第8話
ブレトの街の西門近く、大通りに面したところに依頼人の商館があった。
『クレスト商会』
「ここか、」
ブレトの街はアンゲル大陸の中心に面しておりアンゲル王国首都アンゲラは西側に存在する。
東側はそのままアンゲル王国の辺境という扱いを受けており、モンスターの襲撃や棲息率は東側の方が明らかに多い。
そのためブレトの街の西側は主に貴族達のエリアとなっている。
つまり、クレスト商会は貴族相手の商売を中心としているのだろう。
『翡翠織物』も高級品との事だし、間違っていないと思う。
「ご主人様、商館の守衛が睨んでいます。」
アイラが半泣きで訴えてくる。
貴族が住む西区に足を踏み入れたことが無いのだろう。
不安のためか、アイラが袖を握って離さない。
「大丈夫だ。俺がいるし、アイラだって多分あいつらより強いよ。」
守衛のパラメータを確認したが、大して高くないしレベルもLv2とLv3だ。
そもそも、そんなに強い守衛がいるなら冒険者ギルドに依頼などしないだろう。
とりあえず、守衛に主人に取り次いでもらうようにお願いするか。
「あの、俺達冒険者ギルドから来たのですが。クレスト様はご在宅でしょうか?」
依頼人はクレスト商会のクレストと言っていた。
つまりはここの主人だろう。
「クレスト様に何のようだ?」
威圧的な態度でこちらを見下ろす守衛A。目だけこちらに向けて睨みつけてくる守衛B
ああ、なんでこんなに好戦的なんだよ、こいつら。
「クレスト様より冒険者ギルドへ依頼をいただいております。
その件について確認させて頂きたいことがあるのでお伺いいたしました。」
相手は立場上は市民だが貴族との交流もある大商人だ。あまり、乱暴な口は聞かないほうが良いだろう。
こちらが本当にゆずれない事以外は気にせずゆずってやればいい。
今、自分が絶対にゆずれない事といえば、アイラを不当に扱われる事くらいだろう。
日本人的な考え方で、ヒビキは丁寧に守衛達に話をふっていく。
「そのような来客があるとは聞いていない。帰れ。」
守衛Aがやはり上から威圧的に追い出そうとしてくる。
もう少しだけ粘ったら帰ろう。と心に決めて話を続けた。
「なにぶん、こちらから急に押しかけてしまいましたので、連絡が遅れているのかもしれません。
申し訳ありませんが、一度確認していただけますか?」
これで断られたら帰ろうと思いながら丁寧にクレストへ取り次いでもらうようにお願いする。
しかし、守衛Aは一瞬もためらわずに言い放った。
「しらんな。出直して来い」
「・・・そうですか、では本日はこれで失礼させていただきます。」
そういって、ヒビキはもと来た道に戻ろうと守衛達に背を向けた。
「待ちたまえ。君が冒険者ギルドから紹介された冒険者かな?」
商館の玄関に40代位の恰幅のいい男が仕立てのいい服を着てたっている。
「申し訳ないが、先ほどからのやり取りを見せてもらっていた。
君は、冒険者だというのに貴族並みに礼儀正しいな。
それに引き換えうちの守衛ときたら」
そういいながら守衛Aを睨む男。
それに気づいた守衛Aは、見る見る顔色を変えていく。
「も、申し訳ありません!だんな様!」
「もういい。お前には追って罰を与える。
お前のせいでもう少しでこの優秀な冒険者殿との縁を失うところだったのだぞ。」
「そ、そんな!?」
「だまれ。私が良いというまでそこでずっと立っていろ!」
そういって男はヒビキたちを館の中へ促した。
館の中は、高価そうな調度品であふれていた。
しかし、決して下品にはならないようにさりげなく配置されいるのだった。
この館の主のセンスの良さを感じさせる。
そのまま、応接室に案内された2人は、
ソファーに座る男に促されるまま男の対面に腰を下ろした。
「クレスト商会のクレストです。
まずは先ほどの非礼をお詫びしましょう。」
「いえ、お気になさらず。彼は職務に忠実だっただけでしょう。」
「そのように言って頂けると幸いです。」
「それよりも、ご依頼の件についてお話しをさせていただきたいのですが。」
そういわれて、クレストはうなずいた。
「依頼内容は、我が商会の荷馬車の護衛です。ウェレオ村までおよそ3日で到着します。
ウェレオ村には長くて2日滞在し、商品の買い付けを行い、
このブレトへ戻ってくるまでの護衛が今回の依頼です。」
ウェレオ村まで往復で6日。滞在期間を含めて8日。
初めての遠出だが大丈夫だろうか。
「依頼内容は承知いたしました。色々と確認させていただいきたいことはありますが、
まずは、一番重要なことからです。
我々は、このブレトを活動の拠点にしております。
今回行くウェレオ村はもちろん、道中の土地勘はありません。」
クレストがわずかに考えるそぶりを見せたが、うなずいている。問題ないのだろうか。
「私の商会に、ウェレオ村出身のものがおります。道中は彼女に案内させれば問題ないでしょう。」
「分かりました。では次に、今まで4組の冒険者達を不合格と判断されておりますが、
私達は御眼鏡にかないましたでしょうか?」
色々話してやっぱり不合格ってのは嫌だからな。そこは早めに確認しとかないとな。
「もちろんです。まるで貴族様のような立ち居振る舞いに『加護』をお持ちの冒険者殿ならば、
何の問題もございません。」
ちなみに、俺の前に来た4組の冒険者達の半数は、あの守衛と口論になって不合格となったらしい。
というか、荒くれ者の多い冒険者に貴族の様に振舞えとは無茶なことをいう。
あの守衛もわざとあんな奴を配置させていたのだろう。
どうも、絶対にウェレオ村で問題を起こされたくないようだ。
いい人そうに見えるクレストだが、やはり貴族とも取引のある大商人は抜け目がないというところか。
出発は、二日後の早朝から、モンスターとの戦闘時の追加報酬を戦闘1回に付き大銀貨1枚(約10万円)
と約束を取り決め、俺が死んだときは報酬をアイラに渡すように伝えておいた。
そんな取り決めの間、まったく言葉を話さなかったアイラを見てみると、
なにやら難しい顔をしている。
「どうしたアイラ?」
話しかけると、急にほっとした顔になり控えめに俺に抱きついてくる
「よかった。いつものご主人様です。」
「うん?」
守衛達と話をしているときから俺のしゃべり方がいつもと全然違うため面食らっていたらしい。
どうもアイラには、俺がああいったへりくだった態度をとることに違和感を覚えるようだ。
俺は、アイラに相手の立場を考えて話し方や接し方を変える事が必要な時があることを簡単に説明してやったが、
どうにも理解できていなかったようなので、夜にベッドの中で体に教えてやった。
「時には、へりくだる事も必要です!」
翌日の朝には、そんな事をリリに話しているアイラの姿があった。
どんな風に教えてやったかは秘密だ。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。