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第36話




 明日、ルクスたちがブレトの街に出発する。俺達がこの街について1週間が経っているがあのモンスターの大群はそろそろブレトにたどり着く頃らしい。
 この街の領主はすでに領主軍を救援に向かわせており、魔物の大群から約半日遅れでブレトの街へたどり着くとのこと。
 現在、ブレトの街の城壁を最大限に利用し、防戦を続けているとの事。本日出発するのは領主からの依頼に集まったこの街の冒険者たちだ。
 数こそ領主軍に比べ少ないが、全員が中堅以上のベテラン冒険者たちだ。モンスター討伐なら彼らの右に出るものはいない。
 そんな彼らを戦場へ運ぶ秘密兵器が『ウェフベルク空運』の飛行モンスターたちだ。
 『ウェフベルク空運』は、ウェフベルクを拠点とした運搬を生業にするギルドだ。
 集団を運ぶことの出来る飛行モンスターは数が限られているが、今回領主の依頼を受けウェフベルク空運の全力を持って冒険者たちの移動に協力してもらったらしい。

「そこまでしても運べるのは150人くらいらしいけどね」

 腕利きの冒険者が150人。貴重な運搬能力を一時的にとはいえすべて投入するに足る戦力であるとここの領主は判断したようだ。

「すげえな、ちなみに明日出発してどれくらいで到着するんだ?」

「明後日の朝には着くらしい」

 ほぼ丸1日で着くとは本当にすごい。俺も飛行モンスターが欲しくなってきた。
 明日の朝、出発するとのことだったのでその時に見送る約束をしてルクスと分かれた。

「ルクスになにか餞別を用意してやるか」

「そうですね、あの人たちにはお世話になりましたし」

「何がいいでしょうか?」

 話し合った結果、エミィお手製のポーションを渡すことにした。

「ルクスたちの『エクスポーション』に助けられたからな。格は落ちるがエミィのポーションならよく効くし大丈夫だろう」 



 朝、ルクスたちを見送りに西門の外の広場に行くと、ルクスがすぐに俺達を見つけてくれた。

「ヒビキ、わざわざ見送りに来てもらって悪いな」

「森の中じゃ世話になったからな」

「こっちも助けてもらったじゃないか」

 ルクスに皮袋を渡す。中には昨日作ったポーションが20個くらい入っている。

「餞別だ。エミィが作ったポーションなんだがよかったらなんかの足しにしてくれ」

「いいのか?」

「ああ、『エクスポーション』の代わりにはならんだろうがな」

「そんなこと無いさ。エミィさんのポーションは良く効くのは俺達が良く知ってる」

 後ろでゲイリーたちがうなづいている。エミィのポーションの効能はあの森にいたもの全員が自分の身をもって知っている。

「お前なら大丈夫だろうが、死ぬなよ」

「ああ、ヒビキとはまた会いたいしね」

 俺とルクスにクェスが近づいてくる。別れのあいさつをするつもりだろう。

「師匠も気をつけて」

「『全滅』も気をつけなさい。この街は今、防御が疎かだから」

 確かに領主軍に加え、腕利きの冒険者の約半数を引き抜かれている状態だ。気をつけるに越したことは無い。
 俺はクェスの言葉に素直にうなづいた。
 一緒に近づいてきたバーラとゲイリーにも頑張って来いよと声をかけてルクスとの会話に戻ろうとしたが、

「ちょっと!!気づいてるんでしょ!?」

 KYシスターに引き止められた。俺はあからさまため息をついてセイラの顔を真正面から見つめる。

「なんのようだ、ドMシスター」

 セイラはドエム?と首をかしげたがすぐに考えるのをやめて俺を罵倒しにかかった。

「あなた、わたくしを無視するなんてどういうつもりですの?」

「すまん、見えなかったんだ。目に入ってもお前がいることを理解したくなかったんだ」

「なんてこといいますの!! ちゃんと私を見なさい!!」

 セイラが胸を張る。赤い修道服に包まれたそれなりに豊かな胸がふるんっとゆれるが不思議な事になんとも思わなかった。

「その中途半端な乳を見ればいいのか? 大きさならジルのほうがでかいし、形ならアイラとエミィのほうが俺は好みだが」

「なっ!?」

 言葉を失うセイラ。しかし、この程度ではへこたれないのかキッと俺を睨んでくる。

「あなた、今回の救援隊に参加されないようですわね」

「ああ、参加しない」

 セイラが見下すようにこちらを見ている。

「ブレトの街の一大事になぜあなたは参加しないのですか、こんなときに自身の身の安全しか考えられないのですか」

 その通りだが、少しだけ反論してやる。

「お前、本気で言っているのか?」

「当然です。人は助け合わねばなりません」

「ブレトの街の為なら、この街がどうなってもいいってことか?」

「ふぇっ!? そ、そんなこと言ってません!!」

「だって、この街に残る奴らはみんな自分勝手なやつらだって言ってるんだろ?」

「そ、それは」

「ここは『魔物の荒野』に面した街だ。今日、これから飛行モンスターの大群が飛び立つのを見ればこの街の戦力が落ちているのはすぐに分かる。モンスターが襲撃してくるかもしれない」

