第12話
「ご主人様、前に誰かいます。」
森を進み始めて少ししてアイラが報告してきた。
「誰か? 人か?モンスターか?」
「分かりません。 とても気配が小さいんです。人のような気もするし、モンスターのような気もするんです。」
何じゃそりゃ。
「分かった。確認してくる。クレストさん、すみませんが馬車を止めていただけますか?」
「わかりました。 気をつけてください。」
「はい。」
そういって一人で森の中の道を進んでいく。道幅は約2mほどで馬車が通るのがやっとといった感じ。
ところどころに対面の馬車をよけるための小さな空間があるだけのほぼ獣道のような道だ。
そんな道の真ん中に倒れている男がいた。遠目からでは確証はないが、おそらく生きている。
俺が男に駆け寄ると男がうめき声をあげた。やはり生きている。
「大丈夫か?」
男を仰向けにして外傷がないか確認しようとしたそのとき、男が手に隠し持っていた短剣で俺のわき腹を突き刺した。
短剣は革の鎧を突き抜け体に刺さる。
とっさに男を突き飛ばすが、短剣は深々とわき腹に刺さったままだ。
「いっ、一体何なんだ。」
突き飛ばされた男は、ケタケタと笑いながら立ち上がった。
その体はだんだん膨らんでいきついには皮膚を突き破ってやけにぬめりを持った光沢のある皮膚を露出していく。
「グッギャギャッ」
こちらの怪我をみて確かに笑った。つまり、あれは罠だったのだ。
完全に変化の終わったそれは、豚のような頭部を持った化け物。オークだった。
「変種のオーク、か。」
『鑑定神の加護』のよるステータス閲覧能力を使い奴を見る。
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ミミックオーク Lv.12
変種 5歳
体力
820
筋力
180
すばやさ
150
知能
75
運
65
▼
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カーソルに始めてみる記号がある。
そこに意識を集中すると、ステータスが一新された。
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ミミックオーク Lv.12
変種 5歳
体力
820
筋力
150
すばやさ
120
知能
75
運
65
スキル
【擬態】★★
捕食した生き物の姿に擬態することができる。
自分より強い者への擬態は能力に制限を受ける。
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なんだよ、スキルって。
始めてみたぞ。
食った相手の姿に擬態できるのか。
どうりで目撃証言がバラバラなはずだな。
奴はすでに、勝利を確信しているようだ。
ゆっくりとこちらに近づいてくる。
どこから出したのか俺の身長と同じくらいの棍棒を手にしている。
すでに奴からは手の届く位置だ。
奴が棍棒を振りあげた。
「なめるな!!」
俺は屈んで腹を押さえた状態のまま横薙ぎの一閃を奴に向かって放つ。
完全に油断していたオークは腹の部分を切られる。しかし、
「ちっ、浅かったか。」
しかし、時間は稼げた。腰の袋に手をやりポーションを取り出す。
腹の短剣を引き抜きポーションを一気に飲み干す。
腹には、焼けるような痛みが走ったがだんだんと落ち着きだす。
ポーションの効果でどこまで傷が治るか分からんが、
さすがに短剣を腹に刺したまま大立ち回りをするわけにはいかない。
剣をオークに向けながら腹をさすって、出血がある程度収まっているのを確認する。
腹の傷を触ってしまい顔をゆがめた一瞬の隙を見逃さずオークが迫ってくる。
結構速い。
盾で斜めにそらして何とか耐える。そう何度も耐えられそうにない。
片手で持った剣で反撃に出るが、オークの皮膚は硬い上に何らかの粘液でぬめっている。
攻撃がすべっている気がする。
奴の反撃を受ける木の盾がミシミシといやな音を立てている。
「くそ、どうすりゃ良いんだ。」
今の俺のLVは10、ステータスは奴にやや劣っている。
今は防御に徹していて致命傷を避けるので手一杯だ。
ステータス頼りのごり押しでの戦闘しか経験したことのない俺のある意味初めての『戦闘』かもしれない。
そしてこのままでは負ける。奴に勝つには何かが必要だった。
奴への奇襲はもう不可能だ。先ほどの腹への攻撃で完全に臨戦態勢だ。
「なにかないか、」
とはいえ、腰の袋に入っているものなどたかが知れている。
火のつくような酒に、ロープ、短剣に、火打石、それとポーションがいくつか。
頭の中で腰の袋の中身を思い出していく。
「うん?『火がつくような酒』?」
