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第106話




「喰らえぇーーー!!」

 俺の渾身の力を込めた攻撃がモンスターヴァラルクに突き刺さる。
 先程までの苦戦が嘘のように敵を追い詰めている。

「すごい、これが聖剣の力なのか」

 ジーナが驚愕を浮かべた顔でこちらを見ている。
 俺だって驚いている。剣一本でこれほど戦況が変わるなんて。

 もともと俺の『激剣』に剣の良し悪しはそれほど関係ないのだ。
 だから俺の装備は鎧は一級品だけど、剣は店で買った数打品だ。
 これまで色々な敵と戦ってきたがそれで問題なかったのだ。

 しかし、聖剣は俺が今まで使っていたどんな剣とも違った。
 『激剣』と呼ばれる俺の攻撃はそのくせ、鈍器のような効果で対象を破壊する。
 これを聖剣で行おうとした時にまずは、威力で驚いた。
 いつもの半分以下の力でいつもの倍以上の威力を感じた。
 もっとも、ヴァラルクの体を大きく砕いたが再生されてしまったが。

 しかし、

「これなら行ける!!」

 そう、先程よりもヴァラルクの再生が鈍くなっている気がする。
 今の攻撃は『激剣』を纏わせていないが、奴の体を深く切り裂いている。

「早くこいつを片付けてエコーかヒビキを助けに行かなきゃ」

 ジルさんは、ヒビキに期待するな。なんて言っていたが、ヒビキがこの状況でなにもしていない訳がない。
 きっと、俺より大変な状況にいるに違いない。
 モンスターの群れに対処に向かったエコーも心配だ。
 彼女・・ほどの実力者がそう簡単にやられるとは思わないが、戦場は何が起こるかわからない。

「これで、トドメだぁ!!」

 4本の腕に守られていた頭部にようやく剣が届く。
 横薙ぎに剣を振るい ヴァラルクの首を狩る。

「これはっ!? いけない!!ルクス!!」

 クェスの叫びの後、目の前が光に包まれた。


****************



「所々分からん話が出てきたが、要約すれば『故郷に帰りたいが仕事があって帰れん』ということか?」

 沈黙を破ったのはジルだった。
 ジルが短くまとめてくれた内容は確かにその通りで、少しだけ情報が足りなかった。

「そうだな、仕事は無理矢理押し付けられた上にその仕事自体の進捗が悪いってのもある」

「ついでに、先輩さえ俺の代わりに仕事をしてくれれば俺は帰れるっす」

 ユウキが又、暗い泣き笑いの表情で呟く。

「主に仕事まおうを押し付けるのは許さんぞ。話振りから仕事を終えたら故郷に帰らねばならんようだしのぅ」

 ジルがユウキの提案を却下する。
 ちなみに今から俺が教会でチュートリアルを受けられるかと言えば、

『YES』

 可能らしい。
 行かないけど。

「じゃあ、どうするっすか!?」

「知らんわ」

 ジルがバッサリと切り捨てる。

「すべての人が望むままに生きられるわけないじゃろぅ。まぁ、わらわはかなり幸運じゃったと思うがのぅ」

 こちらを見ながらそう言うジルは微笑みを浮かべている。

「どうしても故郷が恋しいならお主も我が主の元で暮らせばよかろう。故郷の者達を思って泣くにしても同郷の者が居るか居ないかは大きく違うじゃろ?」

「でも俺は魔王だし」

「わらわは吸血卿ヴァンパイアロードじゃぞ? 村には半魔族もおるし、むしろ人間の方が少ないわ」

 ジルがユウキを説得をしている。
 ユウキは能力はともかく種族は人間だから、あまり交渉材料とは言えない内容で説得しているがうまく行くのだろうか。

「ユウキよ、お主は我が主が嫌いか?」

「べ、別に先輩が嫌いな訳じゃ」

「なら良いではないか。同郷の主がこの国で楽しくやれているのだ。お主もこの国で楽しくやれば良いではないか」

「俺は、」

「ユウキ、俺は」

 俺とユウキの声が重なる。
 次の瞬間、





「ヒビキ、無事か!?」

 扉を乱暴に開けて現れたのはルクス達だった。しっかりと常駐軍も引き連れている。
 ルクスは俺を確認するとホッとした顔をしたがユウキに視線を移した瞬間に、キッと眉根を寄せる。
 ルクスの目は血走っていていつもと様子が違うように見えた。

