第91話
「さて、どうしようか」
幸いな事に魔族とは距離が離れているのですぐにどうにかなる事は無い。
「いやぁーーー」
野太い声で後ろから斬りつけられるが、【心眼】のおかげで難なくかわす。
「なかなかやるじゃないか、俺はアレンド。この街じゃちょっとは名の知れた・・・」
ごちゃごちゃとうるさいのでフレイ愛用のゴム弾を顎にぶつけて気絶させる。
もちろん、手で投げた弾を【操力魔法】で操作してぶつけたので、それほど目立たないだろう。
このバトルロイヤルは、地面より一段高い特設のリングから落ちなければ失格にはならない。
というか、この混戦では審判が一々その判断をする事が出来ないのだ。
そのためルールはたった一つ。最後まで立っていたやつが勝者。というなんとも野蛮なものだ。
つまり今倒した冒険者の男は未だ失格にはなっていないのだ。
「あれ?こいつ使えるんじゃないか?」
考えこんでいると、またも冒険者風の男が俺に狙いを定めてきた。
「チェリャーーーッ」
また、後ろからの攻撃だ。今度は振り向きざまに剣の持ち手を支点に男をぶん投げる。石でできたリングに叩きつけられ気絶する冒険者B。
「おいおい、なんで冒険者達が俺を狙うんだよ」
周りを見れば、戦闘はそこら中で起こっている。
戦いに慣れているもの同士の白熱した戦闘や、冒険者対一般人のような一方的な戦闘。
それこそ、隙だらけな奴なんてそこら中にいる。
にもかかわらず、2度も背中から俺を狙った攻撃を仕掛けてくる。これはもしや、
「おい、一歩でも動いたら両手足の腱を切って一生地面に這いつくばる生活を送らせてやるからな」
「ひっ!?」
考え事をしている間に3度目が来た。今度は相手が行動を起こす前に声をかけて止めた。
「で?なんで俺を狙うんだ?」
なんと、3人目は一般人のような格好をした男だった。いや、男の態度を見る限り正真正銘の一般人なのだろう。
剣を持った手がガタガタ震えている。顔も真っ青でだらだらと汗をかいている。
事情を聞くと、俺を襲うように頼まれたようだ。報酬は前払いで半額。俺に怪我を負わせられれば、もう半分が支払われるらしい。
依頼したのは、『ローブを着た優男』。
「あいつか?」
3人目の男に、本戦出場が決定している実力者達の為の席のほうを確認させる。
男がぶんぶんと首を縦に振る。やはり『疾風勇者』の仕業らしい。
「そうか、お前たちも可愛そうな被害者なんだな」
またも首を大きく縦に振る男。
「よし、じゃああそこに太ったおっさんがいるだろ?そいつを俺の代わりに倒してきてくれよ。お前たちもそれでチャラにしてやるよ」
地面で気絶している2人の男に【回復魔法】と【光魔法】を使用する。
思ったとおり【闇魔法】と同じように【光魔法】にも精神に作用する効果があるようだ。
戦意向上や魔族に対する悪感情を増幅する効果があるようだ。
これは、ティーゲルの『選定神官の加護』を見たときに思いついたものだ。
今、三人は状態異常【光属性】らしい。
【光魔法】に酔っているとでも言えばいいのだろうか。
「さあ、これでお前達は何も恐れない『勇者』になった。あそこにいるのは人々を脅かす魔族が姿を変えたものだ。この『滅魔薬』をかければ正体をあらわすだろう」
魔族は一般人を装っていたので戦いづらい。
もちろん、バトルロイヤルなのだからルール的にはなんの問題も無いのだが、それでも一般人を積極的に襲ったという悪いイメージはすぐに広がるだろう。
悪いイメージも嫌だが、それにより顔が知られるのがまずい。
こいつらに悪名をかぶってもらうのがいいだろう。
「魔族、倒す!!」
「魔族、殺す!!」
あっけに取られている3人目にも【光魔法】を使用して、『光の戦士』になってもらった。
「さあ、いけ!!お前達があの魔族を倒すのだ!!」
冒険者風の男達はLv.20後半。一般人の男はLv.10。
いくら、一時的に【光魔法】をまとっているとはいえおそらく魔族には勝てないだろう。
しかし、表立って戦ってくれる手駒さえいれば援護射撃だけで魔族を倒せるかもしれない。
無理なら、最悪正体だけでもあらわしてくれれば、心置きなく『滅魔薬』が使える。
