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第44話


 フローラとフレイと共に城内に案内されると、中庭で何かやっているようだった。
 近づいてみると、どうやら冒険者同士の試合のようだ。

「あれは、取り分を決めてるんだよ」

「取り分?」

「ああ、複数のパーティが参加する依頼なんかだと、依頼達成後の取り分を決める為にああいう代表者の試合が行われるんだよ」

 詳しく聞くと、大きな依頼の時には良くあるらしい。それと手に入れた素材やアイテムを手に入れるために依頼には参加していない冒険者も参加することがあるらしい。
 もちろん、参加するために参加費を払ったり、賭けの為にそれなりの素材やアイテムを用意しておかなければならないのであまり飛び入り参加者はいないようだ。
 俺達が行ったこの街までの調査の依頼は先に素材やアイテムは取った人のものと決めていたのでこういった試合は行われていない。知らなかったのだから当然だが。

「おい、あれ、『全滅』だろ?」

「ああ、間違いねぇ」

 なにやらこちらに気づいた奴らがフレンドリーに近づいてきた。
 シチューとソテーのおっさんだった。

「よう、『全滅』も争奪戦に参加しにきたのか?」

「争奪戦?」

「おう、一昨日の戦闘でネクロマンサーの家から押収した物品の所有権をかけた争奪戦だよ」

 あの男はジルが倒したんだが。そう思って、ギーレンを見るとしどろもどろに言い訳を始めた。

「い、いや、君達にも争奪戦については使いのものを出したんだ。しかし、宿にはいなかったと報告された。宿屋の女将に伝言をお願いしているはずだ」

「そうか。じゃあ、その日の昼過ぎに行われる争奪戦の事をその日の昼前に宿屋に伝えに来たわけだ」

「う、む」 

 どうやら、領主は俺達を争奪戦に出したくなかったようだ。
 おそらく、この間の迎撃に参加した冒険者達への報酬として今回の争奪戦を開催したのだろう。
 俺達はすでにモンスターの素材とアイテムを大量に得ている。だから、この争奪戦の賞品は取られたくなかったんだろう。
 運悪く俺達が領主の城に用事があったので発覚したが、中庭で行われている争奪戦に冒険者ギルドに来た位では気づかなかっただろう。

「領主ってのは色々大変だな。俺みたいな奴に恨まれるのも仕事のうちか」

「い、いや待ってくれ!!」

 最初から協力してくれと頼まれれば別にそこまでするつもりは無かったんだが。やり方が姑息過ぎる。
 馬鹿な奴だ。こんなことをしなければ、俺の怒りか、報酬、どちらかはうまくことが運んだのに。
 というか、フレイに続きギーレンまで俺にこんな裏工作のようなことをしてくるとは、やはりこの世界は油断ならないところだ。

「もちろん、俺も参加させてもらうよ」

「あ、あ、そうか」



 この試合では魔法あり、武器ありで試合をするようだ。相手を殺したら負けと言うルール以外は特に無いらしい。
 俺の参加登録が済むと計ったように争奪戦が始まった。
 俺の最初の対戦相手は、ショートソードに皮鎧のオーソドックスな冒険者スタイルの男だ。
 会話も無く、試合開始の合図がだされる。 
 男が合図と同時に突進してくる。俺は、【水魔法】を絶霧に纏わせて正面からの鍔迫り合いを避け、刀身で攻撃を滑らせる。
 刀と剣が接触すると刀に纏わせた魔法の効果で、それなりの量の水が回りに飛び散る。
 数合も打ち合うと、全身がびしょぬれになっていた。
 男は最初、飛んできた水を出来るだけ避けようとしていたが、ただの水であることに気づいたのか殆ど避けなくなっていた。
 準備は整った。俺は、【風魔法】で広場に緩やかな風の流れを作りだした。あとは時間を稼ぐだけだ。
 10分後、対戦相手の男は歯をガチガチならし、唇は紫色になっており、手がかじかむのだろう、何度も剣を落としそうになっていた。
 低体温症の症状だ。水に濡れた体に風を当て続け、どんどん体温を奪っていく。これはどんなに体を鍛えていても限界のあることだ。
 筋肉が多くて発熱量も多いだろう冒険者達でも時間の差はあれど、いつかはこうなる。
 ほとんど満足に動けなくなった彼の剣を弾き飛ばしてやり、降参させてやる。これで一回戦突破だ。
 まわりが、ざわざわとしている。『妖術使い』とか、『呪い』だとか言われているが、それで良い。
 得体の知れない何かだと思ってくれれば成功だ。


