第38話
「主よ、さっきの魔法は無しじゃからのぅ」
「ああ、わかったよ。でもそれ以外の魔法は使うからな」
ジルがうむ、と頷く。本当ならスケルトンウォーリアは、【電撃魔法】で消し炭にされてもジルさえ無事なら復活できるらしいのだが、あれで勝ってもジルが納得しないだろう。覚えたばかりなので使ってみたいのだが、今回は我慢する事にした。
スケルトンウォーリアは、俺が【絶霧】を構えると野太刀をこちらに向けてきた。脚を肩幅に広げ重心を低くし、半身でこちらをうかがっている。
なんだか構えだけで只者じゃない気配がするのだが...というかこんなに明確に『構え』を取ったモンスターなんて初めてだぞ。
「おい、ジル。なんかこいつおかしくないか!?」
「くふふ。主よ、そやつはわらわの配下じゃぞ。それなりの実力は持ち合わせておるわ」
「いや、そういうことじゃなくて!!」
スケルトンウォーリアのことをジルに聞き出そうと躍起になっていると当の本人が攻撃を仕掛けてくる。
野太刀の重さを最大限に生かした大上段からの振り下ろし。腕の力だけでなく全身の筋肉を使った一撃は容易く人体を破壊する。
もちろん、当たりさえすれば。
「ふう、危ない、危ない。てか、骸骨に筋肉ないだろ」
体を引いてなんとか必殺の一撃を避けた俺はすぐさま反撃に移ろうとした。避けた姿勢から一歩踏み出しそのままの勢いで刀を横薙ぎに振るう。
スケルトンウォーリアはそれをスウェーでかわし、野太刀を持っていない方の腕で殴ってきた。
これも体重の乗った重い一撃だ。俺は刀で拳をいなしながら足から地面に魔力を流し【土魔法】でスケルトンウォーリアの足下に15cmほどの隆起を作る。急に地面がせり上がって来たためスケルトンウォーリアは体勢を崩してしまう。その隙を逃さず【火魔法】で作った火球を胴体にぶちこむ。
スケルトンウォーリアが後方に数メートル吹き飛ばされる。胴体部分には金属鎧がないため骨に直接火球が当たったはずだ。
砂煙がはれると、スケルトンウォーリアが倒れている。腰の部分の背骨が根こそぎ失われているため身動きが取れないようだ。しきりに体を動かし立ち上がろうとするが上半身と下半身が連動していない。
これは決着がついたなと思っていると、スケルトンウォーリアの腹の部分を淡い光が包む。あれ?と思った次の瞬間にスケルトンウォーリアが立ち上がり、猛突進してきた。
「ジル、回復はずるいぞ!!」
「何を言っておる。そちらも魔法は使っておるではないか」
「さすがに胴体にあいた大穴を治療するなんてできねえよ!!」
そう言いながらスケルトンウォーリアの攻撃を刀でいなしてチャンスをうかがう。
数合切り結んだが、やはり一撃が重い。力では勝てないと判断し、魔法剣を使用することにした。
「喰らえ、炎の魔法剣!!」
炎をまとわせた剣で攻勢にでるがなかなかの防御だ。有効打が一発も入らない。
炎を展開し相手の視界を奪い、 更に【風魔法】であおってスケルトンウォーリアに小さな『火炎旋風』をお見舞いする。
「これならどうだ!!」
スケルトンウォーリアは全身ボロボロな状態でなんとか『火炎旋風』から這い出てきた。
とどめを刺すために近づこうとした瞬間、全身をまた淡い光が包み込み、スケルトンウォーリアを回復させてしまった。
さすがにげんなりしてきたため何とか終わらせられないかを模索する。
「そういえば回復の光が普通の回復魔法と違うな」
恐らくアンデッド専用の回復魔法なのだろう。
「あ、あれ使えるかも」
俺は剣にとっておきの魔法を送り込む。
スケルトンウォーリアがこちらに向かってきているのを見てこちらも相手に走り寄る。
