第40話
「俺、『加護』持ちだから」
もちろん先程のフェールの説明でそんなことは全員知っている。
これは、俺の加護の力ならなんとかできるけど、内容に突っ込むなと言う意味だ。
しかし、さすがに全てを完全に任せられないと言われたので、何人か手を借りる事にした。
「なにか、要望はあるか?」
「じゃあ、弓が得意なやつを貸してくれ」
人数は、何人でもいいと伝えると8人を戦闘要員、2人を連絡要員として準備してくれた。
一人一人紹介されたが正直覚えていない。何人か女性がいたのには驚いたが。
紹介が済むとすぐに西門に向かった。
襲撃まで一時間とちょっとだ。馬鹿のせいで時間を食ってしまった。
西門外にはアイラがラル達を連れて待っていた。助っ人達がまたざわついたが俺達の配下のモンスターだと伝えると緊張をといた。
迎撃の準備だが、
まず、門の手前200mのところに深さ50cmほどの溝を25m×50mのくらいの広さで掘る。
これはすでにラル達が作業をほとんど終わらせてくれていた。
次に森の中にパニックゴーストを複数配置しておく。
最後にエミィ、ジル、助っ人の人達とゴブリンアーチャーを門の前に集めて、土魔法と水魔法で5mほどの高さの粘土の土壁を作り出し、風魔法と火魔法で乾燥させて即席のレンガの壁を作った。
今度こんなことがあってもいいようにコンクリートが作れないか研究しよう。
土壁は、外側に反り返してネズミ返しのようになっており、内側は門に逃げ込めるようになだらかな坂道になっている。
外に面した側だけ切り立った崖のような形で門をぐるりと囲んでしまう。
せり出た部分に蛸壺のような縦穴を作ろうか迷ったが強度不足になりそうなので断念した。
弓兵たちにはあまり身を乗り出さないようにお願いした。彼らには溝を超えた奴らに矢を放ってもらう。
全ての準備が終了したのはモンスターの群れの到着10分前だ。
ジルのおかげでギリギリまで準備に時間を使えた。
『主よ、匂いに釣られて先行した奴等が到着するぞ』
「ジルか?」
後ろから近づいてきたゴーストからジルの声が聞こえた。使役している人間の声を届ける力を持ったゴーストでウィスパーゴーストと言うらしい。
「こんな便利なゴーストいるなら教えてくれよ」
『すまんな。じゃが主よ、わらわが主に買われてから今日までほぼ片時も離れておらんのだ。説明する機会もあるまい』
「確かにな」
ジルと話していると先行したモンスターが森から出てきていた。俺の足元にある溝の中の液体から漂う匂いに向かって来ている。
すでに半数が『恐慌』状態に陥っており、溝にある液体から漂う『魔物の香水』の匂いに向かって突進してくる。
俺は余裕を持って、先行するモンスターたちに火炎旋風を放つ。
すでに森に『魔物の香水』の匂いを送るために微風を絶えず送っていたのでその風の流れをそのまま火炎旋風へと利用する。
先行してきたモンスターは、足の速い獣タイプのモンスターと飛行タイプのモンスターが大半だ。
微風から突風へと急激に変化を起こしたため飛行タイプのモンスターは、空中できりもみ状態だ。
また、地上の獣タイプのモンスターの前に炎の壁を作り出し進行を止める。
そのまま両グループを一箇所に追い込み、火炎旋風で止めをさした。
「ふぅ、とりあえず先行してたモンスターたちは一掃したかな」
先行モンスター群はおおよそ50匹程度、まだまだモンスターはやってくる。
先行モンスターから遅れること15分。とうとう本隊が到着した。
モンスターの3割ほどは『恐慌』状態との事だが、あれだけ密集していると効果が分からない。
オークやフレグランスアント、アーマーマンティスなどなじみのモンスターが多い。そんなモンスター達がすごいスピードで迫ってくる。
ついに、本隊の先頭が掘った溝の中心付近にたどり着く。溝の中には匂い元である赤い粘液があり、これが俺の切り札でもある。
「ルビー、食っちゃっていいぞ!!」
すると、溝の中にあった液体が溝のいたるところで盛り上がり触手を形作り近くにいるモンスターを束縛していく。束縛を逃れたモンスターもすぐに足元から新たな触手が現れて自由を少しずつ奪っていく。
