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第21話

 次の日の朝、冒険者ギルドに行くとすぐに受付でリリが俺たちを呼んだ。

「いらっしゃい。ずいぶん軽装ね、ウェフベルクまで一週間以上かかるけど大丈夫?」

「ああ、エミィのつてで冒険者鞄が手に入ったんで荷物はその中だ」

 変種のスライムの能力と正直に話すより冒険者鞄をうまく手に入れたと言ったほうが良いと昨日3人で宿屋で話し合って決めたため、それっぽいかばんをエミィが持っている。

「冒険者鞄ってとっても高いんでしょ?良く買えたわね」

「ああ、中古のちょっとぼろいやつだからって安くしてもらえたんだ それでも全額払えなくてこれからの稼ぎで残金を支払う予定なんだよ」

 俺は少しわざとらしいくらいに肩をすくめてやれやれといったポーズをとる。
 そんな俺を見てリリがクスリと笑っている。

「今回の遠出の為に冒険者鞄を買ったの?確かにあれば便利よね」

「ああ、この前の護衛の任務のときも素材がすごい量になっただろ? 今回はそのとき以上の遠出になるからな」

「そうね、優秀な冒険者さん特有の悩みね」

 笑いながら俺達にそんな事を言ってくるリリ。

「そんなことより、他のパーティはまだ来てないのか?」

「あなたたちは2番目よ あと2組来るはずだから奥の部屋で待っててもらえる?」

「わかった」

 受付よりさらに奥にある待機室に案内されて扉を開けると4人組のパーティがすでに中にいた。
 剣士が2人に魔術師、それに神官のいるバランスの取れたパーティで全員のレベルも高い。
 剣士は片方がオーソドックスな片手剣と盾装備に体の急所を覆ったレザーアーマーをつけている若い男。
 もう片方は頭こそ素顔だがフルプレートアーマーのような全身鎧に大きめの盾を背中にかついでいてパーティで最も年上の男。
 魔術師は黒系のローブを着ていかにもな杖を持った女性だ。ステータスを見れば16歳となっている。火と風の魔法が使えるようだ。
 最後の1人の神官は18歳のこれまた女性。この世界の教会の修道服なのだろうか、地球のシスターが着ているような地味な色合いではない。赤を基調とした派手目な服だった。
 片手剣の剣士がこちらに近づいてきて人好きのする笑顔で話しかけてきた。

「はじめまして、君はもしかして『全滅』のヒビキかな?」

「全滅?」

「あれ、違ったかな?今回の依頼で会えるって聞いて楽しみにしてたんだけど」

「いや、確かに俺はヒビキだけど、何だよその全滅って」

「君のあだ名みたいなものかな、この辺の森のモンスターを全滅させたって噂が原因みたいなんだけど」

 言われてドキッとした。そんなことまでばれていたのだろうか。

「まあ、君達のパーティが活躍しだしてからタイミングよくモンスターが減っただけだと思うんだけどね みんな面白がって君達のせいだっていってるみたい」

 あくまで噂レベルの話ってことか、自分達が噂とはいえそんな風に呼ばれているなんて知らなかった。やはりすべてにおいて情報量が圧倒的に足りていない。

「そりゃ、言いがかりだ。こっちだってモンスターがいなくなって困ってるんだぜ」

「そうだよね、でもこの街のギルドで『全滅』って言えば通じると思うよ。噂を信じてるかどうかは別でもね」

「そうか、じゃあ俺達の事は知ってるだろうけど一応挨拶しとくよ。俺がヒビキだ。あと俺のパーティメンバーのアイラとエミィ」

「は、はじめまして」

「どうも」

 アイラとエミィが挨拶すると片手剣の剣士も笑顔で挨拶した。

「こちらこそ、俺は剣士のハイルクス、みんなはルクスって呼ぶよ。あっちのおっさんがゲイリー。そこでぼーっとしてるのが魔術師のクェス。最後の1人はバーラ、神官様だよ」

