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第17話




 ゲームなどでは特定のモンスターを仲間やペットにできるのだが、どうだろう。
 とりあえず、モンスターがいなくては始まらないのでモンスターを探すがなかなか出てこない。
 『スライムの泉』の近くに行けばモンスターもいるだろうと思い移動するが結局モンスターと会わずに到着してしまった。

「なんだあのスライムは?」

 『スライムの泉』にいたのは、赤みがかったスライムだった。普通のスライムは半透明でスライムを通して向こう側が透けて見えない。
 そんな変わったスライムがゴブリンを食っていた。
 俺が見つけてたときにはすでにゴブリンは体の半分以上をスライムの体の中に取り込まれており、今ではすでに体全体をスライムに覆われていた。
 ゴブリンのシルエットのそれは、だんだんと高さを失っていき全長30cmほどの高さにまで下がっていった。
 普通のスライムよりも大きい、いや体積があるそれはゴブリンを消化するとズルズルと移動し始めた。

 「スライムの『変種』ですね。この辺にモンスターがいないのももしかしたらあのスライムのせいかもしれません」

 エミィがそう言うのを聞いて、モンスターのステータスを確認した。

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グラトニースライム Lv.7
変種 0歳

体力    
660
筋力
60
すばやさ
60
知能
85

35

スキル
【保管】★★
あらゆるものを体内に保管することができる。
許容量はレベル依存

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 エミィが言うほどのステータスではない。これならシャープウルフはもちろん、複数ならゴブリンでも倒せる。
 しかし、スキルを持った『変種』のモンスターだ。なにか特殊な攻撃方法があるのかもしれない。
 本来なら不用意に近づくべきではない。しかし、このタイミングで現れたスライムの『変種』。
 気がつけばアイラの職種を魔物使いに変更していた。
 魔物使いの職種がスキルの魔物使いにどういった影響があるかは分からない。しかし、職種ごとの変更のほうが成功率は高そうだ。

「アイラ、あのモンスターを仲間にして来い」

「えっ?仲間ですか?」

「多分スキルで仲間にしたいとか、従えたいとか考えればできるはずだ」

「わ、分かりました」

 アイラが一人で変種のスライムの元に向かう。俺は何かあればすぐに助けられるように準備をする。
 スライムは火や魔法に弱い。魔法はまだ試していないからたいまつを準備する。
 スライムがアイラに気づいたようだ。アイラに向かってズルズルと移動を始めた。
 両者の距離が5mほどになった頃、ぴたりとスライムの動きが止まった。
 アイラは真剣な顔でスライムを睨んでいる。睨まれたスライムはプルプルとわずかに震えている。
 10分ほどにらみ合いが続いただろうか、ふとアイラが右手を上に上げるとそれに答えるようにスライムの体がぐにょーんと伸びた。
 失敗か、と身構えた俺達だったがアイラが腕を下ろすとスライムもそれにあわせて動き出す。
 アイラが数度、上下に腕を振って、スライムがそれに答える。
 なんとも奇妙な光景だがどうやらアイラの指示に従って動いているようだ。

「アイラ、うまくいったのか?」

「はい、ご主人様。この子ちゃんということ聞いてくれてます」

 成功だ。アイラはスライムと意思疎通ができるようだ。
 ためしにスライムの泉から湧き出てきた普通のスライムも【魔物使い】で仲間にしたがこちらの命令を理解する頭が無いのか、ごく単純な命令しか聞けないし意思疎通などできなかった。
 スライムに使い道が無いためグラトニースライムに食べさせることにした。ただのスライムを吸収し色が薄くなり体積が一時的に増えたがすぐに元に戻った。増えた分はどこに行ったんだ。
 いつまでもスライムと呼ぶのもなんなので名前をつけることにした。

