第67話
「お待ちください」
後ろからかかった声に反応して振り返るとそこにいたのは『下層』の館にいたメイドだ。
いや、よく似ているが少し違う。違うのは頭から直接生えている角だ。
『竜人だな。ドラゴンと共にある者も多いと聞く』
そりゃ、父親か母親がドラゴンならそのままドラゴンと一緒にいるだろう。
とりあえず、ステータスを確認する。
**************************
アイリーン・ドラグロード メイド
竜人 Lv.38 25歳
スキル
【家事】★★★
屋内においてステータスが上昇する。
【灼熱竜の血族】★★
ドラゴンの能力を再現できる。ただし効果は劣化する。
**************************
ドラグロード。セルヴァと同じファミリーネームだ。
「攻撃はそこまでにしておいていただけますか?セルヴァ様も少しは痛い目を見て反省すると思いますから」
「こっちは、いきなり攻撃されたんだが?」
レベルからしても油断できない相手だ。
「なにぶん外にも出ずにダンジョンの『管理層』に篭りきりでしたので、あまり人と、いえ人に限らずドラゴンともですがとにかく会話などがとても下手なお方のです」
コミュ障ってことか。
「運動もしませんし、ドラゴンとしても力も生来のものしか使えません。まったく訓練をされませんから」
ついでにヒキコモリで、あれでもドラゴンとしては弱いほうってことか。
「お酒もあんなに弱いなんて、旦那様に知れたら折檻です」
まぁ、限界まで濃度を高めた酒と言うより消毒薬みたいなものだしな。
「先ほどの体の中への攻撃も大してダメージは無いでしょうに、ビックリして気絶するなんて嘆かわしい」
最後の取っておきもダメージはほとんど無し?これでダメなら本気で手詰まりなんだが。
「セルヴァ様。もうお目覚めになってください」
フォンと風切り音をさせて太さ10cmほどの極太の鞭を振るう。鞭はセルヴァの顔にバチンと音を立てて当たった。
「い、痛い!?なに?なんなのぉ?もう、痛いのはやだよ!?」
「寝ぼけてないですぐに人になってください」
「わ、分かったから。もう、アイリはすぐ怒るんだから」
セルヴァに簡単にダメージを与えた鞭に興味がでたのでステータスを確認する。
**************************
竜滅の鞭
【竜殺し】★★
ドラゴンの持つあらゆる守りを貫く。
**************************
ドラゴンスレイヤーだ。というか鞭の形のドラゴンスレイヤーって聞いた事無い。
あとでなぜドラゴンの身内がドラゴンスレイヤーなんて持っているのかを訪ねたら、
「どこに私達を殺せる武器があるか分からないより、自分たちで管理したほうが安全でしょう?」
確かにもっともだ。【竜殺し】の武器は現在では製造方法が失伝しているので今ある分で全てらしい。
意外にもドラゴンとこの国の間では【竜殺し】の武器の取引によってお互いを尊重しているらしい。
しゅるしゅるとセルヴァが縮んでいき最初に見たかわいらしい美少女の姿に戻っていく。
お約束の『人間になったら裸』をやられたので、うちのお嬢様方が少々不機嫌になってしまった。
「まことに、申し訳ありませんでした」
「・・・でした」
深々と頭を下げるアイリーンさんとその横でふくれながらもぺこッとお辞儀をするセルヴァ。
じろりとアイリーンさんがセルヴァを睨むと慌ててペコペコと頭を下げ始めた。
「本来、ドラゴンは人をむやみに襲いません。特に迷宮踏破者には敬意を払って対応いたします。無理矢理に伴侶になるように迫るなどありえません」
そこに、ダンジョンを運営し始めて3人目の踏破者にして、男性の加護持ちである俺を何とか手に入れようと必死になって勧誘しようとした結果がアレだそうだ。
「お詫びの品を受け取っていただけますか?」
俺達のほうこそダンジョンに押し入って来た侵入者なんだが、そんな俺達を襲ったお詫びなんて貰っていいのだろうか。
「ダンジョンへの侵入はこちらが望んでいることですので」
いいらしい。
「それを言い出すのでしたら、全層の『守護者』を配下になさいましたよね?あれは、契約している農場や工房から『守護者』になれる才能を持った個体を購入して配置しております」
わざわざ、ダンジョンでのルールが成り立つようにコントロールしていると言うことか。
「私達はダンジョンでドラゴンに相応しい伴侶を探している、と言う名目で楽しんでいるのです。そういう意味ではヒビキさん。あなたのダンジョン攻略は中々に斬新で楽しめました」
