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第23話
 あの群れを見かけてからやけにモンスターとの遭遇が多くなり、連日の強行軍がたたってみんな疲れていた。
 あと少しでウェフベルクにつく、そんな時に限ってモンスターに見つかり襲われるのだった。
 俺達がモンスターに気づいたときには、周りを20体ほどのモンスターに囲まれていた。

「クェス、前の3匹に攻撃を集中してくれ!」

「分かった」

「ゲイリー左側を任せていいか」

「おう、任せろ」

「バーラ、治癒魔法の用意を頼む」

「はい」

 ルクスのパーティはすばやく展開し、前方の敵を魔法で釘付けにし、左側からの攻撃を完全に盾が防ぎきる。
 バーラはすでにみんなの真ん中に移動し詠唱を終え、何かあればすばやく対応できるようにしている。

「『灼熱』、君達は後ろを頼む」

「あまり期待するな」

フェールが答える。フェールのパーティが1番消耗している。まともに戦えそうなのはフェールと拳闘士のアルだけだ。残りの2人は歩くだけで精一杯に見える。
 その2人を、ルクスがバーラの近くに移動させ、前方のアーマーマンティス3匹に向かいながら俺達にも指示を出す。

「ヒビキ、君達のパーティに右側を任せていいか?」

 ルクスはもっともモンスターの数が多い右側を俺達に任せてきた。これは、捨て駒というわけではない。俺達の実力を信じての配置だ。
 ルクスが相手をするアーマーマンティスは数こそ少ないがこの森で遭遇したモンスターの中では最強のモンスターだ。

「ああ、右側の敵は全部俺達が倒す」

 すでの道中で配下にしたモンスターの何体かを失っており、残っているのはルビーとシャープウルフ2匹とカマキリだけだった。
 右側にいたのはフレグランスアント8匹だ。この巨大なアリは名前の通り香水のような香りで相手を惑わす。決して1人で立ち向かってはいけないモンスターだ。

「アイラ、前に出すぎるな。エミィ援護頼む。お前の判断で指輪も使え」

「はい、気をつけます」

「分かりました。あと、おそらくこの戦闘で指輪の中の魔力はなくなります」

「ああ、仕方ないさ。出し惜しみは無しだ」

 ここ数日の強行軍の間、俺達は切り札である『操火の指輪+4』と覚えたばかりの火魔法を使用している。
 ルクスとフェール達もすでにそれぞれとっておきを使っていた。
 ルクスたちのとっておき『エクスポーション』は、生きていれば完全回復するというでたらめな性能だった。エミィのポーション+4と比べてもかなりの効果だ。
フェールのとっておきは、『魔力剣』だった。おそらく魔剣士のスキルなのだろうそれは、剣に魔力を注ぎ属性を持たせたり切れ味を上げたり出来るようだ。
 ちなみにフェールは火魔法の適正があるようだがスキルは持っていない。

 アイラとシャープウルフ達が蟻と接触した。速度を生かして蟻を翻弄している。

「炎いきます。気を付けて」

 そこへエミィが指輪の魔力を解放し蟻たちに向けて炎の塊を放つ。指輪での攻撃は細かい操作ができないため、大きな炎の塊を蟻のいる方向に放つといった大雑把な攻撃しか出来ない。

「良し、来い」

 それを、俺が改めて魔力でコントロールする。何度か指輪の力を使っている内にこうすれば炎を操るのにそれほど力を使わないことに気がついた。
 指輪に込めているのが元々俺の魔力だったからなのか理由はわからないが、とにかく使える。
 エミィが放った炎を魔力で完全掌握し、空中でひとつだったそれを、4本の鋭い槍のような形に作り替え、アイラたちからもっとも遠い4匹に向けて放った。

「いけぇ!!」
 炎の槍は4本とも命中し、突き刺さった蟻の体の中から焼き殺した。
 本当は8匹全部に攻撃したかったがフレグランスアントの匂いを完全に消せるだけの威力を持たせるには4本が限界だった。
 フレグランスアントは、傷つくと匂いで仲間を呼んでしまう。それを防ぐためには匂いごと焼くしかない。
 4匹を倒したことで少し余裕が生まれ少し息をはく。しかし、残った蟻のうち一匹が目前に迫ってきた。
 蟻は己の牙を俺に突き立てようと猛スピードで迫ってくる。気を抜いていた俺は回避が間に合わない。そう感じたときには目の前が真っ赤になっていた。

「・・・助かったよルビー」

 そこには、フレグランスアントを完全に包み込んでしまったルビーがいた。ルビーは俺とフレグランスアントの間に自分の体で壁を作りそのままフレグランスアントを飲み込んでしまったようだ。
 ルビーはだんだんといつもの大きさに戻っていきこちらが無事だと分かると嬉しそうにプルプル震えるのだった。あとで魔鉱石をあげなきゃな。
 これで残りの蟻はあと3匹だ。
 動けなくして先程のようにルビーに食べてもらえば匂いもそれほど出ないだろう。
 俺は次の相手を探そうとするが、後ろで女の悲鳴が上がった。

