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第48話


 冒険者ギルドに行くと中は賑わっていた。
 みんなに入口で待っていてもらい、一人で受付を目指す。
 俺は気合いを入れて人の波をかき分けてなんとか前に進み、ようやく受付に辿り着く。

「今日はえらく混んでるな。何かあったのか?」

「いらっしゃいませ。なんでも街の近くに大物が出たそうです」

「大物?」

「これです」

 そういって受付のお姉さんが見せてくれたのはシルバーグリズリーというモンスターが街の近くに出ると言う内容の書類だった。

 銀なんだか、灰色なんだか分からないモンスターだ。
 どうやら体毛が金属並みの強度を誇るモンスターらしい。
 並みの武器では文字通り刃(歯)が立たないとのことだ。

「街の外に出るときは気を付けますよ。ところで、今日は争奪戦の賞品を受け取りに来たんですが」

「あぁ、聞いています。こちらの奥の部屋にどうぞ」

「ちょっと待ってくれ、仲間を外に待たせている」

 アイラたちを呼びに戻り改めて受付のお姉さんのところに行く。
 案内された部屋にはローブや書物等の比較的見てわかるものと、何かの骨や怪しげな液体、はてはなんと呼んでいいのかもわからないようなものがある。

「ジル、必要そうなものを選んでくれ。お前が要らないなら残りはギルドに引き渡そう」

「クフフ、これほど色々あると選ぶのも大変じゃな。やれやれ、嬉しい悲鳴じゃのぅ」

 ジルはすでに外に出されていたものを検品し終わると、勝手に部屋の奥にある大きな箱に狙いを定めた。

「これはなんじゃぁ?」

懸命に力を込めて箱を開けようとするがなかなか開かない。少し手伝ってやろうとしたときに後ろから声をかけられた。

「あの、ヒビキさん」

 受付のお姉さんが話しかけてきた。
 どうやら伝えたいことがあるようだ。箱の方にはアイラとエミィが向かったので問題ないだろう。

「どうかしました?」

「はい、先に処分してしまった品の確認をお願いします」

 差し出された目録にはずらりと人の名前が並んでいた。

「あの、この名簿は?」

「ええ、ですから『処分した品』ですが?」

 ここまで言われてようやく思い至る。つまり、あのネクロマンサーが『使役』していたゾンビの目録だ。

「身元の分からなかった死体もありますが、さすがに『人間の死体』をお渡しする訳にはいきませんのでこちらで処分させていただきました」

「あ、ありがとうございます」

 話に違和感を感じたのは『人間の死体』を完全に物として扱っているからだろう。
 まぁ、ネクロマンサーにとっては商売道具だし、ネクロマンサーが職種として成立しているこの世界では死体の扱い方ももとの世界とは違うだろう。
 人間の死体を所持することは別に罪ではないようだし。
 街のなかでも遺族の了承を得れば、『新鮮な死体』を金銭で譲ってもらえるし、街から出て死んだのであればそんな手続きすらも必要ないらしい。
 ここまで聞いて受付のお姉さんは聞き逃せないことをいった。

「パーティーにネクロマンサーがいらっしゃるとのことでしたので、『モンスターのゾンビ』は処分せずにあの箱に入れておきましたので」

 お姉さんが指差しているのはジル達が開けようとしている箱だ。

「じ、ジル!!まて!!」

「なんじゃ主、今、手が放せなーーーーーーーーーーーーぅ」

 少しだけ遅かったようだ。ジルは箱の中身を確認して、悲鳴をあげそのまま気絶してしまった。
 幸い、中身が見えない位置にいたアイラとエミィは無事だったので気絶したジルを素早く支えてくれケガはないようだ。

「あの~、どうかされたんですか?」

「いえ、興奮しすぎたみたいです。あとすみませんがあの『モンスターのゾンビ』はそちらに処分をまかせたいんですが」

「よろしいのですか?モンスターの『ゾンビ化』は大変だと聞きますが?」

 モンスターは、倒すと素材を残して消える。
 そんなモンスターをゾンビにするには、
 まず、モンスターを死ぬギリギリまで追い込む。しかもゾンビになったときのために損傷をできるだけ抑える。
 次に、ゾンビ化の状態異常をモンスターに起こさせる。これはそういうアイテムや魔法があるみたいだ。【死霊魔法】でも使えるらしい。
 最後に、そのモンスターにとどめを指せば数十秒後にゾンビとしてよみがえる。
 そのままだと『野良ゾンビ』になるため、ネクロマンサーがゾンビを支配する。これは魔物使いと同じような感覚だろうか?

