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第19話




 昨日はあれからすぐに宿に戻り2人を抱きしめながら眠った。2人はなにも聞かずに俺にされるがままで朝をむかえた。

「おはようございます。ご主人様。おかげんは大丈夫でしょうか?」

「おはようございます。体調が優れないようなら、私がお薬を調合しますが」

 2人の気遣いが嬉しい。だからこそ、いつまでもふさぎ込んでいる場合ではない。自分を襲ってきた相手を殺すのはこの世界では当たり前のことなのだ。
 これから先何度でも同じことが起こる可能性がある。慣れたいとは思わないが慣れなくてはいけない。

「少し疲れていただけだよ。たっぷり寝たからもう大丈夫だ。」

 そう言ってまた2人を抱きよせ軽くキスをする。大丈夫だ。この2人がいれば俺は大丈夫。

 
 俺達は朝から冒険者ギルドに行き、ガンヴォルデたちを返り討ちにしたことを伝えた。
 状況確認の為に時間をとられるかと思ったが、どの辺で戦ったのか聞かれ街の外だと伝えるとそこで話は終わってしまった。
 街中での殺人は警備上色々と話を聞かれるらしいが、一歩外に出れば冒険者の生死はそれほど重要ではないらしい。
 冒険者の身分はあくまでもこの街の中だけのものだし、いつどんな理由で死ぬか分からない冒険者の事なんて把握しきれない。
 思ったより早く済んでしまったので今日は、昨日エミィに教えてもらった魔法の習得をためしてみることにした。
 東門から出てガンヴォルデたちと戦った場所とは違う方向に向かった。ここなら誰か来たらすぐ分かるだろう。隠さなければいけないのかも分からないが。
 目の前にあるのは、火のついたロウソク。水の入った桶だ。

「さて、どうなるかな」

 目の前のロウソクに意識を集中する。火魔法の習得はまず火を操ることから始めるものらしい。
 ロウソクやたいまつの火を自在に操れるようになり、それに慣れれば自前の魔力だけで火がでるようになるのだとか。
 そんな事を考えながらロウソクの火をぼんやり眺めていると火の回りに赤いモヤがかかって見えるようになってきた。
 火による空気の屈折ではなく、色のついたモヤだ。一度意識し始めるとそのモヤがあらゆるものから発生しているのがわかる。
 目の焦点を合わせればその物のモヤが見えてくる。この状態でアイラやエミィを見てみるとアイラはオレンジっぽいモヤが、エミィには薄緑色のモヤが見える。

「物にモヤがかかって見えるんだけどこれが魔力かな?」

「おそらくそうだと思います。私は魔力を見ることができませんので確かめられませんが」

「そうか」

 俺は、右手をロウソクに向ける。魔力をコントロールするのが魔術師という職種なのだ。その技術はひとりひとりで違うらしい。
 大事なのは自分のイメージだそうだ。漫画で読んだことのある魔法使いを思い出してイメージする。
 自分の体から出ている黒っぽいモヤをロウソクの火の回りのモヤに向かって伸ばすイメージだ。右手のひらからのろのろとロウソクの火に向かうモヤ。
 モヤが火に触れた瞬間火の回りの赤いモヤが黒っぽいモヤに変わっていく。火の揺らぎを操ってみる。右、左と俺のイメージ通りにゆらりと揺れる火。
 今度は火を大きくするイメージ。火は少し大きくなったが一回り大きくなってそれ以上にはならなかった。右手のモヤから何かを引っ張られている感覚がある。
 その感覚にしたがってモヤをさらに火に注ぎ込む。次の瞬間、ロウソクの火は2mほどの火柱になった。

「きゃっ」

「えっ!?」

 アイラたちをびっくりさせてしまったようだ。あわてて火からモヤを引っ張り出す。火が段々と元の大きさに戻っていった。

「もしかして、今のご主人様ですか?」

 エミィが聞いてくる。

「多分そう。さっき言ってたモヤを火にくっつけて色々試してたんだ。驚かせてごめん」

「いえ、でもそこまでできるんでしたらもうロウソクの火はいらないかもしれませんね」

 そうか、最終的には何も無いところから火を出さなきゃいけないのか。毎回火魔法を使うときにロウソクに火をつけていたら大変だ。

「ちなみに、どうすれば自分で火を出せるか知ってる?」

「火をコントロールするイメージをもうお持ちなら、自分の魔力を火のようにコントロールすれば言いのではないですか?」

 自分の魔力を火のようにコントロールする。難しいことを言ってくれる。

「とりあえず、色々試してみるか」

「そうですね、おそらく1日、2日でマスターできるものでもないでしょうし」

 1日試していて分かったが、魔力は色々な役目を果たすようだ。
 たとえばすでにある火を操るときは俺の魔力とロウソクの魔力をつなぐパイプのような働きをしてくれる。
 何も無いところから火を出すには、魔力同士をすり合わせて熱を持たせて火の代わりにするようにイメージすると火が起こせるようになった。
 水も同じでもとからある水には自分の魔力を伸ばしパイプをつなぐことでコントロールできた。
 また、水を生み出すイメージだが魔力で空気中の水分を集めるようにイメージするとうまくいった。
 これらの理科的な発想は他の人には無理なはずだ。他の魔術師たちは別のイメージで魔法を使っているのだろう。
 たった一日で火と水を扱えるようになった俺を見てエミィが驚いている。アイラは何がすごいのか良く分かっていないようで可愛く首をかしげている。

