第43話
翌日、早朝からゴブリンの村に出向き、ラル達の昨日の働きを労ってやる。
ラルは嬉しそうにしていた。しかし、そこで少し笑顔が陰った。
「どうかしたのか?」
ラルは、ちらりと後ろの家屋を見る。
どうやら中に誰かいるようだ。
この家屋は俺達が滞在中に使用している家屋で中にはそれなりに貴重なものがあったりエミィの錬金術用の設備を持ち込んだりしていて、ゴブリン達は許可がなければこの家屋には入らない。
子供のゴブリンが中で遊んでいるのか?まぁ、別に入るくらい構わないのだが、荷物にいたずらされるのは困るからな。それだけ釘を指しておこう。
扉を開けながら注意する。
「おい。あんまり、中の荷物に触るなよ」
中に居たのはゴブリンではなかった。
気の強そうな女性と、おっとりとした雰囲気の女性が半裸で中にいたのだ。
「き、貴様ぁ、何者だ!?」
「あらぁ、おはようございます~。まるで人間みたいなゴブリンさんね~」
俺は急いで家から出た。
しかたがないのでとりあえず着替えが済むのを外で待った。
エミィは、なぜ俺が外で待たなければいけないのか不満そうだったが。
しばらくして、中から、入れ。という声が聞こえてきた。
これを聞いてまたエミィが不機嫌になる。
エミィをなだめながら中にはいる。
「貴様達何者だ?」
入ってすぐにこの問いかけである。
手には既に抜き身の剣をもっている。
ここまで、我慢してきたがそろそろイライラしてきた。
こいつらに自分達の現状を理解させてやる。
「それはこっちの台詞だな。お前らこそ誰だ?ここは俺達の家だぞ」
気の強そうな女は、俺の言葉にフンと鼻をならして質問を繰り返す。
「質問に答えろ。貴様ら何者だ?」
「・・・なるほど、こちらと会話する気は無いわけだな。わかった、もうなにも聞かない。さっさと出ていけ」
「断る。私はフローラお嬢様を守らなければならないのだ」
「知ったことかよ。なんでこっちの質問にも答えないような奴に俺達の家をとられなきゃいけない?さっさと出て行かないなら、実力行使に出るからな。ちなみにこの村のゴブリンは全部俺の味方だ」
「はっ、馬鹿が。この村のゴブリンは人を襲わない。それは既に確認している」
そう、ラル達には極力人を襲うなと指示している。そのせいで今回、こんな侵入者を許してしまったのだろう。
彼女達に気づいてはいたが、こいつらはゴブリン達には攻撃をしてこなかったのだろう。
しかも俺達の家に入ってしまったのでますます手を出せなくなっていたのだ。
「馬鹿はお前だ。ゴブリンが人を襲わない理由を考えなかったのか?俺がこの村のゴブリン達の主なんだよ」
「な、に、」
「この家は俺の家だからゴブリン達は入ってこなかった。人を襲うなと命令したのも俺だ。わかったらさっさと出ていけ」
「そんな、だって、今外に出たらモンスターに襲われて、」
「知らん。こっちは善意で事情を聞いてやろうと思っただけだ。お前の態度でその気も失せたがな」
おそらく一昨日の夜、村をからにしていた時に忍び込んだのだろう。今度はちゃんと村の警備位は残しておかないとな。
「さっさと支度して出ていけよ。家の中にあったものは全部返せ。・・・食料にまで手をつけやがって、完全に泥棒じゃねぇか」
「泥棒だと!?取り消せ!!私は誇り高き騎士の「誇り高き泥棒か?」、違う!!」
確かにこいつが誇り高き泥棒を名乗るのはおこがましい。猿顔の三代目はもっと誇り高い。
「じゃあ『誇り高い騎士』様、どうやら俺の家に勝手に入り込んでその家の備蓄を勝手に食い荒らし、あまつさえ家主が戻ってくると剣先を突きつけて脅してくるんですが、そんな人間のどこに誇りがあるんでしょうか?」
淡々と騎士を追い詰めていく。
あのドMシスターだって、ここまですればきちんと謝罪する。
これでも謝りもせず出て行かないなら全力で排除するだけだ。
「わ、私はフローラお嬢様を、」
「ああ、じゃあそっちのお嬢様のせいでこうしていると。『誇り高い騎士』って大変ですね」
「う、あ、」
とうとう膝からくずおれてしまった。
ところで、俺たちがこんだけ言い合ってるのになぜこのお嬢様は、ルビーと仲良く戯れているのだろうか。無邪気にルビーの体をプルプルゆすってニコニコしている。
「さて、お嬢様。ここは俺の家なんだが」
「あら~そうだったんですね。素敵なお家に住んでいらっしゃいますのね。私、一昨日はとても疲れていてすぐに眠ってしまったの。ご挨拶が遅くなってしまってごめんなさい」
お嬢様は、優雅にスカートの端をつまみ一礼する。なるほど、元いた世界でこの動きをしても笑いしか出なかっただろうが、本物のお嬢様がやればさまになるものだ。
「私、フローラ・カプリスと申します。お父様にしばらくウェフベルクにいるように言われてますの。ウェフベルクにはいつ頃出発できそうかしら?」
なるほど、かなりずれた人だ。
フローラ・カプリスはどうやらブレトの街の貴族のご令嬢らしい。
モンスターの大群の襲来に備えてかなり迂回するルートでウェフベルクに向かっていたが、一昨日の晩に森の中でモンスターに襲われてしまい馬車も御者も護衛もやられたか逃げ出したらしい。