 2回戦は休むまもなく始まった。次の相手は、全身を金属鎧に包みロングソードを持っている。おそらく外部からの参加者、ハイエナ組だろう。
 まぁ、彼も安くは無い参加料を払っているのだから問題は無いが。
 相手は全身鎧の防御力を生かしてじりじりと俺に近づいてきた。このまま間合いをつめられるのも厄介だったので一回戦と同じく【水魔法】を纏わせた刀を相手に振るう。
 刀は難なく避けられたが水はかぶっていた。しばらくすればこいつも低体温症を引き起こすだろうと、防御に徹してみるが20分を過ぎても動きが全く鈍らない。
 ここで、俺はようやく相手のステータスを確認する。
 すると、全身鎧に【保温】という効果が付与されていた。これはおそらく全身鎧に最初からついていた効果だろう。
 鎧の中に熱がこもったりするのを防いだり、炎などの攻撃を鎧が受けたときに中の体を護るための効果だろう。
 それが今は図らずも水に体温を奪われるのを防いでいるのだろう。

「しくじったな。対人戦はガンヴォルデとの戦闘以来無かったとはいえ、装備の効果くらい確認すればよかった」

 そういいながら、刀に纏わせる魔法を少しだけ変更した。
 あいかわらず、刀からは水がにじみ出ているが相手はすでに気にしていない。
 一回戦での戦闘の内容を知らないのかそれとも鎧が防いでいることに気がついているのか、どちらかはわからない。
 5合ほど剣を打ち合わせた頃だろうか、相手に明らかな変化が現れだした。
 もぞもぞと体をゆするのだ。さらには時折あいた手で鎧の表面をかきむしる。
 そこまでやってようやく自分の体の状態に気がついたのだろう。息を荒くし、ぶるぶる震えている。
 しかし、決して寒いから震えているわけではない。

 両腕がもぞもぞする。背中がうずうずする。首周りに何かが這うようなゾワッとした感覚がある。
 そう、彼は全身がかゆいのだ。

 俺が、【保温】に気づいてから行った魔法の微調整は、刀に纏わせた水に少しだけ変化を与えた。
 皮膚にその水が触れると、その箇所が猛烈にかゆくなるのだ。

 かゆみを意識した彼にもはやそれに抗う方法は無い。
 決して届かないと分かっていながら全身の至る所を鎧越しにかきむしり、かゆみが薄れないことに絶望する。
 しまいには剣を手放し、地面を転がりまわるがこの苦痛からは逃れられない。
 とうとう、かひゅ、かひゅという息を漏らしながら白目をむいて失神してしまった。

「勝者、ヒビキ!!」

 またも周りがざわついている。多分次からはこんなに無防備に俺の攻撃を食らってはくれないだろう。
 まぁ、それでも防御不能な攻撃はいくつか考えているが。
 広場のすみのみんなのところへ戻っていく。

「お疲れ様です。ご主人様」

 アイラが虎耳をピクピクさせて笑顔で迎えてくれる。周りで俺の事をすごいと言っているのを聞いて嬉しいのだろう。

「さすがです。ご主人様。あの相手には何をしたのですか?」

 タオル代わりの布を差し出しながら、エミィが聞いてくる。

「そのうち教えてやるよ。今は、いろんな所にスパイがいるからな」

 それを聞いて、耳を済ませていたギーレンがぴくっと反応したが見なかったことにしてやる。

「それにしても、面妖な技ばかり使いよるのぅ。わが主は、『妖術使い』でもあるのかのぅ?」

「妖術使いってのは、どんな職種なんだ?」

「いや、主のように誰にも理解できない戦い方をするものを『妖術使い』と呼ぶんじゃよ。剣士でも、魔術師でものぅ」

「ふぅん、そうか」

 3回戦は少し間があいた。長引いた試合がいくつかあったらしい。
 今度の相手は、急所を金属鎧で護り、槍のような武器を使っていた。後で聞いたらグレイブという武器らしい。
 2mほどの長さの柄の先に片刃の剣がついたその武器はこちらの接近を牽制しているのだろう。
 開始の合図と同時に剣先をこちらにむけて、迎撃の用意をする。
 俺は、刀を相手に向けながら【風魔法】で相手の周りに風を起こす。
 しかし、防具に魔法耐性があるのだろうか、相手は余裕のある表情だが、俺の狙いは奴自身じゃない。
 奴の周りの空気に働きかける。
 ゆるく相手の周りを風で囲い、【火魔法】で風の結界の中に火球を投げつける。
 疑われないように対戦相手を狙ったように見せかけるが、実際に相手にあたった火球は鎧に触れた瞬間消えてしまった。
 しかし計算どおりだ。残った火種に意識を集中し、大きくなりすぎず、かといって消えてしまわないように酸素を奪っていく。
 5分ほど経っただろうか、相手はふらふらし始めてとうとう倒れこんでしまった。酸素欠乏症だ。
 すぐに火を消して結界内に水をかけ温度を冷やしてから風の結界を解いた。
 まぁそれほど高温じゃないが、バックドラフト現象が起こると大変だ。

