第32話
人の流れもまばらな大通りを眺めながらいまだに残る眠気を抑えて、デートの相手を待つ。
昨日のデートでは相手を待たせてしまっていたので今日は少し早めに、いやかなり早めにティルの店を出た。
さっきまで大通りには多くの人がいたがそれも落ち着いてきた。
「お待たせしました、ヒビキさん」
俺が待ち合わせ場所について5分も経たずに待ち人はやってきた。
「おはようエミィ、俺も今来たところだよ」
「そうですか、約束の時間を間違ったんじゃないかと思ってしまいました」
俺が待ち合わせ時間よりかなり早くついていたので、時間に余裕を持ってやってきたはずのエミィは自分が待ち合わせ時間を間違えたのではないかと焦ったようだ。
「ごめんな、エミィとのデートが待ちきれなかったんだよ」
「そういってくれるのはとても嬉しいのですが、ヒビキさんを待たせるのは心苦しいですし」
「俺の国では待つ時間もデートの内って言われてるんだよ」
「どういうことですか?」
エミィは待ち遠しいという感覚は分かってくれたが、待ち時間を楽しむという感覚は分からないようだ。少しだけ分かりやすく説明してやる。
「たとえば俺は、今日のエミィとのデートを楽しみにしてた。どこに行こう。何をしよう。どんな話をしよう。そんなことを考えてるだけでも楽しいし、そんな楽しい時間からもうデートは始まってるんだよ」
エミィはなるほど、と小さく頷いてくれた。
「じゃあ、大通り沿いのお店を見てまわろうか」
エミィは差し出された右手を見てすぐに俺の意図に気づく。ほとんど躊躇せずに俺の手を握ってくれた。
もっと照れるかなと思っていたのでやや拍子抜けに感じたが、エミィの顔を見るとわずかに赤くなっていた。なるほど、可愛らしい。
「大通り沿いにあるお店に行くんですか?どんなお店なんでしょう?」
とりあえず大通りを見てまわろうと提案したつもりだが、エミィは別の受け取り方をした。
ウインドウショッピング(目的のない買い物)に若干違和感を感じているようだ。
「お店には悪いけど、ブラブラして楽しくおしゃべりしながら欲しい物は購入するって感じかな」
「欲しい物も無いのにお店に行くんですか?」
「さっきの待ち時間と一緒だよ。エミィと一緒に色んな物を見てまわるのはきっと楽しいし、欲しい物だけ買うって買い方じゃ出会えないものもあるさ」
「なるほど、デートというのは奥深いですね」
「そんなこと無いさ。結局、2人が楽しめてればそれは全部デートなんだ」
エミィと楽しく会話しながら大通りに向かって歩く。
大通り沿いのアクセサリーや小物、雑貨を扱う店が並んだ場所まで来る。そういえばショーウインドウは無いのにウインドウショッピングって言うのか?
「この店は雑貨が多いな、銀食器まで置いてあるのか」
「こういう装飾の多い品は見ていてすごいと思います。私には作れませんから」
エミィが銀食器を見ながら呟いた。
銀食器も錬金術師の作品らしい。もちろん普通に金属を加工して作った銀食器もあるようだが、装飾がより緻密なのは錬金術師製のほうだ。
「作れない?エミィが?」
エミィが作れなければ大抵の錬金術師もつくれないと思うのだが、
「私は、実用性のある効果付きの物なら大抵のものは作れますが、こういった装飾に価値がある物の作成は苦手なんです」
「そうなのか」
確かにエミィには今までポーションなどの薬や装備品などあまり装飾の必要ないものしか作らせていなかった。
「エミィ、そういうものが作りたいか?」
「そうですね、一度くらいならこういう物を作ってみたいです」
それを聞いて、少し前から準備していたある作業をエミィに行ってもらうことにした。
「よし、それじゃあ作ってみるか」
「えっ!?あのどこへ?」
「着くまでのお楽しみ」
そう言って繋いだままの手を引いてある場所までエミィを連れて行く。
「いらっしゃーい、ってヒビキか、今日はエミィとお出かけなんじゃないの?」
たどり着いたのは昨晩もお世話になったティルの店だ。
「ああ、デート中だよ。ティルさんいるか?奥の作業部屋借りたいんだけど」