 紹介された3人はこちらに顔を向け会釈してくる。
 ゲイリーはルクスに近づいて頭を小突いて誰がおっさんだと文句を言っている。

「よろしくな、『全滅』さん。かなり強いんだろ」

「よろしく、ゲイリーさん。たいしたことは無い。こんな若造の実力なんて高が知れているよ」

「謙遜すんなよ。期待してるぜ」

 ゲイリーはニカッと笑い、アイラたちにも声をかけた。

「お嬢ちゃんたちも『全滅』のパーティメンバーなんだし強いんだろうなぁ 楽しみだぜ」

「いえ、たいした事はありません」

「わ、私もそんなに強くはないです」

 2人はゲイリーに見つめられて若干引いているようだ。

「ゲイリー、女の子をいじめてはいけません」

 バーラが見かねて止めに入る。

「いじめてねぇよ ちょっと話してただけじゃねえか」

「あなたは顔が怖いんだから、そのつもりが無くても怖がらせてしまうのよ」

 バーラもアイラたちににっこりと笑って話しかける。

「ごめんなさいね、この人顔は怖いけど悪い人じゃないから」

「はい。こちらは大丈夫です エミィも平気?」

「はい。ゲイリーさんすみません、怖がってしまって」

「気にすんな 俺の顔が怖えのは昔から言われてるこった」

 2人もバーラのおかげでルクスのメンバーと打ち解けられたようだ。ふと、1人椅子に座ってボーっとし続けているクェスが気になる。
 魔術師とかかわりを持つのはこれで2度目だが1度目は敵対していたうえに魔法を使わせることなく倒してしまった。
 ここは、魔術師に対して情報収集するべきだろう。

「彼女は、ずっと何も無いところを見てるけどどうしたんだ?」

「ああ、クェスはいつもああだよ。寝てるわけでもないから話しかければ答えると思うよ」

「へぇ、じゃあちょっと挨拶してみるか」

「ぜひお願いするよ。君は変な魔術師が怖くないんだね」

「変な?」

「うん、得体の知れない魔術師が得体の知れない事をしてるんだ。普通近づかないよ」

 しまった。また変な行動を取ってしまったようだ。しかし、後には引けない。

「・・・変じゃない魔術師のほうが変だろ?」

 漫画なんかの知識じゃ偏屈だったり変わり者であったりする魔術師。数少ない事前情報ではこちらの世界でもそれは同じようだ。

「ぷっ、そうだね。変じゃない魔術師のほうがへんだ。あははっ」

 俺の言い回しが笑いのつぼに入ったのだろう。ルクスはくすくすと笑い続けている。
 気にせず、クェスに話しかけてみた。

「はじめまして、俺はヒビキ。クェス、で良いんだよな。ちょっといいか?」

 クェスが視線だけこちらに向けてきた。

「あなたが『全滅』? あまり強そうではないわね」

「ああ、そうよばれてるみたいだな。俺は知らなかったんだが」

「そう。でもあなた、なんで剣なんて持ってるの?」

「なんでって、剣士だからだよ」

「剣士? ああ、魔法剣士ってことね」

「いや、普通の剣士だ」

 またドキッとするようなことをいうクェス。しかし動揺を顔に出さないようにし出来るだけさらっと答えた。

「ならまだ気づいていないのかしら? あなたとても大きな魔力を持ってるわ」

「魔力?」

 そう聞きながら、気づいてしまった。数日前の魔法習得の時にアイラやエミィからモヤが見えていた。
 つまり俺からもあのモヤが出ているのだろう。それをクェスは見ているのだ。

