第7話
アイラの初任務の日、森から戻り冒険者ギルドで換金をお願いしたところ、
これまでで最高の買取合計金額を叩き出した。
今までは、朝から夕方まで森にこもり色々なモンスターを約100匹前後倒し、
討伐依頼の成功報酬とモンスターの素材を売っておおよそ大銀貨2~3枚ほど(約20~30万円)だったのだが、
今日の稼ぎは大銀貨5枚といつもの2倍弱となった。
これは、人が2人になったんだから当然という訳ではない。
人が増えれば動きが鈍り、休憩も増える。
それでも稼げたのは時間単位におけるモンスターの撃破数が多かったからだ。
「アイラは動きが速いし、ずいぶん役に立つなあ」
宿でボソッとそんなことを口にしたらまたアイラに泣かれてしまった。
「ご、ごめん。なにか気に障ること言ったかな」
おろおろしながら謝る俺に、アイラは
「役に立つなんて言われたの初めてです。」
と、涙ながらに喜んでいた。本当にアイラは可愛いな。
それから数日は、『スライムの泉』を狩場にしてモンスターを狩りまくっていた。
とりあえず生活費に困ることは無くなったがモンスターの討伐とアイラとのいちゃラブ生活を満喫していた。
そんな幸せな日々が10日ほど続きいくつかレベルがあがった頃、冒険者ギルドに俺たち二人に仕事の依頼が来ていた。
「商人の護衛?」
冒険者ギルドの受付にてぜひお願いしたい依頼があるとのことで詳細をリリに聞いてみた。
「そう、ここから馬車で3日ほどの所にある、ウェレオ村まで行ってブレトまで戻ってくる。
その間の護衛をお願いしたいみたい。」
「なぜ、俺たちなんだ?」
冒険者ギルドに登録してまだ1月もたっていない様な駆け出しをわざわざ指名することもあるまい。
何か裏があるように感じる。
「実は、依頼元の商人からの要望で、
『加護』持ちの冒険者のいる少人数のパーティーが良いって言ってるのよ。」
「なぜそんな要望なんだ?」
『加護』持ちがいいという要望は分かる。
この街の冒険者たちにまったくのツテが無く、手っ取り早く腕の立つ奴を探すなら
『加護』持ちを指名すればいい。
しかし、少人数のパーティを指定しているのはなぜなんだろう。
何か、怪しい気がする。
「なんでも、その村に入れる人数が決まっているみたいなのよ。」
「なんだそりゃ?」
「その村で商人が買い付ける特産品って言うのが、『翡翠織物』らしくってね」
「『翡翠織物』ですか!?」
なにやらアイラが興奮しているようだ。
「そんなにいいものなのか?」
二人がこちらをみて信じられないとばかりにため息をつく
「『翡翠織物』は翡翠を魔術で煮溶かして作った餌を蚕に与えて作られた魔力のこもった絹です。」
「へえ、そうなんだ。 詳しいな」
「『翡翠織物』は、特に女性に人気の高い品です。
『翡翠織物』で仕立てた服は、1着で金貨数枚の価値があるとされています。」
一着数百万円か、すごいな。
「なんでウェレオ村でだけ作ってるんだ?」
需要があるなら供給を増やせばいいと思うが、
「製造方法は秘伝とされていて、他のところでは翡翠を餌にすらできないといわれています。」
まず、蚕に与える翡翠の餌すらできないか。
そりゃ作れないな。市場独占、この国には独占禁止法なんて無いんだろうな。
「そんなところだから大勢で押しかけることもできないのよ。
今までその商人が雇っていた冒険者が別の依頼中にみんな死んでしまったから今回の依頼が舞い込んできたの。」
なるほど、いままでの護衛がいなくて急遽代役を立てるために腕の立つ少人数のパーティが必要だと。筋は通っているな。
アイラは控えめにだがこの依頼を受けたそうな顔でこちらを見つめている。
『翡翠織物』が見てみたいのだろうか。ああ、その顔には弱いんだよなぁ俺。
「リリさん、依頼人さんに会うことはできますか?」
「ええ、もちろん。 というか、あちらの要望で正式な採用の前に面接したいって言われてるのよ。」
「じゃあ、依頼人さんに会ってあちらのお眼鏡にかなわなきゃ依頼は受けられないわけですね」
それなら、依頼人が気に入らなきゃ破談にしてくればいいか。
依頼の報酬も悪くない。前払いで大銀貨2枚に、成功報酬は大銀貨8枚。
さらに護衛中のモンスターとの戦闘がある度に追加報酬がある上に、倒したモンスターの素材はこちらのものにしていいようだ。
追加報酬については、応相談とのことだからせいぜい稼がせてもらおう。
「分かりました。とりあえず面接だけは受けてみます。」
「そう。お願いするわね。良かったわ、ヒビキが受けてくれて」
リリがほっとしたように息を吐く。
「そんなに、追い詰められてたんですか?」
不思議に思いリリに問いかけてみる
「ええ、もうすでにいくつかパーティを紹介したんだけど、みんな不合格にされちゃってるのよ。」
なるほど、いくら『加護』持ちだからといって駆け出し冒険者の俺に一番に声をかけてくる訳はないか。
「じゃあ、俺も不合格にされるかもしれませんね。ちなみに、俺達の前に何組くらい面接したんですか?」
「4組よ。あなたたちで5組目。そろそろ、紹介できる『加護』持ちの登録者がいなくなってきてるのよ。
頑張って合格してきてね。依頼人にはこちらから連絡を入れておくから今日のお昼過ぎごろにお屋敷に行ってね」
経験豊富な先輩冒険者達を不合格にした依頼者がこんな駆け出しの冒険者など相手にするのだろうか、
少々不安に思いながらも依頼人の商館に向かうヒビキであった。
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