「お父さんならまだ寝てるけど、昨日あんたと遅くまで話してたみたいだし」
昨日は俺の国の兵器とかについて話し込んでしまった。まあ、うろ覚えの怪しい知識だが。
「じゃあ、作業部屋借りちゃまずいかな?」
「いいんじゃない?お父さんヒビキの事気に入ってるし、なんなら起こしてくるけど」
「無理に起こさなくてもいいよ、じゃあ作業部屋借りるな」
作業部屋に着くと、壁際に置かれた箱をごそごそやる。目当てのものが見つかるとエミィを作業台まで呼んで取り出したものをドンッとエミィの前に置く。
「じゃあ、エミィ、お皿を作ってみようか」
「え、これなんですか?木でも銀でも無いですよね?これでお皿を作るんですか?」
エミィの前に置かれたのは『白い粘土』だ。
教会の食事会の時から気になってちょくちょく調べていたのだが、この世界には木の食器と銀などの金属器しか存在しないようだ。
陶器の類が一切存在しない。陶器を作りたいと思い始めると錬金術師のことが頭に浮かんだ。
確か、西洋の白磁器作成には錬金術師がかかわっていたはずだ。
そこで、陶器作成に必要な粘土をルビーに【選別】で作って貰い、聞きかじりの知識で『釉薬もどき』も調合した。
色々試して一番それっぽい出来になったのが水に粘土と灰、魔鉱石の粉を混ぜて作ったものである。まあ、これは実験だから失敗しても何の問題も無い。
「これから、エミィに新しい食器を作ってもらうんだよ」
「これでどんな物ができるんですか?」
「そうだね、俺の国の名匠が作ったその食器は、時に宝石よりも価値ある物と鑑定されることもあるみたいだよ」
「そ、そんなもの作れません」
「大丈夫さ、エミィに出来なければあきらめるから」
そう言われておずおずと白い粘土に手をかざし【アイテム作成】を行おうとする。
「ああ、待って一応この液体をかけておこう」
『釉薬もどき』を粘土にまんべんなくかける。
エミィが気を取り直して【アイテム作成】を使う。粘土がぱっと光りすぐに光が収まる。
光が収ると、そこにはところどころがつるつるな乾いた白い粘土の塊があった。
「やっぱり、私にはそんなすごいお皿なんて作れないんです」
俺はその粘土の塊を見る。釉薬はおそらくうまくガラス化している。粘土の塊は【アイテム作成】前と形が変わらないように感じる。
「エミィ、もう一回だ。ほら、この辺ちょっとつるつるしてるだろ。あと一歩ってところだよ。次はこの粘土を皿の形に自分で作ってから【アイテム作成】してみよう」
「わ、分かりました。頑張ってみます」
俺は、エミィと作業台でおしゃべりしながら食器を作っていく。俺の作る作品はややいびつで綺麗に出来なかったが、エミィは手先が器用なのか次々と綺麗な形の食器を作っていく。
「なんだか、楽しくなってきました」
「そうか、それは良かった」
そういいながら、俺は皿に絵を書いていく。
「それは何をしているんですか?」
「これか?焼いた時にこの絵が皿に残るんだよ」
「ずるいです!!私もやります」
その後、縄を使って模様を書いたり、粘土の出っ張りで装飾を作ったりしてその度にエミィにずるいと言われてしまった。
「ヒビキさんだけ知ってる技術なんてずるいです」
もう何度目か分からないくらいずるいを言われているが、エミィがずるいと言うときの顔が可愛くてこちらもムキになってエミィにずるいと言わせようとしてしまった。
「さて、じゃあよろしくエミィ」
「・・・はい!!」
気合を入れて俺達が作った皿にアイテム作成を使う。光が作業台いっぱいに広がり、収まったときには作業台の上の粘土の皿は見事な白磁器になっていた。
「やったなエミィ!!」
「これを私が?」
おそるおそる作業台の上の皿に手を伸ばすエミィ。指先でつんつんと感触を確認し、両手でゆっくり皿を持ち上げる。
その皿はエミィが絵を描いた皿だ。自分の描いた絵がそこにあることを確認してこちらを振り向いた。
「ありがとうございます、ご主人様。私こんな綺麗なお皿を作れるなんて思ってませんでした」