「ええ、今すぐ魔術師ギルドに連れて行って登録させたいくらい大きな魔力ね」

「そんなこといわれてもな」

 割と本気で言われているような気がするが、魔術師ギルドはかなり閉鎖的らしいので出来れば入りたくない。
 魔術師の職種を得てから当然魔術師ギルドについて少しはアイラやエミィ、リリに聞いている。
 アイラは魔術師ギルドが何をしているかまったく知らなかった。あれほど大きな組織の事なのに。
 エミィは錬金術師とは関係が深いためある程度知っていた。いわく、すごい魔術師ほど性格もすごいとの事。
 リリは冒険者になった魔術師について詳しかった。いわく、なかなかひとつのパーティに居つかない。
 こんな少ない情報で色々言いたくないが、ろくでもない感じがぷんぷんする。

「ギルドには入りたくないな。今の生活は気に入ってるんだ。魔法は覚えてみたいけどね」

「そう、やはり魔術師ギルドは嫌われているわね」

「いや、そこまでは言わないけど。そうだ、この仕事中にクェスが俺に魔法を教えてくれるって言うのはダメか?」

 駄目元というか、笑い話にでもなればと思いこんなことを言ってみる。

「いいわよ、行きと帰りの2週間とウェフベルクに滞在中に出来るだけ教えてあげるわ」

「いいのか?言っといてなんだが無茶なお願いしてるぞ」

「かまわないわ、今あなたは魔力を使って戦ってないんでしょう?なら、その魔力を使って練習すればいい」

 普通、魔術師の技術って秘伝とか一子相伝じゃないのか?何か裏があるのだろうか。

「よかったなクェス。弟子が出来て」

 ルクスが話を聞いていたのだろう。嬉しそうに話しかけてきた。

「ヒビキ、君は運がいいな。クェスは今、ちょうど弟子を探していたんだよ」

「弟子を探す? 悪いが本気で魔術師になるつもりはないぞ」

「ああ、かまわないよ。ただ魔術師ギルドの検定さえ受けてくれればいい」

「検定?」

「そう、検定。ギルドに入る必要もないし、別にクェスの何かを受け継ぐ必要も無い」

「私、今2級魔術師だから」

「2級?」

「おい、クェスそれじゃさっぱりだよ。ヒビキは何も知らないんだから」

「ああ、さっぱりだ」

「魔術師ギルドがギルド所属の魔術師だけじゃなくすべての魔術師を対象に行っているクラス分けがあるんだ」

「クェスはそれの2級ってことか」

「そう、それで2級から1級へ昇格の条件に新規に5級以上の魔術師を育成するってのがあるんだ」

「5級ってのがどの程度かわからんが」

「クラスは6級からスタートして1級まで、1級の魔術師がすごい業績を残せたら特級になるらしいけどほとんど名誉職だね」

「5級は、魔法を戦闘に利用できるレベルの魔術師の事ね。大丈夫、『全滅』の魔力があればすぐ5級になれるわ」

「俺は、ヒビキだ。そうかそっちにも利点があるわけだ。俺がするべきことはギルドでの検定のみなんだな」

「そう、ウェフベルクから戻ってきてもまだ無理そうならしばらくならこの街にいるからそれで何とかするわ」

「そうだね、中途半端に魔術を覚えるのは危険だし」

 俺は何も損はしない。クェスに近づいたのだって魔術に対して色々知りたかったからだ。 この状況は好都合すぎるくらいだ。

「検定を受けて、魔術師ギルドにしつこく勧誘とかされないよな?」

「大丈夫よ、魔術師ギルドは内向的だから来るもの拒まず去るもの追わずが原則になってる」

「そうか、じゃあお願いしようかな 何か必要なものってあるか?」

「特に無いわ。あなたの体ひとつあればいいから」

 なんかエロいな。まぁたしかにクェスは美人だから、この言葉の攻撃力も計り知れない。
 というか、ルクスのパーティがみんな美形ぞろいなんだが。顔が怖いと言われたゲイリーすら怖い顔の美形なんだが。

「わかった。よろしく師匠」

「ええ、よろしく一番弟子さん」


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