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第53話






 フレイの特訓最終日。朝起きるとムサシを含む何匹かのゴブリンが進化していた。
 ムサシは『サムライゴブリン』に、陶芸を手伝ってくれたゴブリン達が『アーティストゴブリン』に進化していた。
 ムサシに約束していたご褒美の刀を渡してやる。刀は俺の武器を作ってからティルさんが似たような物を作れないかと何本か試作していた小太刀を譲って貰った。
 エリート並の身長になったムサシには丁度良かった。
 さらにムサシは、【心眼】のスキルを覚えていた。
 【心眼】は、攻撃にも回避にも使えるバランスのいいスキルだ。
 超能力的なものではなく、相手の直前までの情報を元に攻撃の軌道を予測できたり、自分が行おうとする攻撃に対して相手がどんな反応、つまり防御や回避をするかが分かるスキルだ。
 アーティストゴブリンは全員、【陶芸】のスキル持ちだった。このスキルのおかげでエミィ1人に頼らなくても焼成まで行うことが出来るようになったようだ。
 まぁ、アーティストゴブリン3匹でもエミィ1人が行える作業と同じくらいのようだが。


 さてフレイはというと、なんとこいつも新しいスキルを手に入れていた。
 【ゴブリンの友】と、【代謝促進】だ。
 【ゴブリンの友】は、名前どおりのスキルだ。効果としてはゴブリンの言っていることがなんとなく分かるらしい。
 確かに、かなり仲がよくなっている。昨日戻ったときにゴブリンたちと車座で夕食を取りながら談笑してたのには驚いたが。
 あと、ゴブリンが近くに居るとステータスが少しだけ強化されるみたいだ。
 明日は、護衛としてゴブリンたちを数匹連れて行くべきかもしれない。
 次は【代謝促進】、これは特訓の時に倒れるたびに回復魔法で体の回復力の強化を行っていたせいで覚えたようだ。効果は、自然治癒力の促進とエネルギー消費による体力回復。
 使うと動き回れるようになるが、ものすごく腹が減るらしい。
 フレイは奴隷でも配下モンスターでもないので、俺はこのスキルを使えない。今度、自分に回復魔法をかけ続けて、覚えられるか試してみよう。

「さて本日が最終日だが、今日は出来るだけ人間と戦ったほうがいいだろうな」

 本番は明日だ。本番に向けて、体格の近い奴と戦って感覚を掴んでおいたほうがいいだろう。
 俺と、アイラでフレイの最終調整を行うことにした。

「まずは、アイラ頼む」

「はい、お任せください」

 お互い向き合うアイラとフレイ。

「じゃあ、はじめ!!」

 開始の合図と共にフレイに突進するアイラ。フレイが迎撃の姿勢に入る前に肉薄するつもりなのだろう。
 フレイは、アイラの突然の行動に動揺せず、大きく一歩下がり間合いを広げながらなんとかハルバートを振るうことの出来る空間を確保し、アイラめがけてハルバートを横薙ぎに振るう。
 ぶぅんと低い音がしてハルバートが風を起こす。しかし、両足を肩幅に開いて地面に押し付けすでに減速を終えていたアイラの目の前をハルバートの刃先が通過する。
 アイラはハルバートが通過するとぐっと体を屈めて再加速する。

「はぁあああ」

 ハルバートを渾身の力で振りきり体勢を崩していたフレイは、そのまま体ごと一回転し、さらなる追撃を開始した。
 アイラはフレイの追撃を駆け抜けることでさらにかわす。一度ハルバートの届かない距離まで行き、すぐさま体を反転させて接近戦に持ち込もうとする。
 しかし、フレイもアイラの意図に気がついているため、簡単には近づかせない。ハルバートの空を切る音が何度も聞こえる。
 そう、始まって数分が経つが未だに剣戟が聞こえない。アイラはまだ一度もフレイと刃を交えず、回避だけでハルバートの猛攻をしのいでいる。

「く、この!!」

 フレイがそれに気づくのも当然で、ハルバートを振るう音がさらに間隔を狭めて鳴らされる。
 しかし、アイラはとうとう最大の武器である足を止めて、いわゆるスウェーバックのみで回避し始めた。