エミィは興奮しているみたいで、俺をご主人様と呼んだ。
「ああ、いい出来だね。そうだ、その皿錬金術師ギルドで鑑定してもらおうか?」
錬金術師ギルドは、常に新しい物の作成を奨励している。その為、ギルド内には価値の分からないものや錬金術師たちが作り出した新しいアイテムを鑑定してくれる部門がある。
錬金術師ギルドで鑑定された価値は、他のギルドや商人達にもかなり信頼されている。
「よろしいのでしょうか?登録するにはサンプルを提出しなければいけませんが」
「いいんじゃないか?これ見ても『白い粘土』から作ったなんて誰も想像できないだろ」
錬金術師ギルドでの鑑定は、鑑定するもののサンプルをいくつか提出しなければならず、そのサンプルから同じものを作られる可能性が出てしまうのだ。
特許など存在しないこの世界では当たり前の事だが、真似し辛いアイテムを作らなくてはすぐにコピー商品が横行する。
しかし、コピーされるまでは独占販売が可能だ。価値を認められるためにギルドに登録するものは後を絶たないようだ。
クレストの扱う『翡翠織物』もギルドでの鑑定を行われ高い価値を認められていながら永く独占販売を行えている成功例だろう。
「確かに、想像も出来ませんね、土がこんなにつるつるになるなんて」
「一見、鉱物っぽいところがいいよな」
しばらく、ギルドでの鑑定について話しているとティルが作業場にやってきた。
「おう、おめえらきてたんか」
「おはよう、ティルさん」
「おはようございます」
俺とエミィがあいさつを返すと、ああ、とだけ返してきた。
「なんでぇ、その皿、面白い色してるな」
ティルが作業台の皿に気がついた。
「ああ、今エミィが作った新しい皿だよ」
「へぇ、嬢ちゃんは腕のいい錬金術師だったんだな」
「そ、そんな私なんて」
「謙遜すんなよ、こんな皿見たことねえよ。すげえじゃねえか」
「これからこの皿を錬金術師ギルドに鑑定してもらうと思うんだけど」
「おお、いい値がつくんじゃねぇか?」
「そう思う?」
「かなり綺麗だしな、貴族の連中が好きそうだ」
ティルのお墨付きを貰った。まあどこまで当てになるかは分からないが。
結局午前中は皿作りで終わってしまった。
作業部屋を借りたお礼に何枚か陶器の皿をトトに渡したが、トトが困った顔をした。
「こんな上等そうな皿、怖くて使えないよ」
だめになったらまた作るから気にせず使ってくれと伝えて店を出た。
ティルの店を出て、錬金術師ギルドに行く前に昼食を取った。
まだ正午には早いせいか店の中は空いていたためゆっくりと食事を取ることができた。
錬金術師ギルドは冒険者ギルドに比べるとお店のような雰囲気だった。
魔術師ギルドや魔物使いギルドもそれぞれの職種の為のアイテムが販売されていたがあくまでもギルド内の一角で小規模に行われていた。
しかし、錬金術師ギルドは素材の販売こそメインのようだ。ほかのギルドのような受付はレジの機能も有してるらしい。
「なにか、欲しい物はあるか?」
「そうですね、魔法薬用の素材がいくつか切れ掛かっています」
「そうか、でも結構な量になるよな。今日は下見だけにして今度みんなで来よう」
ルビーがいないので荷物は全部自分達で持たなければいけない。やはり冒険者鞄を持たない奴らは荷物だけでかなり大変な気がする。
「わかりました」
エミィと一緒に素材が並べられている棚に向かう。
棚にはすでに1人の錬金術師がいたが、気にせずエミィと何を買うかを話し合う。
「このアウラウネの樹液は魔力を回復するポーションを作れます」
「そうか、これからは俺も魔法での攻撃が増えるだろうから必要だな」
「はい、ただ体力回復用のポーションや傷を治すポーションに比べると素材がとっても高いんです」
「素材自体が高いのか、魔力回復ポーションはもっと高い?」
「すっごく高いです。魔術師の皆さんは切り札としてひとつだけ持っていたりします」
何とかならないものかと2人で話していると、俺達より先にいた男の錬金術師が俺達をじっと見ていた。
いや、俺達ではない。エミィを見ていた。
