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第20話

 魔法の習得から何日かすぎモンスター討伐の依頼が少ないため街中で達成できる依頼を中心に受けて少しは懐事情も改善され始めたある日の事。
 今日もいつものように冒険者ギルドで受ける依頼を探していると受付のリリが話しかけてきた。

「ヒビキ、ちょっといいかしら」

「なにか、いい依頼でもあるのか?」

「そうね、そんなに悪くないと思うわ」

 リリが俺達に見せてくれたのは森の調査だった。
 俺達のせいで平和だったこの街の近くの森に最近見慣れないモンスターの目撃情報が何件か入ったらしい。
 それの調査を依頼したいようだ。
 ちょうどモンスター狩りの為に遠出をしてみようかと話し合っていた所だったため渡りに船だ。

「でも、森の調査なんて俺達だけじゃ無理だと思うぞ。」

「うん、いくつかのパーティに依頼を出してるところ。多分4、5組位のパーティが参加すると思うわ」

 東の森の先にあるのは『魔物の荒野』とよばれるモンスターの領域だ。
 人とモンスターの境界線が東の森なのだ。『魔物の荒野』のモンスターは森のモンスターに比べて凶暴で手ごわく、『魔物の荒野』を狩場にする冒険者は中堅クラス以上といわれている。
 また、そんな冒険者達の拠点となっている『魔物の荒野』に唯一存在する街ウェフベルクは『冒険者の街』と呼ばれているらしい。
 今回の依頼は森で調査を行いながらウェフベルクに向かい討伐が必要な状態であると判断されればウェフベルクの冒険者ギルドに報告するというものらしい。
 もちろん討伐が必要ならそれに参加することも考えておいてくれと頼まれてしまった。

「討伐に参加しないとこっちに戻るときにヒビキたちだけになっちゃうし、多分討伐はあると思うからそれに便乗して戻ってきたほうがいいよ」

「報酬はあっちでも受け取れるよな?」

「それは大丈夫だけど、戻ってこないつもり?」

 リリが心配そうな顔をしている。

「いや、せっかく『冒険者の街』に行く機会が出来たんだ。資金は多いほうがいいだろ」

 今回の調査中に討伐したモンスターには別途討伐報酬がつくらしいので少しでも稼がなくては。

「そうだね、あっちにはブレトには無いようなアイテムとか売ってるみたいだしお金がいくらあっても足りないかもね」

「そうなのか、楽しみだな」

 ウェフベルク出発は2日後との事、朝から参加者を集めて色々決めてから出発する予定だ。明日のうちに遠出の準備を整えておかないといけない。
 とりあえず、手持ちの素材でアイテムを作成してもらい、それを売り払って資金の足しにするため宿でエミィと相談する。

「で、手持ちの素材はこんなもんだけど何が作れる?」

 宿で荷物をひっくり返してエミィにそう聞いてみた。

「そうですね、アクセサリーがいくつか出来ます。 魔法薬もいくつかできそうですがこれは私達で使ったほうがいいですね」

「アクセサリーか、俺達用のアクセサリーも欲しいな どんなものが作れる?」

「シャープファングで作ったアクセサリーは速く動けるようになります」

 すばやさアップだな。 

「あとはいくつかある魔鉱石で少しだけ疲れが癒される指輪が作れます」

 体力の回復かな、それともステータスには無いスタミナみたいな項目があるのだろうか 。
 魔鉱石はモンスターのいる場所で時々取れる。ギルドでも売れるのだがたいした金額では売れないし、錬金術師のアイテム作成の素材になると聞いていたので持っていた。

「じゃあ、とりあえずそれを人数分作ってくれ」

「はい。あの、その前に魔鉱石に属性をつけてみませんか?」

「属性?」

「はい、ご主人様は魔力を使えますから、素材に属性をつけられるはずです」

 そういいながらエミィが鉱石をひとつ俺に渡してくる。

「この魔鉱石に魔力をこめればいいのか?」

「はい、魔力をこめた魔鉱石は質が上がって、こめた魔力の属性がつきます」

「じゃあ、火の属性がいいかな? 水の属性じゃあんまり役に立ちそうにないし」

「いえ、水の属性の指輪なら魔法を使えないものでも水を出せるので遠出のときには役に立ちます ただ、指輪の中の魔力が切れると使えなくなります」

「そりゃあ便利だな 指輪は使い捨て?」

「いえ、水の魔法を使える人なら魔力を補充できます」

 魔鉱石や宝石に魔力をこめるのが冒険者ではない魔術師の主な収入源らしい。腕の立つ魔術師に魔力をこめて貰うととんでもなく高額になるらしい。
 そんな魔力のこもったアクセサリーを貴族達が護身用に持つこともあるのだとか。

