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第80話






「これが、邪神教に貰ったアイテムか」

「はい、なんでも無限の魔力を与えてくれるペンダントだそうです」

 無限の魔力と聞いてペンダントのステータスを確認した。


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星くずのペンダント

効果

【星屑の癒し】
 星に宿る魔力を持ち主に与える。


【星の輝き】
 星剣の輝きが増す。(等級があがる)
 星剣の輝きを得る。(星剣の【星の輝き】の効果を得る)

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 やはり、星剣と同じ効果を持っているようだ。
 星剣を確認すると、5等星にも星がついていた。
 現在地はゴブリンの村、野球広場となっている。

「邪神教のやつらが洋館に居なかったのはなんでだ?」

「それが、分からないんです。確かに洋館に10人ほどの邪神教徒がいたのですが」

 いつの間にかいなくなった、ということらしい。
 邪神教徒の狙いが分からないのは不気味だ。

「とはいえ、今はこれ以上調べられないよな」

 ヴァンパイア達の中で一番邪神教に詳しいのはヴェルゴードだった。
 そのヴェルゴードが知らないことをほかのヴァンパイアが知っているはずもない。



 邪神教の話も終わり、吸血卿になったジルの強さを確かめてみることにした。

「くふふ、いくぞ主よ」

 ジルが右腕を前に突き出すと地面から勢いよくスケルトンが飛び出してきた。

「おっと」

 なんとか避けるが更に周りに3体のスケルトンが追加された。

「セィ!!」

 回復魔法を纏わせた刀で周辺を横薙ぎにしてスケルトンを一掃する。

「流石は主じゃのぅ」

 そういいながらジルは突き出した右腕を横に振る。

 すると、ジルの前にあの時のスケルトンウォーリアが現れた。その数なんと10体。

「さあ、主よ。格好いい所を見せておくれ~」

 スケルトンウォーリア達が一斉にこちらに向かって来た。

 牽制に火球をぶちこんだが、半数は盾に阻まれ、直撃した半数も全く歩みを止めずにこちらに向かってくる。
 火球でのダメージはそれなりにあったにも拘らずだ。
 頭を半分吹き飛ばされた者、腕を失った者などがいたが二歩も歩けば全快している。
 ジルの大量の魔力によって圧倒的な回復力を手にいれたスケルトンウォーリアはずんずんと俺に近づいていく。

「仕方ないな。新技の出番だ」

 俺はまず範囲の広い微風を起こした。
 そよそよと草を揺らす程度の風では攻撃として認識すらされない。

「【癒しの風】」

 そこに風に回復魔法を乗せるように放つ。

 すると、無人の野を行くがごとく歩いていたスケルトンウォーリア達が一斉に膝をつき崩れ去った。

「また、主が何かしたのぅ」

 ギャラリーであるヴァンパイア達はざわついているが、流石にアイラ達は驚きもしない。

 【癒しの風】は、風魔法と光魔法の合体魔法だ。
 闇魔法を教わった後、光魔法もなんとかならないかと考えて思い付いた事があった。

 窓の無い小屋の中に一ヶ所だけ穴を開けて、そこから射してくる光に魔力を通す。
 いわゆる、ピンホールカメラの装置で光魔法の習得に成功した。

 光はどこにでもあるのでそこら中に魔力を放てば覚えられないか試したことがあるが、その時は風魔法として発現してしまった上に魔力まで全部持っていかれた。
 クェス師匠が風魔法を教えてくれる時に竜巻で空間を区切ってくれたのはそう言うことかと感心した。

 習得して分かったが、回復魔法は光魔法の派生魔法だった。

「うむ、やはりスケルトンでは主の相手は務まらんか」

 そう言いながら準備体操のようなことを始めるジル。

「少々はしたないかも知れんが愛しい男を組伏せるのもおつなものかものぅ」

「やれるもんならやってみろ。逆に寝技に持ち込んで嫁にいけない体にしてやる」

「くふふ。すでになっておる気もするがのぅ」

 グッと身を屈めタメを作って勢いよく飛び出してきたジルをなんとかかわす。
 吸血卿に成ってすべてのステータスが上がったせいか、恐ろしく速い。
 俺に避けられてすぐさま方向転換し同じように突進を行おうとするジルの足元に土魔法で穴を開けて体勢を崩そうとする。

