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第60話

 街の近くの迷宮に出発しておおよそ12時間ほど。
 交代で御者をしてここまで来た。最も、ルビーを通して意思疎通が出来るので技術は必要ないのだが。
 地図によると到着まであと4時間ほどだろうか。
 確かに馬より速いみたいだ。のしのし歩いているのでそれほどとは思えないが。体感速度はおよそ、時速20kmほどだろうか。
 自転車の立ち漕ぎくらいのスピードだ。

「ああ、それにしても退屈だな」

 最初はモンスターを警戒していたんだが、それもやめてしまった。
 何度かモンスターを見かけるが、攻撃をされる前に通りすぎてしまうのだ。そう考えるとやはり速いのだろう。
 デューオとルオも併走していたのだが途中でばててしまったので馬車の中で休ませた。
 クインは馬車に乗れなさそうだったので今回は留守番だ。

「主よ、暇潰しに付き合ってくれんか?」

 ぐでんと横になっているジルから遊びのお誘いだ。こちらも暇なのでOKする。

「では、何をしようかのぅ」

 仕方が無いので俺から提案してやる。ちょうど暇つぶし用のアイテムを作ってきている。

「トランプで遊ぼう」

 このトランプは、エミィのアイテム作成で作ったもので、俺の知っているトランプとほとんど変わらない出来だ。

「おお、それか。なにやら作っておったのは見ていたぞ」

 トランプの中でも飛びぬけてルールが簡単な『ババヌキ』をすることにした。
 御者をやっているアイラは無理だが、エミィにも参加してもらい3人でゲームを始めた。


 トランプを始めて、一時間ほどがたっただろうか。
 最初は和気藹々とババヌキを楽しんでいたのだが、今ではピリピリとした緊張感が生まれている。
 なぜなら、

「これじゃ!! ち、違うじゃと!?」

 1人、ぶっちぎりで負け続けているジルが不機嫌になっているからだ。

 ジルはめちゃくちゃ弱かった。言葉巧みにババを引かせようと努力するがいかんせん顔に出すぎだ。
 ババを引けばすごく落ち込むし、相手がババに手をかけるだけで口元が緩んでくる。
 さらにババを引き当てる運の悪さも味方して、一時間の内にすでに30以上の黒星を築き上げてしまった。
 また、エミィも真面目なやつだからわざと負けてやるなんてしないし、出来ないタイプだった。
 仕方なく俺がジルからババを引いてやるのだが、気がつけばババはジルの手の中にあった。

「また、負けじゃ~!!」

 キリがいいので俺がババヌキから抜ける。アイラと御者を交代するためだ。

「アイラ、代わるぞ」

「はい、ありがとうございます。なんだか楽しそうでしたね」

 うしろの騒ぎが聞こえていたのだろうくすくすと笑って聞いてきた。

「ああ、まだやってるから参加してみろ。そうだ、アイラに面白い技を教えよう」

 アイラにババヌキでのお約束を教えて、送り出した。
 しばらくすると、

「な、なんじゃその一枚だけ飛び出したカードは!? こ、これがババなのか?いや、逆にそれを見越しての罠か!?」

「フフフッ」

 これをやるときは、不敵に笑えと教えたが実行しているようだ。
 ひとしきり騒ぎ終えたのかうしろが静かになった。
 どうやら、トランプは続けているようだが、おしゃべりがメインになっているようだ。