「何か用か?」
俺が話しかけるとビクッと男が反応しきょろきょろと落ち着かない様子を見せる。
「お前、エミィだよな?なんでこんなところにいるんだ?」
男は俺を無視してエミィに話しかける。
エミィも男の顔を見て知り合いであることに気づいたのかびっくりした顔をしていた。
「フレッグ、あなたこそどうしてこの街にいるの?」
「僕は、この街のギルドに届け物を持ってきたんだよ。それで用が済んだから帰ろうと思ったら護衛の冒険者が見つからないんでこの街に足止めを食らってるんだよ。だからこの仕事を請けるのは嫌だったんだ。どうして、ボルル家の嫡子である僕がこんなくだらない仕事をしなければいけないんだ」
フレッグは貴族の生まれらしい。護衛が見つからないのはおそらくブレトへの救援隊の為だろう。
「それより、お前は何でここにいるんだ?お前は借金で発掘現場にいるはずだろ」
フレッグとか言う男は、ブレトの街に帰れない自分の状況を思いだしていらついたのかヒステリックに言い放った。
「ええ、でもご主人様が私を買ってくれたから」
そう言われてフレッグがこちらを見る。そして、エミィの手の甲に奴隷の紋があるのを確認してにやにやと笑う。
「へぇ、お前を買うような物好きなやつがよくいたもんだ」
「そうね、いくら感謝してもしたりない」
エミィは、フレッグの嫌な笑いに気づいていないようだ。エミィは人の悪意に極端に鈍感だ。エミィが奴隷に落とされた経緯は本人からも聞いている。
あの事件にはエミィを快く思っていない人間の悪意を感じていた。考えたくは無いが目の前のこの男が事件に関与している可能性は、この態度を見れば高いだろう。
「きっと、見る目が無かったのさ。まともな人間がお前なんて買うわけが無いからな」
「その辺にしてもらおうか」
見ていられずに俺は2人の会話に割って入った。エミィがちょうど何かを言おうとしていたが俺が急に止めたので黙ってしまった。
「な、なんだお前は!?い、今は僕がエミィと話しているんだ。じゃ、じゃ、邪魔をするなぁ」
尻すぼみで俺にも食ってかかるフレッグ。
「俺のものを馬鹿にされたんだ。黙ってられる訳がないだろ。エミィは優秀な錬金術師だ。お前達が目障りに思うくらいにはな」
「な、何のことだ。しょ、証拠はあるのか!? 僕が関わったと言う証拠は無いはずだ!?」
鎌をかけてみた。面白いくらいに引っかかる。
「お前こそ何の話だ? 証拠? 俺はただ、エミィが優秀だと話しているだけだぞ」
「うぐっ」
自分の失敗に気がついたのか急に黙り、そそくさと立ち去っていった。
「やれやれ、貴族の息子ってのは馬鹿がデフォルトなのか」
「ご主人様、申し訳ありません」
「なんでエミィが謝るんだ?」
「私のせいでご主人様を悪く言われてしまいました」
ああ、さっき奴が言った見る目が無い、か。
「気にするな、エミィは優秀なんだから、俺の見る目も確かなんだよ」
「ですが、」
「あ~、ならエミィが優秀だって証明しに行こうぜ」
エミィの手を引いてギルドの受付に向かう。
「すまない、鑑定をお願いしたいんだが」
「はい、鑑定する品をお出しください」
そう言われて皮袋の中で布でぐるぐる巻きにしておいた皿を何枚か出す。
「ちょっと、壊れやすいから気をつけてくれ」
「えっと、これはなんでしょう?」
「皿だ」
「はい、それは分かりますが何で出来ているのですか?」
「企業秘密だ」
「か、かしこまりました。少々お時間いただきますがよろしいですか?」
「ああ、かまわない」
皿を受付に預けてエミィと待合室で待つ。10分ほど経っただろうか、40歳くらいのおじさんが慌てた様子で待合室に飛び込んできた。
「皿を鑑定に出した方はおられるか?」
待合室には俺達と同じように鑑定の結果を待つ人たちが何組かいたので俺達がそうだと分からなかったのだろう。
「俺達だ」
手を上げておじさんに答える。
「そうか、ちょっと来てくれ」
俺たちは奥にある応接室に案内された。呼びに来たおじさんはこのギルド支部の支部長らしい。名前はフランク、自身もいまだ現役の錬金術師で俺達の持ち込んだ皿に非常に興味を引かれたらしい。
