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第25話





 次の日は予定通り早朝から出発し、夕方前にはウェフベルクに到着した。
 フェール達は、一度も起こされずに朝になっていることにまず驚き、どういうことか確認しようとテントから出て騎士達に気づいてもう一度驚いていた。
 フェール達への説明はルクスに任せる事にした。俺ではどこまで話していいか分からない。

「彼女は、ブレトの街から来た神官だ。トライソードがきちんと状況を伝えてくれたみたいで、ウェフベルクの状況を確認するために移動していたところでたまたま俺達と合流できたみたいだ」

 話の内容は半分くらい本当のようだ。トライソードがブレトの街についてモンスターの大群が迫っていることを伝えたのは本当のようだ。
 しかし、セイラたちが出発したのはもっと前だった。トライソードが到着する数日前に神託を受け、冒険者の街で勇者を探すために出発したセイラは、道中トライソードと出会ったとの事。
 そのときにルクスが探索のメンバーにいると聞き、こちらに追いついてきたようだ。

「ハイルクス様の事は、少し前から存じておりました。フロンさんからハイルクス様が冒険者の街に向かっていると聞きあなたこそが私の勇者様であると確信いたしました」

 一見適当に見えるセイラの勇者選定方法だが、これが一般的なようだ。『神官』となった教会信者は、いつ神託がくだってもいいように自分の『勇者』候補をある程度決めているのだ。
 『神官』である以上、選定神官になる可能性はゼロではないのだ。それは、“宝くじが当たったら何を買おう”のような感覚とでもいえばいいのだろうか。


 ウェフベルクの街はブレトの街と同じくらいの広さで街の外周を覆う城壁はブレトよりやや低く、門は東と西にひとつずつある。
 西門から入った俺達の目に最初に入ってきたのが多くの人でにぎわっている石畳の大通りとその先にある領主の城だった。街の中心部にある領主の城は有事には砦として機能するよう周りに堀がある。
 街に入ってすぐにフェール達と別れた。傷が治ったとはいえ、かなり消耗しているニコをベッドで休ませてやりたいとのことだ。
 後日改めて冒険者ギルドで報酬の分配の為に会う約束をした。

「勇者様、教会でお食事を用意させておりますわ。さぁ参りましょう」

「俺達は冒険者だ。まずはギルドに報告に行きたい」

「そうですか、でしたらギルドによったあとは教会に参りましょう」

 セイラはここでもかなり強引だ。あんまりにもしつこいのでルクスが条件を出してきた。

「食事なら、ヒビキたちと一緒に取りたい。彼らも一緒でかまわないなら行こう」

 セイラは嫌そうにこちらを見ている。

「彼らももう俺の仲間だ。仲間が歓迎されないなら申し訳ないが食事は遠慮させていただく」

 ルクスは俺達をダシに食事を断ろうとしているようだ。あまり巻き込んで欲しくないのだが、バーラもこちらを見て申し訳なさそうな顔をしている。
 ゲイリーはこっちを見てニヤニヤしているし、クェスはまたボーっとしている。

「分かりました。彼らも一緒でかまいません」

 嫌な顔のままそれでも俺達の参加を認めるセイラ。いや、別に参加したいわけではないのだが。
 話がまとまり、冒険者ギルドへ向かう。この街の冒険者ギルドはなんと領主の城にあった。これは、この街の創設時から領主が冒険者出身だったためのようだ。
 ギルドではすでに教会から魔王復活の話が来ているようで大騒ぎだった。
 なんとか、探索の任務の報告を終え蟲系モンスターの大群がブレトへ向かっていることを伝えると、すでに概要は伝わっていたようで詳しい説明を求められた。
 ブレインセクトが存在する可能性があると伝えると魔王復活の話のおかげで信憑性があったのあろう、すぐさまブレトへの救援を検討しだした。
 ルクスはその救援に参加すると伝えていたが、俺は参加すると伝えなかった。出発当日まで飛び入りの参加を認めているだろうから、もし参加したくなれば当日に参加を表明すればいい。
 報酬を受け取り、今日の宿をどこにするかと話し合っているとまたしてもセイラが口をはさんできた。