「しかし、主には困ったものじゃ」

 どうやら俺の話みたいだ。おーい聞こえてるぞー。

「ご主人様がなにか?」

「前回も今回も女子おなごが絡んでおる」

「でも、今回は人助けですよ?」

「別にそこを責めているわけではない」

「・・・なるほど、そういうことですか」

「うん? どういうことですか?」

「アイラ。ジルは、ご主人様の奴隷ライバルが増えるのではないかと心配しているんですよ」

「え!?」

「ふむ、この間もよそでお楽しみだったようじゃからのぅ」

「少し、意外ですね」

「なにがじゃ?」

「ジル、あなたがご主人様にそれほど執心なことが、ですよ」

「うむ、そうじゃのぅ。ぶっちゃけ、わらわが性交できそうなのは主だけじゃからのぅ」

 ヴァンパイアの性交には吸血が付き物なため、普通の人間相手とはハードルが高いのだろう。

「もちろん何度も肌を重ねた仲じゃ、情もわいておる。おぬしらもそうじゃろ?」

「当然です。私達のご主人様、ですから」

「はい。ずっと一緒にいたいです」

 そこから先の会話は聞き取れなかった。まぁガールズトークをこれ以上聞くのもどうかと思うので調度いいかもしれない。
 こちらも、ボーイズトークといくか。

「ルビー、コイバナしようぜ~」

 スライムに雄雌があるのか疑問だが、ルビーと熱く恋愛トークを繰り広げる。
 話が盛り上がってきたところで、グランタートルが会話に参加してきた。
 おまえ、オスだったのか。
 ルビーの好みとか、グランタートルのメスのスタイルの良さがどこで決まるとかディープな話をしてしまった。
 メスの甲羅の曲線がたまらないらしい。
 あと、グランタートルに名前をつけてやった。コイバナをした仲間だもんな。
 古来より、コイバナした相手とは仲良くなれるものだ。

「亀の名前と言えば、芸術家だよな?」

 そういうわけで、ピカソと名付けた。
 まあ、色々突っ込まれるかもしれないが、この世界にピザの好きな亀を知っている奴が俺以外にはいないので問題ないだろう。




 そんな雑談に花を咲かせていると、ようやく目的地に到着する。
 遊戯迷宮(ダンジョン)の入り口は、荒野のど真ん中にあった。こんもりと盛り上がった土の山に下に潜る階段が見える。
 ダンジョン周辺にはいくつかのテントと、畜舎があった。テントは、どうやら商店のようだ。
 こんなところでも商売とは、商人のバイタリティーには感心する。
 ピカソを畜舎に預けて、ダンジョンの入り口に近づく。周りには、看板が立てられていた。

 『セルヴァのダンジョン』、『おいでませ』、『大丈夫、ドラゴンの迷宮だよ』、『猛竜注意』など多岐にわたった内容だ。
 おそらく、セルヴァというのがこの迷宮の主なのだろう。

「うさんくせぇ」

 一気に迷宮への期待が下がってしまったが、ここまできたのだ。手ぶらでは帰れない。
 とりあえず中に入ってみることにした。



 中は、石造りの空間が広がっていた。天井は約2.5mほど。横幅は、今いる通路のようなところで約5m。
 道の幅は一定では無いようで、ここから見ただけでも部屋のような空間が見える。

「通路じゃ、2人並ぶのが限界か」

 事前に考えていた陣形と役割をアイラたちに伝える。エミィとジルにはあらかじめ俺の魔力を込めた指輪を渡しておいた。
 発動の前に目標と魔法の種類を申告してもらうようにした。これで、魔法のブッキングを防げるだろう。

「アイラは俺と前にでる。エミィとジルはうしろから支援。エミィはマッピング。ジルはゴーストで偵察して。コンパスがあるから使ってくれ」

 うしろの守りにデューオとルオをつける。ジルのゴーストでの偵察もあるので奇襲は食らわないだろう。
 慎重に通路を進む。今いるこの階層を上層と呼ぶらしい。この『セルヴァのダンジョン』は上層、中層、下層の三層で形成されている。
 それぞれの階層を隔てる階段にはその階層の『守護者』を倒さなければ辿り着けなくなっている。まさに、RPGのダンジョンだな。

