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第101話





 控え室に戻って一息ついていると、光り輝いたままのルクスがむすっとした顔で戻ってきた。

「まだ光ってるのか?眩しいからやめて欲しいんだけど」

「一回発動したらしばらく出っ放しなんだよ!!」

 どうもご機嫌斜めのようだ。とりあえずなだめる努力をしてみる。

「そうか、じゃあ仕方ないな。まあ座れよ」

 俺の隣の椅子をすすめると、ルクスの顔が更に歪む。

「この状態だと、椅子にも座れないんだよ!! 座った椅子が消し飛んじゃうんだ!!」

 触れるもの全てを吹き飛ばすのか。
 その割には足の裏が接触している部分はなんとも無いようだ。
 その辺りを攻めれば勝てるかもしれないな。今回、ノーリスクでこの技を見れたのはかなりラッキーだ。
 ちなみ、光が消えるまで飲み食いすら出来ないようだ。
 だからこその『切り札』と言うべきだろう。

「ヒビキとの戦いにはそれだけの価値があると思ったんだよ」

 未練がましくぶつぶつ言っているルクスを無視して次の試合を観戦する。
 アイラが相手なら問題無いが、魔族を相手にするのは正直勘弁してもらいたい。
 勝てば目立ってしまうし、負けたら賞品が魔族の手に渡ってしまう。

 俺にとっての最悪はそれだ。
 この準決勝でアイラが負けても決勝戦が勇者(候補)VS魔族になる。
 その時は隣で立ったままリングを見つめている奴に全てを任せてしまえばいい。
 アイラにも無理はするなと伝えてある。
 しきりに『竜の戦士』の名に傷がつくのでは?と気にしていたがそうなっても困るのは灼熱竜様くらいなので問題ない。


 準決勝第2試合は、先ほどの不完全燃焼な試合で落ちたテンションを取り戻そうとしているかのように熱狂に包まれていた。

「竜の戦士ちゃーーーーん」

「顔見せてーーーーーーー」


『さて、準決勝第2試合ですが、『竜の戦士』ことエコー選手の人気がすごいですね』

『前の試合で女性であることが分かってからファンが急増したようですね。彼女がリングに残した鎧の欠片が早速高値で売られているようです』

『確かにきめ細かなすばらしいお腹でしたね。私も彼女とお近づきになりたいです』


 あのスベスベポンポンは俺の物だ。お前らにはやらん。

 両者がリングに上がり試合が開始される。

「うりゃあああああ」

 ムキムキ魔族が珍しく自分から仕かけていった。『竜の戦士』は慌てることなく星剣を構え魔族の攻撃に備えている。
 魔族の大きく振りかぶった攻撃が放たれる。大振りの攻撃だが切れ間の無い連続攻撃で『竜の戦士』を攻めて行く。
 『竜の戦士』は、最低限の動きでそれを回避し星剣で魔族を攻撃しているが出血すら無い。
 おそらく奴の体は、ゴムのような弾力があるのだろう。
 星剣で切り裂いているのは皮膚の部分だけで体には刃が辿り着いていない。

 魔族は全く防御を考えずに攻撃を続けている。
 始めは見事な回避を見せる『竜の戦士』に対する驚嘆と声援に包まれていた観客席が、いつまでもやむことの無い魔族の連続攻撃を見続けざわざわと不安の声を上げるようになって来た。
 『あの攻撃が一撃でも当たったら、女性である竜の戦士では耐えられないのではないか?』
 そう考えだしたのだろう。

 観客の不安をよそに、目まぐるしい攻防を繰り広げる両者。
 彼らかんきゃくは気づいていないが、『竜の戦士』はしっかりと攻撃に転じている。
 攻撃の隙を縫ったカウンターはノーガード戦法を取り続ける魔族が相手ではどうしても浅くなってしまう。
 そこで『竜の戦士』は、急所となる顔や手首といった浅い攻撃でも効果のある箇所を狙い始めたのだ。

 そのため、魔族は先ほどより顔をかばう動作や慌てて拳を引き戻す動作などで攻撃のリズムを狂わされている。
 戦況は徐々に『竜の戦士』に有利になっているのだ。

「すごいね、『竜の戦士』。地味だけどすごく的確な攻撃だ」

 もちろん、未だに輝き続けているルクスにも『竜の戦士』のそう言った動きが見えている。
 先ほどまでの不機嫌そうな顔はどこへ行ったのか、と言うくらいにワクワクした顔をしている。