「さて、どんな名前がいいかな」

 グラトニースライムだからグラとか、安易かな。

「スライムだからスラとかがいいです」

 エミィが意見を言う。俺より安易だ。

「きれいな赤いスライムなのでルビーはどうでしょう?」

 俺達の意見よりかなりまともなその名前に決定した。

「あなたの名前はルビーよ、よろしくねルビー」

 ルビーは俺達の言っていることが分かるようだ。嬉しいのかしきりに体をプルプルさせている。確かにステータスでも知能がやけに高い。
 アイラになついているのはやはりアイラをマスターと認識しているからのようだが、俺やエミィにもそのプルプルの体を触らせてくれている。
 ルビーに触っても手が中に飲み込まれないのはルビーが自分の意思で自在に粘度を調整しているからのようだ。
 色々と面白いし戦力になるかはまだ分からないが、ゴブリンを食っていたしそこそこ期待しよう。
 そこまで考えて俺はこの辺にモンスターがいないことを思い出した。エミィはルビーが原因ではないかと考えていたが本当のところどうなのだろうか?

「アイラ、ルビーにこの辺のモンスターが少ない理由を聞いてみてくれ。」

「分かりました。」

 アイラは胸に抱いたルビーと話し始めた。



 話を聞くと、ルビーはモンスター消失とは関係が無かった。ルビーはモンスター消失が起こったために泉の近くのスライム同士が増え共食いを始めた末に生まれたモンスターのようだ。
 ではモンスター消失はなぜ起こったのか、原因は俺達にあったようだ。こちらに来てここ1ヶ月ずっとこの森で狩りを続けていた結果、この辺のモンスターは倒されたか別に場所に逃げ出したようだ。
 この森はとてつもなく大きい。話によれば人の足で一週間以上かけなければ森の向こう側に抜けられないようだ。
 ここ最近のモンスター討伐依頼が無いのもそんな俺達の狩りが原因なのではないか。俺達が護衛で街を離れたタイミングで生き残ったモンスターたちも大移動を行っていたようだ。
 ミミックオークがウェレオ村の近くにいたのももしかしたらモンスターの大移動に釣られて別のところから出てきたのかも知れない。
 ルビーの話でこの数日でモンスターの大移動が始まったことと、さっきのゴブリンのようなはぐれモンスターがたまに泉に来ていたことを教えられ自分なりに考えたのが“モンスター大移動説”だ。

「街の近くのモンスター全滅ってまずいかな?」

「そんな心配要らないと思います。一時的に減っても完全な絶滅はほとんど不可能ですし、移動が終わったらまたモンスターが増えてこの辺にも戻ってくるんじゃないですか?」

 モンスターの繁殖はとても早い。ゴブリンなど生まれて2週間で成体となるらしいし、ゴブリンほどでなくてもモンスターの繁殖力は普通の生き物の何倍も早いらしい。
 だから、この辺のモンスターもすぐに増えて元通りになるということらしい。

「それにモンスターを逃がしたならともかく倒して問題になることは無いと思います 冒険者の仕事はモンスター討伐だけではありませんし、基本根無し草の彼らは獲物が少ないなら別の街に移動するだけですよ」

 それもそうか、モンスターが絶滅しないのは、魔人や魔王がいて、さらにこの世界に魔力があふれているからだとエミィに聞いた。一時的な数の減少などたいしたことはないのだろう。

「ルビーを街に入れて大丈夫か?」

「魔物使いならしもべのモンスターを連れて街に入ることはできます。」

「そうか、じゃあ、魔物使いについてはとりあえず終了。次は俺の『職種』を変えてみるかな」

 【転職者】で、自分の職種を『魔術師』に変更してみる。

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ヒビキ ジンノ Lv.13
魔術師 16歳

体力    
750(+250)
筋力
147(+49)
すばやさ
147(+49)
知能
273(+91)

585(+195)


『戦神の加護』  
効果 戦闘職のステータスが上昇(大) 重複不可  
対象 パーティ
『知神の加護』  
効果 魔法職のステータスが上昇(大) 重複不可  
対象 パーティ
『匠神の加護』  
効果 生産職のステータスが上昇(大) 重複不可  
対象 パーティ
『癒神の加護』  
効果 神聖職のステータスが上昇(大) 重複不可  
対象 パーティ
『鑑定神の加護』 
効果 あらゆるもののステータスを確認できる。   
対象 本人
『商神の加護』  
効果 商いに関して有利になる           
対象 本人
『光の加護』   
効果 あらゆる状態異常を治す           
対象 指定