だから、問題は無い。とのことだ。
そこまで言われたので気兼ねなくお詫びの品を受け取ることにした。
ちなみに、アイリーンさんが館のメイドにそっくりなのは、あのメイドのモデルがアイリーンさんだからだ。
身体検査していた所ももちろん見ていました。と言われたときはドキッとした。
俺達がいる広場から見える『神殿』。そこが目的だそうだ。
10分ほど歩いて神殿まで到着すると、アイリーンが神殿の扉の鍵を開けてくれた。
「この中はセルヴァ様の宝物庫となっております。なにかお気に召すものがあればいいのですが」
ドラゴンの宝物庫と聞いて少しテンションがあがる。この世界でもドラゴンはヒカリモノの収集が趣味らしい。
「私の宝物庫にアイリーン以外が入るのは始めてだ。な、なんだか緊張してきたぁ」
セルヴァは友達もいないようだ。気にせず全員で宝物庫に入る。
「うわぁ」
「ほぅ、なかなかじゃな」
「すごいです」
「お、俺も入っていいのか?」
宝物庫の中は、色々なものであふれ返っていた。
装飾のついた武器や防具。
どうやってつけるのかも分からないアクセサリー。
金貨や銀貨も山となって無造作に転がっている。
「どうだい?なかなかのものだろう?」
セルヴァがドヤ顔で聞いてきた。軽く無視して探索を続ける。
うしろでアイリーンになきついているセルヴァの声が聞こえるが気にしない。
みんな思い思いに欲しいものを見繕っていく。
「うん?」
宝物庫の奥のほうでぽつんと周りから離されて置かれた剣が目に入る。
ステータスを確認する。
**************************
セイケン
【隠匿の呪い】
対象の真の力を隠匿し、封じる。
**************************
聖剣があった。どうやら呪われていてどんな効果があるのか分からない。
「お、その剣に目をつけたのかい?お目が高いね。それは、数代前の勇者だか戦士だかが魔王だかなんだかを倒したり倒さなかったりしたらしい『セイケン』だよ」
ふわっとした説明をされたが良く分からない。結局倒したのかすら分からない。
それでもこうして呪いを受けていると言うことは魔神に関わりのあるなにかと接触したのだろう。
『YES』
急に頭に返答があった。周りを見回すときょとんとしたセルヴァがいるだけだ。
「え、なに?」
「セルヴァ、お前今何か言ったか?」
それを聞いてセルヴァがぶわっとでてきた涙を目に貯めてアイリーンの元に走り寄っていく。
「アイリ~、ヒビキがまだ許してくれないんだぁ」
「よし、よし、ヒビキ様お怒りなのは分かりますがこうしてお詫びもしているのですからもう少しだけうちのセルヴァ様に優しくしてあげてください」
「いや、今セルヴァ以外の声が聞こえたんだよ」
きょろきょろと周りを見渡すが宝物庫の奥には俺とセルヴァとアイリーンしかいない。
「誰かいるのか?」
『NO』
今度は否定の言葉が頭に響く。もしやと思い自身のステータスを確認すると、スキルが増えていた。
**************************
【神託】
神の意見を是か否の二択で聞ける。
【名声】
称号に応じた効果をステータスに与える。
効果は、対象を認識している数にて増減する。
称号
○迷宮踏破者
○ウェフベルクの英雄
○ゴブリンの主
○火炎旋風の弟子
○魔族殺し
○妖術使い
○全滅
**************************
どうやら、先ほどからの『YES』『NO』は神のお告げらしい。
【名声】は、俺が多くの人間にそう思われているとそれが称号になってステータスを強化してくれるみたいだ。
今の状態で言えば、火炎旋風の弟子や魔族殺しによる強化はほとんど無いが迷宮踏破者の効果は多少ある。
ゴブリンたちの認識もステータス強化に繋がっているのではないだろうか。
強化内容は、
全ステータス上昇
○迷宮踏破者
○ウェフベルクの英雄
○魔族殺し
○全滅
ゴブリンの士気上昇、統率力上昇
○ゴブリンの主
火魔法、風魔法の効果上昇
○火炎旋風の弟子
相手の状態異常発生率の上昇
○妖術使い
といったところだろうか。
沢山の人の前で戦ったほうがステータスの上昇率が上がるのだろう。
さて、横道にそれたが『セイケン』だ。
俺は、たてかけられた剣に手を伸ばし鞘ごと剣を持ち上げる。
『呪い』が解けた様子が無いのは、剣に触れていないからだろうか。
ゆっくりと剣の柄に手を伸ばす。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。