「この不思議な手触りの皿をどうやって手に入れたのだね?」
「うちの錬金術師が作ったものだ。作り方は秘密だ」
「その者に会いたいのだが」
「目の前にいるぞ」
俺がエミィを指し示すと男がぽかんとした顔をこちらに向けた。
「彼女がこれを作ったのか?」
「そうだ」
「すばらしい!!若く才能にあふれた錬金術師は大歓迎だ!!」
フランクはエミィの手を取りぶんぶんと上下に振った。少しして俺はフランクの手を引き剥がした。これ以上の身体的接触は許しはしない。
「いや、失礼。年甲斐も無く興奮してしまった。お嬢さん大丈夫かね?」
「は、はい。大丈夫です」
「それは良かった。ところで、この皿なんだがどれくらい作れる?」
すべてを正直に話す必要は無い。高く買ってもらう為にも希少価値をつけねば。
「そうだな、必要な素材もあるし軽々しく答えられないな。逆にどれだけ欲しいんだ?」
「うん、私見だがこれなら貴族の顧客がすぐ付くだろう。私の知り合いに何人かこういった食器のコレクターもいるしね」
具体的な数として、丸皿20枚を1セットとして、5セットの注文を受けた。納期は1セットを見本として客に見せるので1週間以内に、4セットが1ヶ月以内に納品して欲しいと頼まれた。
そして、フランクの見立てでは20セットはすぐに売れるだろうから準備をしておいて欲しいとお願いされた。
「料金は、1セットで金貨10枚くらいでどうかね?」
価格に驚いたが、名器の価値が一千万円を越えることを考えれば、この世界初めての白磁器にこれほどの価格が付くこともありえなくは無いのかもしれない。
いやらしい計算だが、アイラは金貨2枚を値切ったし、エミィの購入価格は金貨11枚だった。貴族や金持ちの道楽の金額としてはそう高くは無いのだろう。
「ああ、その値段でかまわない」
「そうか、何か必要なものがあったら遠慮なく言ってくれ。もちろん無料というわけにはいかないが、少しは協力させてもらうよ」
「ああ、助かる」
まあ、必要な材料を特定する意図や素材を買い占めてこの商品の独占を狙っているのだろうが、助かるのは事実だ。別に作るのに必要なもの限定と言われたわけではないしな。
「ところで、この皿はなんと呼べばいいんだい?」
「俺たちは白磁器と呼んでいる。」
「なるほど、じゃあ私もそう呼ばせてもらおう」
思わぬ商談がまとまってしまい、エミィとのデートが中断されてしまった。そのことをエミィに謝ると首をぶんぶんと横に振って感謝された。
「とんでもありません、すごく嬉しかったです」
エミィは“美術品”として評価された白磁器を自分の手で作成できたことが嬉しいようだ。
「そうか、なら良かった」
ギルドでの商談に時間を食ってしまいすでに辺りは暗くなってきている。
エミィと共に銀杯亭に向かう道中、プレゼントの事を思い出して慌ててエミィを後ろから抱きしめてエミィに魔宝石の入った小箱を渡す。
「私にもいただけるのですか?」
エミィはアイラが俺から魔宝石を貰ったことを知っていたようだ。アイラにはエミィにも渡すけど内緒にしておくように言っておいたのだが。
「帰ってきて、ニコニコしながらずっと小箱を見つめていたら嫌でも気付きますよ」
くすくすと笑って答えるエミィ。俺はこほん、と咳払いをしてエミィに日ごろの感謝を告げる。
「エミィ、いつもありがとう。エミィが作ってくれるアイテムが無きゃ絶対途中で力尽きてたよ」
「いえ、ヒビキさんならきっと私がいなくてもここまで来れていますよ」
それは、エミィからの俺への信頼だろう。
「例え本当にそうだとしても、俺はエミィが一緒にいてくれて嬉しいんだ。頼りない主人だけどこれからもよろしくな」
「・・・はい、私でよければどこまでもお供いたします」
エミィが俺の腕をぎゅっと掴んでくる。俺もエミィを抱きしめる腕にぎゅっと力をこめた。
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