スキル
【賢者の卵】★
あらゆる魔術の習得が可能になる。

【転職者】★
職種を変更できる。

【主人の心得】★
自分の所有している奴隷のスキルを使用できる。
再現度はレベル依存

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 ステータスやスキルに変更は無いようだ。てっきりスキルに『火魔法』とか出るかと思ったんだが、
 そう思い、【賢者の卵】に意識を集中すると、

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魔法一覧 MP 315/315




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 MPがあったが、魔法はまだ何も無いようだ。
 とりあえず、色々試してみよう。

「ファイアー、サンダー、ウォータ、」

 色々と叫んでみるが成果なし。
 アイラがきょとんとしている。エミィには、

「なにしてるんですか?」

 と直接言われてしまった。

「魔法を使おうと思って」

「魔法を使うのに何で叫ぶんですか?」

「叫ばないの?」

「叫びませんよ」

 この世界の魔法は叫ばないらしい。

「魔法は、訓練で覚えるものです」

「呪文とか、魔方陣は無いのか?」

「聞いたことがないです。魔法は自分の属性をどれだけ操れるかによってランク分けされています。まあ精神集中の為にいろいろする人たちはいるみたいですが」

 つまり、呪文もないし“ファイヤーボール”といった魔法の名前も無いようだ。もちろん、火魔法を使える人間が炎をボール状にして操って相手にぶつけるといった使い方もあるし、
 それに“ファイヤーボール”と名づけるのも自由らしい。

「訓練ってなにするんだ?」

「火の魔法の訓練なら、ろうそくの炎に自分の魔力を通して自在に操れるようにしていくみたいです」

 水なら、水桶の水を使うし、他のものなら操りたいものに魔力を通して操るというところは同じらしい。
 これは、戻ってから特訓だ。魔力一覧にMPの表示はあったんだから魔力自体は持っているはずだ。

「ちなみに『僧侶』は何ができるんだ?」

「『僧侶』は回復を行います。解毒とか、軽い『解呪』もできます」

「『神官』とは何が違うんだ?」

「冒険者のパーティーにいるような人は大体『僧侶』です。回復できる量がやや少なかったり、『解呪』できる『呪い』も限定的です。私の『呪い』も『僧侶』の方には解けませんでした」

「ああ、だから俺に『神官』なのかって聞いたのか」

「はい、『神官』に『解呪』をお願いできるほどのお金はありませんでしたから。それに『神官』になると教会で地位がもらえるようです。」

 つまり、『神官』は『僧侶』の上級職扱いで、冒険者と一緒に行動してレベルが上がって『神官』になれたら教会勤めになるってことか。
 元の世界とは違うな。確か、『僧侶』は仏教で、『神官』は神道とかだった気がする。まあ、あくまで日本語での話だしな。
 【転職者】で、自分の職種を『僧侶』に変更する。やはりスキルは増えていない。おそらく、魔術師と同様に【賢者の卵】内の魔法一覧に今後追加されるのだろう。

「『僧侶』の訓練ってわかるか?」

 訓練というか、この場合修行なのだろうか。

「『僧侶』の修行は門外不出なので詳しくは分かりません」

 大事な収入源だしな。まぁおそらく魔術師と同じだろう。操りたいものに魔力を送って操作し、やればやるだけうまくなるのだろう。

「よし、とりあえず今回はこんなもんか、帰りに薬草を採れるだけ採って街に戻ろう。」

 おそらくまだ夜では無いが、そろそろ日没だろう。森の中なのですでに周りは薄暗い。街につく頃には完全に夜になっているだろう。

「はい、分かりました」

「結局、あまりモンスターとは出会いませんでしたね。このパーティでの初陣だったので緊張してたのですが拍子抜けです」

 俺達は、ルビーをつれて街に戻った。 





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