 以上、ここまでの行程を行ってようやくゾンビを使役できるようになる。
 ちなみにスケルトンなどは、最初から骨の状態で存在するらしい。
 これは打ち捨てられた白骨死体がスケルトン化するという説と、モンスターとしてそういう形に産み落とされただけだという説があるらしい。
 まぁ、どちらでもいいが。そのため『モンスターのゾンビ』は、結構な高値で売れるらしい。
 もちろん買ってくれるネクロマンサーにつてがあればだが。

 冒険者ギルドのネットワークを使って売ることができるらしいのでお願いしておいた。
 本当にいいのかと聞かれたが、うちは今、ゾンビを飼う余裕がないので、と断った。
 ジルが気絶していたのでロビーの長椅子でジルに膝枕をして介抱する。
 すると、誰かが俺たちの方に近づいてきた。長椅子はまだ何脚か空いているのだがこちらに向かって真っ直ぐ近づいてくる。

「よぉ、『全滅』。よく会うなぁ」

 やって来たのは『シチューのおっさん』だ。昨日に引き続き確かによく会う。

「どうも、おっさんはシルバーグリズリー狙い?」

「おっさんはやめろよな。そうだ、ここらでデカイ獲物が欲しくてな」

「あんまり無茶するなよ?」

「全く、どの口が言うんだか。いいか?今、ギルドでシルバーグリズリーの討伐に出ようって奴等はみんなあの夜にお前さんの戦いを見てた奴らだよ」

「どういうことだ?」

「みんなお前さんに触発されてんだよ。あんな戦い見せられたら俺だって血がたぎる」

 みんなあの戦いでうずうずしてしまったらしい。
 そこにシルバーグリズリーなんていう大物が出てくればいつもは様子見で終わるようなやつらもこぞって討伐に乗り出すのは当然とのことだ。

「で、お前さんもシルバーグリズリー討伐に参加するのかい?」

 答えようとした時に周りからかなりの視線を感じた。どうやら俺の参加する、しないはかなり重要なお知らせのようだ。

「いや、今回は遠慮するつもりだよ。まぁ、一月も二月も討伐されてないようなら参加するかもね」

 これは本心からだ。シルバーグリズリーは結構手強そうだし、なにより『魔族』探しの依頼もある。
 周りがやや弛緩した空気になったと感じるのは流石に考えすぎか。

「そうか、まぁお前さんならあっという間に片付けてしまうんだろうがな」

「そんなことないよ」

「そうか?」

「そうそう。すごく固いって聞いたよ。俺の刀じゃ切れないかもしれないし」

「お前さんならそれでも勝っちまいそうだがね」

 肩をすくめておっさんに言い過ぎだと伝えた。とにかく無茶はするなと繰り返しておっさんと別れた。
 おっさんがこの場を去ってから10分ほどたった頃にジルが目をさましたので冒険者ギルドをあとにする。





 「腹がすいたのぅ、飯時ではないかのぅ」

 ギルドを出た俺たちはとりあえず起きたばかりのジルの言葉で昼食をとることにした。
 メニューは肉料理多め。魚が食べたいがこの辺では川魚しかいない。その川魚も泥臭くてあまり美味しくない。
 魚を食べるためだけに、一度海沿いの街まで足を伸ばして見ようか。
 まぁそれもこれも『魔族』を見つけてからだ。

「ルビー、反応はあった?」

 ルビーはふるふると震えて『否』を伝えてくる。しかし、『是』の時にもふるふる震えているのだが、我ながらよく理解できている。
 魔物使いの効果だろうか?

「魔族はいない、か」

 ギーレンに貰った『魔族探知機』は持ち運びができるような物ではなかった。
 洗濯機くらいの大きさのそれはやはり洗濯機くらいの重さで、持ち上げようと思えばもちろん今のステータスであれば持ち上がる。
 しかし、邪魔だ。こんなものどうしろというのだ。と途方にくれていると、アイラが『ルビーに運んでもらいましょう』と言い出した。
 なるほどとルビーの体の中に『魔族探知機』を納めてもらい、いくつか魔鉱石を放り込んで起動させてみる。
 『魔族探知機』は問題なく動いているようなのでそのままルビーに持っていてもらうことにした。

「まぁ、まだ冒険者ギルドとその周りくらいしか歩いてないからなぁ」

 探知機の有効射程距離は100mほどらしい。こんな運ぶのにも苦労する装置の射程距離としては短い気がするが、普通は馬車に乗せて動かすのだそうだ。
 ギーレンは俺たちに馬車を貸し出し、あるいは販売するつもりだったらしい。なんだその別売り詐欺。
 まぁ、ルビーのお陰で買わずにすんだが。

「人通りの多いところをしばらくブラブラするのはどうでしょう?・・・デートですね」

 エミィが消極的だが効率のいい案を出してくれた。が、デートではない。アイラも反応しないように。

「そうするか、他に方法もないし」

 店を出ようとしたその時、ルビーがビクンと体を震わした。

「ご主人様、反応があったようです」

 どんどんこちらに近づいてきているようだ。

「まさか、こっちに気づいて攻撃するつもりか?」

「ありえません。こちらが探していることに気づくには最低でも一度はこちらの探知機に反応があるはずです」

 つまり、偶然こちらに近づいてきているということか。
 相手はもう店の前まで来ているらしい。このまま店の前を通りすぎれば偶然。
 攻撃してくれば相手にはこちらよりも鋭い探知能力があるということだ。
 俺たちは緊張して相手の出方を伺った。
 通りすぎるのか?攻撃してくるのか?
 どっちだ?

「すみません~、寝坊しちゃいました~」

 答えは、『寝坊してバイトに遅れてくる店員』だった。



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