交差の瞬間、【風魔法】で全身を守りスケルトンウォーリアの一撃を紙一重でかわす。カウンター気味に背中へと抜けながら脇腹を切り裂く。
スケルトンウォーリアがこちらに振り向いた。1歩、2歩と歩き3歩目でガシャリという音と共に倒れて動かなくなる。
「なんじゃ、回復せん? 何をしたんじゃ!?」
「ふぅ、うまくいったか」
『持ち主よ、説明を求める。ジルの魔力はまだ十分残っているはずだ。なぜ復活しない?』
「ああ、そのうち教えてやるよ」
俺はその場で座り込んでしまった。なるほど、ネクロマンサーが一人で街を落としたって逸話は本当なのだろう。
たった一体のスケルトンウォーリアを相手にしてこのざまだ。こんなのが数十体いれば街も滅ぶだろう。
「さて、俺は魔法習得の続きをやるから邪魔するなよ」
「今度は何を覚える気なのかのぅ」
『持ち主よ、見学を希望する』
2人ともここに残って見学していくようだ。
俺は皮袋から市で買った壊れた『時計』を取り出す。
この時計は、今は懐かしい振り子時計でぜんまいを巻けばしばらくは動くのだがどんなに巻いても30分ほどで止まってしまうらしい。
俺はぜんまいを巻いて時計が動き出したのを確認すると時計に魔力を込め始めた。
そう、火に魔力を込めれば【火魔法】が、電流に魔力を込めれば【電撃魔法】が習得できるなら『時計』に魔力を込めたら、【時魔法】を覚えるのではないかと考えたのだ。
じわじわと時計全体に魔力が染み込んでいく。これはうまくいくか?試しに秒針を動かしてみる。
ギギギと音をたてながら秒針が逆回転を始めた。しかし、特に変わった様子はない。次は秒針をその場にとどめ続ける。・・・やはりなにも起こらないようだ。
しかし、時計を操作出来たのは事実だ。何らかの魔法を覚えたのではないかとステータスを確認すると【操力魔法】を覚えていた。
これは離れた場所から 物を動かしたりすることができる魔法のようだ。早い話が念動力ってやつだ。
『叡知の書』に操力魔法について聞いてみると、知っていると答えてきた。
『操力魔法はすでに使うもののいない魔法と言われている。そもそも操力魔法はとある一族にのみ伝わる魔法だ。他の魔法に比べて感知が難しいためその力で暗殺されるのを恐れた権力者が一族を根絶やしにしたそうだ。持ち主は、その一族の生き残りなのか?』
あまり人前で見せない方がいい魔法を覚えてしまったようだ。
使う予定もないから問題ないだろう。
「俺は、勇者でもないしその滅ぼされた一族の生き残りでもないよ」
一息ついたので『叡知の書』に、【電撃魔法】、【操力魔法】について説明してやった。
「雷ってなんだと思う?」
『雷は、神が天罰をあたえるときに使う御技のひとつだ。ただ、罰を与えるべき者の周りにいるものも巻き込んでしまうことがある。その者を止められなかったので同罪と判断されたのだろう』
いやいや、理不尽過ぎるだろ。加護持ちとしてはあんまり神様の事悪く言いたくないけど。
「それは神様云々じゃなくてただの偶然だろ」
『しかし、罪を犯したものに雷が当たるのも事実だ』
「罪を犯したから雷にうたれたんじゃなくて、雷にうたれた中に罪人がいただけだろ?」
『叡知の書』が少し考え込んで納得した。
『なるほど、罪人が雷にうたれたのは事実だが、それが罪人を狙って放ったものというのは真実ではないということか』
「俺の生まれた国では雷はただの自然現象だ。仕組みも解明されている」
『雷と果物にどんな共通点があるのかすら未だに想像すらできぬ。良ければ教えて欲しい』
「そうだな、分かりやすく説明すると雷は力の移動なんだよ」
『移動?』
「そう。たとえば部屋の中の温度を氷で冷やして、扉を開けたときに外から暑い空気が入ってくるだろ?あれは、空気が同じ温度になろうとして移動してるんだよ」