「甘いのぅ」

 しかし、ジルは足元の穴を簡単に避けてしまう。どうやら、感覚器も強化されているようだ。
 牽制に水球を放つ。ジルは濡れるのを嫌って足を止める。

「壁になれゴーストども」

 複数のゴーストを前面に配置して防ぐつもりのようだ。
 ゴーストは魔法に限って、接触する事ができる。
 本来弱点の魔法に対して壁としてゴーストを使ってくるとは。
 水球はゴーストの密集地帯に差し掛かるとひとつ、またひとつと数を減らしていく。しかし、ゴーストの数はそれほど減っていない。

「くふふ、魔力を多めに与えただけじゃが、案外上手く行くものじゃのぅ」

 ジルも驚いているようだが、魔力の過剰供給によってゴーストに魔力への抵抗力を持たせることに成功したようだ。
 しかし、ゴーストの消え方から見るとどうにも抵抗力にもムラがあるようだ。

 そんなことを考えていると、いつの間にかジルが俺に近づいてきていた。

「捕まえたぞ、主~」

 実際に俺の左腕を掴んだジルが、嬉しそうにもう片方の腕に手を伸ばして来る。
 俺は、【心眼】でジルの攻撃を予想する。
 高いステータスを十全に発揮し、さらに【操力魔法】でジルの体勢を崩してそのまま投げ飛ばす。
 かなり強引だが柔道や合気道の『投げ』のようなものを行った。

「なんじゃ!?いきなりひっくり返ったぞ!?」

 聞きかじりの知識で相手の勢いや重心を意識して行ったが我ながら綺麗に投げが決まった。
 地面は芝生でやわらかいのでジルにはダメージは無いようだ。
 俺の腕を握ったまま地面に背中をつけてきょとんとしている。

「私にはジルが勝手に転んだように見えましたが?」

「えっと、多分ジルの勢いをそのまま地面に向けたんだと思います」

 エミィが首をかしげ、アイラが精一杯今の投げを説明しようとしていた。
 アイラは大筋は理解しているようだ。
 ジルはステータスはあがっているが接近戦の経験が圧倒的に足りていない。
 その隙を突いて投げることが出来た。相手がアイラなら多分抵抗されて上手くいかなかっただろう。

「よく分からんが、主よ、とりあえず起こしてくれんかのぅ」

「ああ、すまん」

「しかし、主は変わった攻撃ばかりよく知っておるのぅ」

「まあな、そう簡単にジルに負けてられないからな」

 主人の威厳の為にも。

「くふふ、案外子供っぽいんじゃな」

 結局笑われてしまったが、まあいいだろう。見ていたヴァンパイア達の俺を見る目も少しは変わった気がする。

「よし、訓練終了。帰って飯にするか」

 村に帰ろうとすると、アイラに呼び止められた。

「私とも訓練してください」

 アイラの虎尻尾が左右にゆらりゆらりと揺れている。どうやら最後の取っ組み合いが楽しそうだったようだ。

「えっと、じゃあ打撃は無しで捕まえるだけにしよう」

 アイラ相手では武器の携帯は危険だ。打撃もきっと俺が負ける。
 速さ以外の要素も絡む『鬼ごっこ』に競技をシフトさせる。

「分かりました、はやく始めましょう」

 アイラがうずうずしているのが見ているだけで分かってしまう。
 アイラが鬼で、俺が逃げる。鬼は10秒数える。捕まえたら鬼が入れ替わる。
 基本ルールをもう一度やさしく伝える。
 ちゃんと聞いているのか、こくこくとしきりに頷くアイラ。
 まあ、『鬼ごっこ』なら死ぬようなことも無いだろう。
 そう考えてアイラとの無限鬼ごっこを(アイラが)心行くまで堪能した。
 終了の条件を決めていなかった事に気がついたのは、真上に会った太陽が沈みそうになった頃だった。






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