「う、ぐ、」

「そんな状態のこの街に残り、モンスターたちの襲撃に備えるのが自分勝手か?」

「あ、の、」

 俺の声はやや大きく、周りの人間にも聞こえていたのだろう。他の冒険者たちを見送りに着ていた冒険者たちの目が冷ややかだ。
 その視線に気づいたのだろう、セイラが萎縮してしまった。

「わかったか?ここに残る俺たちだって戦ってるんだ。勝手なことを言わないでもらいたい」

「・・・申し訳ありませんでした」

 セイラが深々と頭を下げて謝罪してくる。もちろん俺はそこまで考えてなどいない。直前にクェスに言われてなるほどと思っていた。

「もういいよ。お前たちが危険な場所に行くのは本当だからな」

「ヒビキ、すまない。君はそこまで考えていたのに俺は、」

 ルクスも何か言いたげだ。おそらく、ブレトの街を救いに行くことに頭がいっぱいになっていてこの街の戦力低下にまで目がいっていなかったのだろう。
 まあ、勇者候補とはいえ、一冒険者がそこまで考える必要は無いんだが、ルクスは生真面目だから思い至れば全部背負い込んでしまう。

「気にすんな、お前は一人しかいないんだ」

「ありがとう、この街のことは頼む」

「そうだな、出来る限りはな」

 実に冒険者らしい答えを返す。冒険者は自身の命を賭けてまで何かを行うことは無い。
 俺はルクスと握手を交わして飛行モンスターが飛び立って行くのを見送った。ルクスに任せておけばブレトの街は大丈夫だろう。そんな確信が俺にはあった。

 ルクスたちを見送って、昨日気になったジルの知識の偏りを正すために魔術師ギルドに向かった。
 受付で魔術に関する本が欲しいと伝えると販売はしているが俺には売れないと回答された。

「魔術に関する書物の販売は、3級以上の方に限らせていただいております」

 本の販売に規制があるのは、魔術師がそれだけ強力だと言う証だ。 
 仕方がないので魔術師ギルドをあとにする。

「さて、いきなり手詰まりだな」

「ご主人様、市なら魔術の書物もあるかもしれません」

 エミィの意見を採用して、市に向かう。
 前回はジルを購入したためゆっくり市をまわれていないのでちょうどいい。
 少し歩いてジルを購入した店の辺りまでたどり着く。ここから先は露店が多くなるが、加護と選別で魔術関係の本と掘り出し物物を探す。
 まず魔術関係の本だが、市全体に選別をかけて20冊ほどの反応があった。

「これか、見た目はただの本だな」

 最初の店にあったのは、『炎の大魔術師、ガーバーナデル』の自伝だった。
 自分を大魔術師と言っているところがかなりうさんくさいが中身を確認してみると以外にしっかりした内容の本だった。
 ガーバーナデルは、冒険者だったようだが何度か仲間に裏切られその度にモンスターの群れの真ん中に置いていかれたらしい。
 そんな時にどうやって切り抜けたかを事細かに説明してくれている。
 案外役に立ちそうなので購入する。価格は大銅貨2枚だった。
 他の店でも実際に手に取ってステータスを確認すると、魔術の指南書や魔術師の自伝のような書物がほとんどだった。
 目的の死霊魔法の本も3冊ほど見つけた。結局選別で発見した本はすべて購入した。
 数は少なかったが、本自体に魔力のある『魔書』と呼ばれる本があった。
 見つけた魔書は、
 魔力を込めておいて後で取り出すことのできる『備蓄の書』、
 契約した相手をその場に呼び出すことができる『召喚の書』、
 そして魔力が込められているのは分かるが効果のよく分からない『叡知の書』。

 『叡知の書』のステータスを確認してみると、

*****************

叡知の書(休眠中)

賢者によって記された書物。
あらゆる知識を得ることができる。

*****************

 なんだ、休眠中って。中を見てみたが、子供の落書きのような模様が全ページに渡って描かれていた。
 露店の店主に出所を聞くと、何でも何代か前の領主の屋敷にあったものらしい。その領主の没後、身辺整理の時に当時使用人だった自分の祖母が譲り受けたらしい。
 価値ある物だと思って、持ってきたがずっと誰も見向きもしないから困っていたらしい。大銅貨4枚で買うと言ったら大喜びしてくれた。
 その他にも露店でいくつか目につくものを購入した。
 明日、また色々実験を行うためにゴブリンの村にいくことにした。せっかくなので市で売っていた量産品をゴブリン達の装備として買っていく。

 その日の夜、他のみんなが寝静まったころに、市で買った『備蓄の書』に魔力を込めておこうと本を手に取り今ある魔力を全て注ぎ込んだ。
 さて寝るか、と本を机に戻そうとしたとき、

『うむ、数十年ぶりの魔力か。体に染み渡るな』

 俺は周りをキョロキョロ見渡すが声の主が見当たらない。

『ここだ、新しき持ち主よ。我の持ち主は一度はそうやって我を探すが、それは何かの儀式なのか?』

 声は手元から聞こえた。
 あわてて手に持った本を確認すると、手の中にあったのは『備蓄の書』ではなく『叡知の書』だった。
 本の表紙が似ていたので間違えてしまったようだ。

「『叡知の書』が話してる?」

『そうだ、我こそはこの世のあらゆる知識を集めた魔書、『叡知の書』だ』








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