「勇者様、宿をとる必要はありませんわ 教会の貴賓室を準備させますので」

 ルクスが助けを求めてこちらを見ているが流石にそこまで付き合えない。

「じゃあ、俺たちは宿を探してくるから。食事会は夜だよな?」

「ええ、夜にこの街の教会に来てもらえば結構です 別に来なくても結構ですが」

 ぼそっと本音を漏らすセイラ。
 イラっとしたのでルクスに食事会を遠慮すると伝えてやろうかと考えていると、教会が見えてきた。

「じゃあ、一度ここでお別れだな」

「またすぐに会うじゃねえかよ」

 ルクス達と別れ、ギルドで聞いたおすすめの宿に向かう。

「『銀杯亭』、ここか」

 銀杯亭は、一階が酒場で二階に宿泊施設というこの世界ではオーソドックスなタイプの宿屋だ。
 中に入るとまだ夕方だというのにすでにできあがった客が数人いる。

「いらっしゃい! 食事?それとも泊まりかい?」

 声をかけてきたのは、恰幅のいいおばちゃんだった。
 おばちゃん以外に従業員らしき人はいないので酒に焼けた声とややくすんだ赤毛の彼女がこの宿の主人なのだろう。

「泊まりだ。3人部屋はあるか?」

「あるよ、何日泊まるんだい?」

 少し考えてとりあえず3日と答えた。
 おばちゃんに案内されて2階の角部屋に行く。

「食事は朝は泊まりの料金に入ってる、夜食べたきゃ他の客みたいに注文しとくれ」

「分かった」

 言うべき事を言い終えるとおばちゃんはさっさと部屋を出ていこうとした。

「ああ、体を洗いたいからお湯が欲しいんだが」

「あいよ、ちょっと待ってな」

 十数分後に桶にたっぷり入ったお湯をわたされた。

「日に一度まで無料だよ 次からは別料金だ」

 3人で桶ひとつは少ないが、火と水の魔法があれば問題ない。
 大きめな桶さえあればなんとかなる。
 3人で順番に体を拭いてさっぱりする。

「そういえばこの服で食事会に参加して大丈夫かな?」

 ここまで来る間にたまった洗濯物を洗いながら、着て行く服についてふと疑問を感じたので聞いてみた。

「教会で行われる儀式などなら多少着飾った方がいいかもしれませんが、問題無いとおもいます。流石にドレスでなければいけないとは思えません」

 俺たちが今来ている服は、この国の一般的な衣服だ。
 ただの布で作られた長袖の服に、やや厚手の布で作られた足首まで隠れるズボン。
 どちらも大変着心地は良いが、普段着として使うものだろう。
 今回の食事会はそこまで格式張ったものではないだろうとエミィは判断したようだ。

 洗濯を終え、身綺麗な服に着替えた俺たちはもう少し時間もあることだし、と街でブラブラしていた。
 大通りには様々な店が立ち並んでいる。中でも、装備屋や鍛冶屋など冒険者にとって馴染み深い店が多く並んでいる。
 なるほど冒険者の街と言われるだけのことはある。
 街の真ん中を通る大通り沿いに歩いていくと冒険者ギルドのある領主の城にたどり着く。
 城までつくと城を囲むように道が作られている。少し考えて左の道に進んでいく。
 少し歩くと左側に少し広い道が見えてきた。そこを左折すると大通りほどではないが賑わった通りに出た。
 田舎者のようにキョロキョロしていたためだろう、怪しげな露店商の男が声をかけてきた。

「オニーサン、ちょっとみていってよ~ これ、この街の冒険者だったらみんな持ってるアクセサリーだよ~」

 見ると恐らく魔鉱石でできているのであろうアクセサリーがずらりと並んでいた。
 試しにアクセサリーのステータスを確認してみるが大したものではない。というか装備品ですらなかった。本当の意味でのただの装飾具である。
 エミィもちらッとだけアクセサリーを見るがすぐに興味を失っていた。
 さっさと立ち去ろうとするが男がヒビキの腕をつかんで離さない。

「オニーサン、ひとつ買っていってよ」

 この世界にも押し売りがいるのかとなんだか感動していると後ろから声が聞こえた。

「やめなさいよ、こんな見るからに街に来たばっかりの人だますなんて商売人の恥だわ」

 後ろを振り返ると、両手にいっぱいの荷物を抱えた女性が立っていた。身長はそれほど高くないのに重そうな荷物を抱え、髪を後ろでひとまとめに結わえていわゆるポニーテールとよばれる髪型にしている。

「なんだ、ジョーチャン 商売の邪魔すんな」

「何が商売よ、装備品でもないアクセサリー売りつけて」

 そういわれて、露天商の男が動揺した。

「な、なにいいがかりつけてんだ!! 全部立派なアクセサリーだろうが!!」

 その言い回しに俺も違和感を感じてその正体に気づく。この男一度も装備品だといっていない。ポニーテールの女性に装飾品ではないと言われても、『立派なアクセサリー』としか言い返していない。