「な、なんで!?」

 いくらハルバートが長物で、小回りの効かない武器だといっても限度がある。アイラの回避力は異常といってもいいレベルだ。
 最初からアイラには、できるだけフレイの攻撃を避けてフレイに見せてやれと伝えてある。
 その為、アイラは全く攻撃をしないし防御用の剣である【護手まもりて】すら使用しない。
 結局、一度も攻撃があたらないままフレイの体力が切れてアイラの勝ちとなった。
 すぐに、ポーションを飲ませて体力を回復させる。【代謝促進】は、普通ではあまり使わないほうがいいだろう。体に悪そうだし。
 まぁ、じゃあポーションでの回復はいいのかと言われると分からないが。
 そもそも、この世界の人間の平均寿命など知らない。エルフなんていう当たり前のように数百年生きる種族も居るのだし。

「さて、じゃあ次は俺だ」

 俺とフレイが向かい合う。フレイは俺と目が合うと少し怯えるのだ。
 まぁ、これもこの3日でかなり改善されてきたんだがそれでもこうやって試合を思い出させるとどうしても思い出してしまうようだ 

「よろしいですか?では、はじめてください」

 俺は、あらゆるスキルを使って普通にフレイを圧倒する。ムサシの【心眼】がかなりいい仕事をする。

「フレイ、危なくなったらすぐに大振りする癖をやめろ」

「あ、ああ」

「それと、確かに振り切ったハルバートは強力だが、連携が甘い。もっと突きを使え」

「う、うん」

「相手は、お前に攻撃を当てさえすればいいんだ。最初からそのことを頭に入れておけよ」

「そ、そうだな」

 こうして、フレイのだめなところを逐一伝えてやる。
 実際に隙をついて痛い目にあわせながら悪かったところを伝えているためか、素直に言うことを聞く。
 俺との最終調整を終えて、最後に毒を浴びたときの為に毒消しの丸薬をいくつか渡しておいてやる。

「いいか、毒消しはもしもの保険だ。決闘中に飲めるとは思うなよ」

「わかった。何から何まですまない」

「恩に着ろよ。そして返せよ。ついでにまだ罰ゲームも済んでないからな」

「うん、きっと恩返しする。この決闘で勝っても負けても」

 なんとも殊勝なことだが、ここまでしたのだ勝って欲しいものだ。

「とりあえず、決闘に勝利するのが一番の恩返しだろうが」

 これで、全ての準備が整った。あとは決闘に備えてゆっくりとすごすだけだ。
 ゴブリンの村には俺の監修の元、露天風呂の建設を行っていた。
 タイミングで言えば、白磁器作りで土を掘り起こした時、その穴の有効活用として露天風呂の建設が浮かんだのだ。
 つまり畑と同時進行で進め作り始めて3日ほど経過し、本日完成した。水はゴブリン達に、湯を沸かすのはゴブリンメイジ達に任せた。
 畑のほうはどうやらここでもゴブリンメイジが活躍している。各種ポーションの素材用の魔力のある植物の栽培を始めるそうだ。

「あ゛あ゛あ゛~。いい湯だぁ」

 やはり日本人としてお風呂はいつか解決したかったところだ。タオルで身を清めるだけや水浴びとは満足度が違う。
 浴槽の大きさもいい。縦横10mほどのゆったりと入れる浴槽に水を貯めるのはゴブリン村総出でほぼ1日費やしてしまったらしい。
 ここは、なにか改善策を考えねば。さしあたっては、残ったノーマルゴブリンたちをゴブリンメイジにして魔法で水を出すとか。
 そうなると、戦闘では水魔法しか使えないゴブリンをどう利用するかが問題になってくるな。
 今いるゴブリンメイジは火魔法を使えるやつだけだから、ちゃんと水魔法を覚えるかという問題もあるし。
 とりあえず、考えるのは後で良い。今はこの風呂を堪能するべきだ。
 今回はお試しということで俺1人だが、ゆくゆくはアイラたちと一緒に入りたいものだ。ゴブリン村の風呂は全て混浴を義務づける!!
 もちろん、俺が入った後はアイラたち、その次にはゴブリンたちにもこの風呂を開放するつもりだ。
 お風呂の気持ちよさを知れば彼らが勝手に拡張や、2つ目の施設を作ってくれるだろう。
 そして、いつの日かゴブリン村の混浴露天風呂は、観光地になって一大アミューズメント施設に!!

