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作り話を書いてみる。
今から20年近く前の話。
とわ子は3人家族だった。
田舎の町で、自営業の父と専業主婦の母、そして小学2年生のとわ子。
とわ子の母は元気なときは元気だけれど、泣いていることも多かった。
とわ子はどうして母がいつも泣いているのか、よくわからなかった。
「どうしたの?」と聞いても「なんでもない」「ごめんね」という答えが返ってくるだけだったからだ。
とわ子は母が泣いているのを見るのが辛かった。
でもどうしていいかわからなかった。
いつかの夜、リビングで母が「どうして、どうして」と泣きながら父に言っているのを布団から耳にした。
とわ子は「もしかしてお母さんが泣いているのは、お父さんの帰りがいつも遅いからかな」と思った。
数日後、学校から帰宅するとまた母が泣いていた。
慰めるけれど、いつもと同じで「なんでもないから」「ごめんね」という返事が返ってくるだけだった。
そういうことが10回以上続いてしまって、とわ子はだんだん、それが疲れてきてしまった。
それからとわ子は、母が泣いていても背中をさすることをしなくなった。
無視をして遊びに出かけたり、泣き声を後ろにスーファミでセーラームーンをして遊ぶのもだんだん平気になってしまった。
いや、平気ではなかったけれど、平気なふりをするようになってしまった。
母を心配するのが疲れてしまった。
何を聞いても理由は話してくれないし、よそのお母さんはこんなんじゃないと思ってすごく気分が悪かった。
小学校のときの話だから時期の感覚が曖昧だけれど、多分その頃から半年経ったぐらいだと思う。
家に帰ったら母がいなかった。
とわ子は「おかあさーん!」と呼んだ。
返事はなかった。
トイレにも入っていなかったし、押し入れにも入っていなかった。
玄関の靴を見ていなかったと思って靴を確認しに行こうとした。
だけどその前に何か後ろから気配を感じた。
気配を感じたのはお風呂のほうだった。
とわ子は「おかあさーん?」と言いながら、お風呂に向かった。
お風呂のドアは少しだけ開いていた。
そして横たわったお母さんの頭だけ最初確認できた。
とわ子はびっくりした。
「おかあさん!?」
ドアを開けようとしたけれど、内側に向かって押すドアで、中に母がいたから開けるのが大変だった。
開けたら浴槽が真っ赤で、血の海になっていた。
床とか浴槽の横にも血がベタベタとついていた。
とわ子はお母さんが血を吐いてしまったのかと思って、急いで救急車を呼んだ。
母に話しかけても返事が返ってこなくてこわかった。
死んじゃったのかと思った。
触ったら冷たかったし、呼んでも返事がないし、その後どうしたらいいかわからなかった。
顔の色もあきらかにおかしかった。
人間の顔がこんな青くなるものなのかと思った。
怖かったけどその場から動けなくなってしまった。
すぐに救急車は来た。
救急車が来るか来ないかのあたりでとわ子はわかった。
床には血でベタベタのカミソリ、母の手首にはパックリと開いた傷。
母は自殺しようとしたんだな、と。
救急車のおじさん達は、「お父さんに連絡できる?」「電話番号は?」と言ってきた。
私は震える声で父の会社に電話をした。
連絡がついて、父はすぐに病院に向かったらしい。
とわ子は救急車のおじさんに「お留守番していてね」と言われたので、家でじっと待っていた。
テーブルの上には「ごめんなさい」とだけ書かれたメモ用紙が置いてあった。
お母さんの字なのはわかったけれど、なんか字が変だった。
とわ子は「お母さんが生き返りますように」と祈って泣いて疲れて、でもまだ全然眠くなくて、身体は熱くなって、わけがわからなくなり、魂が抜けて行くような感覚になって、「死んじゃったらどうしよう」と思って、「でもそんな簡単に人間が死ぬわけない」とも思って「もしかしたらこれは夢なんじゃないかな」とか頭の中がごちゃごちゃになった。
だんだん考える体力もなくなって、でも眠くならないし、ゲームもマンガも何もする気になれなくて、ただ横たわっていた。
夜、父が帰ってきた。
父が帰って来たけれど、父だけが家に来たわけではなかった。
おじいちゃんとかおばちゃんとか、他には見たことないような親戚もいっぱい来た。
父は目が真っ赤になっていて、他のみんなは暗い顔をしていた。
5人ぐらいは泣いていた。
父も誰も、とわ子に何も言わなかったけれど、とわ子は察した。
母は死んだ。
その日の夜はとわ子は自分の家ではなく、見たことのない親戚の家に泊まった。
寝れないかと思ったけれど、とわ子はすぐに眠ってしまった。
次の日、とわ子はその親戚の車で家に帰った。
帰ったら、玄関になんか色々飾られていた。
家に入ったら、母の遺体が畳の部屋にあった。
木の板で作られたような簡易的な仏壇みたいなのも置かれていた。
親戚に「お母さんの顔を拝んであげて」と言われ、親戚のおばさんは母の顔にかぶせてある布をめくった。
昨日よりもさらに顔は青くなって、アザみたいな色になっていた。
そういうことがあって、学校は1週間ぐらい休んだ。
1週間休んで、また登校を再開するときはこわかったけれど、みんな優しくしてくれた。
でも逆に優しくされるのが辛かった。
母を亡くしてからとわ子は、ブクブクと太ってしまった。
子供の頃の話だから何を食べていたのかとか、どうして太ってしまったのかとかはわからないけれど、多分食べ過ぎだと思う。
あと、お風呂に入るのも面倒くさくなって2日に1回とか、3日に1回とかになっていった。
5年生、6年生ぐらいになると、とわ子は男子からいじめられるようになった。
中学校に入ると、他の小学校から上がって来た人たちもいる。
その人たちは、とわ子にお母さんがいないことは知らなかった。
でも同じ小学校の人は知っている。
それで、お母さんの話とかをふられたりすると、なんだかギクシャクするとか色々あって嫌だった。
とわ子はいろんなことを面倒くさく感じるようになった。
そんなこんなで小学校中学校時代を過ごし、鬱屈したまま20歳になったとわ子。
問題です。
Q. とわ子はちゃんとした恋愛はできるでしょうか?
A. 最初はできませんでした。でも段々出来るようになっていきました。
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