「だから、装備品じゃないんでしょ! こんなだまされやすそうな人だまして何が商売よ!」

 うん、助けてくれているのは分かるがもうちょっと言い方があるのではないだろうか。そう思っていると女性が露天商の手を振りほどいて俺の腕を取ってずんずん道を進んでいく。
 後ろで露天商が何か叫んでいるが、その場から動いてまで追ってくるつもりは無いようだ。
 アイラとエミィも一瞬あっけに取られていたがすぐに追いついてきた。

「ここは大通りじゃないんだから、変な店に気をつけなさいよ」

「ああ、すまん。助かった」

「いいのよ、あんな変なお店にお金を落とされるくらいならもっとちゃんとしたお店でお金を使って欲しいもの」

 うちみたいなね。と宣伝してくるところから見て、どこかの店の従業員なのだろう。一応助けられたのだ、礼儀として彼女の店を見ていくことにする。

「ここが、うちの店」

 先ほどの通りからさらに横道に入るとその店が見てきた。
 『ティル鍛冶店』と書いてある年季の入った看板と、『冒険者御用達』とか『あなたにぴったりの装備がここに』とか安っぽいうたい文句がそこら中に張ってあって統一性にかけている印象がある。
 中に入るとブレトの街にあった装備屋に似た感じの店内に武器や防具が所狭しと並んでおり、やや雑多な感じ。
 ポニーテールの女性、トトは持っていた荷物を店のカウンターに置いてこちらに振り返る。

「どう?御眼鏡にかなう商品はあるかしら?」

 そういわれて店内を見回してびっくりした。
 店に並んでいる武器や防具に軒並み『+』がついていた。そこらに無造作に置かれているただの『鉄の剣』が+3だったりする。

「これは、すごいな」

 俺がつぶやくと、トトは嬉しそうにうなずいた。

「分かってくれるの!?今はちょっとお店がくたびれて見えるけど昔は王都から発注受けて武器を納品してたんだよ」

 それが何でこんなに流行ってないのだろう。

「お父さんが偏屈だから」

 やれやれ、と肩をすくめるトト。すると奥から怒鳴り声が聞こえてきた。

「トト!! 頼んだもんは買ってきたのか!!」

「うるさいな!!今、お客さんが来てるんだよ!!」

「客だぁ!?」

 そういいながら出てきたのはトトよりさらに身長が低くがっちりした体格の髭もじゃのおっさんだった。この人がティルだろうか。ドワーフだろうと考えているとおっさんが俺のほうに近づいてきた。

「なんだぁ、おめえが客か?何が欲しいんだ?」

 そういわれても、特に何も考えずにここまで来てしまった。少し考えて、剣も防具もボロボロだったのを思い出し全員分の武器防具一式が欲しいと答えた。

「なんでぇ、ずいぶん気前がいいじゃねえか。おめえ、どんくれえつえぇんだ?」

 ぱっとレベルを言いかけて、それじゃ伝わらないだろうと思い、足元でプルプルしていたルビーを持ち上げて、見えないように皮袋にしまい、ここに来るまでに手に入れた素材をある程度吐き出させる。

「ほぉ、それなりにやるようだな。これなら、武器と防具作ってやってもいいぜ」

 吐き出された素材を確認しながらおっさんが横柄にうなづいている。

「なんなら、この素材で作ってみるか?」

 少し考えて了承する。今装備している皮の鎧よりモンスター素材の鎧のほうが頑丈で、魔法に対しても抵抗力が上がる。

「お願いします」

 俺たちは、自分達の戦い方を説明していった。
 俺は今後の事も考えて魔法剣を使うと説明し、アイラには速度を殺さないよう動きやすい装備を、エミィには軽くて最も防御力がある装備と今使っているショートボウの代わりになる新しい武器を作ってもらうように依頼した。
 装備の方向性が決まると、ティルが足りない素材を上げていくので追加でそれを出していった。
 いつごろできるのか料金はどのくらいかと訪ねると、

「結構な量だからな。とりあえず3日後に一回来い。そん時に体に合わせるから完成は1週間後くらいだ」

 その後代金の話になると、トトが慌てて話しに割り込んできた。

「代金は、3日後の調整の時までに出しておくわ。お父さんに任せると赤字になっちゃうし」

 俺は笑って頷いた。あまり高いと払えないと断っておくと、ティルが足りない分は現物支給でいいと言い出した。
 トトがため息をついているので、出来るだけ現金で払うよと伝えて店を出た。
 そろそろ食事会の時間が迫っている。教会に急ごうとして立ち止まる。

「教会ってどこ?」

「すみません、分からないです」

「私も、分かりません」

オー迷子ゴッド。いや、寒いな。





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