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第100話





 体を動かし、前傾姿勢をとる。
 ルクスは剣を構えてこちらの様子をうかがっている。

 【風魔法】で加速して、一直線にルクスへ向かう。
 これまで避けていた接近戦を行う為だ。
 【火魔法】を刀に纏わせて、間に合わせの『激剣』対策にする。
 発動のタイミングをルクスが調整しているなら、刀身を見せないようにすれば『激剣』の直撃を受けずに済むかもしれない。

 俺は突進の勢いのまま刀を横薙ぎに振り抜く。
 ルクスもそれに合わせて剣を振って来る。

 刀と剣の接触の瞬間、刀に纏わせた炎が一瞬で消し飛ばされる。
 しかし、そこまでだ。しっかりと保険が利いた。
 俺の体や刀の本体は、勢いを失うことなくルクスの剣と斬り結ぶ。
 金属がぶつかり合う音が数度、鳴り響く。

 賭けではあったが、『激剣』にはインターバルが必要なようだ。
 とはいえ、先ほどの『激剣』による姿勢制御を行った時にはそれほど間をあけずに2撃目を放っていたはずだ。

 であれば、そろそろだろう。
 刀を引いてルクスの剣を空振りさせる。
 『激剣』は発動していないようだ。
 剣を空振りさせられて、少しだけルクスが体勢を崩す。
 その隙を狙って炎弾をルクスに放つが、回避と『激剣』でノーダメージだ。


 炎弾を弾く為に剣を振り切った姿勢のルクスに更に追撃で接近戦をしかける。

「はぁぁーー」

 ルクスが無理な姿勢から剣を合わせてくる。

 刀と剣が接触し弾かれる。
 しかし、数十cm離れると刀と剣の間に液体で橋が架かり元に戻ろうとする。
 ルクスは急に剣を引っ張られてまた体勢を崩す。

「う、わっ」

 【水魔法】で作り出した、トリモチのような粘液を刀に纏わせておいた甲斐があった。
 粘液の復元力で俺の方に向かって転倒してくるルクス。

 俺はそのルクスの額めがけて『頭突き』を放つ。


「いっ、たぁぁ」

 ゴツッと鈍い音がしてルクスが剣を放して両手で額を抑えてうずくまる。
 俺のほうが石頭だったからか、良い角度で入ったからかは分からないがこちらにはほとんどダメージは無い。

「よし、気が済んだ!!」

 これで先ほどの借りは返した。

「何が!?」

 ルクスは涙目で立ち上がり、彼にしては珍しく声を荒げてこちらを見ている。

「やってくれたね、ヒビキ」

 先ほどまでの余裕のようなものは無くなり、まるで猛獣のようなプレッシャーを放ってくるルクス。
 しかし、状況だけみれば剣を失っており頭部へのダメージも抜け切れていないのだろうしきりに頭を左右に振っている。
 恐れる必要など無いはずなのだが。

「こうなったら、『切り札』を使わせてもらうよ」

 そんな事を言いながら、ルクスが懐からゴソゴソと何かを取り出そうとしている。
 何これ、隙だらけ。
 つまりチャンスだ!!
 すかさず炎弾を打ち込み牽制する。

「う、わ、ちょっとっ!?」

 ルクスは心底ビックリした顔をしているが、構わず攻撃を続ける。
 拳に纏わせた『激拳』によって、炎弾は弾かれて直撃は無い。

「ヒビキ!!俺、今から『切り札』使うところなんだけど!?」

「ああ、これ以上強くなられたら始末に終えんから邪魔させてもらう」

「ええっ!?」

 客席からもブーイングが起こっているが気にせず炎弾を打ち込み続ける。
 直撃は無いとはいえ、剣が無ければリーチが短くなり迎撃が遅れるだろう。
 観客から、『審判、止めろ』の声も上がっているが俺は別に不正をしているわけではないので審判も俺を止められない。
 俺の世界のボクシングでもエイトカウントまでは休憩するし、サッカーならワザとらしく痛がってファールをもぎ取る事もある。

 それに、これほどの攻撃を受けながらルクスは懐から取り出したアクセサリーに力を込めながらなにやらブツブツ言いながら準備を進めている。
 こんな奴のパワーアップを見ていなければいけないなんておかしいだろう。


「ハァーーーッ」

 結局、一発も直撃が無いままルクスのパワーアップは完了してしまった。
 ルクスの全身から、光が迸っている。
 接触した炎弾も消滅したことからあれは『激剣』と同じ性質を持ったものなのだろう。

「全く、君には驚かされてばかりだよ。ヒビキ」

 やれやれ、と肩をすくめるルクス。
 一度は失った冷静さを取り戻している。

「さぁ、今度はこっちの番だよ!!」

 やる気満々のルクスを前に俺はチラリと俺の『切り札』を見る。

「よそ見なんかしている余裕は無いだろ?」

 真正面から突っ込んでくるルクスを前に俺は冷静に告げる。

「審判、降参だ」

「えっ!?」

「えっ!?」

 審判とルクスが見事にセリフをハモる。
 そう俺の『切り札』。試合のルールを利用する。

 
 こうして、俺の御前試合は幕を下ろしたのであった。
第100話記念にもう一話投稿します。
良ければ読んで下さい。


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