「『粘液天国』へようこそ。楽しすぎて溺れるなよ!!」
『恐慌』の状態異常と『魔物の香水』の魅了効果で次々とモンスターが突っ込んでくる。
そのため俺の周りであらゆるモンスターの触手プレイ及びローションプレイが行われている。正直、そんな趣味を持たない俺には地獄でしかなかったが。
『持ち主よ、触手プレイとローションプレイに対する説明を求めたい』
『Hの書』はこんな時でも絶好調だ。
俺は奴を無視して魔物笛を吹いた。するとラル率いるゴブリン部隊がモンスターの群れの後ろからモンスターたちを『粘液天国』へ押し込みながらこちらへ向かってくる。
「ラル、いい仕事するよな~」
俺とアイラは『粘液天国』でただ2人、なんの脅威にもさらされずに周りで抵抗を続けているモンスターたちにサクサクと止めをさしていく。
30分後にはラルたちが全てのモンスターを『粘液天国』に押し込み、現在は溝の周りを完全包囲していた。
ルビーがラルたちと他のモンスターとを区別できないらしいので溝の内側には入らず、逃げようとしているモンスターたちを溝の内側に押し戻す仕事をお願いしたのだ。
すでに溝の内側に残っているモンスターは50匹を切っている。ルビーも自分の力だけでモンスターを体内に取りこんでいるので残りが片付くのもあっという間だった。
「よし、こっちはほぼ片付いたな。ジル、東門のほうはどうだ?」
『そうじゃな、苦戦はしているが負けてはいないのぅ、』
東門はセオリー通り、城壁を利用して戦っているらしい。かなり数を減らしているようだが、攻撃用のアイテムも底をついた。
しかしあちらにはまだスケルトンや、ニトロパウダーバタフライなどなかなか曲者のモンスターが多いらしい。
「東門側が本命中の本命だったわけか」
スケルトンは街中にゾンビを放ったネクロマンサーが使役しているのだろう。
俺はラルたちにポーションを渡し、東門への救援の準備を開始した。
「東門のモンスターの本隊は今、大半が門に取り付いている。城壁の上から投石や魔法での攻撃を行っているようだけど、全部は倒せてないみたいだ」
俺たちは、城壁にそって東門に向かい側面から攻撃を仕掛けることにした。数は半分ほどに減っているし大丈夫だろう。
助っ人さんたちに街中を通って先に東門に作戦内容を伝えに言ってもらう。
ジルには連絡係として助っ人さんと東門に行ってもらう。
ラルたちの回復も終わり、戦闘準備が完了するころジルから連絡があった。
『準備が出来ているならすぐにでも来て欲しいそうじゃ』
「分かった。攻撃前に連絡するから投石と魔法攻撃を中止してくれよ」
『分かっておる。すでに全員に連絡済じゃ』
「そうか、おっとちょうど到着だ。攻撃を開始する」
門に取り付いていたモンスターたちに突撃する。
俺はラルと共に最前戦で剣を振るった。
モンスターに対して突撃を行う。オークが数匹まとめて吹き飛んだ。
突撃の勢いのまま、モンスターと距離をとる。相手が準備を整える前に、再度突撃を行う。
俺の真正面に現れたオーガを速度を利用して一刀の元切り捨てる。周りでは突撃で吹き飛ばされたモンスター達がうめいている。
またも、速度を生かして離脱。あちらも突撃と離脱の動きに慣れたのだろう、俺達が離脱するとすぐさま密集隊形をとる。
俺たちは突撃をやめて遠くからの魔法攻撃に切り替え、門の周りのモンスターを一掃した。
「親玉のネクロマンサーはいないな」
そんなことを言っていると東の方からドーン、ドーンと地鳴りが聞こえてきた。
音のするほうを見てみると、そこには身の丈20mほどの巨人がこちらに迫ってくるのが見えた。
「さ、サイクロプス」
そう、巨人の顔には大きな瞳が1つしかない。これがサイクロプスか。
巨人はゆっくりと冒険者の街に近づいてくる。モンスターの大群を退けた俺たちの勝利の喜びをあざ笑うかのように。
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