記者の目:新ローマ法王と現代日本=福島良典

毎日新聞 2013年08月27日 01時25分

 フランシスコ・ローマ法王(76)が今年3月にキリスト教カトリック史上初の中南米出身法王に選出されてから間もなく半年を迎える。就任以来、社会的な弱者に寄り添う「貧者のための質素な教会」路線を打ち出し、バチカン(ローマ法王庁)に根付く欧州中心主義からの脱却に取り組んでいる。日本にキリスト教を伝えた修道会イエズス会出身の法王はアジアにも強い関心を寄せており、日本社会にとって、清貧の法王が発信する価値観に耳を傾ける好機だ。

 ◇「厳格」から転換 「ぬくもり」発信

 7月下旬、カトリックの祭典「世界青年の日」大会を取材するためブラジル南東部リオデジャネイロを訪れた。アルゼンチン生まれの法王の出身大陸へ“凱旋(がいせん)訪問”とあって、「自分たちの法王」を一目見ようと中南米の若者ら約300万人が詰めかけた。会場のコパカバーナ海岸(長さ約4キロ)を埋め尽くしたブラジルやアルゼンチンの国旗を目にして、カトリック世界の重心が欧州から、海を越えた「新世界」に移りつつある現実を肌で感じた。

 「カトリック教会は最もグローバルな共同体だ」。バチカンのフェデリコ・ロンバルディ報道官はブラジル訪問前のインタビューで、世界人口の「6人に1人」にあたる約12億人の信徒を擁するカトリック教会の現状をそう形容した。お膝元の欧州では宗教離れから教会の地盤沈下が進むが、宣教師が布教した中南米、アフリカ、アジアなどで信仰が広まったためだ。いまや欧州以外の地域がカトリック人口の4分の3を占める。

 欧州重視だったドイツ出身の前任、ベネディクト16世(86)からフランシスコ法王へのトップ交代で総本山・バチカンも「脱欧州」へとかじを切った。法王は欧州の貴族趣味的な虚飾を廃し、バチカン改革のための諮問委員会もメンバー8人中6人を欧州以外から登用した。ローマから世界各国への「分権化」の方向を示した第2バチカン公会議(1962〜65年)の精神を実践に移している形だ。

 法王の目は、社会の「辺境」に暮らす人々や弱者・少数派に向けられている。リオのスラム地区で「あなた方は独りぼっちではない」と住民に連帯の手を差し伸べ、「自らの足で立ち上がることができる」と薬物・アルコール依存症患者を励ました。女性の役割を強調し、同性愛者の社会統合も訴えている。天を突く欧州ゴシック建築の大聖堂に象徴される「父なる神」の厳格さよりも、貧しい人々や罪を犯した者も慈悲で包み込む「母なる神」のぬくもりを発信しているように見えた。

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