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第11話



ウェレオ村まで道中は平穏とはいえないがおおむね順調だった。
途中で数度モンスターに襲われたが損害はなし。
出てくるモンスターも街周辺のモンスターとほとんど変わらない強さのものばかりだった。
今日の夕方には村につく。そんな位置にある村に寄ったときに耳に入った噂にやや聞き逃せないものがあった。

「変種のオークですか?」

「ええ、どうも最近この先の森に住みついている様です。
 この村でほかの商人が立ち往生しているようなんです。」

クレストがため息混じりに答えた。
商人が行くのをひかえているということは、それなりに信憑性が高い噂なのだろう。

「あまりここにとどまるのも得策ではありません。
 私がここにいることが知られれば、『翡翠織物』と結びつけて考えるものはいるでしょうし。」

クレストはブレトの街ではかなり有名な商人だ。『翡翠織物』での商売でかなり名前を知られている。
この旅の間中クレストはクラインという偽名で宿を取っていた。おそらく敵も多いのだろう。

「いけば絶対に会う、というわけではありませんし用心しながら進みたいと思っていますがどうでしょう?」

俺にどうするかを投げかけるクレスト。依頼を途中で投げ出すと違約金が発生する。
しかし、命にはかえられない。自分の実力を超えた状況になり依頼を投げ出す冒険者は少なくない。
己の限界を見定めることができるのも冒険者の実力のうちだ。この場合、クレストに選択肢はない。
俺が戻るといえば、依頼は破棄されるがクレストはブレトに戻るまでは俺に守ってもらうしかないのだ。
しかし、ここまで来たのだ。『翡翠織物』を手に入れて帰りたいのは当然だ。
ふむ、ここは値を吊り上げるチャンスかもしれないな。

「そうですね、条件しだいでは向かってもかまいません。」

「本当ですか? それで条件とは?」

「『翡翠織物』の服を一着いただけませんか? もちろん、変種のオークと戦闘を行った時だけで結構です。」

「それは」

クレストは考えだす。アイラの話だと『翡翠織物』の服は一着で金貨数枚の価値だとか、
変種のオークの強さは未知数だがおそらくかなりの強さだろう。
出会えば命がないという状況を打破する報酬としてはなかなか妥当ではないだろうか。

「わかりました。もし討伐できたら自慢の一品を差し上げますよ。」

クレストは出会えば死んでしまうのだから問題ないだろうと考えているようだ。
出会わずに無事に着ければ特別報酬は必要ないし、損はないだろうと。
自身の命すらかけるのはさすが商人といったところだろうか。
俺達は、必要最低の荷物を村で買い求め問題の森へと向かっていった。

「何事もなく、村についたな。フラグたったと思ったんだが」

「ふらぐってなんですか?ご主人様?」

「あれだけ変種のオークの話をしたら、奴が出てくるんじゃないかって思ってたんだよ。」

「でも、変種のオークはとても強いと聞いていますから出てこなくて良かったですね」

笑顔でそんな事を言われてしまうと、特別報酬の事を考えていた自分がひどく浅ましく感じる。

「おまえは素直ないい子だなぁ」

アイラの頭をぐりぐりと撫でる。
アイラはくすぐったそうにしながら抵抗はしない。されるがままだ。
アイラをいじって遊んでいると、クレストが戻ってきた。

「今日は、村に泊めてもらいます。出発は明日の昼ごろになるでしょう。
 ポーロイアを迎えに出しますので宿でお待ちください。ウェレオはとてもいい酒がありますし、退屈はしないでしょう。」

