特定秘密保護法案の参院での審議がきのう始まった。なんども指摘してきたとおり、これが「欠陥品」のたぐいであることは明らかだ。まちがって欠陥品が届いたら返品するのが常識だろ[記事全文]
地方公務員が業務上の災害で亡くなると、夫は55歳以上でないと遺族年金を受ける権利がない。妻にはそんな制限はない。その法律の規定について、大阪地裁が憲法違反で無効だとする[記事全文]
特定秘密保護法案の参院での審議がきのう始まった。なんども指摘してきたとおり、これが「欠陥品」のたぐいであることは明らかだ。
まちがって欠陥品が届いたら返品するのが常識だろう。とりあえず使い始めて、事故が起きたら直そうか、というあまい話は通らない。
参院は返品、つまり廃案をためらうべきではない。
衆院で修正案を審議した時間はわずか2時間だった。まさに日程優先で、放り投げるように参院に送りつけた。
与党側は、実質8日間しか残っていない会期末までの成立をめざす。この修正案のまま数の力で成立させれば、参院はそれこそ衆院のコピーでしかない。
いま、与党を含めすべての参院議員に問いたい。本当にそれでいいのか。
参院は、まがりなりにも「良識の府」「再考の府」と言われてきた。
特に参院自民党は、ことあるごとに参院の独自性を強調し、衆院への対抗意識を燃やしてきた。絶大な力を誇った小泉政権の郵政民営化法案を、いったんは葬ったこともある。
参院が指摘すべき難点は、いくらでもある。
▼「第三者機関」はいつつくり、どんなメンバーで、どのような権限を持たせるのか。付則や首相答弁だけでは、実現性がまったく不透明だ。はっきりした担保がない。
▼「原則30年」だった秘密の指定期間が修正により、実質的に「原則60年」に延びてしまったのではないか。
▼秘密指定の権限をもつ行政機関が多すぎる。「5年経過後に特定秘密を保有したことがない行政機関は秘密指定機関から除く」と修正されたが、むしろ官僚は無理に秘密をつくろうとするのではないか。
▼知る権利を保障するため、情報公開法や公文書管理法をどう改正していくのか。
疑問は尽きない。米国などとの情報交換のために秘密保護法制が必要と言われるが、いまでも重要情報は日本に伝えられている。この法案の成立を急ぐ理由はまったくない。
日本版NSCと呼ばれる国家安全保障会議の設置法がきのう成立した。外交・安全保障政策の司令塔として米国などとの連携にあたる。
NSC発足にあわせて秘密保護法制の整備を急ぐとすれば、本末転倒ではないか。
特定秘密保護法案は民主主義の根幹にかかわる。参院で一から考え直すべきだ。
地方公務員が業務上の災害で亡くなると、夫は55歳以上でないと遺族年金を受ける権利がない。妻にはそんな制限はない。
その法律の規定について、大阪地裁が憲法違反で無効だとする判決を出した。
「夫が外で働き、妻は専業主婦」。それがふつうだった昔の考え方に基づいており、もはや合理性がないと判断した。
時代の流れに沿った当然の判断といえる。国は、もっと早く対処しておくべきだった。
地方公務員だけでなく、民間労働者の労災保険や国家公務員の災害補償制度にも同様の規定がある。国は判決を受け入れ、法の改正を急ぐべきだ。
判決は、90年代のバブル崩壊後に加速した社会の変化を分析している。
夫婦が共稼ぎしている世帯の数は、90年代に専業主婦世帯を逆転した。現在は1千万世帯を超え、多数派になっている。
正社員として定年まで勤める日本型の雇用モデルも崩れた。いまは働いている男性の2割弱が非正規雇用となっている。
完全失業率も98年以降、女性より男性のほうが高い。
一方、高度成長期に整えられてきた日本の社会保障制度は、急激な変化に十分対応できているとはいいがたい。
例えば国民年金には、夫を亡くした妻のみが受給できる「寡婦(かふ)年金」がある。
会社員が加入する厚生年金や、公務員の共済年金にも、遺族の夫については60歳以上でないと年金が受け取れないという制限が設けられている。
憲法14条は性による差別を禁じ、最高裁は「合理的な根拠があるときだけ法的格差は許される」との基準を示している。
かつて夫婦の間で稼ぐ力に明らかな差があった時代は、妻を優遇することで平等をもたらす合理性はあったかもしれない。
だが、家庭のありようや夫婦の役割も変わったいま、性別のみを根拠とした格差は逆に不平等をもたらしている。
時代の感覚に照らし、見直していくべきだ。
改善の動きもないではない。母子家庭のみが支給対象だった国民年金の遺族基礎年金は来春から父子家庭にも広げられる。児童扶養手当は3年前から父子家庭にも支給されている。
もちろん、今でも女性の平均経済力の方が低いのも確かで、保育サービスの充実など女性の就労を支える施策は必要だ。
だが、年金など社会保障について「男か女か」で一様に差をつけることはもはや時代遅れの発想というほかない。