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魔法一覧 MP 202/315
火魔法★
水魔法★

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「まぁ、どっちもまだ戦闘に使えるレベルじゃないしな」

 火はロウソクの火よりやや大きい程度、水はコップ一杯分程度の大きさにしかならない。これ以上魔力を注いでも生み出したものがはじけてしまうのだ。
 また射程距離もたいしたことが無い。どちらも5mほど離れれば消えてしまう。

「ほとんどの魔術師はひとつの系統の魔法を使うだけです。宮廷魔術師や大魔導士などは属性をいくつも持っている人がいるようですね」

「じゃあ、あんまり人前でいろんな魔法をつかうのは良くないってことか」

「そうですね、普通自分が何の魔法が得意かなんてパーティくらいにしか教えませんよ あとは、魔法剣士なんかも自分が魔法を使えることを隠してただの剣士として振舞ったりするみたいです」

「分かった。あまり過度に期待しないでおこう」

 これから練習を重ねれば戦闘でも有用になっていくだろう。ガンヴォルデの仲間の魔術師も【火魔法★】だったのだから戦闘でも使えるレベルになるのだろう。


 さて、俺が魔法の習得を行っている間アイラはルビーと戦闘訓練を行っていたようだ。
 アイラが口笛を短く吹くとルビーがそれに反応して攻撃を仕掛ける。ルビーの攻撃方法だが体の一部を相手に飛ばして身動きを封じるようだ。
 直接的な攻撃力は無いが、飛ばした体の一部は粘着性を帯びていてその上でいくつかの状態異常を引き起こす効果を持たせることができるようだ。
 もっとも粘液を飛ばせば飛ばすだけルビーは小さくなっていくためあまり多用はできないようだが、飛ばした体を回収するか、時間はかかるが餌を与えれば失った体を復元できるようだ。
 ルビーの餌だが、何でも食べる。モンスターの死骸や人間の食べる食料はもちろん金属なんかも食べられるらしい。

「本当に何でも食べるんだな」

 昼食代わりにルビーに食べさせたのは薬草採取のときに一緒に採取できた毒草だった。
 エミィに渡せば毒薬関係の魔法薬が作成できるようだが、今のところ必要が無かったため皮袋の肥やしになっていた。
 さすがに毒草はまずいかとアイラに聞いてもらったのだが特に問題ないようだ。
 さて、ついでにルビーの【保管★★】の効果を確認しておこう。
 俺の考えどおりなら、このスキルは冒険者にとってかなり有用なスキルだ。

「アイラ、ルビーに頼みたいことがあるんだが」

「はい、なんですか?」

「このポーションをルビーの体の中に保存して欲しいんだ」

「保存ですか?」

「ああ、ルビーにはそういうスキルがあるはずだから聞いてみてくれ」

「分かりました」

 アイラがルビーと話している。俺にも【魔物使い】のスキルがあるのでひょっとしたらルビーとの意思疎通が可能かもしれないが今回はアイラに頼んだ。

「おなかの中に残しておけるそうです」

「取り出しも自由にできるか?」

「大丈夫みたいです」

 ルビーにそっとポーションを差し出す。ルビーがポーションを受け入れる。ある程度のところまで指が沈み込むとポーションを離して腕を抜く。

「ルビーにポーションを出してもらってくれ」

「はい」

 アイラがルビーに目配せするとルビーはポーションを吐き出した。
 でてきたポーションは特に濡れているということも無く元のままだ。

「どれくらいおなかの中に入る?」

「おなかいっぱいになったことが無いから分からないそうです」

「いっぱい入れるとつらいのか?」

「そんなこと無いみたいです。ゴブリンの死骸を5体ほどおなかに入れていた事があると言っています」

 色々アイラに確認してもらいながら調べた結果、体積以上のものをルビーの中に保管することも可能だし、容量もかなりあるようだ。
 たくさんいれてもルビーには特に支障がないようだし、おなかの中のものをルビーが理解していれば瞬時に取りだす事も可能らしい。
 また、消化用のおなかと保管用のおなかは別々だがつながっているようで保管用のおなかのアイテムを直接消化することもできるらしい。
 これなら何かあったときに自分でポーションや薬草を使わせればいい。
 さらにルビーは体の一部を切り離した状態でおなかを共有できるらしいのでこれも使い方を色々考えられそうだ。

「便利な“アイテムボックス”の能力か」

「冒険者鞄に似てますね」

 どうやら、似たような効果のある冒険者鞄というものがあるようだが、名前に反して使用者は一部の商人や貴族が多いらしい。
 もちろん冒険者の中にも使用している者はいるようだが、冒険者鞄は高いようだ。
 錬金術師が作成することができるようだがエミィにはまだ作ったことが無いとの事。

「そもそも材料が公開されていないんです。 冒険者鞄の製造法は錬金術師ギルドの中でも一部の派閥が秘匿してるようです」

「なるほどな。とはいえ、ルビーのおかげで遠出も楽になるな」

「そうですね、この周りには今モンスターがほとんどいませんから少し遠出をしてモンスター討伐するのもいいですね」

 アイラがルビーを抱き上げながら嬉しそうに言った。ルビーもアイラの腕の中で嬉しそうにプルプルしている。
 今日はモンスターも討伐できていないがなかなか有意義な一日だったと思う。





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