「けど、あの対戦相手。なんか嫌な感じがするんだよ」

 魔族の気配を本能的に感じ取っているのだろうか、鋭い事を言ってくるルクス。

「そうか?俺は『竜の戦士』の方が強そうに見えるから、あの男にはぜひ負けてもらいたいんだが」

 俺は当たり障りの無い答えを返すことにする。

「ヒビキは強いのにどうしてそんなに向上心が無いんだよ!!」

 どうやら、ルクスを覆う光はルクスの感情によって強弱が変わるようだ。
 やや興奮して俺を責めた時、ルクスの光がピカーッと強くなった。

「ルクス、眩しい、眩しい」

「ああ、ごめん。平常心、平常心っと」

 徐々に光が弱くなる。

 そんな会話をしている間にリングでの戦闘が大きく動いたようだ。
 ひときわ大きな歓声が辺りを包み込む。

「どうなったの?」

 見逃したルクスが俺に状況を尋ねてくる。

「どうやら、『竜の戦士』がでかい一撃を当てたみたいだな」

 周りの反応とリング状でひざをついている魔族を見てそう判断する。

「あががぁあ」

 魔族は腹を押さえて苦悶の表情を浮かべている。よく見れば、足元に血溜まりが出来ている。
 かなり深い攻撃を腹に受けたようだ。
 そんな状況でも『竜の戦士』は油断せずに星剣をしっかりと握り相手を見つめている。
 人間相手なら試合終了だが、魔族が相手ならむしろここからが本番だ。
 奴が本性を現すなら、俺が助成に出てもそれほどおかしくは無いだろう。
 そう思い、いつでも飛び出せるように準備する。

 すると案の定、魔族の体が膨らみ始める。
 内側から膨張しある程度膨らむとしぼむ、を数度繰り返し最初より2周りほど大きくなった。

 皮膚の表面には太い血管のようなびっしりと浮かんでおり今にも破裂しそうな雰囲気だ。

 しかし、それだけだ。いくら異形に見えてもあの変化は『人間』と判断される程度だ。
 亜人、獣人のいるこの世界の人間の定義はきわめて広い。
 極論足の数が違うケンタウロスまで亜人、つまり人間扱いすることのあるこの世界では『差別』はあっても『区別』は曖昧だ。

 そして、その感覚に照らし合わせると『体が膨らむ』くらいならなんでもないのだ。
 手の数が増えたり、皮膚の色が変わったり、羽が生えたりでもしなければ『魔族』と認識されない。
 つまり、あの変化はルクスの『切り札』と扱いはかわらないのだ。

「ちくしょう、どいつもこいつも光ったり、飛んだりするから見分けがつかなくなるんだよ!!」

「なんの事?」

 膨張しきった魔族が急激にしぼんでいく。おそらく、伸縮性のある体を最大限に使用した攻撃が出るのだろう。
 全身のバネを使った今までで最も早い一撃だ。

 『竜の戦士』はかろうじて回避した。さすがアイラだ。俺なら直撃していただろう。
 回避された魔族は、頭から地面に激突した。
 あれはダメな角度だ。と考えた次の瞬間には頭側からたわんで衝撃を吸収し、そのままスーパーボールのように反射して『竜の戦士』目掛けて蹴りを放つ。

 またも『竜の戦士』は回避するが、同じ方法で魔族は繰り返し攻撃を仕掛けてくる。
 最初と同じ攻防だが、魔族の速度が違いすぎる。
 しかも、どんどん速度は増していっている。正直、遠くから見ていても目で追うのがやっとだ。
 しかし、さすがの『竜の戦士』もあのスピードにカウンターを放つことが出来ないようで、回避に専念している。

 その人間離れした動きにようやく周りから奴を疑う声が漏れ始める。

「あれ、本当に人間か?」

「まさか、魔族?」

「嘘だろ、なんで魔族がこんな試合に!?」

 ざわつく観客。控え室に残っていた選手達もおかしいと気付き始めたのだろう。
 おのおの武器を持ってリングを見つめている。
 魔族も正体を隠す気がなくなったのだろう、ますます人間からかけ離れた動きをし始める。

「ヒビキ、行こう!!」

 ついに審判がリングから逃げ出した頃、ルクスからそんな言葉が出た。
 どうやら、ルクスの中であれが魔族だと確信が持てたようだ。
 俺はルクスと一緒にリングに駆け寄る。
 しかし、

 『竜の戦士』が、左手を突き出し俺達の乱入を制止した。

「なんで!?」

 そう叫んだ次の瞬間、魔族にすれ違いざまのカウンターを打ち込む。

 「うぎゃーーーッ」

 地面に転げまわる魔族に近づき、右手から炎を出す『竜の戦士』。
 炎を浴びた瞬間、魔族は悲鳴を上げながら炎の中でもだえ苦しんでいる。
 しばらくして、『竜の戦士』が火を消すとそこには魔族など跡形も無く消え去っていた。

「『聖火』?」

 ルクスがつぶやく。そう、【聖火魔法】だ。
 正確に言えば【聖火魔法】の入った腕輪をアイラに前もって渡していたのだ。

 ただ、この【操聖火の腕輪+4】は一発限りの不良品だ。
 魔鉱の質が悪いのか、俺の【聖火魔法】の腕が悪いのか分からないが、一発打つと壊れてしまう。

 だから、これはお守りのつもりでアイラに持たせたのだが役に立って良かった。

『どうやら、先ほどの男は魔族が化けていたようです。しかし、さすが『灼熱竜の戦士』、火の魔法はお手の物といったところでしょうか』

 実況の言葉で観客から歓声が上がる。これは決勝戦はすさまじく盛り上がりそうだ。
 ちなみに、三位決定戦は魔族が消滅してしまい俺の不戦勝となった。
 これで、一番のお目当ての品はゲット出来たわけだが『竜の戦士』にはもう一仕事残っている。

 いよいよ、決勝戦だ。



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