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第102話





 決勝戦。
 すでにリングではルクスと『竜の戦士』が向かい合って立っている。
 ルクスの体からは未だに光が放たれており、よく見れば深呼吸しているルクスの呼吸のリズムに合わせて光が明滅している。

「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」

 ルクスの息遣いが俺まで聞こえてくる。
 それもそのはず、今俺は『竜の戦士』の中にいる。

 準決勝第2試合の決着がついた後、連戦となる『竜の戦士』の為のインターバルが取られた。
 その隙にアイラと入れ替わり、こうして決勝戦に臨む事になった。

 なぜ、俺が『竜の戦士』になることになったのか。
 それは、アイラのダメージの為だ。
 竜の鱗のおかげで外傷はほとんど無かったが衝撃までは防げない。
 先ほどの魔族との戦闘は、かなりギリギリの勝利だったのだ。
 正直、最初は決勝戦を棄権すればいいと考えていた。ここで不戦敗でも『エコー選手』は準優勝。
 聖剣はそもそも欲しくないので、何の問題も無いのだが、

「ま、まだ、戦えます。それに『竜の戦士』はこんな時でも逃げません」

 アイラの言う『竜の戦士』の振る舞いとは、どうやら俺の事らしい。
 それで立ち振る舞いにまで気を使っていたのか。

「・・・本物の戦いぶりを見て落胆するなよ」

「しません、私にとってご主人様はいつでも最高に格好いいですから」

 そこまで、アイラに言われてしまえば仕方が無い。
 せいぜいルクスとの再戦を楽しませてもらう事にした。




「よろしくね、『竜の戦士』」

 声を出せばバレる恐れがあるので、鎧の内側の音は極力外に出さないようにしてもらっている。
 そこで、俺は首を縦に振って肯定の意を表した。

『さて、とうとう決勝戦です。正直、私としてはどちらも神話に出てくる英雄達のように感じてしまいます』

『そうですね、両者とも今代の勇者に相応しい技量の持ち主であると私も思います』

 審判が大声で試合開始を告げて、リング端まで逃げていく。
 ルクスは、準決勝で剣を持たないまま今の状態になってしまったので剣を持っていない。
 持とうとすれば剣が消滅してしまう。

 その為だろうか、ぐっと腰を落として拳を握り空手家のような構えを取るルクス。

 俺は、星剣を右手で持ち無限の魔力を体の隅々まで行き渡らせる。
 左手には別の剣を握っている。
 『激圏』状態のルクスにいきなり星剣で斬りかかる勇気が無かったのでなんの変哲も無い鉄の剣を用意した。
 その鉄の剣にも出来る限り魔力を通した。
 先ほどの戦闘で、瞬間的な接触なら剣に何かを纏わせておけば防げるのは分かっている。
 さっきと同じように炎で剣を包んでもいいが、それで俺だとバレたら困る。
 出来るだけアイラの『竜の戦士』を真似るべきだろう。
 つまり、

「アイラと同じ速度を!!」

 ルビーに協力してもらい、地面を蹴る力を上乗せしてもらう。
 それだけでもかなりの機動力アップだ。
 更に剣を横薙ぎに振る際にもルビーにアシストしてもらい腰のひねりの速度を強化する。

 こうして放たれた最速の剣は、ルクスの体から出ている光に触れて弾き返される。
 しかし、刀身はしっかりと残っている。もちろん、纏わせていた魔力は消えてしまったが。

「速いね。今の攻撃」

 今の攻撃は剣の切っ先がルクスの体に当たる踏み込みだった。
 光によって阻まれたとはいえ、かすりもしなかったのは今の動きにルクスがしっかりと反応していたからだ。
 上体を反らして剣を避けていた。

 急いで距離をとる。今のルビーのアシストは、しっかりと体にダメージを残している。
 特に腰に痛みが走る。【自己再生】で回復するのを待つ。

「来ないの?なら、こっちからいくよ!!」

 剣を持っていないルクスの速さはかなりの物だ。
 その上で、『激圏』状態で密着されるのはかなり嫌だ。

 距離を取りながら【火魔法】で右手から炎を出して牽制する。
 なぜかルクスは炎を避けた。光があればこの程度の炎ではダメージなど無いはずなのに。

 咄嗟に避けてしまったと言われればそうだが、今のタイミングで炎を無視して突進して来たらかなり厄介だったはずだ。
 それをしない理由。それは、

「『激圏』は、消せる量が決まってるのか?」

 つまり、使えば使うだけルクスの光は減っていくということだろうか。
 試しに【水魔法】で霧を生み出し、ルクスの周りに放っていく。

「これは、霧?」

 霧はルクスの周辺まで行くと急に消えてしまう。しっかりと効果を発揮してるようだ。

「まさか、気がついたのか!?」

 急にルクスが慌てだす。やはり、消せる量に限界があるようだ。

「はぁぁぁーー」

 ルクスがこちらに突進を仕掛けてくる。
 こちらはたっぷりと魔力を通した剣で対処する。
 拳での攻撃を剣で受け流し、【水魔法】で生み出した大量の水を浴びせるが光に阻まれルクスには届かない。
 しかし、これでいい。
 焦るルクスをよそに無害な水をかけ、気付かれない程度に微風を当て続け、『激圏』に負荷をかけ続ける。
 そして、とうとうルクスを包んでいた光が完全に消え、ルクスの顔が水で濡れる。

 一応、ルクスの剣はリングの端に置いてあるが、これを取らせるかは相手次第だろう。
 そして俺なら、当然取らせない。


 いつもならそうするが、今の俺はアイラの理想の『竜の戦士』だ。
 少しくらい格好をつけても問題ないだろう。

 その場で構えを解いて、ルクスに剣を取るように目配せする。

「あはは、いい奴だな君は」

 剣を取りに行き水に濡れた髪をひと撫でして剣を構える。
 すぐさま剣で斬りかかるがルクスもしっかりと剣で応戦する。
 しっかりと『激剣』を使用しているようで、剣同士が交差するたびに魔力を吸い取られている。
 延々と続く剣戟に観客のボルテージは最高潮まで引き上げられる。

 目まぐるしく変わる立ち位置、瞬きする間に入れ替わる両者。
 もう何度目かの交差なのか分からなくなった頃、不意に観客からの歓声がやんだ。
 先ほどまで興奮のるつぼだった闘技場に静寂が訪れる。

 ルクスもなにやら異変が起こったことには気がついているようで、こちらをうかがいながらそわそわしだした。

「なにが起こったんだ?」


 観客席を見渡すと、全員が眠っていた。






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