「ニコ!? 大丈夫か!?」

 灼熱のパーティメンバーの一人、巫女のニコが真っ赤になった腹の辺りを押さえて仰向けに倒れている。
 遠距離からショットビーの毒針攻撃にやられたのだろう。ショットビーの針は、毒でのダメージだけでなく針そのものが十分に遠距離攻撃として威力があるのだ。
 五寸釘より一回り大きいその針をニコは腹に食らってしまったようだ。
 フェールが巫女のニコに駆け寄ろうとするが別の2匹のショットビーに阻まれてその場から動けない。

「バーラ頼む!」

 言葉少なにバーラへ指示を出すルクス、ルクスと目が合ったときにはすでにニコへ回復魔法をかけ始めるバーラ、まさに阿吽の呼吸だ。
 しかし、ニコたちの近くにはニコに傷を負わせたショットビーが第2射を今にも放とうとしていた。
 間に合うか、威力は無視して最速で火の魔法を放つ。狙ったのは顔だ。ショットビーに炎弾が触れた瞬間炎が燃え上がりショットビーの視界を奪い駆け寄る時間を稼ぐ。

「ハァーーッ!!」

 横薙ぎの一閃はショットビーの腹に見事に命中した。しかしショットビーはふらつきはしているが、まだ飛んでいる。
 狙われていたことに気づいたバーラがこちらに顔をむけ青ざめている。
 ギギギという声を出しながらこちらを睨むように見つめてくるショットビー。どうやら俺を優先すべき敵と認識したようだ。
 しかし次の瞬間、側面からアーマーマンティスが手負いのショットビーを襲った。
 左側面から突っ込んできたアーマーマンティスは手負いのショットビーの羽を鎌で切り落とし、そのままの勢いでショットビーの頭にかじりつきとどめをさす。
 あれは、エミィの護衛のアーマーマンティスだ。アイラが手なづけたアーマーマンティスは普通の個体より体がやや小さく、右の鎌が左の鎌よりやや大きくいびつだ。
 なんとか、陣形内の敵を片づけ次の相手を探しているとき後ろから声が聞こえた。

「そんな、魔力が足りない!?」

 声の方を振り向くとニコを治療していたバーラがいた。
 どうやら回復魔法の魔力が足りないようだ。解毒と治療の両方を行っているようだが、この数日の強行軍のせいか、手から放たれる光が弱々しい。
 アイラに目配せしその場を預ける。残りの敵は3匹だ。同数のフレグランスアントなら問題なく倒せるだろう。

「俺の魔力は使えるか?」

 俺には指輪のおかげで温存できた魔力がある。バーラに駆け寄り協力を申し出る。

「わからないわ、あなたに回復魔法の適性があれば出来るかもしれないけど」

 バーラの顔を見ると回復魔法の適正を持つ人間はそんなに多くないようだ。だが、俺には【賢者の卵】のスキルがある。

「やるだけやってみよう。どうすればいい?」

「両手を私の手に重ねて。あなた、魔力は見えるようになったのよね?」

「ああ、つい最近だがな」

「なら、私の回復魔法を直接見て。出来るだけ私の魔力にあわせて魔力を両手に集めて。あとは私がやるから」

「わかった」

 言われたとおり、バーラの両手に自分の手を重ね、回復魔法と思われる白色のモヤに自分の魔力の色を合わせていく。
 しかし、いくらやっても完全な白にはならず、白の強い灰色にしかならなかった。

「すまん、完全には真似できない。これで役に立つか?」

 魔力を両手に集めて、バーラの手に移すイメージで灰色の魔力を流し込む。すると、バーラはびっくりしたような顔でこちらを見ていた。

「えっ!? 本当に魔力の調整をしてくれてる? これならほとんどそのまま回復魔法に使えるわ!!」

 バーラは俺から魔力を受け取ると、どんどんとそれをニコの体に流し込み、循環させていった。
 よくその魔力の流れを見ていると、真っ白だった魔力がニコの体を通ってバーラの手に戻ってくる頃には黒く染まっていた。
 バーラはその黒い魔力を自分の中で白い魔力に変換しているようだ。
 俺も、バーラの手から黒い魔力を受け取り自分の中で白い(灰色)魔力に変換し、バーラに返してみる。

「魔力の浄化までしてくれているの?」

「浄化?黒いやつを白くすることか? まずかったか?」

「いいえ、すごく助かるわ。でも、浄化はとても難しいのよ 普通魔法を習い始めて1週間もしない人には出来ない。それどころか、出来ない人は一生できないわ」

「そうなのか?まあクェス師匠が言うには俺にはすごい魔力があるらしいからそれが原因なんじゃないか?」

 ごまかしきれていないだろうが、なぜ出来るのかなんて聞かれても俺には答えられない。

「そうかもしれないわね」

 俺の戯言を信じたわけではないだろうが、バーラはそれ以上追及してこない。ルクスたちも俺達に話していないことがあるのだろうし、それをわざわざ掘り返されたくは無いだろうから他人の事情にも突っ込んでこない。
 それ以上はお互い話さず、治療に専念する。