『我には体がないので共感はできんが理解はできる』
「そうか。雷は電子という物の移動だ。電子にも暑い、冷たいみたいな2つの状態があって雷はその状態の差が大きくなると空から落ちてくる。人や建物に落ちてくるのは、電子がそこに移動しやすいからだ」
『なるほど、ではなぜ果物で雷が起こる?』
「規模は小さいけど、この2枚の金属の板が暑いと冷たいの代わりをしてるのさ、ちなみに果物は雲の代わりかな」
かなり適当だがこんな説明でいいだろう。誰も正確な事は知らないのだ。咎められることもない。
『では、【電撃魔法】と【雷魔法】の違いとはなんだ?』
「そうだな、神様の力が宿っているかどうかじゃないか?」
『神様?』
「そう。俺の国じゃ雷は『神鳴』って書いてたらしいし、きっと少なからず神様の力が入ってるんだよ」
オリンピックの聖火も太陽の力でともされた物らしいし、それと同じで人工的ではない電流を『雷』と判断しているのかもしれない。
俺の【電撃魔法】は完全に人工的な物だし、この解釈はとっさに思い付いたわりにはなかなか説得力がある。
『なるほど。では、【操力魔法】についてだが』
「これは俺にもよくわからん。とりあえず触れていなくても物を動かせる力みたいだな」
『よくわからん。もう少し具体的に頼む』
「なら、実際に味わってみろよ」
『どういうことだ?』
俺は【操力魔法】でジルが持っていた『叡知の書』を持ち上げた。
「うわっ、なんじゃ。主よ、驚かせるな」
『叡知の書』よりジルが驚いていた。当の『叡知の書』はたいしたリアクションもなく淡々としている。
『ふむ、なぜ浮いているのか分からんが、確かに魔力を感じるな。稀少な魔法に触れられるとはなかなか良い経験だ』
平坦な口調だが楽しいようだ。
『うむ、新たな知識の収集は素晴らしいものだ。博識な持ち主に出会えて我は幸運である』
「そうか、まぁお前にも『青春薬』教えてもらったしな。おあいこだよ」
『これからも我の知識の補完に協力してほしい』
「そうだな、暇なときに話し相手になるくらいならいいぞ」
まだ時間がありそうなので先程の戦いでは使用を禁止されていた【電撃魔法】の練習をする。まずは、オーソドックスに剣に纏わせてみた。
時折、ジジッという音がして表面に紫電が走る。試しに先程の倒れた木の幹に剣を降り下ろしてみた。多少の抵抗を感じたが、木を輪切りにできた。切断面は焦げ付きがややあるがそれなりに綺麗な物だった。攻撃として使用すれば恐らく剣を合わせたり、金属製の盾で防いでも持ち主に電気ショックを食らわせることができるだろう。
次は遠距離攻撃だ。剣があるので空っぽの左手に電撃魔法を貯めていく。
一度放った経験のお陰か、他の魔法に比べて貯めに時間が必要な理由がなんとなく分かった。
電撃をターゲットに当てるために空気中に電撃を放電しなければならないのだがターゲットまでの空気に電撃を流すのにかなり力が必要なようだ。
もちろん放てばさっきのように高威力なのだが 。何か考えた方がいいかもしれない。
何度か、限界までチャージして放つということを繰り返しているとどうも体が砂っぽい。
気になったので体中を手で払うとパラパラと砂が落ちた。なぜだ?さっきのスケルトンウォーリア戦の後綺麗にしたのに。
少し考えてようやく思い至った。電撃の放ちすぎで、体が磁界を帯びてしまったのだろう。つまりこの砂は砂鉄だ。
「そうか、磁力か。電撃が使えるなら何か作れそうだな」
俺はあれこれと磁力を利用する方法を考えることにした。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。