博物館学)
ハドリー浩美(新潟大学准教授・英語教育学)
越智敏夫(新潟国際情報大学教授・政治学)
氏家法雄(千葉敬愛短大非常勤講師・組織神学)
柏原誠(大阪経済大学・政治学)
林祥介(神戸大学教授・地球惑星科学)
海老根剛(大阪市立大学准教授・表象文化論)
中野昌宏(青山学院大学教授・社会思想史)
堀江宗正(東京大学准教授・宗教学)
笹島秀晃(大阪市立大学専任講師・社会学)
田中孝史(東京外国語大学特定研究員・言語学)
小野原教子(兵庫県立大学准教授・文化記号論)
輪島裕介(大阪大学准教授・音楽学)
橋本一径(早稲田大学准教授・表象文化論)
土屋誠一(沖縄県立芸術大学講師・美術史)
越田美穂子(香川大学准教授・保健学)
鳥山祐介(千葉大学准教授・ロシア文学)
細川弘明(京都精華大学教授・文化人類学)
出水薫(九州大学教授・政治学)
植村洋(和光大学名誉教授・英文学)
山中淑江(元同志社大学非常勤講師・西洋文化史)
山下純照(成城大学教授・演劇学)
渡辺裕(東京大学教授・音楽学)
吉田寛(立命館大学准教授・感性学)
松井克浩(新潟大学教授・社会学)
細川弘明(京都精華大学教授・文化人類学)
時安邦治(学習院女子大学教授・社会学)
山崎望(駒澤大学准教授・政治学)
今井慎太郎(国立音楽大学専任講師・コンピュータ音楽)
和田悠(立教大学准教授・社会教育)
岩村原太(京都造形芸術大学准教授・舞台デザイン)
遠藤泰弘(松山大学教授・政治学)
水野隆一(関西学院大学教授・ヘブライ語聖書学)
福島祥行(大阪市立大学教授・フランス語圏学)
田中裕喜(滋賀大学准教授・教育学)
坂野鉄也(滋賀大学准教授・歴史学)
岡井崇之(稚内北星学園大学専任講師・メディア論)
古市将樹(愛知文教大学准教授・教育学)
辻学(広島大学教授・新約聖書学)
中島宏(鹿児島大学教授・刑事法学)
滝川幸司(奈良大学教授・日本文学)
久保木秀夫(鶴見大学准教授・書誌学)
色平哲郎(独協医科大学非常勤講師・地域医療)
中島万紀子(早稲田大学非常勤講師・フランス語)
國分俊宏(青山学院大学教授・フランス文学)
浅野純一(追手門学院大学教授・中国文学)
高村峰生(神戸女学院大学専任講師・アメリカ文学)
堀川智也(大阪大学教授・日本語学)
石澤一志(目白大学専任講師・日本文学)
浅野智彦(東京学芸大学教授・社会学)
園田寛道(滋賀医科大学助教・医学)
小暮宣雄(京都橘大学教授・文化政策学)
浅川達人(明治学院大学教授・都市社会学)
武田信子(武蔵大学教授・臨床心理学)
高田友美(滋賀大学特任准教授)
水田憲志(関西大学非常勤講師・地理学)
小野寺拓也(昭和女子大学専任講師・歴史学)
木下勇(千葉大学教授・都市計画学)
内村直之(慶応義塾大学非常勤講師・科学ジャーナリズム)
加藤秀一(明治学院大学教授・社会学)
池田暁史(文教大学准教授・精神分析)
田口卓臣(宇都宮大学准教授・フランス文学)
平林香織(岩手医科大学教授・日本文学)
森隆史(関西学院大学非常勤講師・ソーシャルキャリア論)
安達太郎(京都橘大学教授・日本語学)
近藤隆二郎(滋賀県立大学教授・環境計画学)
小浜正子(日本大学教授・歴史学)
兵藤宗吉(中央大学教授・心理学)
小熊和郎(西南学院大学教授・フランス語学)
林衛(富山大学准教授・市民社会メディア論)
西田弘次(ビジネスブレークスルー大学准教授・コミュニケーション学)
和田浩史(立命館大学准教授)
高嶌英弘(京都産業大学教授・法律学)
野中浩一(和光大学教授・身体環境共生学)
斉藤昭子(東京理科大非常勤講師・文学)
菊池暁(京都大学助教・民俗学)
佐々木玲仁(九州大学准教授・臨床心理学)
生井亮司(武蔵野大学准教授・美術教育学)
佐藤憲一(東京理科大学専任講師・アメリカ文学)
小松崎拓男(金沢美術工芸大学教授・博物館学)
木戸口正宏(北海道教育大学釧路校講師・教育学)
深尾葉子(大阪大学准教授・社会生態学)
森修一(東京医科歯科大学特任助教・化学)
菊池哲彦(尚絅学院大学准教授・社会学)
岡田正巳(首都大東京教授・数理科学)
川端康雄(日本女子大学教授・英文学)
杉田俊介(同志社大学特別研究員・キリスト教学)
太田泰人(女子美術大学教授・美術史)
小沼純一(早稲田大学教授・音楽文化論)
高橋佳三(びわ湖成蹊スポーツ大学准教授・スポーツバイオメカニクス)
田川とも子(神戸女学院大学非常勤講師・表象文化論)
西田昌司(神戸女学院大学教授・医科学)
神田貴成(大阪芸術大学非常勤講師・マンガ論)
北島正二朗(シンガポール国立大学博士研究員・生物学)
溝尻真也(目白大学専任講師・メディア論)
守中高明(早稲田大学教授・フランス現代思想)
中川克志(横浜国立大学准教授・聴覚文化論)
武田俊輔(滋賀県立大学講師・社会学)
佐藤守弘(京都精華大学教授・芸術学)
小野昌弘(ユニバーシティカレッジ・ロンドン上席主任研究員・免疫学)
布川弘(広島大学教授・歴史学)
住友剛(京都精華大学准教授・教育学)
小野寺秀也(元東北大学教授・物理学)
馬場重行(山形県立女子短大教授・文学)
阿部賢一(立教大学准教授・文学)
高橋雅人(神戸女学院大学教授・哲学)
清家章(高知大学教授・日本考古学)
矢田部和彦(パリ第七大学准教授・社会学)
谷本盛光(新潟大学教授・物理学)
越野章史(和歌山大学准教授・教育学)
三好永作(九州大学名誉教授・理論化学)
中野元博(大阪大学准教授・物理化学)
玉木尚之(高知大学准教授・中国哲学)
斉藤渉(東京大学准教授・思想史)
久後貴行(大阪市立大学非常勤講師・フランス語学)
山本信次(岩手大学准教授・森林政策学)
磯直樹(大阪大学特任助教・社会学)
杉田真衣(金沢大学准教授・教育学)
渋谷聡(島根大学教授・西洋史)
石川康宏(神戸女学院大学教授・経済学)
冨塚明(長崎大学准教授・環境物理学)

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