「ちなみに火の属性をこめた指輪は火の魔法が使えるの?」

「はい、魔力をこめた魔術師の魔法が魔力が切れるまで使えます。 あと、火の魔法に耐性ができるみたいです」

「攻撃か防御か選べる訳だ」

「そうですね、中に入った魔力が多いほど上等なアクセサリーですし、魔力をどれだけ溜め込めるかは魔鉱石の質によります」

 今ある魔鉱石は、質としても悪くも無く良くも無い そんな魔鉱石らしい

「じゃあ、とりあえず火の魔力を二つと水の魔力を一つにこめるか」

「火は耐性にしますか? 攻撃にしますか?」

「ひとつずつにしよう、アイラに火耐性で、エミィには火の攻撃の指輪だ で俺が水の指輪を持って水を出す」

 魔力を操作できる俺は2人より耐性がある。前線で直接攻撃を受ける可能性のあるアイラに耐性の指輪を、後衛のエミィに切り札として火の攻撃魔法の指輪を持たせてパーティ全体を強化する。
 俺の魔力をこめて、エミィが作成した『操水の指輪+4』、『耐火の指輪+4』、『操火の指輪+4』をそれぞれ装備する。
 魔鉱石に魔力をこめるのはなかなか大変だった。いくらでも注ぎ込めるような感覚だった。魔鉱石ひとつにMPを100くらいずつこめて俺の魔力はほぼ空っぽになってしまった。
 シャープファングで作った『速攻のイヤリング+4』も素材があるだけ作って3人とも装備し残りを売って資金にした。
 装備屋の店主がしきりに『これはいいものだ』と口にしており、次に何か作ったらまた買い取るからここに持ってこいと念を押された。
 “+4”の装備だということを商人のスキルでなんとなく感じ取っているようだ。ここの店なら装備を適正な価格で買ってもらえるかもしれない。
 資金も得たので装備を新調することも考えたがなれない装備でいきなり遠出は危険だとアイラたちに言われてショートボウの矢だけ買い足して装備屋を後にした。


 宿で遠出用の食料や道具を買い込みルビーに飲み込ませる。飲み込む時にこれが何であるかを説明しながら飲み込ませていたので少し時間がかかった。
 しかし、その甲斐あってルビーはかなり細かく自分の中の備品を理解してくれた。ご褒美に何か食べたいものは無いか聞くと魔鉱石を食べたがったのでいくつか食べさせてやった。

「魔鉱石はモンスターの魔力が固まったものだといわれています。スライムはモンスターの魔力の塊のようなものですからそれが原因ではないでしょうか」

「俺の魔力でもいいのかな?」

「分かりません。一般的に人間の魔力とモンスターの魔力は別のものと言われていますが おそらく大丈夫なのではないでしょうか」

 まだルビーが食べていない魔鉱石に少しだけ俺の魔力をこめてみる。

「ルビー、変な感じがしたらすぐに吐き出せよ」

 ルビーが理解したのを確認してから魔鉱石を与えた。
 ルビーは体の中に入れた魔鉱石を少しずつ溶かしながら食べ何も問題ないと判断するとあっというまにすべて消化してしまった。

「ルビーがこの魔鉱石はとてもおいしいといってます」

 アイラがルビーを撫でながら嬉しそうに翻訳する。

「問題なさそうだな スライムも魔力を溜め込んだら強くなるのか?」

「はい、泉から湧くスライムにも場所によって違いが出るそうです。おそらくスライムは魔力を溜め込むことが出来るモンスターなんでしょう」

「まあ、すぐに別のモンスターの餌にされるから普通は見かけないわけだ」

「そうですね、絵本やおとぎ話では巨大なスライムが城を落としたなんて話もありますけど」

「そりゃすごい ルビーもいつかそんなに大きくなるのか」

「ルビーは自分の体も保管できるから大きさを変えられるみたいです」

「便利な奴だ」

 俺もルビーを撫でる。これからも役に立ったらご褒美に魔力入りの魔鉱石を食べさせてやるといったら嬉しそうにプルプルしていた。



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