あまり村の中を歩くなと釘を刺されたようだ。
まあ、村でなにかしたいわけでもないので指示に従った。
しかし、調べて分かったがウェレオの名産の酒とは、恐ろしく度数の高い酒のようだ。火がつくレベルとの事。
この村では、村での結婚式にその酒で明かりを取り夜通し騒ぐのがしきたりなんだそうだ。
『強い酒には、モンスターもよってこない』という迷信があるようだ。
『翡翠織物』の製作にある程度魔術が必要なことから、そういった強い酒の製作にも魔術が関わっているのかもしれない。
そんな酒を飲ませて酔っ払ったらどうするんだと思わなくもないが、
『冒険者には酒をすすめろ』といわれるくらいには冒険者と酒には深いつながりがある。
多分クレストもたいした意味もなくすすめてみただけだろう。
しかし、その日の夜は、宿屋で明日に響かない範囲でアイラを可愛がった。
クレスト達と一緒だったため、ここ数日はごぶさただったのだ。
アイラも大分慣れたのか最近は結構積極的だ。うれしい誤算である。
次の日は朝から宿屋の飯屋で情報収集を行った。変種のオークのことが気にかかっていたのだ。

「村の奴らの中にも見たって奴がいたな。」

「どんな奴だったんだ?」

「さてね、このへんじゃオークは珍しいからもしかしたらただのオークかもしれないぜ。」

「この辺にオークはいないのか?」

「ああ、この辺はゴブリンが多いからな。」

ゴブリンとオーク、この二つの種族は特殊な関係を持っている。
大陸全土に棲息しているといわれているこの2種は、同じ場所に同時には存在しないことが多い。
なぜなら、お互いがお互いの捕食対象となっているからだ。
オークが多いところのゴブリンはオークに食われて激減する。
ゴブリンが多いところのオークはゴブリンに食われて激減するのだ。
そのため、ダンジョンといった特殊な環境でもない限りこの2つの種族は共存しない。

「迷いオークを変種のオークと見間違えたんだろうか?」

「そうだな、だがどうも目撃条件が一致しないんだよ。
 普通のオークよりでかかった。小さかった。色は緑だ。いや赤かったってな具合さ。」

「複数いるという可能性は?」

「そりゃないとはいわないが。でもよ、あんまり数がいたらこの森のゴブリン達が黙ってねえはずさ」

「そうだな、わかったありがとう。そこの酒をもらえるか?」

そういって、カウンターに銅貨を数枚おいてかわりに度数の高い酒をもらい部屋に戻る。
酒など飲んだことはほとんどないが、冒険者が下戸では格好がつかない。
悲しい見栄だが冒険者とはこういったことが大事な職業でもあるのだ。
そろそろポーロイアさんが迎えに来るかもしれない。部屋で、装備品に着替えて待機しておこう。


「お待たせしました。」

着替えを終えたころを見計らったようにポーロイアさんが部屋を訪ねてきた。

「いえ、ちょうど準備を終えたところですよ。」

そのまま、部屋を引き払い馬車のあるところまで一緒に歩く。

「宿屋の主人と何か話されていたようですが、」

おっと、そんなことまで突っ込んでくるのか。

「変種のオークのことを訪ねていたんですよ。お疑いなら戻って確認されますか?」

俺の返答を聞いて、アイラが疑われていたことに気づきポーロイアを睨む。

「いえ、少し気になっただけです。お気に触ったのでしたら謝罪いたします。」

やはりこの女も油断ならないようだ。
帰りは、彼らの後ろにアイラを配置して見張らせよう。
アイラを手招きでよび耳元でささやいて指示を出す。
虎耳がピクピク動いて可愛いが今は自重しよう。

「やあ、ヒビキさん昨日は良く眠れましたか?」

「ええ、久しぶりに上等なベッドでぐっすり眠らせていただきました。」

「それはよかった。では出発いたしますがよろしいですか?」

「はい、かまいません。」

結局、村での滞在期間は丸一日もなかった。
変種のオークに合わせて俺への警戒も滞在時間の短縮の原因の一つかもしれない。
もしくは、最初の日程は余裕を持たせていただけなのかも知れない。
アイラの配置換えには特に何も言われずに出発となった。





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