突破口が見えた気がする。良くぞ飲みもしない酒を買っておいたものだ。
これも、LV.1から高めだった『運』のステータスの効果かな。
まあ、本当に運のいい奴は刺されたりしないか。やはり俺の『運』は、『悪運』のようだ。
「じゃあ、いっちょ派手にいくか」
オークの攻撃を木の盾でさばきながら隙を探る。
反撃すらしなくなった俺にオークがますます勢いづいて攻撃を仕掛けてくる。
頭上からの大振りの攻撃を何とかかわし、体勢をやや崩したオークを横目に全速力で森に向かう。
獣道から森に入りオークの視線から隠れる。
すぐさま追ってくるオークだが木々に阻まれてそれほどの速度じゃない。酒の口を開け短剣で短く切ったロープをさしこみ酒でしめらせる。
ビンの口からロープをだしてそこに火打石で火をつける。
酒でしめらせたロープは思いのほか良く燃えたが気にせず獣道に舞い戻る。
いわゆる『火炎瓶』を作成したヒビキは、いつ爆発するとも限らないそれを自分を追って森から出てきたオークの顔めがけてそれを投げつける。
オークの硬い皮膚にぶつかり容器が割れたそれは、一瞬オークの視界をさえぎるほどの火炎をあげた。
顔にかかった酒に引火した炎はオークののどを焼く。息ができなくなったオークはひざをついてなおもこちらを睨み続ける。。
ヒビキは、盾を捨て両手で剣を握り締めると渾身の力でオークの首めがけて剣を振るう。
剣は、オークの厚い脂肪のせいか半ばほどで止まってしまう。
オークは大きな叫び声を上げて腕をふりまわすが体勢が悪くヒビキまでは届かない。
先ほどの一撃で棍棒を手から取り落としてしまってる。
首の半ばまで食い込んだ剣にさらに力をこめて振りぬく。首を落とすことはできなかったが、剣がオークの右側を抜けて抜き去られる。
「グギャッーーーーー」
今までで一番大きな絶叫をあげ、オークは前のめりに倒れこむ。
倒れてもなおオークはいまだに息があるようだ。
慎重に近づき、今度こそオークの首を胴体から切り落とした。
「はぁ、はぁ。やったかな?」
ステータスを確認すると、『ミミックオークの頭』と『ミミックオークの体』と表示されており、アイテム扱いとなっていた。
ようやく一息ついたヒビキはその場に座り込んでしまう。
すこし時間がたち落ち着いてきたところで自身のステータスを確認した。
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ヒビキ ジンノ Lv.13
剣士 16歳
体力
750(+250)
筋力
147(+49)
すばやさ
147(+49)
知能
273(+91)
運
585(+195)
『戦神の加護』
効果 戦闘職のステータスが上昇(大) 重複不可
対象 パーティ
『知神の加護』
効果 魔法職のステータスが上昇(大) 重複不可
対象 パーティ
『匠神の加護』
効果 生産職のステータスが上昇(大) 重複不可
対象 パーティ
『癒神の加護』
効果 神聖職のステータスが上昇(大) 重複不可
対象 パーティ
『鑑定神の加護』
効果 あらゆるもののステータスを確認できる。
対象 本人
『商神の加護』
効果 商いに関して有利になる
対象 本人
『光の加護』
効果 あらゆる状態異常を治す
対象 指定
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ミミックオークにもあった記号があるのに気づく。
しかし、今は疲れていて確認する気が起きなかった。
街に帰ってからゆっくりと確認しよう。
しかし、レベルが3も上がっている。
ミミックオークがそれだけ強敵だったということだ。
息も整ったので立ち上がりオークの死体に近づいていく。
「ドロップアイテムを回収して馬車に戻るか、」
ミミックオークのドロップアイテムは、『ミミックオークの血液』であった。
馬車に戻り、事情を説明するとアイラ以外の二人に疑われた。
そもそも、何かいると言い出したのも俺の身内だし、自己申告では疑われるのも仕方ないだろう。
アイラは、やはり二人に怒っていたが睨む以上の事はしないようだ。
仕方がないので『ミミックオークの血液』を二人に見せた。
それが何なのかは分からないようだが見たことも無いドロップアイテムであることは間違いない。
クレストたちもさすがに現物を確認したため、信じてくれたようだ。
「まさか、擬態能力のある個体だったなんて。良く無事でいられましたね。」
「無事にとはいきません。かなりやられてしまいましたし」
それなりに貴重なポーションを使ってしまった。
緊急性がなければ薬草を使っているのだ。薬草はポーションに比べると回復量が小さいが、森で取れるためタダで手に入るのだ。
死にそうな目にでもあわなければポーションは使用しない。