「主よ、少し先の広がりにオーク五匹の群れがおる。あと、それなりに離れておるが、うしろにもオークが何匹かおるな。こっちは通路をうろうろしておる」

 後ろのオークは無視して前の五匹に狙いを定める。ジルに正確な位置を確認しながら進み、相手に気づかれないままオークを目視した。
 オークは通路より広くなっている場所にたむろっていた。どうやら食事中のようだ。干し肉のようなものをみんなでそれぞれ齧っている。
 俺は、後ろのみんなに指示を出す。ステータスを確認したところ、オークたちは全員Lv.10ほどだ。これなら真正面から当たっても問題なく倒せるだろう。

「ジル、ゴーストで状態異常にしてくれよ」

「うむ、ここで暴れられても困るからのぅ。ここは、『睡眠』かのぅ」

 スリープゴーストを放つジル。すぐに中のオークたちがうとうとしだした。
 5分ほど待機して中を見てみると、オークたちが全て眠っていた。
 全員で手分けしてサクサク始末した。
 その後、広い場所に出るたびに4~5匹ほどのオークに遭遇するが、いつも先手はこちらが取るし、レベルでもこちらが勝っているので対した苦労も無く進んでいる。

「うん、楽勝だけど、多分そのうち何かあるな、これ」

「何か?何でしょうか?」

 マッピングをしながらどちらに向かうか確認していたので、俺の独り言が聞こえたのだろう。エミィが訪ねてきた。

「さすがに、あの程度のオークだけしかいないとは思えないよ」

 順調に進んでいるのか、順調に進んでいるように思わされているのか。この迷宮は、造られた物だ。
 つまり、作り手の意図のようなものがあると考えられる。
 俺の考えすぎかとも思ったが、しっかりと罠のようなものがあった。

「フレグランスアント!?こんなところで匂い袋ぶちまけられたら、あっという間に囲まれるぞ!?」

 少し、先に進むとオークの群れに別のモンスターが混ざるようになった。
 特に、フレグランスアントは下手な処理をすると匂いでモンスターを呼び集めてしまう。
 しかたが無いので、部屋に着くなり火炎旋風ファイアーストームで始末するようになった。
 機械的に火炎旋風ファイアーストームを放つようになって何部屋目だっただろうか?
 部屋に放った炎が突然何かに引火して大爆発を起こした。
 ずーんと低い音がして、迷宮の壁を揺らす。
 爆発の音のせいで、キーンと耳鳴りがしている。これはしばらく耳は使い物にならないだろう。
 部屋の入り口に身を隠していなければ爆風で大怪我を負うところだっただろう。

「これですね」

 耳鳴りが収まったので部屋の中を確認した。エミィが残った素材のひとつ、少し黒っぽい粉を紙包みに包んで持ってきた。

「これは、『ニトロパウダー』です。あの部屋の中に、ニトロパウダーバタフライがいたのでしょう」

 ニトロパウダーバタフライは、ネクロマンサーの事件の時に何度か戦った。
 少し高い位置に陣取り鱗粉をまき、鱗粉が体に付着するとその人間の魔力で起爆するという恐ろしいモンスターだ。
 今回の爆発は、ニトロパウダーバタフライがいる部屋に炎を打ち込んでしまったために、ニトロパウダーバタフライの鱗粉に反応してしまい大爆発が起こったのだろう。
 この迷宮は思っていたよりもえげつない罠が多いようだ。
 フレグランスアントの処理には炎を使うのが一番だろう。しかし、火を持って部屋に入れば、今度は『火気厳禁』なニトロパウダーバタフライが相手に混じっていることがあるのだ。
 おそらく、冒険者の多くがどうするべきか迷っただろう。しかし、

「ジル、ニトロパウダーバタフライがいるかどうかを今度から教えてくれ。それと見慣れないモンスターがいても教えてくれ」

「うむ、分かった。任せておくがいい」

 俺達のパーティなら先行偵察をもっとしっかりするだけだ。
 俺達は順調に上層を制圧していき、とうとう『守護者』のいる部屋まで辿り着いた。



 


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