「勝者、ヒビキ!!」

 三回戦も周りにとって良く分からないうちに相手が倒れていたように見えるだろう。
 『妖術使い』の名前はさらに広がるだろうな。

 4回戦、5回戦も難なく勝利した俺は、とうとう決勝戦へと駒を進めた。
 決勝戦の相手は、幅50cm、刀身は2.5mはある大剣使いだった。
 準決勝の試合を見たがパワーで押すタイプの剣士のようだ。
 大剣使いは自分の力に絶対の自信があるのだろう、真正面から突っ込んできた。
 俺は、できるだけひきつけて攻撃を避けて大剣使いに肉薄し、絶霧でわき腹に一撃を与えた。

「がっ!?」

 もちろん、殺さないように刃ではなく柄頭での一撃だ。
 男はくの字に体を折り曲げてわき腹を押さえてうめいているが、まだ戦意を失っていないようだ。
 仕方がないので、刀に【電撃魔法】を帯びさせて、電撃で追加ダメージを与える。これだけ近づいていれば何が起こったか周りの人間には分からないだろう。
 男は、苦悶の表情を浮かべて、せっかく持ち直した姿勢を再度崩し、地面に倒れふした。

「勝負あり。優勝者、ヒビキ!!」

 決勝戦は、周りから見ればまともに戦った結果俺が勝ったように見えるだろう。
 対戦相手も、何をされたのか分からなかっただろうし大丈夫だろう。


 試合も終わり、アイラたちが駆け寄ってくる。

「おめでとうございます。ご主人様」

「ありがとう、アイラ」

「優勝、おめでとうございます」

「おう、ありがとうエミィ」

「主は、普通に戦っても十分強いんじゃな。なぜ普通に戦わんのかのぅ」

「少しでも勝率上げたいだろう?」

 三人にわいわいと祝福されていると、フローラたちも近づいてくる。

「ほんとーにヒビキさんはお強いですねー」

「うん、いや、あはは、本当に優勝するとは、まいったな」

 フローラは純粋に感心しているみたいだが、ギーレンは少々複雑そうな顔をしている。
 ここで畳み掛けるようにお礼の話もしておく。

「ギーレンさん、ネクロマンサー討伐のお礼も楽しみにしておきますね」

「う、ん、そ、うだね」

 ギーレンは目をそらしたが、もうこのおっさんに手加減してやる必要は無い。

「いや、楽しみだな。この街の領主であり、しかもギルドの支部長でもあるギーレンさんが俺に何をくれるのか」

 ギーレンは大きくため息をついていた。自業自得だ。
 すると、今まで黙っていたフレイが話しかけてきた。

「見事な戦いだった。しかし、決勝以前の戦いはなんだ?あれではただの卑怯者ではないか」

「『誇り高き騎士』様は、正々堂々戦って死ぬだけでいいんだろうけど、俺は卑怯でも生き残らなきゃいけない理由があるからな」

「なんだと!?」

「うん?怒ったか?そもそも、卑怯って何だよ?何をすれば卑怯なんだ?」

「とぼけるな!!わけの分からない攻撃で相手を倒していただろう」

「じゃあ、俺は『これからこういう攻撃するから気をつけて』って言いながら攻撃すればいいのか?」

「ちがう!!もっと正々堂々と」

「じゃあ、鳥は飛べるから卑怯なのか?モンスターは爪や牙があるから卑怯なのか?」

「どうしてそうなる!?」

「弱い奴からすれば、騎士は『強くてずるい』けど?」

「な、んだと?」

「自分達が強いから決闘なんて方法で決着をつけたがるんだろ?『弱い奴らの意見など知ったことか!!』ってね」

「貴様、騎士を侮辱するのか!?」

「先に俺の戦い方を侮辱したのはそっちだろ?そもそも、馬鹿じゃないんだから少しは考えて対策すればいいだろうが」

「正体が分からなければ対策のしようが無いだろ!!」

「じゃあ、戦場でも『あの、その攻撃知らないんでやめてくれません?』ていうのかよ、騎士ってのは楽な商売だな」

「・・・もう許さん。決闘だ!!」

「ははっ、それみろ、気に食わないことがあるとすぐに決闘(それ)じゃないか」

「うるさい。私と戦え!!」

 フレイは完全に切れている。まぁいいか。

「で、お前が負けたらどうするんだ?」

「なんのことだ!?」

「俺が負けたら、お前を侮辱したことを謝ってやるよ。で、お前は負けたらどうするんだよ?」

「ふん、私が負ける訳が無い。その時は好きにすればいい!!」

「オッケー、じゃあそれで成立だ」

 急遽、俺とフレイのエキシビジョンマッチが組まれることになった。











  


 






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