それにアイラも気づいたようで、しきりに俺を気にしている。
「ご主人様、本当に大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。心配かけてすまないな。」
「いえ、ご主人様がご無事でよかったです。」
ミミックオークを倒した後の道中は行きと同じく平穏ではないがそれほど大変でもない、そんな3日間だった。
予定通りブレトの街に到着できた俺達は、まずクレストの屋敷へ向かった。
成功報酬の受け渡しだ。
ちなみにこの7日間で撃退した襲撃の数は28回。一日におおよそ4回襲われている計算になる。
つまり後払いの報酬と合わせて、29,000ガル、約300万円だ。
ここに、襲撃中に拾ったドロップアイテムの売値を足すと、なんと39,650ガル 400万ほどとなった。
これには、ミミックオークのドロップアイテムである『ミミックオークの血液』は含まれていない。
なんとなくレアそうだったからギルドに売却するのはやめておいた。
酒の件もあるし何が役に立つかは分からないからな。
とはいえ、護衛の元の報酬の何倍もの額を特別報酬でもらうのはどうなんだろう。
あとからリリに聞いてみたが、護衛の報酬はそもそもすごく安くて特別報酬込みでの値段が一般的のようだ。
まあ、雇った冒険者が無能なら払う金が少なくて済むということか。
また、特別報酬の話も忘れていない。
見事ミミックオークをしとめた俺には当然『翡翠織物』製の服をもらう権利がある。
クレストがごねたらそう主張してやろうと意気込んでいたのだが、すんなりと報酬を渡されて拍子抜けした。
「ヒビキさんにはこれからもごひいきにしていただきたいですから、先行投資もこめてこちらをお送りします。」
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『翡翠織物のローブ(無)』
体力+80
【効果】
属性付与することにより、
付与された属性の攻撃を大きく減じる。
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なるほど、魔術師向けの装備になるのか。
ミミックオークの死体のステータスを確認したときに気づいたが、
俺のステータスチェックは物にも使える。
まあ、『あらゆるもののステータスを確認できる。』って書いてあるんだから当然だ。
ミミックオークの死体の確認にも使っている。
いままでは、そんな効果についた装備品なんて持ってなかったからな。
『鉄の剣』のステータスを確認しても
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『鉄の剣』
筋力+15
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としか書いていなかったし。
まあ、もらえる物はありがたく頂いてしまおう。
必要なければ売ってしまえばいいのだから。
「過分なご配慮、感謝いたします。」
すべての処理が終わったのは、到着した日の夜遅くだった。
馬車からドロップアイテムを降ろすのに時間がかかってしまった。
まあ結構な量だったしな。馬車の中を少し占領してしまっていた。
クレストは何も言ってこなかったがあの量はさすがに邪魔だっただろうな。
まあ、すんでしまったことは仕方が無い。とにかく今日はもう眠ろう。
明日はギルドに行って良い依頼が無いか探してみよう。
「あら、いらっしゃい。昨日帰ったばっかりなのにもう働くの?」
リリが驚いたような顔をしている。
確かに冒険者は気ままな仕事だ。俺が起きた時間が朝だし、俺が眠くなったら夜だ。
休みは好きなときに取れるし、休日出勤もない。
冒険者のほとんどは不規則な生活を送っている。
しかし、だからこそだらけるわけには行かない。俺は基本的に怠けものなのだ。
休みだしたらずるずると休み続けてしまう。異世界に来て引きこもりは避けなければ。
そんな偉そうな事を言っている俺だがすでに太陽は高い位置にある。
「ああ、なにかいい仕事はないかな?」
「そうね、今は少しモンスターの出現も収まってるし、討伐系の依頼はあまり無いわ」
「そうか」
モンスター討伐と聞いてふと、気になることがあった。
出発前と街を出てすぐの森の中で出会った錬金術師の娘の事である。
「そういえば、エミィってルーキーはどうなった?」
「えっ!?」
それを聞いてリリが固まった。
「どうかしたのか?」
リリは言いにくそうに彼女の近況を語り始めた。
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