「魔力の流れが2種類あるな 余裕があるなら少し教えてくれないか?」

 話題を変える為と、自身の好奇心を満たすために回復魔法について質問した。

「本当にすごいわね、確かに2種類の魔法を使っているわ 『治癒強化』と『再生補助』よ」

 『治癒強化』は、魔力を循環させ生物の持つ回復力を強化する魔法らしい。切り傷や打撲などいつか塞がる傷をその場で塞いでしまったりできるようだ。俺の感覚で魔力の循環はこれに当たる。
 しかし、傷が塞がっても失った血は元に戻らないし、四肢を切断されていれば切断面から傷は塞がるが失った一部を戻すことが出来ない。
 そのために、『再生補助』を併用する。『再生補助』は、欠損した肉体に魔力を仮の肉体として機能させる方法らしい。
 失った血の代わりを果たし、切断された肉体と同じ機能を持つ新しい腕が生えてくる。
 白かった魔力が黒く変化したのは、欠損部分を埋めるため『再生補助』が働き、魔力が劣化(再生補助魔法としては劣化しただけで魔力としては変質しただけ)したためのようだ。
 今回のニコの治療では、まず『解毒』の魔法で毒を除去し、改めて体力回復の為に『治癒強化』を施し、失った腹の肉を補填するために『再生補助』を併用しようとしたところでバーラの魔力が尽きたようだ。

「なんとかなったわね」

 バーラがほっと息を吐く。周りの戦闘も終わったようだ。アイラとエミィがこちらに向かってくる。

「アイラ、途中で任せてしまって悪かったな」

 アイラの頭を撫でて労をねぎらう。

「いえ、私を信頼してあの場を預けていただいて嬉しかったです」

 アイラが嬉しそうに微笑んでくれた。

「エミィ、援護ありがとう。だけどアーマーマンティスまでお前のそばから離したら危ないだろう」

 エミィにお礼を言って、自分の身を危険にさらした事を叱る。

「すみません。指輪の魔力も切れていましたので、アーマーマンティスにお願いするしか無かったんです」

 素直に頭を下げて謝るエミィ。その頭を撫でる。

「俺が助かってエミィが怪我をしたら俺が嫌なんだよ。 エミィがそこまでしてくれたのは俺も嬉しいよ」

 頭から手を離し、エミィの腕を取って指輪に少しだけ魔力をこめなおす。満タンには程遠いが一発くらいなら炎を放てる。

「これは、エミィがピンチになったら使え」

 エミィが少し困ったような顔をしたが首肯した。

「はい、ありがとうございます」

 モンスターの死骸をルビーに食べさせてウェフベルクに向かう。おそらくモンスターの素材はかなりの量になるが、ルビーはなんとも無いようだ。
 この森での戦闘をへてルビーもレベルが上がってる。おそらくそのおかげで【保管】の容量も増えているのだろう。
 戦闘を終えて、数時間。すでに周りは薄暗くなっている。少し開けたところを見つけ今日はここで野宿をしようということになった。
 全員では休まずに2時間交代で睡眠をとる。火の番をまずは俺とルクス、次にゲイリーとフェール、クェスとアル、最後にアイラ、エミィ、バーラの3人でのチームになった。
 フェールのパーティのニコは怪我で体力を消耗しすぎ、魔物使いのカッパーは手持ちのモンスターをすべて失っていた為3パーティのリーダで話し合い、火の番を免除とした。

 最初の火の番である俺達は焚き火の火をまたいで向かい合って座っている。

「ヒビキ、君は本当にすごいな」

 ルクスが急にそんな事を言い出した。

「どうしたんだ急に?」

「バーラから聞いたよ。回復魔法の才能もあるって」

「ああ、それか」

 あまり突っ込まれたくは無い話題だな。何とか話をそらさないと。
 俺の思いが通じたのか草むらから気配がする。どうやらお客さんのようだ。俺が気づいたくらいだ。ルクスはとうの昔に気づいていただろう。

「モンスターか?」

「いや、人間の集団みたいだ」

「ウェフベルクの冒険者か? もうかなり近くまで来てるんだろ?」

「ああ、明日にはつくはずだ。しかし、方向がおかしい。ウェフベルクとは逆方向から近づいてきている」

「一応、みんなを起こすか?」

「そうだね、でもそんな暇ないみたいだ」

 そういって、ルクスは剣を抜いて臨戦態勢をとる。遅れて俺も剣を抜いて敵が来るほうを睨んで構える。
 すでに、気配は足音となってこちらに近づいてきている。十数人もの足音が駆け足で近づいてきているようだ。

 あと100m、



 50m、



 30m、



 10m、



 来る!!俺達は力を貯めて相手に向かって駆け出そうとしたその時。

「お待ちください!!」

 透き通った女性の声がこちらを制止する。突撃のタイミングをはずされた俺達は森から現れた女性を見る。
 バーラの着ている派手な修道服をさらに派手にしたような服。色はやはり赤系だが、バーラのものよりさらに鮮やかな緋色だ。

「よかった。お探ししました。勇者様!!」

 現れたのは美しい少女だった。












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