それで残ったのが街にいるときからのフローラの護衛のこの態度の悪い女、フレイらしい。
この近くで襲われたと言っているから街を襲ったモンスターに襲われたのかもしれない。
・・・あれ?そうなるとこいつらが襲われたの俺のせいかも知れないな。まぁ、わざわざそれを伝えてやる義務は無いが。
このお嬢様では話が進まないので、先ほどから「私は、誇り高き~」とうわ言のように繰り返している騎士女、フレイを正気に戻す。
手っ取り早く木桶で汲んだ水を顔にぶっかけた。
「うぅっぷ、な、なにをする!?」
「おい、『誇り高き騎士』様、ここでの不法侵入には目をつぶってやる。その代わりにちゃんと迷惑料を頂くからな」
「こ、こんなことをさせれてさらに金を払えだと!?」
「なんだ?『誇り高き騎士』様は、他人の財産を奪っても平気なのか?そうか、それが『誇り高き騎士』様の考え方か。『誇り高き騎士』以外の人間は人間に非ず、とそういうことか」
結局、フレイはウェフベルクまでの護衛と勝手に俺達の家屋を使用した迷惑料を払うことを了承した。
特に『契約』を交わした訳ではないが、約束を破るならフレイには騎士を続けられなくなるくらいの悪評をばら撒いてやる。
さて、ウェフベルクに出発するに当たって1つだけ問題が発生した。お嬢様を運べる馬車が無いのだ。
ウェフベルクまで俺たちの足で約30分ほど、それぐらい歩いてくれと思ったのだが、フレイが猛反発した。仕方が無い。
荷車をベースにお嬢様の輿を作成する。少々、凝ってしまい、中々の力作が完成した頃にはすでに昼時だった。
輿がやや大きくなってしまったので輿の担ぎ手をラルたちに任せてしまった。
まぁこの前の夜にすでに俺が多数のゴブリンを使役しているのはばれているのでラル達を街の人たちにみられてもかまわない。
何か言われても、門まで運べばラル達もお役ごめんになるだろう。
「今日は、馬車ではないのですね」
「申し訳ありません、お嬢様。お嫌でしたらすぐに馬車の手配をさせますので」
「いいえ、ゴブリンさん達に運んでもらうのも楽しそう」
「お気に召していただき何よりです。お嬢様」
立ち直ったフレイは少しウザイがまぁ問題ない。ここで時間を取られると到着が夕方を過ぎてしまうのですぐに出発した。
ウェフベルクまでの道中は順調だった。まぁ、ウェフベルク周辺は完全にラルたちの縄張りだからなのだが。
「モンスターに全く襲われないな。なぜだ?」
「この辺はゴブリンの縄張りなんだよ」
「お前はどうやってこいつらを使役しているんだ?」
「努力と根性」
「・・・ゴブリンに人を襲うなと命令しているのはなぜだ?」
「むしゃくしゃしてやった。反省している」
「ふざけるな!!」
俺は大げさにため息をついて答える。
「あのな、答えをはぐらかしてるんだから聞かれたくないことなんだよ。それをほじくり返してネチネチと。『誇り高き騎士』には慎みは無いのか?」
フレイはむっとしていたがやっと静かになった。
もう少し歩けば森を抜け、街の城壁が見えるようになる。
「おお、あれがウェフベルクか。冒険者の街と聞いているぞ」
フレイがすこしはしゃいで街のほうを見ている。
「お嬢様、街が見えてきました」
「そうなの?どんなところかしら?あと、街についたらお紅茶を飲みたいわ。もう二日以上も飲んでいないもの」
「はい、かしこまりました。到着しましたらすぐにでもご用意いたします」
やはり、どこかずれているお嬢様だ。というか、モンスターに襲われるまでは旅の途中でも飲んでたのかよ。
少し話しているうちに門のところまでついてしまった。
門番のにーちゃんはゴブリンの群れにギョッとしていたが近くに俺がいることを確認したらすぐに笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり、今日はそのゴブリンたちも街にいれるのか?」
「ただいま。ゴブリンたちを中に入れるのはまずいかな?」
「いや、大丈夫だろう。こんな輿を運んでるんだ。こいつらみんなあんたの命令は聞くんだろ?」
たいした手続きも無くゴブリン行列は街の中に受け入れられた。
「それで、どこまで運べばいいんだ?」
「この街の領主に話をつけてあるはずだ。領主のところまで連れて行ってくれ」
俺達はそのまま街の中央の領主の城まで大通りを歩いた。
城に着くと、領主自ら出迎えてくれた。騒ぎになっていたので当然か。
「フローラ嬢、心配していましたよ。まさかヒビキ君が連れてきてくれるとは」
「ギーレンおじ様、お久しぶりです。少し遅くなってしまったかしら?」
領主の名前が判明した。ギーレン・ブルクスというらしい。
ギーレンは俺達に礼を言って、先日捕まえたネクロマンサーの男のことについて教えてくれた。
「あの男を扇動したのは邪神ではなく、魔族のようだ。この街にまだ魔族がいるかもしれん」
街に訪れた平和は本当に一時的なもののようだ。
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