「ヒビキ、そいつから離れるんだ!!」

 ルクスは手に持った聖剣をユウキに向ける。
 穏やかではない雰囲気に全員に緊張が走る。

「そうか、ヒビキの用事と言うのはこいつをここに引き留めることだったのか」

 ルクスが何か勘違いをしている。
 しかもこの言い方だと恐らくユウキの正体に気がついているのだろう。

「やはり、あのモンスターもお前の仕業か。魔王!!」

 常駐軍から小さな悲鳴があがる。
 それでも隊列を崩さないのは中々の錬度と言うべきか。

 どれくらいの時間がたっただろうか。急にユウキが高笑いを始める。

「クハハハ、そう我こそは魔族を統べる者。余興は楽しんでくれたかな?」

 そう言いながら、ユウキの体から黒い魔力が放出される。

「おのれ、魔王!!」

 ルクスが襲いかかってきた黒い魔力を聖剣で切り裂いてユウキに接近する。
 しかし、そこにはもうユウキの姿は無かった。

「逃げるとは卑怯な奴め!!いつかお前を倒して見せるぞ魔王!!」

 様子のおかしいルクスの事を近くにいたクェスに尋ねた。

「師匠、一体ルクスはどうしたんだ?」

「リングに現れたモンスターを倒したときにモンスターの自爆に巻き込まれたの」

「じゃあ、どこか怪我をしてああなったのか?」

「違う。自爆からは聖剣が守ってくれたんだけど。正式な勇者ではないルクスには聖剣の【光魔法】は刺激が強すぎたみたい」

 つまり、【光魔法】に酔っているような状態だろうか。
 俺が予選で何人かに施した【光魔法】での洗脳と同じ状態なのだろう。
 だからこそ、ルクスは一目でユウキの正体に気がついたのだろう。

「治るのか?」

「自然と【光魔法】が抜けるはずだから大丈夫」

 その言葉にほっとしながら、ユウキが消えた方に視線を向ける。

「俺も魔王にはなりたくないよ、ユウキ」






 さて、途中でうやむやになった御前試合決勝戦はエコーの途中棄権で幕を閉じた。
 それというのも、エコー状態になる暇の無いまま会場までルクスに付きまとわれたのが原因だ。
 エコーと一緒に会場から出たジルは事情を聞かれていたが、会場を出たらすごいスピードでどこかに消えたので自分の主人と合流した。と説明していた。

 会場に戻ると観客はほとんど目を覚ましていた。
 アイラもいつの間にか観客席でエミィ達と合流していたのでひと安心だ。 

 どうやら、アイラは観客席に戻る途中で気を失っていたらしい。
 ルクスがヴァラルクを倒した後、すぐに目が覚めたらしくエミィ達を介抱していたようだ。

 命に関わるような状態の人は居なかったようだが全員が倦怠感を訴えており、表彰式は簡略的に行われた。
 流石に聖剣の授与だけは王族の一人が恭しく執り行っていたが、3位の俺など飾り箱からすら賞品を出されずにそのまま渡されてしまった。
 まあ、目立たなくて良いのだが。

 さて、ここからは人材確保スカウトの時間だ。


 すでに俺やエミィにベッタリなリーランは俺達と行くに決まっているので詳しくは語らない。
 まずは奴隷戦士のジーナ。
 彼女の主人と話をつけて金貨15枚で購入することになった。
 ちなみに金貨15枚をポンと出せたのは、空席となった4位の賞金を優勝者ルクス3位おれに魔族討伐の報奨として与えられたからだ。
 金貨30枚を2人で山分けし、ルクスに何を買うのか聞かれたのでついうっかりジーナを買うと答えてしまった所、自分も交渉に立ち会うと言って聞かなかった。
 結局、がめつい元主人が報奨金の事をどこかで聞き付けていたようで、こっちの上限ギリギリまで値をつり上げられてしまった。
 ジーナはしきりに礼を言っているが、これからコキ使うから覚悟しておけと言って黙らせた。

 次はケンタウロスの夫婦。
 彼らの健脚をみすみす逃すつもりはない。
 御前試合に賞金目当てで参加した彼らだったので、職と住居と当面の生活を面倒見ると伝えると半信半疑だが村まで同行する事を了承してくれた。

 最後はエルフの吟遊詩人ビルギットだ。
 彼女に関しては特に勧誘したわけではないのだが、勝手についてきた。

 復路の準備を終えたサイと合流し、行きよりも大所帯になって村へと出発する。
 ルクスたちにかなり引き留められたが、これ以上何かに巻き込まれたくないので礼を言って出発する。

 


 


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