冒険者Aが魔族に斬りかかる。間一髪で攻撃を避けるおっさん。
さらに冒険者Bが斬りかかる。姿勢を崩し、リングを転がって攻撃をかわすおっさん。
そこに、『滅魔薬』を持った3人目が飛び掛る。おっさんが『滅魔薬』を浴びると、すぐさま変化が起こった。
白煙を上げてのた打ち回るおっさん。構わず転がるおっさんに剣をふるう冒険者2人。
俺は、何度か立ち上がろうとするおっさんに遠くから【光魔法】をぶつけて体勢を崩し続けた。
【光魔法】が当たったおっさんの体は『滅魔薬』を浴びたところと同じように白煙を上げて崩れていった。
『こんな、馬鹿なことがぁ』
そう言いながら、死体も残さず消えていった。
「さて、お前達の次の仕事は、リングの外で待機だ」
『インスタント勇者』達は素直にリングの外に向かっていった。
しばらくすれば【光魔法】も抜けて元に戻るだろう。
俺は自分の戦闘に集中する事にした。
とはいえ、すでに残っているのは俺を含めて後4人。
全員、冒険者のようだ。お互いに牽制しあっていて硬直状態だ。
「やれやれ、めんどくさいな」
先ほどの応用。【光魔法】をレーザーポインターのように指向性を持たせて俺の真正面にいた体のでかい男に向かって照射する。
「うっ、なんだ!?」
でかい男がとっさに目をかばう。男の両脇にいた軽装の剣士と棍棒を持った獣戦士がこの隙を逃さずでかい男を襲う。
「うぎゃぁあ」
あっという間に3人になる。でかい男をしとめた剣士と獣戦士がそのままにらみ合いを始めた。
これではまた硬直状態になってしまう。
仕方が無いので、懐から魔物笛を取り出し全力で吹く。
この時、会場にいた獣人たちの耳がピクッと動いたらしい。リング上の獣戦士の反応はさらに劇的だ。
「ぐるるう!!」
冷静さを失い、きょろきょろと周りを警戒し始める。
俺は、手で笛を隠しながら小刻みに吹き続ける。
「おおおおぅーーーん」
ついに遠吠えを始めた頃、剣士によって後ろから攻撃され獣戦士は脱落してしまう。
とうとう一対一の戦いになってしまった。
剣士は両手で剣を構え、こちらを警戒する。
俺はそんな彼に無造作に近づいていく。
一瞬だけぎょっとした彼はすぐに剣で迎撃を開始するが、少々遅い。
刀で剣の軌道をそらし、そのまま首筋に刀を押し付ける。
「ま、まいった」
剣士は剣を手放し両手を挙げて降参のポーズをとった。
これで、俺の本戦進出が決定した。
アイラの試合は『すごい』の一言だった。
開始と同時にほとんど全員で『竜の戦士』に襲い掛かってきたのだが、そいつらをまとめて星剣で返り討ちにしていた。
周囲を囲まれていても全く問題にせず。瞬く間に全員を倒してのけた。
何度か魔法がかすっていたが『灼熱竜の鱗』のおかげで怪我ひとつ無いようだ。
もっとも、ルビーがいなくてもアイラなら簡単に予選を突破してしまう気がする。
さすが、うちのエース。
ついでに、いつの間にかセルヴァが貴賓席でのんびり観戦していた。
この国では灼熱竜は、神の使いなので下にも置かない扱いである。
「あ、おーい」
馬鹿がこちらに気がついたようだ。しかし、俺は気がつかないふりをする。
灼熱竜と知り合いなんて知られたくないからだ。
アイラが機転を利かせて手を振り替えしてくれている。
竜の戦士が灼熱竜と知り合いでもそれほどおかしくは無いだろう。
「セルヴァ殿。あの者とお知り合いか?」
同じく貴賓席にいた王族の1人に興味を持たれたようだ。
「え?あ、ああ、うん。そうだよ」
「ほう、あの者は謎の戦士らしいのだが、どのような人物なのだ?」
そこまで言われて、俺の態度の意味に気がついたようだ。
「あ~、秘密」
「そうか」
王族もそれほど興味があるわけではないようでそれ以上の詮索はなかった。
試合以上にひやひやしてしまった。
「これより、本戦の組み合わせを発表します!!」
全ての予選が終了して1時間ほどたっただろうか、ついに本戦のトーナメントが発表される。
「さて、俺の相手は誰かな?」
一回戦からルクスと当たりませんように。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。