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第56話



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 私にも子供の頃は普通にお友達がいたんです。
 でも、いつからか私の周りから『お母さん』も『お父さん』も『お友達』もいなくなってしまったんです。
 この街に来ることになったのも、私が住んでいた村に私に話しかけてくれる人がいなくなってしまったからなんです。
 村から出て、近くの街に向かった私はそこで色々な人に出会いました。
 たくさん稼げると言われて始めたお店でいきなり男の人に襲われそうになった時も、
 料理屋で雑用を任されたときに知り合ったお姉さんと仲良くなれそうになった時も、
 なぜかみんな私の目の前で気を失って、数日の間、目が覚めなくなってしまうんです。
 それに私の周りでよく物が壊れることがあるんです。私は触ってもいないのに。
 この街に来る前にいた街でも誰も話しかけてくれなくなってウェフベルクに来たんです。
 この街は冒険者の街、きっとここなら私を受け入れてくれる。
 いや、もしかしたらこの街の冒険者達は倒れたりしないかもしれない。
 そう信じてこの街まで来たんです。
 日雇いのお仕事もたくさんの人とお話できるお仕事にしたんです。でも、ここでも私は一人ぼっちになりました。
 お仕事もクビになってしまいました。
 クビになったのは、私にいつもあいさつをしてくれていたおばあさんが目の前で倒れてしまって、お医者様のところまで連れて行った日のことでした。

「あの~」

 今日のご飯をどうしよう、と考えていた時だったと思います。急に後ろから声をかけられてビックリしてしまったんです。

「ひゃ、ひゃい?」

 普段、あまり人から話しかけられていないので変な声が出てしまいました。
 そして、気づいてしまったのです。こんな、人通りの少ない道で私みたいな冴えない女に声をかける人の心当たりに。

「わ、私お金なんて持ってないです。ついさっきお仕事もクビになっちゃったし」

 そう、強盗さんです。いや、でも私の格好見ればお金がありそうには見えないはずです。 

「それにオッパイも小さいからやめといた方がいいですよ!」

 だったら、きっと私の体が目当てなんですね?やめたほうがいいですよ~と必死にアピールしました。
 あとで『あんなポーズとったら逆に危険だからもうしないように』って言われちゃいました。
 なんででしょう?

「それにそれに、私、両親もいないし、バカだし、ブスだし、いいとこないです。グスッ」

 体でもなければなんなんですか。一生懸命、強盗さんに私の事を話しました。
 話していたらどんどん気分が落ち込んできましたです。
 強盗さんは、いい強盗さんだったみたいで私の話を聞いてくれました。

「落ち着いたか?」

「は、はい。勘違いしてごめんなさい」

 強盗さんは、冒険者さんだったみたいです。
 そのあとは、この街に来て一番おしゃべりをしました。
 いろんなことを話したのですが、ヒビキさんは全部聞いてくれました。
 私の話が一段落した頃、ヒビキさんが辺りを気にしだしました。
 そうか、もうこんな時間なんだ。ヒビキさんの口から『帰る』という言葉が出るのが怖くて、

「私、この街にお友達が全然いないんです。ヒビキさん、お友達になってくれませんか?」

 気がついたらこんなことを言っていました。
 うわっ、なに言ってるんです、私? ほらヒビキさんも困ってるです。
 でも、それでも。

「昔から、私と仲良くしてくれそうな人が出来るとその人、倒れちゃうんです。でも、ヒビキさんは大丈夫そうですよね?」

 私はお友達が欲しいんです。

「あ、あぁ、そうだな。よろしく」

 ヒビキさんは私とお友達になってくれました。
 すぐに次に会う約束をして『気が変わった』って言われる前に、大急ぎでその場を離れます。
 あぁ、早く明後日になればいいんです。



 ヒビキさんと約束した日。
 私はすごくそわそわして冒険者ギルドに行きましたです。
 ヒビキさんはなんだか難しい顔をしていましたが、冒険者さんは大変ですね。
 街の外は危険と言われた時は少し困りましたが、どうやら今は大丈夫みたいです。よかったぁ。
 そんなことより、今はヒビキさんの近くにいるこの赤いスライムちゃんとのコミュニケーションが大切です。
 あぁ、ぶにゅぶにゅで気持ちいいです。
 スライムちゃんと触れ合っているとなんだか怖い人がこっちを見ていました。
 おもわずヒビキさんの後ろに隠れてしまいましたが、ヒビキさんは嫌な顔ひとつせず、私を守ってくれました。



 ヒビキさんと一緒に品出しのお仕事をしていたら、錬金術師さんが私に声をかけてきました。
 次々と話しかけられて私はパニック寸前でした。誰かに助けを求めようとした瞬間、錬金術師さんが倒れてしまいました。
 あぁ、またです。これでここでのお仕事もおしまいです。
 建物の奥から偉い人たちがやってきます。あぁもうダメです。

「どうやらお客さんが興奮しすぎて倒れたみたいです」

 え!?ヒビキさんが偉い人たちに説明してくれています。
 偉い人とお知り合いなんでしょうか? 偉い人は私に大変だったね、と慰めの言葉までかけてくれました。
 また、ヒビキさんにご迷惑をかけてしまいました。
 何度も『ごめんなさい』を言いましたがヒビキさんは気にするなと言ってくれました。
 でも、ヒビキさんのおかげでお仕事も決まったんです。これは、何かお礼をしなければいけません。
 だって、お友達は対等なものだから。
 近くにあったお店でブレスレットを買って、ヒビキさんに差し出します。

「はい、ヒビキさん。今日、助けてくれたお礼とお友達になれた記念です」

 私の感謝の気持ちを少しでも伝えたくて、でもこんなものしか渡せません。

「おい、いいのか?せっかくの給料をこんなことに使って?」

 こんなことって言わないでください!!私にとって、今これ以上に大切なことなんて無いんです!!
 そう言いたかった。でも、私の口はうまく動いてくれませんでした。

「こんなこと、じゃないです。とっても、とっても大事なことです」

 私の気持ちは届いたのでしょうか?ヒビキさんは、ブレスレットを受け取ってくれました。
 渡せてほっとした私は、辺りの暗さに気づきました。また、お別れの時間が来てしまうんです。
 早く、次の約束をしないと!!

「ヒビキさん、明日もギルドにいらっしゃいますか?」

 勇気を振り絞ってヒビキさんに聞きます。でも、

「いや、明日はちょっと街にはいない」

 断られただけでこれほど悲しくなったことなんてありませんでした。
 それに街にいないってどういうことですか?もう二度と帰ってこないんじゃ?
 いえ、うつむいている暇なんて無いんです。明日がダメなら明後日は?

「そう、だな。明後日は、領主の城の中庭に朝からいると思う」

 良かった。1日だけ耐えられればまた、ヒビキさんに会える。

「よかった!! じゃぁ、また明後日!!」

 また、『気が変わった』を聞くのが嫌ですぐに走り出してしまいました。
 もっと、ヒビキさんと一緒にいたいのに。
 でも、また会える。約束したから!!

「おい、お前」

 数日前と同じように路地裏で声をかけられる。ヒビキさんじゃないのは声で分かってるのに、ドキドキしてしまう。

「はい?」

 振り向いて返事をしたと思ったら、目の前が真っ暗になった。
 あれ、なんでだろう?体が動かないです。
 眠い、のかな?うん、眠いです。きっとこのまま眠ればいい夢が見れます。ヒビキさんとの夢ならいいなぁ。








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