「なるわけないか~」

「なにがだ?」

 声をかけられて後ろを向くと、タオル一枚で体を隠したフレイが立っていた。顔が赤いのはお湯のせいだけではないだろう。

「バカだからかな?お前ってベタなことするやつだよなぁ」

 大方、特訓の時に言っていた恩返しに来たのだろう。そう聞くとフレイは驚いた顔をして頷いた。

「なぜ分かったのだ?」

「う~ん、なんとなく?」

 こんなことまでお見通しか、とちょっとへこんでいるフレイ。いい加減、裸で立っているのは寒そうなのでかけ湯をして湯につかるように指示する。
 フレイは、足の先をちょんちょんとつけては戻すを数度繰り返してようやく湯につかる。

「ふわぁああ」

 すごいふやけた顔をしている。こっちの世界だとまだ風呂を見たことが無いがあるよな?

「こんな大量の湯につかるとは贅沢な話だな」

「普通は入らないのか?」

「フローラ様は湯浴みをなさるな。週に何度かサウナにも入るが、こんなお湯を貯めたところに体を入れるなんて聞いたことが無いな」

 風呂は無いのかもしれないな。確かに、アイラたちも風呂といってもぴんと来なかったみたいだし。

「で、恩返しに来たんだろ?」

「う、うん」

 今フレイは、俺からもっとも遠いところに腰掛けている。まぁ、俺が脱衣所から一番遠いところに腰掛けているのだからそうなっても不自然ではない。
 フレイは意を決して俺に近づいてくる。俺の隣、肩が触れ合うか触れ合わないかという距離で腰を下ろす。

「こ、これは恩返しだ!!」

「わかってるよ」

「い、いやわかってない!!」

 話を聞いていると、罰ゲームではなく恩返しでこんなことをしていると言いたいらしい。

「そうか」

 俺はどっちでもいいのだが、フレイにとっては重要なことのようだ。
 まだ色々いっているがめんどくさいので肩を掴んで抱き寄せてフレイの胸を揉む。それなりに豊満でもみ心地が良い。

「あ、ちょっ!?」

 フレイが逃げようとするが、肩を押さえつけているので逃げられない。

「どうした?こういうことをしに来たんじゃないのか?」

「そ、それは」

 フレイは口ごもる。もちろんそうなる覚悟をしてきたのだろう。背中を流す程度なら服を脱いでくる必要は無い。

「いやならやめる。ただ、その時は悪いがアイラたちを呼んでもらえるか?収まりがつかなくなってるんでな」

「あ、う、」

 肩を抱きぴったり密着しているため、フレイは俺がどういう状態かまさに手に取るように分かっている。

「い、いや、じゃないから」

「そうか、なら続きだ。お前には明日、頑張ってもらわなきゃいけないからな。出来るだけ優しくしてやる」

「う、うん、お願い。そうして」

 反応からして初めてだろう。今日は、最後までは行わずフレイを可愛がることに重きを置いた。優しさではない。明日、痛くて戦えませんでは困るのは俺だ。
 浴槽の中で夢見心地で半分気を失って『あ~』とか『う~』しか言わなくなったフレイを抱きかかえて部屋に連れて行く。
 これも明日にのためだ。風邪を引いてもらっても困るのだ。そう、こんなもの戦いの前に道具の手入れをするのと同じようなものだ。

「フレイ、明日の決闘でお前が勝てたら最後までしよう。今日よりも激しくしてやる」

 果たしてフレイに聞こえているかは分からないがそう言ってフレイに使わせている客室から出て行く。
 やや不完全燃焼だが、たまにはこんな夜もいいだろう。俺もゆっくりと眠るために自分の部屋に戻った。






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