第27話
俺達は銀杯亭に戻ってすぐに眠りについた。久しぶりのベッドで旅の疲れが表面化したのだろう。
目が覚めるともう朝で、アイラが困った顔をしていた。
「おはようございます。ご主人様」
「おはよう、アイラ。どうかしたのか?」
「はい、ルビーの様子がおかしいんです」
そういいながら部屋のすみに顔を向ける。釣られて俺もそちらに顔を向けると、そこにルビーらしきスライムがいた。
「えっと、なにがあったの?」
「分からないんです。朝起きたらもうあの状態だったんです」
そう言われてもう一度部屋のすみに視線をやる。
そこにいたのは色も形も俺が知っているルビーだった。しかし、サイズがおかしい。
元々ルビーはサッカーボール位の大きさしかなかった。しかし、目の前にいるのはバランスボール並みの大きさのスライムだ。
「スライムって一晩でこんなに成長するのか?」
俺のつぶやきにエミィが答える。
「ありえません。確かにこんなサイズのスライムも存在はします。でも、一晩でこんなに大きくなるなんて聞いたこともありません」
「でも、ルビーは変種だし、そんなこともあるんじゃないか?」
「変種といってもカラースライムですよね?属性別の耐性以外は普通のスライムと変わらないはずです」
「カラースライム?」
「えっ? ルビーはレッドスライムじゃないんですか?」
「ルビーはグラトニースライムって名前だったけど」
「聞いた事が無いスライムです」
エミィが言うにはスライムには変種、亜種がとても多くてすべてを把握できていないらしい。カラースライムはそんなスライムのもっともポピュラーな亜種らしい。
本来半透明の体が、魔力によって着色されることで生まれるらしい。エミィはルビーの事を火属性の耐性を持つレッドスライムだと認識していたようだ。
「でも変種のスライムなら急に大きくなることもあるかもしれませんね」
アイラがルビーとなにやら話している。どうやら、意思の疎通をはかれたようだ。アイラがほっとしている。
「ちゃんと、ルビーでした」
嬉しそうに報告してくるアイラ。俺もしっかり確認するためにステータスをチェックする。
*******************************************
ルビー(グルメスライム) LV.22
スキル
【保管】★★
あらゆるものを体内に保管することができる。
許容量はレベル依存
【選別】★
あらゆるものを選別できる。
【統括者】★
対象を支配する。
効果範囲、対象数はレベル依存
*******************************************
あれ?グラトニースライムじゃない。それにスキルも増えてる。
【統括者】はなんとなく分かる気もするけど、【選別】ってなんだ?グルメだから食べる物にこだわるとかそういうことか?
「エミィ、モンスターって名前とか変わるのか?」
「名前?ルビーはルビーですよね?」
「ああ、違う。えっと、普通のスライムがある日急にレッドスライムになったりするのか?」
「種族名が変わるかということですね。はい、スライムも吸収する魔力に偏りがあればカラースライムに進化することがあります。ルビーも何かに進化したんですか?」
「グルメスライムって種族らしい」
「食費がかかりそうな名前ですね。ご主人様は種族名が分かるんですか?」
「言ってなかったか?いろんなもののステータスが見えるんだよ」
「そうだったんですね。加護をお持ちの方はやはり色々出来るんですね」
「なんでもは出来ないがな」
今日は休みのつもりだったが朝からルビーの進化が発覚したので急遽ほかの配下モンスター達の様子も見ておこうということになった。
森に近い西門から外に出て街から5分ほど歩いたところまで来ると、配下モンスター達が現れた。
「さて、ずいぶん先延ばしになったがこいつらにも名前をつけてやらないとな」
「そうですね、森ではずいぶんと助けてもらいましたし」
「はい、みんな頑張ってくれました」
さて、まず2匹のシャープウルフだがオスとメスだった。フェンリルとかつけたいところだがあとで恥ずかしくなるから我慢する。
ルビーの時にパーティ1のセンスを見せたアイラに期待だ。
「えっと、オスはデューオ、メスはルオはどうでしょう?」
「なるほど、大陸に伝わる夫婦狼の伝奇の名前ですね」
その昔モンスターが大陸を支配していた頃の話らしい。デューオとルオの夫婦狼は住処を奪われ群れを率いて大陸中を渡り歩いて安住の地を探した。
しかし、モンスターが今以上にはびこる昔の大陸で仲間はどんどん数を減らしていった。それでもデューオとルオは自身の命が尽きるまで仲間達を守り続けて死んだという。
今でもその名残で狼獣人の男にはデューオ、女にはルオという名前が多いらしい。異世界での太郎、花子のようなものだろう。
「じゃあ、デューオとルオはこれでいいとして、あとはこいつだな」
アーマーマンティスにはどんな名前をつけるべきだろうか。
「この仔はメスですね」
アイラが補足してくる。カマキリは一般的にオスよりメスのほうが強いらしいがアーマーマンティスもそうなんだろうか?
「メスか、クインなんてどうかな?」
なんとなくメスのカマキリから女王様をイメージしてしまった。
「クイン、ですか?」
「それもなにかの名前ですか?」
「ああ、ダメかな?」
「いえ、よびやすいしいいと思います」
「そうですね、よろしくクイン」
こうして、新しい仲間達の名前も決まった。
*******************************************
デューオ ”シャープウルフ" LV.17
スキル
【咆哮】★
吼えられた相手が一定の確立で『萎縮』状態になる。また、低確率で『恐慌』状態になる。
成功確立はレベル依存
*******************************************
*******************************************
ルオ ”シャープウルフ" LV.16
スキル
【遠吠え】★
同族を呼び出すことが出来る。
範囲、数はレベル依存
*******************************************
*******************************************
クイン”アーマーマンティス" LV.22
スキル
【毒耐性】★
毒に対して耐性を持つ
*******************************************
「よし、じゃあ次はあれを試してみよう」
「はい、あれですね」
そういってエミィが取り出したのは今朝、配下モンスターたちに会いに行くことを決めてからエミィに作ってもらったものだ。
*******************************************
魔物笛+4
モンスターにだけ良く聞こえる音がする。
*******************************************
言ってしまえば犬笛のようなものだ。そもそも魔物笛というアイテムは存在しないらしい。少なくともエミィは知らないとのことだった。
とりあえず試しに魔鉱石で警笛のようなひとつの音階しか出せないタイプの笛を作ってもらったら、魔物笛というアイテムが完成した。
作成者の知らないものも作れるのかと驚いて聞いたら、じゃあどうやって新しいものを作るんですかと聞き返された。おのれファンタジーめ。
「とりあえず、アイラ。吹いてみてくれ」
「はい」
ヒィーーっと抜けたような音が少しだけ聞こえる。周りにいたクインたちがぴくっと反応しているから音が聞こえたのだろう。
「聞こえているみたいだな アイラ、これなら声で指示するより遠くまで聞こえるだろうから活用してくれ」
「はい、ありがとうございます」
アイラがモンスターたちのほうに歩いていって身振り手振りを交えて何かを伝えている。おそらく笛での指示を説明しているのだろう。
しばらく眺めているとモンスターたちは連携のような動きを取るようになった。すばらしい進歩である。
そういえば、名前をつけた配下のモンスターにはみんなスキルがある。
これは、仲間にしたからスキルを得たのかスキルをもってる優秀な個体だからここまで生き残ったのかどちらなのかは分からない。
森にいる間はステータスのチェックをほとんどしていなかったことを思い出し、自分とアイラ、エミィのステータスも確認してみることにした。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。